基準地価2024

【 福岡の経済・ビジネス事情 】

【基準地価2024】福岡市は商業地と住宅地の上昇率で日本一、初の二冠達成

国土利用計画法施行令に基づき、各都道府県知事が毎年7月1日における基準地の1平方メートルあたりの価格を調査した基準地価が公表されました。住みやすくて元気な都市として定評ある福岡市の基準地価、そして福岡県の基準地価はどうだったのでしょうか。今回、福岡(市・県)の基準地価を取り上げていきます。

〝一物四価〟とも呼ばれる不動産価格のまとめ

同一の土地であっても、目的や評価方法によって、不動産価値は異なってくる。
不動産価値のベースになっているのは、〝時価〟である。つまり、実社会において、いくらで取引されているかが、一つの判断基準になるのだ。
時価に基づいて、公示地価、基準地価、相続税評価額、固定資産税評価額が決められており、時として〝一物四価〟といわれることもある。

 

 

4つの不動産価格を整理すると、次のようになる。
【公示地価】毎年1月1日時点での土地の標準価格を国土交通省が毎年3月下旬に公表する。公示地価は、土地の基本的な価格であり、土地取引の目安とされる。
【基準地価】毎年7月1日時点での地価を各都道府県が9月下旬に公表する。基準地価の公表は公示地価の半年後であり、地価変動を補完する役割も担う。

 

 

◇   ◇   ◇   ◇
公示地価、基準地価に加えて、課税のための評価基準が、相続税路線価と固定資産税評価額だ。
【相続税路線価】国税庁が実施して公示価格の8割
【固定資産税評価額】固定資産税を徴収する市町村(東京23区は東京都)が実施し、公示地価の7割をめどとする。
なお、相続税路線価、固定資産税路線価は、公示地価を基準にしており、地価の最上位基準は、公示地価である。

 

【画像】フクリパ

 

 

福岡市の基準地価上昇率は商業地・住宅地の日本一で初の二冠達成

2024年917日、都道府県による基準地価の発表に合わせて、国土交通省は全国の状況をとりまとめて公表した。
今回、対象となる全国の基準地数は、21,436地点(うち福島第一原子力発電所の事故の影響による11地点で調査休止)だった。

 

 

全国の都道府県庁所在地における基準地価の上昇率において、福岡市は住宅地で初めて全国トップに躍り出た。
また、商業地も2年振りに第1位へ返り咲いている。
この結果、公示地価に続いて福岡市は、基準地価でも商業地と住宅地で初めて二冠を達成した。

 

 

商業地の上昇率13.2%増で全国トップだった福岡市における〝けん引役〟は、中洲地区だった。
かつて中洲地区は、コロナ禍の影響で地価の伸び悩みがみられていた。
コロナ収束後、企業による接待や2次会需要が回復し、さらにインバウンド(訪日客)効果もあり、中洲地区は活況を呈している。
そして、中洲地区での飲食ビルやホテルなどの建設需要が高まっており、商業地の基準地価を押し上げた。
福岡市内における商業地での上昇率トップは、飲食店が立ち並ぶ福岡市博多区中洲4丁目の上昇率20.7%だった。
前年に第103位だった同地が、一気に第1位へと大躍進したことからも中洲の復調振りが分かる。
なお、商業地の基準地価における最高値は、福岡市中央区天神1丁目の1平方メートルあたり910万円だった。

 

 

福岡市の住宅地における基準地価の上昇率は、前年比で1.3ポイント多い9.5%増となっている。
初めて住宅地の上昇率で首位に立った福岡市の上昇率トップは、2023年3月に開業した西鉄天神大牟田線『桜並木駅』近くの福岡市博多区麦野6丁目の19.0%増だった。
同地以外でも福岡市の住宅地に基準地価は、大きく上昇しており、九州における基準地価の上昇率ベスト10のうち、実に8地点が福岡市内だった。
なお、住宅地の基準地価における最高値は、福岡市中央区地行3丁目の1平方メートルあたり59万円となっている。

 

【画像】フクリパ

出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和6年都道府県地価調査の概要』

【画像】フクリパ

出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和6年都道府県地価調査の概要』

 

 

福岡県の基準地価は工業地で初の首位、住宅地と商業地は全国第3位

福岡県では、工業地の基準地価について、記録として確認できる1976年以降で初めて上昇率で首位となった。
福岡県の工業地における上昇率は前年比2.0ポイント増の11.6%増であり、平均価格は同8300円増の4万7100円だった。
上昇率で初の全国トップを獲得した福岡県の工業地は、台湾積体電路製造(TSMC)による熊本進出を契機とした半導体関連産業の工場進出や設備投資が追い風となっている。
相次ぐ半導体関連の投資に加えて昨今、電子商取引(EC)の市場拡大による物流倉庫や配送施設などへの旺盛な設備投資もけん引している。
工業地としては、福岡空港付近や九州自動車道の隣接エリアにおいて、物流拠点の施設用地としての需要が堅調だ。

 

 

一方、昨年トップだった福岡県の商業地における基準地価の上昇率は今年、47都道府県で第3位だった。
商業地の上昇率は、前年比1.4ポイント増の6.7%増であり、平均価格は45万2400円だった。
福岡市の再開発促進事業である『天神ビッグバン』や『博多コネクティッド』によって、福岡市都心部への投資需要が根強い傾向にある。
また、円安によるインバウンド(訪日客)の需要回復があり、百貨店やホテル、飲食関連も好調だ。
福岡都市圏でのマンション用地に対する需要は依然として高く、ホテルや飲食店ビルの開発用地も高値で取引されている状況だ。

 

 

また、同じく昨年トップだった福岡県の住宅地は今年、第3位と堅調な推移をみせる。
住宅地の上昇率は、前年比0.5ポイント増の3.8%増であり、平均価格は7万1200円だった。

【画像】フクリパ

出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和6年都道府県地価調査の概要』

【画像】フクリパ

出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和6年都道府県地価調査の概要』

【画像フクリパ】

出所:国土交通省『 都道府県別・用途別対前年平均変動率(令和6年)』

 

 

福岡(市・県)の地価が上昇し続ける要因と背景は何か

福岡市が商業地・住宅地における基準地価の上昇率で二冠を達成。福岡県は工業地での上昇率で初の全国トップを獲得━━。
このような展開をみせる福岡(市・県)の地価動向について、不動産のプロであり、不動産鑑定士として福岡の不動産事情に精通した佐々木不動産鑑定事務所の佐々木哲代表は、次のような見解を示す。

 

不動産鑑定士 佐々木哲氏

福岡市の都心部周辺では、高価格帯のマンションが建設されており、地価上昇を牽引しています。
マンション価格の高騰は郊外へ波及しており、大野城市においても高めのマンションが順調に売れるなど、地価上昇の裾野は広がっています。
また、オフィスビルやホテルへの投資も活発で、都心の商業地には底堅い需要があります。

他方、工業地については、物流施設が立地するエリアを中心に地価が上昇しました。
福岡県では工業地不足が顕在化したため、九州自動車「筑紫野」インターや大分自動車道「筑後小郡」インター周辺において大型物流施設の開発が相次ぎました。
首都圏の物流マーケットは空室率が高くなっていますが、福岡県では需給が逼迫し、賃料も上昇しているため、今後も大規模な新規供給が計画されています。

 

 

また、福岡(市・県)の地価が上昇している要因について、佐々木代表は次のように解説する。

 


不動産鑑定士 佐々木哲氏

不動産投資を行う上でネックになるのが、昨今の建築工事費の高騰ですが、福岡市では賃貸マンションの開発の勢いは衰えておらず、積極的な投資姿勢が保たれています。
このような背景には、全国有数の人口増加都市であることに加えて、天神ビッグバンや博多コネクティッドによる開発期待もあるものと考えます。

 

 

今後の福岡(市・県)の地価動向を考える

福岡(市・県)の基準地価については依然、好調さをみせる半面、「個別地点における全国ランキングでは、工業地を除いて全国上位にランクインしなくなった」との声も聞こえる。
さらに「福岡市都心部の分譲マンションの価格は、地場企業に勤務する社員らに手の届かない水準まで上がっており、富裕層らの投資需要によって支えられているのが実態ではないか」との指摘もある。
このような懸念や指摘を踏まえた上で今後、福岡(市・県)の地価は、どのような展開をみせていくのだろうか。

 

 

この点について、佐々木代表は、次のような見通しを提示する。

 

不動産鑑定士 佐々木哲氏

福岡市の地価上昇の背景は、人口増加などの実需に影響が大きいことから、調整局面が直ぐに来ることは想定し難いですが、金利上昇には注意が必要です。
また、建築工事費の高騰によって、再開発が中止になる事態が全国で起こっており、福岡においても都市開発が停滞することが懸念されます。

このような専門家による見解も踏まえた上で、福岡(市・県)の地価動向については依然、注視し続けていくことが必要だと考える。

 

【画像】フクリパ

画像提供:福岡市港湾航空局

 

 

参照サイト

国土交通省土地政策審議官グループ『令和6年都道府県地価調査の概要』
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001762894.pdf

 

国土交通省『令和6年都道府県地価調査』
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000044.html

 

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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