あなたが都市に抱く"重力"とは?
あなたは今住んでいる都市にどれくらいの重力を感じているだろうか?
それはコロナ禍前と、今とでどんな変化が起きただろうか?
立花山から見る福岡市(岩永撮影)
2015年に内閣府が打ち出した「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」に「地方移住」という言葉が並び、「移住」という言葉が一般化したように思う。
とは言え、多くの人にとって「移住」にはハードルがある。
・仕事を辞めなければならない
・所属しているコミュニティがある
・都市の物価や住み心地がよい
・都市の食文化を気に入っている
など、個人とその都市を結びつける要素が存在する。そこに同居家族などがいると、要素が一気に増える。
・家族が仕事をしている
・子どもが教育機関に通っている
・親が近隣に住んでいる
・自治体サービスの質が高く恩恵にあずかっている
・家族にも所属しているコミュニティや友人がいる
これら移住のハードルは個人や世帯をその都市、その地域に縛り付ける。これを「都市の重力」という表現に置き換えてみたい。
そして多くの地方自治体は、この「重力」を高め、首都圏・大都市圏にいるなるべく若い世代へ「プロモーション」を行い、移住促進という引き寄せを行っている。
しかし、これら移住のハードルを眺めていると、その都市がそもそも持つ要素よりも、個人がその都市に縛られる仕事や他者との繋がりのような見えない鎖が存在するのがわかる。
さて、この多くの人を土地に縛りつける見えない鎖を、半ば強制的に解いてしまうものが日本には存在する。
大きな会社ほど存在する転居を伴う「異動」だ。
フルリモートワークを体験!都市の重力から解放?
2020年、コロナ禍が来て大きな変化が起きた仕事がある。
いろんな業種でいろんな働き方をしている自称・複業家な私だが、北九州市立大学で「キャリア・デザイン」という講義の講師を担当している。
2019年は北九州市立大学北方キャンパスで最も大きい講義室で開講していた「キャリア・デザイン」も、2020年は多分に漏れず遠隔授業となった。
メイン教官である眞鍋教授と協議した結果、「収録した動画を見てもらい、毎授業ごとにレポートを提出してもらう」オンデマンドで開催した。
ところが、である。2019年の対面開講と、2020年のオンデマンド開講とで大きな違いを認識することになった。
学生たちのレポートの質がまるで違う!のだ。
きっとWi-Fi環境が満足になかったり、動画を見る端末の確保に苦労した学生もいたことだろう。それにも関わらず、レポートの質は回が進むにつれ、どんどんと向上していった。そして、講義そのものを学生が評価する「授業アンケート」では、学内平均を大きく上回る結果が出た。
2021年も340名ほどの受講生がいるこの講義はオンデマンド。福岡県にまん防が出ようが緊急事態宣言が出ようが、何の影響もなくキャリア・デザインは講義を続けられた。
そして何よりこの1年半、私は一度も北九州市立大学の北方キャンパスの地に足を踏み入れていないのだ!これぞフルリモートワーク!
複業の1つ、メインとなる仕事ではないとは言え、都市と個人を縛り付ける最大の要素である「仕事」が、質は高まったのにほぼ無重力化した。この衝撃たるや・・・
コロナ禍が前倒しした社会変化の波!?
ご存知の通り感染症対策として一気に広がったオンライン化の波。
ミーティングや商談はもちろんのこと、就職活動の会社説明会や面接、セミナーやイベントやライブ、そして飲み会、ましてや合コンまでがオンライン化したと見聞きした。
さらにこんな言葉も聞いた。
「自宅に居ながらPC開いたら10秒で職場です」
そう、ITリテラシーの高い人材ほどテレワークが可能だし、日本中、いや世界のどこにいてもインターネットさえ繋がれば仕事ができる時代が一気に前倒しされたのだ!
このテレワーク前提の働き方の波は、確実に広がりを見せている。ITリテラシーが高い人材は、住む都市を、生活するまちを「自分で選択できる」のだ。
これは都市にとって、強烈なメリットとデメリットをもたらす。
QOL(Quality of life:生活の質のこと)が高く、情報発信力のある地方には有利に働く。
よって、福岡市だけでなく多くの地方自治体は「コロナ移住」と銘打って様々なプロモーションを首都圏に仕掛け始めている。
そう、仕事に紐づく土地と個人を縛り付ける鎖は解かれ、都市は、地方は、より「選ばれるもの」になっていく。
しかしこの現象は、コロナ禍がもたらしたものというより、より前倒しさせたものである。
現代マーケティングの第一人者と言われるフィリップ・コトラー氏と、その弟であるミルトン・コトラー氏の著書が2015年に日本語訳されて出版された。その書籍のタイトルは「コトラー 世界都市間競争」だ。
この著書を読み解いていくと、グローバルに繋がった社会における都市間競争のキーワードは「集積」だ。
・グローバル企業の誘致
・高度人材の誘致
・そのための制度づくりとまちづくり
そう、まさに天神ビッグバンや博多コネクティッドがこれに当たる。福岡市は「アジアのリーダー都市」を標榜するだけあって、戦略的に事業を展開している。
しかし、これら都市としての動きの歯車に、まだ載っていないピースがあった!
当メディアの記事「福岡市は「大学のまち」。若者の多い都市になったその理由は?」https://fukuoka-leapup.jp/city/202003.20にもあるように、福岡都市圏として見ても日本有数の「大学を多く抱える都市」でありながら、そのポテンシャルがこの都市戦略の流れにまだ載っていないのではないだろうか。
そんな中、福岡の「大学」を中心とした新たな動きを紹介したい。
福岡未来創造プラットフォームとは?
2019年5月、大学という「知の集積」と人材育成を担う機関同士が手を取り合い、グローバル化や少子高齢化、社会の変化に向けて福岡を「地域の活性化」を牽引する拠点とすべく、福岡未来創造プラットフォームというネットワークが誕生した。
https://www.fuk-miraipf.net/
九州産業大学
九州大学
サイバー大学
純真学園大学
西南学院大学
第一薬科大学
筑紫女学園大学
中村学園大学
九州国際看護大学
日本経済大学
福岡工業大学
福岡歯科大学
福岡女子大学
福岡大学
の14大学に加え
福岡市
福岡商工会議所
福岡中小企業経営者協会
が加わりネットワークを形成している。
この福岡未来創造プラットフォームの「包括連携協定書」には、以下のような目的と事業が記載されている。
(目的)
そしてこの目的に向けて、以下5つのワーキンググループ(以下、WG)が設立され運営が始まっている。
①学生募集WG
②地域人材育成WG
③地元就職・定着WG
④生涯学習WG
⑤大学・自治体・産業界交流WG
実は私が学長を務める福岡テンジン大学も、15番目の(ホンモノじゃないけど)大学として、5つのWGのうち②・④・⑤に関わらせていただいており、多様なセクターのプレイヤーと「ネットワークを構築しはじめている」のを感じている。
福岡のことを知る!福岡学のススメ
福岡市は全国屈指の人口流動都市である。居住が10年未満の福岡市民は約40%、160万人中、60万人ほどが福岡に引っ越してきて10年未満ということになる。
もちろんここに、九州各地から大学進学によって福岡に来た若者も多いだろう。
この福岡の地で「未来をよりよいものにしていこうと一歩踏み出したくなる」。そんな人材が集い、育ち、この都市をより魅力的にしていってほしい。そのために2020年、②地域人材育成WGより発案された「福岡を知る、福岡学」https://www.fuk-miraipf.net/wg/fukuokagaku/が始まった!
「 福岡学 とは?
創造性と多様性に溢れた福岡の魅力を切り口にしながら、
福岡のまちについて学ぶもの 」
今日に至るまでの福岡の経済や自然環境、そして歴史をすべて繋げて学び、福岡の未来への期待値を高める構成となっている。この「福岡学」の全体コーディネーターを担当させていただき、大いに可能性を感じている。
現在はまだ、大学生のみが対象の講座となっているが、内容としては高校生や社会人も含めた多くの「未来を担う」人へと広げていけたらと思う。
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さて、ここまでの話の流れを一度整理しよう。
都市には重力がある、そしてその最大の縛りはその土地と密接した仕事であり職場だったりする。
しかしコロナが来た。オンラインの波、DXの波が来ている。
これからますます、情報を扱う人材ほど仕事に紐づく土地と個人を縛り付ける鎖は解かれ、都市は「選ばれるもの」になっていく。
そのとき、この福岡は「選ばれる」のか?
これまでの福岡は
・自然と都会がほどよい
・食事がおいしい
・人が温かい
・若者が多く活気がある
などの文脈で「都市の重力」を形成していた。しかし、これらは消費者視点であり、この福岡のよりよい未来を保障するものではない。
そこに「都市の重力」をグローバルの視点でも最大化するための、そして持続可能性を高めるためのワンピースが「大学」であり、福岡都市圏にある14大学の「ネットワーク」が生み出す「知の集積」ではないだろうか。
そのネットワークというインフラをもとに、福岡という都市に「福岡学」をインストールすると、いったい何が起こるのだろうか。
福岡の未来に向けて、また1つ、挑戦したいことが増えた。