『九大箱崎跡地』

【 福岡の経済・ビジネス事情 】

福岡市で最大規模となる注目の開発地『九大箱崎跡地』

福岡市内で最大規模の開発エリアである九州大学箱崎キャンパス跡地一帯の面積は、約50ヘクタールにも及びます。このような大規模な開発予定地が都市部にあるのは、全国的にみても異例のケースです。九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業の優先交渉権者が先日、決定しました。今回、九大箱崎跡地の現在・過去・未来を取り上げます。

九大箱崎跡地とは一体、どのような場所だったのか

【画像】フクリパ特集記事

画像中央部に九州大学箱崎キャンパス跡地を望む遠景(画像提供:福岡市港湾空港局)

九州大学箱崎キャンパス跡地一帯は、福岡市東部の都市部に位置し、その面積は約50ヘクタールにも及ぶ。
福岡市地下鉄箱崎線の貝塚駅から天神駅までの所要時間は約12分。
一方、JR九州・鹿児島本線の箱崎駅から博多駅までの所要時間までは約6分となっている。
福岡市都心部である天神エリア、博多駅エリアから共に至便な場所に九大箱崎跡地は立地している。

 

 

九大箱崎跡地には、古代末〜近世に形成された箱崎遺跡群が広く分布しており、弥生時代後期から人々が営んでいた遺構がみられる。
その後、筥崎宮の創建によって門前町が形成され、鎌倉期には元寇防塁も築造された。
江戸期に唐津街道の宿場町としても栄えた箱崎は、松林が点在する風光明媚な土地だった。
明治期入ってからは、良好な畑地としても大いに利用されていた。

 

 

1903年(明治36)、熊本県や長崎県との熾烈な誘致合戦の末、九州大学の前身となる京都帝国大学福岡医科大学が、福岡市・馬出地区に創立された。
その後、1911年(明治44)に工科大学が、当時の箱崎町字地蔵松原(現九大箱崎跡地)に整備された。
国内で4番目の帝国大学となる九州帝国大学の誕生だ。

 

 

21世紀に入り、施設の老朽化や狭隘化した箱崎キャンパスと六本松キャンパスは2005(平成17)以降、福岡市西区に新設した伊都キャンパスへ順次、移転した。
2018年(平成30)に移転を完了すると、箱崎キャンパスでは近代建築活用ゾーンの建築物を除く旧建物は解体された。
そして、全国の都市部では、異例ともいえる約50ヘクタールの大規模な更地が誕生したのだ。

 

【画像】フクリパ特集記事

出所:九州大学・UR都市機構『「九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集」における優先交渉権者の決定について』掲載資料

 

 

 

九大箱崎跡地の事業企画提案区域28.5haで公募を実施

【画像】フクリパ特集記事

出所:福岡市・九州大学『九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン』(2018年7月)

 

九州大学のキャンパス統合移転による箱崎キャンパス跡地の計画的なまちづくりと円滑な跡地処分に向けて福岡市と九州大学は20153月、『九州大学箱崎キャンパス跡地利用計画』を策定した。
その後、福岡市と九州大学は20187月、『九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン』を発表した。
同グランドデザインによると、福岡市が土地区画整理事業として実施する『北エリア』(20ヘクタール)と、九州大学がUR都市機構を施行者に選定して開発行為を行っていく『南エリア』(30ヘクタール)からなる事業スキームだった。

 

 

2023年4月から始まった九州大学とUR 都市機構による『九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集』での譲渡等面積は、約28.5ヘクタール(一般定期借地を含む)となっていた。
具体的な対象地は、 UR 都市機構による開発区域である南エリアと福岡市による貝塚駅周辺土地区画整理事業である北エリアにまたがった形で事業企画提案区域が設定されていた。

 

 

九大箱崎跡地においては、今回公募した事業企画提案区域の南東側に近代建築物を活用していく『九州大学箱崎サテライト』と箱崎中学校の移転予定地のエリアがある。
さらに事業企画提案区域の北隣には、貝塚公園や新駅および現箱崎中学校などからなる福岡市の『貝塚駅周辺土地区画整理事業』エリアがある。

 

 

今回、九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集において、優先交渉権者として決定したのは、住友商事株式会社を代表者とするグループだった。

 

【画像】フクリパ特集記事

出所:『第16回跡地利用協議会資料』(R5.4.18)

 

 

 

九大箱崎跡地の優先交渉権者に『住友商事グループ』が決定

【画像】フクリパ特集記事

出所:九州大学・UR都市機構『「九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集」における優先交渉権者の決定について』掲載資料

 

 

九州大学とUR都市機構は2024418日、九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集の優先交渉権者について、住友商事株式会社を代表者とするグループに決定したことを発表した。
優先交渉権者に選ばれた同グループの代表者は住友商事株式会社であり、構成員として九州旅客鉄道株式会社、西部瓦斯株式会社、清水建設株式会社、大和ハウス工業株式会社、東急不動産株式会社、株式会社西日本新聞社、西日本鉄道株式会社が名を連ねる。
同グループによる落札金額(譲渡価格)は、371億7800万円だった。

 

 

今回、住友商事グループが企画提案した計画案である『HAKOZAKI Green Innovation Campus』(箱崎グリーン・イノベーション・キャンパス)では、「世界を牽引する未来のまちづくりの実現」を打ち出す。
同計画案によると、省電力・低遅延・大容量の次世代通信技術である『IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を基にして、職住遊近接というエリア特性を生かしたスマートサービスを提供していく。
九大箱崎跡地の中心部は、交流・にぎわい業務・研究を担うイノベーションコアとして、研究拠点『BOX FUKUOKA』を開設する計画だ。
また、福岡・九州の食をテーマにした日本最大級のエンターテインメント交流拠点『フクオカサスティナブルフードパーク』も設けるとする。

 

 

一方、事業企画提案区域における緑化率として約40%を掲げており、1万本以上の樹木で緑量を確保し、『箱崎創造の森』も計画する。
さらに分譲住宅2,000戸をはじめ、インターナショナルスクールの新設、箱崎版地域包括ケアシステムの構築、交流広場の設置なども計画している。

 

 

今後のスケジュールについて、『第17回箱崎キャンパス跡地利用協議会資料』によると、九州大学・UR都市機構と優先交渉者である住友商事グループとの協議に福岡市も加わり、提案内容の具体化に向けて話し合っていくとする。
そして、土地譲渡等協定締結事業者の決定は、2025年秋ごろを予定している。

 

 

【画像】フクリパ特集記事

出所:九州大学・UR都市機構『「九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集」における優先交渉権者の決定について』掲載資料

 

 

九州大学箱崎キャンパス跡地の東南部に位置し、今回公募した事業企画提案区域と隣接しているエリアが、『九州大学箱崎サテライト』だ。
箱崎サテライトとは、九州大学総合研究博物館や大学文書館が設置されている旧工学部本館をはじめ、本部第一庁舎などの歴史的な建造物を九州大学として所有し続けていく『近代建築物活用ゾーン』となっている。
九州大学では、「箱崎サテライトを学内外に開かれた新たな学びの拠点として、活用していく」とする。

 

 

なお、福岡市による土地区画整理事業エリア内にあって宇美川と面している福岡市立箱崎中学校は今後、箱崎サテライトの北隣へ移転する予定だ。

 

 

九大箱崎跡地の北側に位置する貝塚駅周辺土地区画整理事業

【画像】フクリパ特集

出所:福岡広域都市計画事業 貝塚駅周辺土地区画整理事業 設計図

貝塚駅周辺地区の計画的な土地利用転換に必要な都市基盤の整備改善を行うことにより、貝塚駅周辺の脆弱な都市基盤の課題解消と合わせて、交通結節機能の強化を図るとともに、高質で良好な市街地整備を図ることを目的とする」
福岡広域都市計画事業『貝塚駅周辺土地区画整理事業』事業計画書(20243)において、同事業の目的を明らかにしている。

 

JR九州の鹿児島本線千早~箱崎間、千早駅から2.3キロ・箱崎駅から1.7キロの地点に2027年をめどに新駅を開設する予定だ。
新駅は、福岡市地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線が接続する貝塚駅からも徒歩圏内に位置する。
一方、新駅予定地に程近い箱崎中学校は今後、九州大学箱崎サテライトの北隣へ移転する予定だ。

 

 

今後の都市経営で求められる、関係人口づくりの集客装置

【画像】フクリパ特集記事

SAGAアリーナ(画像提供:佐賀県)

 

いま日本各地でスポーツや音楽イベントを開催できる多目的アリーナの開設が相次いでいる。
20213月、沖縄県沖縄市の闘牛場跡地に1万人収容の『沖縄アリーナ』が開業。
東京五輪の会場だった『有明アリーナ』(1万5,000人収容)は国内初となる民間企業に運営委託したスポーツ・文化拠点として2022年8月、再開業した。

 

 

2023年5月、佐賀市に〝新時代のエンタメアリーナ〟を掲げる『SAGAアリーナ』(約8,400人収容)がオープンしている。
同年9月、〝音楽特化型〟アリーナとして世界最大級とされる、『Kアリーナ横浜』(2万人収容)が開業した。
202410月、ジャパネットホールディングスによる『長崎スタジアムシティ』が、長崎市の三菱重工業幸町工場跡地に誕生する予定だ。

 

 

このうち、2024年秋に佐賀県で開催される国体から国スポに変わる初めての大会、『SAGA2024』(国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会)を契機に、佐賀県が257億円を投じて整備したSAGAアリーナには初年度、50万人もの人々が押し寄せた
佐賀県によると、開業直後の20236月に開催したロックバンド『Bz』によるライブの経済波及効果は38,600万円だった。
また、20241月の羽生結弦アイスショーにおける経済波及効果は48,210万円と試算する。
人の交流や、地域経済の活性化に向けた〝起爆剤〟としても注目を集める。

 

 

一方、長崎スタジアムシティは、2万人収容のスタジアムに加え、6,000人収容のアリーナとしても利用可能だ。
同施設には243室のホテル、約90店舗が入居する商業施設、11階建てオフィスビルもある。
年間利用者数は850万人(目標)を想定する。
総事業費で約900億円を投じた長崎スタジアムシティの経済効果について、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの試算によると、建設時に1,436億円、開業後は1万3,000人の雇用で963億円と推計する。

 

 

今日、人口減少時代に直面した日本においては、関係人口づくりに知恵を絞る自治体が多い。
スポーツイベントや音楽イベントを通じた関係人口づくりに向けた集約装置としての〝稼げるアリーナ〟は、関係者の耳目を集める。
事実、今回の九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集においてもアリーナ建設案が提案された経緯もある。

 

 

今後、九州大学箱崎キャンパス跡地の具体策について協議していく中、新駅近くに今後登場する箱崎中学校跡地の活用についても検討していく必要がある。
都市間競争が激化していく状況下、多目的アリーナの建設による関係人口づくり拡大や地域経済の活性化などについて検討することの意義は大きいと考える。

 

 

参照サイト

福岡市・九州大学『九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン』(2018年7月)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/39301/1/Hakozaki_GrandDesign_light_1.pdf?20240528182925

 

九州大学・UR都市機構『「九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集」における優先交渉権者の決定について』
https://www.kyushu-u.ac.jp/contents_file/contents_files/loader/0/Notice/2670/file/920676e4a430ede7a4afc

 

九州大学『箱崎に残る全ての近代建築物群が国の登録有形文化財に』旧九州帝国大学正門及び塀が登録内定
 https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/topics/view/2058

 

九州大学総合研究博物館『街とつながる地域共創協学のユニークベニューミュージアム』
 https://hakozakibase.jp/about/

 

福岡市『福岡広域都市計画事業 貝塚駅周辺土地区画整理事業 事業計画書』
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/92348/1/jigyoukeikaku.pdf?20240322104334

 

福岡市『貝塚駅周辺土地区画整理事業 事業計画について』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/jutaku-toshi/k_east/shisei/kaidukaekisyuhentochikukakuseirizigyonituite_tousyo_2.html

 

 

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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