「福岡市と熊本市では、重力が違う」。
実は地球上で、重力はどこも等しく同じわけではない。
我々人間には肌感覚でその違いを感じにくいが、場所によって重力に違いがある。
物理法則では物質の「密度」が高ければ高いほど重くなり「重力が高くなる」。
熊本市の地下には、阿蘇山の噴火などによって、長い年月をかけて、水を通しやすく蓄えやすい地層が形成されている。
結果として地盤を軽くするため、重力は福岡市より低くなる。
では、「心が惹かれる都市」など、土地に対して人の心を惹きつける精神法則に「重力」があるとしたら、それはどのような「力」なのだろうか?
フクリパ読者も当然ながら、「福岡を魅力的な都市」と思っているだろう。
その福岡の、さらに中心部である「天神」は、人々をどのように惹きつけるのか?
いま、天神ビッグバンという再開発で景色が劇的に変わりつつある天神。
天神が持つ「人の心を惹きつける力」に変化はあるのか?しばし考察にお付き合いいただきたい。
>>【あわせて読む】【激変】10年以上前と現在の福岡市・天神を比較してみると…
天神について、市民に聞いてみた
天神は、人の心をどのように惹きつけるのか?
そこにビフォー/アフターがあるとしたら、コロナ禍が到来し、商業施設が次々に閉店し、天神の景観が変わり始めた頃ではないか?
この仮説からアンケート調査を試みた。
「福岡テンジン大学」という市民大学に登録しているユーザーと、天神のまちづくりをしている団体「We Love 天神協議会」の会員企業を中心に案内し、10代から70代まで、計259件の回答が集まった。
そのアンケート調査の「設問」と「回答データ」をAIを用いて解析し、クロス集計や自由記述の傾向を整理した。
ここでは、AIによる解析レポートを交えながら、その結果を報告する。
アンケート概要
●回答数:259件
●年齢(5歳幅)/職業/福岡市出身、Uターン、移住などの属性
●設問は、次のような9つの質問をそれぞれ6段階で回答してもらった。
・再開発によって閉店・解体された商業施設やビルに対して、今でも喪失感や寂しさを感じている。
・現在の新しい天神の街の中に、自分なりの新たな「お気に入りの場所」や「居場所」を見つけている(または見つけようとしている)。
・ほか7問
2019年以前、天神は誰の「何」だったのか?
天神は「まちとの接点」だったか?
『単なる買い物や仕事だけでなく、自分と街をつなぐコミュニティや活動(まちづくり等)との接点があった。』という質問では、20・30代は「全くそう思わない」から「非常にそう思う」まで比較的バランスよく分かれた。
天神で過ごした時間の長さからか、40代以上は「そう思う/どちらかといえば、そう思う」に多くの回答が集まった。
消えた商業施設への喪失感
そして全ての世代で最も偏った回答が現れた設問が、『再開発によって閉店・解体された商業施設やビルに対して、今でも喪失感や寂しさを感じている。』だった。

※「非常にそう思う/そう思う/どちらかといえば、そう思う」を「感じている」、「全くそう思わない/そう思わない/どちらかといえば、そう思わない」を「感じていない」の2つに分けてグラフを作成
ここに、消えた商業施設で青春を過ごしたであろう30代以上の喪失感や寂しさが見てとれる一方、まだ天神で過ごした日々が浅い20代では「感じていない」人の方が多数派となった。
では、この30代以上の喪失感や寂しさを感じている人たちの心理は、どこから来ているのだろうか?
>>【あわせて読む】天神ビッグバンの経済波及効果は1兆8,943億円、当初試算の2.2倍に
“人の心を惹きつける力”の正体?
『Out of sight , out of mind.』
見えなくなれば忘れ去られる、という英語のことわざだ。
しかし、「あの頃の天神は楽しかった」…そのような体験から生まれた思い出が心に深く刻まれている人にとっては、建物や景色が物理的に失われても、その記憶まで簡単に消えるわけではない。
人は、自分にとって大切だった体験を、そのときの感情や意味とともに記憶する。
精神法則における重力である「人の心を惹きつける力」の正体、それは“意味”なのかもしれない。
では、この“意味”を失った痛みは、一体誰が、どれほど強く抱えているのだろうか。
誰が、最も痛みを抱えているか
※回答データをAIに解析させたレポートより「誰が最も痛みを抱えているか?」
喪失感に関する設問と『当時の天神は、あなたにとってどのような場でしたか?』という設問とのクロス集計から、「自分の居場所」や「自己実現の場所」と回答している人たちほど、喪失感を強く感じていることがわかる。
海外の経済紙は天神を「ショッピングが便利」と評価したこともあるが、実際に今回の調査でも、「便利な消費の場(買い物・飲食など)」と回答している人たちは、全体の約54%と最大グループを占めている。
ただしこの層は、コミュニティとの接点も少ない傾向があり、天神を家庭や職場とは異なる第三の居場所である「サードプレイス」ともあまり感じておらず、再開発に伴う喪失感も薄い傾向が出ていた。
さらに、今後の「まちづくり当事者意識」を問う設問に対して、「自らまちを良くしよう、関わろう」というアクティブな意向は明確に控えめだった。
天神ビッグバンは、「自分の居場所」や「自己実現の場所」を持っていた人たちから、『意味を持った場所』を奪い、喪失感や寂しさを与えたと言える。
では、その“意味”は、一体どのような要因から発生していくのだろうか。
すでに新天地を見つけた「居場所発見層」の存在
『意味を持った場所』を失った人がいる一方で、「現在の天神」にすでに居場所を見つけている人たちがいる。
20・30代や、2020年以降に福岡市へ移住してきた新福岡市民だ。
※AI解析レポートより「居場所発見層は27%」
居場所発見層は、「当事者」として天神に関わっている

※AI解析レポートより「居場所発見層は、まちづくりを自分ごととして捉える」
この「居場所発見層」は、かつてあったビルへの喪失感が低いだけでなく、まちづくりイベントやコミュニティ活動への参加意向も高い。
「街の景色が変わっても、集まる人の魅力や熱量は変わらない」と答える度合いが最も高く、新しい天神の本質的な価値を「建物」ではなく「人」に見出していた。
「便利な消費の場」と天神を捉える層とは対照的に、「居場所を失った人たち」も「新たな居場所を発見した人たち」も、天神への当事者意識は高い水準にあった。
彼らに共通していたのは、「天神を『自分ごと』と思う意識」、言い換えると「天神を自分の一部(アイデンティティ)と捉えていたこと」であり、それこそが“意味”となっていると言える。
天神に来る人が、“意味”を見出せるか?が鍵
天神は、建物や景観などが変わっただけでなく、天神を居場所として活動している人たちも新旧の入れ替わりが起きていた。
竣工間もない新しいビル群にも、ビルとビルの間のキレイになった歩道や公開空地にも、市民によるコミュニティやまちづくりの活動がまだまだ生まれてきていない。
ハードは新しくなっても、まだまだ市民のソフトが追いついていない。
AIは、レポートの最後のページをこのように締めくくった。
「居場所発見層が活躍し続けられる街。それこそが、天神ビッグバンを真の成功へと導く『熱量ある現実』となります。」と。
※AI解析レポートより「居場所発見層が活躍し続けられる街」
そして、これからの天神には「まだ居場所を見つけられていない人たち」が、天神でのコミュニティ活動やまちづくり活動とつながり、「天神を『自分ごと』として捉える機会」が作れるか、「自分と天神を意味付けできる体験」ができるまちであるかどうかが問われるのだろう。
最後に、天神のまちづくりに20年にわたって活動してきた、We Love 天神協議会が2023年に改訂した「まちづくりガイドライン」で示されている、まちの将来像のイラストを紹介する。
※提供:We Love 天神協議会「まちづくりガイドライン2023」
そのイラストの解説の最後には、こう書かれている。
「一人ひとりにとって大切なアクティビティを実現することができるまちになります。」と。
さて、この文章を最後まで読んだあなたは、天神と自分にどんな“意味”を見出す?









