■注目を浴びる「観光DX」とは
最近あらゆる分野で進行している「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、2004年にスウェーデンのウメオ大学の教授、エリック・ストルターマン氏が提唱した「進化し続けるテクノロジーが生活をより良くしていく」という概念です。
観光庁は、「旅行者に対する消費機会の拡大や旅行者の消費単価の向上を目指し、これまでの態様に捉われない新たな観光コンテンツ・価値を生み出すべく、デジタル技術を複合的に活用しながら、 観光サービスの変革と新たな観光需要を創出」するべく「観光DX」を推し進めています。
■観光DXは、どのようなものがある?
観光DXの具体例をあげると…
●コロナ禍で急速に成長した「オンラインツアー」
●実際の風景に新しい視覚情報を付加「AR(拡張現実)」
●仮想世界を現実のように見せる「VR(仮想現実)」
●それらを複合、総称した「XR(クロスリアリティ)」
が挙げられます。
AR(拡張現実): くまモンがカメラの中に登場
私が観光分野でのARを認識したのは、10年近く前から行われている熊本県の「くまフォト」。
県内各地にある観光スポットに設置された専用の「くまフォトマーカー」にカメラを向けると、CGで再現されたホンモノそっくりの「くまモン」がカメラの中に登場し、一緒に記念写真を撮ることができるのです。
https://rkk.jp/kumamon/
「くまフォト」があるスポットで一緒に記念写真
AR(拡張現実): あるはずのないお城が再現
福岡市でも2013年から福岡城跡で、AR・VR技術を使った「鴻臚館・福岡城バーチャル時空散歩」を実施していました。
ガイドツアーに参加した人に一人一台のタブレット端末を貸し出し、観光ガイドの解説に沿ってCGで再現した福岡城や鴻臚館の姿を見学してもらうというもの。
現在はコロナ禍の影響でタブレットの貸出は行っておらず、「ストリートミュージアム」というスマートフォンアプリをダウンロードすると、東御門、武具櫓、本丸御殿などの主要な遺構はもちろん、天守台上からのぞむ城下の眺望も360℃の大パノラマで楽しむことできます。
GPS機能と連動していますので、現地に行って楽しんでみましょう。
モバイルをかざすと当時のイメージがうかびあがってきます
VR(仮想現実): ゴーグルをつけた瞬間 時空を超える?!
福岡市の「BOSS E・ZO FUKUOKA (ボス イーゾ フクオカ)には、様々なバーチャルコンテンツが用意されています。その中でも、V-WorldAREA (ブイワールド エリア)は、VRを体験できる最新施設です。
VRゴーグルをつけて乗り物に乗るコンテンツや、大画面をタッチして遊ぶコンテンツなど様々な種類があります。
PHOTON BIKE (フォトンバイク) © SoftBank HAWKS
時空を飛び越え、火星の大地で大ジャンプ! ゲーム機が躍動し、360度の大迫力の映像で、これまでにない没入感を味わえる体感型VRです。
いずれにしろ「今は見ることができない史跡や遺構が見える」「スポットを巡ることで地域を回遊・周遊が促進される」「行ったことがない世界の体験ができる」というメリットがあります。旅行者が旅先をより深く知るきっかけにもなっています。
最近では、音に着目したさまざまなツールやアプリが登場しています。次に紹介するものもそのひとつです。
■今、「音声ガイド」「音声AR」 “音”の観光が熱い!
観光、旅において、その地を深く知るためにガイドは大切。でも、誰もがガイドをつけて楽しむことはできません。
そこで、活用されているのが「音声ガイド」。その名のとおり、音声ガイドは「地域を案内し、魅力を伝える」役割を果たし、通っただけではわからない秘められた歴史や物語を伝えてくれるのです。
美術館で、音声ガイドを利用したことがある方も多いのではないでしょうか。
鑑賞する展示物の前で、掲示された解説以外に、背景やストーリーを音声で伝えてくれる音声ガイドは、特に企画展で俳優や声優などイメージにあった人を抜擢し、その声とBGMなどで魅力を高めてくれます。
GPS機能搭載の「音声ガイド」
美術館の音声ガイドのように番号を選択していくタイプではなく、GPSから旅行者の位置情報を読み取り、対象のスポットに近づくと読み上げる音声ガイドも2013年ころから出てきました。
「福岡オープントップバス」の多言語の音声ガイドはGPS搭載です。私は2014年に多言語ガイドの内容を作成、翻訳することを業務として携わりました。
通常日本人向けにはバスアナさんの案内ガイドが行われていますが、それでは外国人は内容を理解できませんし、日本人なら知っている知識がないことも多いです。
多言語音声ガイドは、日本語が理解できない外国人にとって、風景を楽しみながら、スポットの魅力や福岡のまちのトピックを理解することができる便利なツールです。
音声ガイドは英語、中国語、韓国語で対応。外国人の友達と一緒に乗っても安心です
私は思うのですが、視覚よりも聴覚、「音声」が加わることで、より想像力が掻き立てられることがあるのではないかと。ガイドだけではなく、その地域やまちあるきをより立体的に体験できる「音声AR」にも注目しています。
ドラマストーリーを搭載の福岡市 博多旧市街「音声AR」
多言語問題、奥深い案内、域内周遊促進、位置情報との連動といった課題を解決するほかに、まったく違ったドラマ、ストーリーをみせてくれるものもあります。
福岡市が博多旧市街を舞台に昨年11月末にスタートした音声ARのまちあるきガイドコンテンツ。
博多旧市街まち歩きガイドコンテンツ
自分のスマートフォン等に専用アプリをダウンロードしておくだけで、現地を訪れた際に、GPSと連動して音声ガイドやオリジナルの音声ドラマを楽しむことができます。
博多旧市街 音声ARコースは①~③の3つ
【オリジナルの音声ドラマを楽しむコース】…オリジナルキャラクター「ナガマサ」が、戦火により荒廃した中世博多のまちを復興していく音声ドラマコース
①「博多流〜はかたながれ〜
【観光スポット等の音声ガイドを楽しむコース】…博多旧市街の観光モデルコースをベースに神社仏閣などの観光スポット等を紹介する2つのコース
②「博多伝統文化めぐり」
③「博多寺社めぐり」
■「博多旧市街 」地域の課題解決に音声ARを利用
実際に私も博多旧市街の音声ARアプリをダウンロードして楽しんでみました。
特に、上記①の音声ドラマ「博多流」は大胆なストーリー設定で、魅力あふれるオリジナルキャラクターに加え、福岡・博多の歴史上の人物も登場します。
めぐるスポットも範囲が広く、一日とはいかないまでも半日は確保して楽しみたいところです。
開発を行った福岡市経済観光文化局観光コンベンション部地域観光推進課歴史文化連携係長 小野勉氏に解決したい課題や利用状況をお伺いしました。
――博多旧市街の観光、まちあるきどんな課題があったのですか。
小野氏
また、あまり知られていない穴場のスポットもたくさんあるのですが、定番スポットに集中し、周遊範囲が広がらない、などの課題がありました。
音声ARという技術を使って、スマートフォンに専用アプリをダウンロードしておくだけで、いつでも、観光スポットの解説や音声ドラマを楽しみながら、博多旧市街のまち歩きを楽しむことができるガイドコンテンツを開始しました。博物館や美術館の音声ガイドを街中で楽しむことができるイメージです。
たとえば、このアプリを起動して博多旧市街の観光スポットを訪れるとGPSの位置情報に連動して音声ガイドが自動で再生されます。
さらに今回の大きなポイントは、『もっと若い世代などより幅広い層の方に博多旧市街の魅力を知ってもらいたい』という想いから、TVアニメも手掛けるエンタメ業界大手のエイベックスとタッグを組んで、フィクションのオリジナル音声ドラマ『博多流』を開発したことです。
さまざまなキャラクターが登場する。右から4番目が主人公のナガマサ
架空の主人公“ナガマサ”が、中世博多のまちをもりあげていくというオリジナルのストーリーで、博多発祥といわれる『うどん』や黒田官兵衛など歴史上の人物も登場します。
主人公“ナガマサ”にはNHK連続テレビ小説「エール」で俳優デビューした、福岡出身の坪根悠仁さんを声優として初起用。成長していく熱い主人公を演じてくれています。
アプリは無料でダウンロードでき、『博多伝統文化めぐり』と『博多寺社めぐり』の2コースは、英語、中国語、韓国語と多言語も備えています。
今はコロナ禍の影響で外国人は少ないですが、新たな福岡・博多の魅力が伝わるのではないでしょうか。
――リリースから約2ヶ月経ちました。どのような利用状況でしょうか。
小野氏
今後も、エリアの事業者さんとも連携してより多くの方にご利用いただけるよう、広報にも力を入れて行きたいと考えています。
■福岡でおすすめの音声ガイド・音声AR3選
今まで紹介した他に、福岡を満喫できる“音”ガイドのおすすめ3つを挙げてみます。
(1) 音声AR: 太宰府を周遊するなら「on the trip」
音声トラベルガイドアプリ「ON THE TRIP」の太宰府版。
マイクロバスを改装したバンで日本各地、ガイドをつくる現場に滞在しながら取材する制作軍団。現場に滞在しながら作品(ガイド)を作っているそう。場所にあわせた音のアートや観光地での体験もクリエイトしています。
文化財や神社、施設など単なる解説ではない「点」と「点」を結びつける物語の構成力が魅力的。太宰府天満宮だけでなく、竈門神社、大宰府政庁、観世音寺、坂本八幡宮など大宰府市広域のストーリーを音、文字、写真でみせてくれます。
https://on-the-trip.net/spots/356/purchase?locale=ja
(2) 音声ガイド:福岡市博物館 常設展
ここを音声ガイドとともにめぐれば、もうあなたは「福岡通」です。
福岡が古来からアジアの窓口だったことを示す国宝「金印」をはじめ、海を通じた国際交流の模様や街の発展、「博多祇園山笠」などの祭りの起源といったユニークなエピソードが、計53のトピックで綴られます。
すべてまわるとかなり時間がかかるので、好きなコーナーをじっくりとききこむといいかもしれません。
国産第一号のアロー号(㈱矢野特殊自動車所有)は福岡と深い関係が。今も動きます
【福岡市博物館】
■TEL: 092-845-5011
■住: 福岡市早良区百道浜3-1-1
http://museum.city.fukuoka.jp/
(3) 音声ガイド: 福岡市科学館 プラネタリウム 生解説&アシストホーン
福岡市の副都心ともいえる六本松にある福岡市科学館は、大人の知的好奇心も満たしてくれる場所です。
企画展や基本展示も楽しいのですが、ドームシアター(プラネタリウム)でのプログラムもおすすめ。約15分間の生解説では、福岡の夜空に詳しくなって、見上げることが楽しくなります。
大きな天空を眺めながら、そばに寄り添うようにガイドしてもらう感覚なのです。その後に流れる約30分の番組の中で、英語、(日本語)のアシストホーンが利用できます (対象番組はHP等で案内)。外国人の方とも一緒に楽しめますね。
提供: 福岡市科学館
【福岡市科学館】
■TEL: 092-731-2525
■住: 福岡市中央区六本松4-2-1
https://www.fukuokacity-kagakukan.jp/
■取材を終えて: これからの観光
観光DX、音声ARは課題を解決するひとつの手段であって、目的ではありません。ややもするとツール自体の進化を目標にしてしまいがち。
ストーリーやコンテンツがまず魅力的であること、磨き上げることが大切だと肝に銘じています。それが整ってこそ、深く心にしみる、記憶に残る瞬間を創出できます。
私ももっと研究を深めて、楽しみながら旅行者の心を射抜くコンテンツを作っていきたいものです。