日本の家庭で1年間に食べる「うどん・そば」は100食弱!?
出所)総務省統計局『家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング(2020年(令和2年)~2022年(令和4年)平均)』※1食あたり重量および年間食数について加工している
日本の2人以上の世帯では年間、生うどん・そば70食弱、乾うどん・そば30食強を購入して食している━━━。
全国約9,000世帯を対象に毎月、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを調べている総務省統計局『家計調査』のうち、2人以上の世帯の調査結果によると、生うどん・そばを年間10キロ強、乾うどん・そばを同3キロ購入していた。
生うどん1食あたりの目安は約200グラム、生そばは同120グラムであり、生うどん・そばを1食平均160グラムにした場合、年間70食弱になる計算だ。
また、乾うどん1食あたりの目安は約100グラム、乾そばは同110グラムなので、乾うどん・そばを1食平均105グラムにした場合、年間30食強だった。
つまり、日本の家庭では年間に100食弱のうどん・そばを食べているという試算になるのだ。
なお、ラーメンやチャンポンなどに用いる中華麺の年間購入量は9キロ強であり、年間70食強となる。パスタは同3.4キロ強であり、同34食強と推計される。
一方、同調査によると、2人以上の世帯における年間の外食費は、13万4,268円となっている。このうち、日本そば・うどんへの支出額は5,260円であり、ラーメンに代表される中華そばは同5,891円だった。
出所)総務省統計局『家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング(2020年(令和2年)~2022年(令和4年)平均)』
なぜ〝西のうどん、東のそば〟という食文化の違いが誕生したのか
画像提供:ウェザーニュース
全国的にはうどん51%、そば49%とほぼ拮抗しながらも、西南日本はうどん、東北日本はそばを好む結果だった━━━。
民間の気象情報会社である株式会社ウェザーニュースが2021年7月30~31日、8,857人から回答を得たアンケート調査の結果からも〝西のうどん、東のそば〟という傾向が見られた。
ウェザーニュースでは、同結果をまとめて、『“うどん文化”と“そば文化”の境目は「気候の境目」だった?』という記事を2021年8月22日付で公開している。
同記事において歳時記×食文化研究所 代表の北野智子さんは、次のように解説していた。
北野智子さん
そば文化とうどん文化を分けた境目、分かれた理由は、『気候風土』にあったといえます。
「そばは古くから救荒作物として栽培され、寒冷な気候や痩(や)せた土地に強いので、東日本にそばを嗜好(しこう)する地域が多く、うどん(小麦)は温暖な気候で育つので、西日本にうどんを嗜好する地域が多いといえます。
うどんの日 7月2日、そばの日 10月8日━━。
讃岐うどんの本場である香川県製麺事業協同組合は、うどんの消費拡大を目指して1980年、7月2日を『うどんの日』としている。
うどん記念日について、香川県地方の農家では古来、農繁期が一段落した、七十二候の1つである『半夏生』(7月2日頃)の時期にうどんを食べて、労をねぎらうという習慣に由来してのことだったという。
一方、そばの日については、新そばの時季である10月において、10=十は「そ」、8=八は「ば」と読めることで10月8日を東京都麺類生活衛生同業組合が、『そばの日』に制定している。
なお、日本麺業団体連合会は、毎月30日を『そばの日』とし、福井県では毎月18日が『蕎麦の日』になっている。
うどん・そばの記念日についても西日本、東日本の関係団体が、それぞれ関与している。
博多の承天寺境内に「うどん・そばの発祥之地」アリ
承天寺境内にある「饂飩蕎麦発祥之地」の碑
日本人にとって、代表的な国民食の一つともいえる『うどん・そば』の発祥地については、博多だといわれている。
古来、中国大陸から日本へ渡って来た文化の多くは、留学僧らによってもたらされた。
中世の博多が中国大陸との玄関口の役割を担っていた1241年、宋から帰朝した聖一国師(円爾)は、諸寺の設計を記した『大宋諸山之図』を持ち帰った。
そして、同図の末尾に水車と歯車が連動して粉を挽く石臼式水力利用製粉装置の立面図である『水磨の図』があったのだ。
現在、京都の東福寺に所蔵されて、国の重要文化財に指定されている大宋諸山之図、このうち水磨の図にある石臼の一方に「茶」、他方に「麺」と記されていたという。
このことから日本で本格的な粉食文化が始まったとされ、聖一国師が開山した承天寺(福岡市博多区)の境内に『饂飩蕎麦発祥之地』と記した碑が建てられている。
発祥碑の建つ承天寺では、10月7日の『開山忌』に饂飩供養が行われ、うどんが振る舞われる。
うどん・そばの伝来に関しては、糸島郡怡土村(現福岡県糸島市)の高祖城主だった原田氏に家臣として仕えた富田備前守が、聖福寺住持に従って唐に渡って製粉技術を持ち帰ったという説もある。
明治後期~昭和初期に活躍した、福岡市出身の日本画家だった冨田溪仙は、富田備前守の末裔であることを誇りにした。
そして、彼自身の実家も福岡市麹屋町(現福岡市博多区川端)において、うどんよりも麺の直径が小さいそうめんの製造業を営んでいた。
ちなみに貝原益軒著『筑前国続風土記』において、そうめんは博多の名物だったと記す。
一方、香川県では、地元出身の空海が唐から讃岐うどんの製法を伝えたというご当地説もある。
なぜ、発祥地・博多のうどんは柔らかくてモチモチなのか?
うどん・そばの歴史をさらに遡れば、『古事記』にも小麦の記載がある。
そして、奈良時代に遣唐使が持ち帰った唐菓子が、日本における粉食文化の始まりであり、麺類の原型と考えられている。
当時の唐菓子は、肉饅頭やそばがきのような果餅だった。
それを汁に入れて食べようとすると、ころころして座りが悪いところから「混沌(こんとん)」と呼ばれ、それが転じて「饂飩(うどん)」になったというのだ。
平安期、貴族らの食べ物だったうどんは室町期以降、現在の形状に近づいていく。
南北朝後期~室町初期に成立したとされる書物『庭訓往来』には、点心15品目の中に饂飩、素麺、基子麺の名が記されている。
そして、うどんが庶民の食べ物として定着したのは、江戸期になってからだった。
一方、そばは8世紀末に完成した史書『続日本紀』に「蕎麦」の記述がある。
そば自体は長年、そば粉を練った餅状にした『そばがき』や『そばもち』として食べられていた。
今日のような麺状のそばは、『そば切り』という別名もある通り、包丁で切ることで麵状にした、いわば〝発明品〟だ。
そば切り自体は16世紀に誕生したと考えられている。
そして、江戸期に入って、そば粉に〝つなぎ〟として小麦粉を混ぜる製法が確立した。
今日、〝うどん県〟を自認する香川県の讃岐うどんは、しっかりした歯ごたえ・つるっとした表面・モチモチした弾力が特徴だ。
これに対して、発祥地・博多のうどんは、やわらかく・ふわふわした表面・モチモチ感を特徴とする。
博多のうどんはなぜ、このような特徴を持つ麺になったのだろうか?
この点については、博多が商人の町だったことが大きい。せっかちで食事を早く済ませたい博多商人は、注文して、すぐに出て来て、さっと食べられるものを好んだ。
このため、調理時間を短縮するためにゆで置きにされていた結果、あらかじめ芯までやわらかくなっているというのだ。
意外、福岡市民はラーメンよりもうどん・そばの方が好き!?
福岡・博多の人たちは、日本そば・うどんをラーメンに代表される中華そばよりも多く食している━━━。
〝とんこつラーメンの聖地〟とみなされることの多い福岡市において、総務省『家計調査』(2人以上の世帯:2020年~2022年平均)によると、福岡市の家庭における外食では、日本そば・うどんの支出額6,348円となっており、ラーメンに代表される中華そばの同5,410円を上回っていた。
同調査によると、福岡市内の家庭における生うどん・そばと乾うどん・そばを合計した支出額・消費量は、ラーメンやチャンポン・焼きそばなどの中華麺を上回っていた。
その一方でうどん・そばの発祥地である博多を有する福岡市は、うどん・そばの購入金額・購入量自体は、必ずしも多くない。
福岡市の2人以上の世帯における生うどん・そばの支出額・消費量は2,917円・9,198グラム、乾うどん・そばは同1,728円・2,434グラムで共に全国平均を下回っている。
なお、東京都区部と政令指定都市による日本の21大都市におけるうどん・そば支出額・消費量ランキングでは、下位に甘んじているという現実もある。
出所)総務省統計局『家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング(2020年(令和2年)~2022年(令和4年)平均)』
出所)総務省統計局『家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング(2020年(令和2年)~2022年(令和4年)平均)』
製粉技術の伝来で粉食文化が開花した博多は麺類の発祥地⁉
農林水産省『令和4年産麦類(子実用)の作付面積及び収穫量』によると、2022年における福岡県の小麦生産量は7万8,000トンだった。
この数字は全国シェアで6.4%を占め、47都道府県で北海道に次ぐ第2位であり、福岡県は一大小麦生産県だ。
一方、そばの生産量は、同『令和4年産そば(乾燥子実)の作付面積及び収穫量』によると、同1,000トンとなっており、全国シェア2.5%で同15位となっている。
古来、肥沃な土壌に恵まれた筑紫の地に承天寺を開山させた聖一国師は、大宋諸山之図を持ち帰り、水磨の図を伝えた。
そして、石臼式水力利用製粉装置の伝来で日本における本格的な粉食文化が始まったとされる。
つまり、当時最新の製粉技術が伝来したことでうどん・そばに限らず、そうめんや冷やし麦、ラーメンやチャンポンなどの中華麺などの麺類全般の発祥地も博多だといえる。
食のおいしさで定評のある福岡・博多の地において、一連の経緯も思い巡らせながら、博多を発祥地とするうどん・そばを存分に味わってみてはいかがだろうか。
参照サイト
総務省統計局『家計調査(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング(2020年(令和2年)~2022年(令和4年)平均)』
https://www.stat.go.jp/data/kakei/5.html
料理王国『東のそば、西のうどんと称されるようになった歴史をご存じですか?』
https://cuisine-kingdom.com/sobaudon/
ウェザーニュース『“うどん文化”と“そば文化”の境目は「気候の境目」だった?』
https://weathernews.jp/s/topics/202108/120165/
そば処 武蔵『そばの歴史:蕎麦をさらに美味しくいただいてもらうお話し』
https://musashisoba.co.jp/know-how/
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