福岡市の中心地・天神にあった商業施設がいくつか閉館した今、行くたびに「景色が変わったなあ」と感じます。
見上げていたビルはいつの間にか見えなくなり、跡地の前を歩く私たちの目に入ってくるのは、工事の案内やアートが描かれた仮囲い。
そしてその仮囲いがなくなって、いよいよ目の前に「ない」が現れた時、一気に喪失感を覚えたり、こんなに奥行きがあったんだなあとか、ここがひらけた場所だと気持ちがいいんだなあとか、さらに色々な印象を受けることでしょう。
まちの「1階」は、きっと私たちが想像しているよりも遥かに、生活に影響を与えているんだと思います。
心地よさや窮屈さ、入ってはいけなそうな雰囲気、誰でもウェルカムな雰囲気、そこに誰かがいるという安心感など。
例えばベンチが置かれれば、「どなたもどうぞ座ってね」というメッセージになる。私たちは、目の高さの景色から、たくさんの情報を受け取っています。
気持ち良さそうな芝生があってくつろいでいる人がいたら、自分も寝ころがろうかしらという気持ちになります。天神中央公園の心地よさよ・・!
「1階はひとの機嫌を左右する環境そのものである。」
天神ビッグバンなどの開発でたくさんのビルが建て変わろうとしていますが、新しくなる福岡の1階は、どうか経済合理性を追求するだけではなく、建物の前を通り生活している私たちの機嫌を、よりよくしてくれるものになることを願います。
先の言葉は、「1階づくりはまちづくり」をコンセプトに掲げる、株式会社グランドレベルの田中元子さんの言葉です。
グランドレベルさんの手によって、私設公民館としてつくられた「喫茶ランドリー」には、「人とはどういう生き物か」「どういうときに心地よいとか幸せと思うのか」が考えられた、まちづくりの哲学が流れています。
環境は私たちが想像している以上に行動に影響を及ぼすからこそ、それらのあり方を考えることは、人間にとってのよき時間やよき過ごし方、幸せとは何かを考えることである。特に影響の大きい1階のあり方は、もっと公共の視点を持って議論されるべきなのではと思います。
田中さんの前著『マイパブリックとグランドレベル』には、欲しい公共を「マイパブリック」の精神で作ろうよというメッセージが込められていました。
そもそも公共やまちづくりとは、普通のひとの普通の生活そのもののサイズや質でできていなければ、根付かないはずです。個人のレべルで、普通のレベルでできることが、もっとまちに具現化できて、もっとまちを、自分自身を楽しむことができたら、どんなに素晴らしいだろう、と思っています。(前著より引用)
前著もおすすめなのですが、新著『1階革命』には、喫茶ランドリーのハード/ソフト/コミュニケーションのデザイン手法についてや、全国の様々な1階の事例が取り上げられています。(中には福岡の事例もふたつ!)
「どうすればもっと幸せを感じながら生きられるか」「そのために1階はどうあったらいいか」についてのヒントが、たくさん詰まった本です。
建築やまちづくりに携わる人はもちろん、自分の住むまちをもっと好きになりたい人や、1階でお店をしている人にも強くおすすめしたい一冊です。
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1階革命 私設公民館「喫茶ランドリー」とまちづくり
田中元子(著/文)
発行:晶文社
四六判 280ページ
定価 1,800円+税
書店発売日:2022年12月20日
本の購入はこちら:https://honto.jp/netstore/pd-book_32130929.html