●福岡市の過去6年の着工建築物工事費は、2兆3,000億円で約3万棟を建設する
全国の20政令指定都市に東京都区部を加えた日本の21大都市における2014年~2019年での着工建築物工事費(予定額)の伸び率でのトップは、福岡市だった。
(出典:Fukuoka Facts)
福岡市では2014年に2,841億円であった着工建築物工事費は、その後5年連続で右肩上がりの伸びをみせて、2019年に2014年比で61.3%増の4,584億円にまで増えた。この間、福岡市内では2万9,797棟もの建築物が建ち、その着工建築物工事費(同)は、実に2兆2,644億円にも上っている。
これらの福岡市における開発を牽引していく上で大きな役割を担っているのは、「天神ビッグバン」と「博多コネクティッド」に代表される都心開発事業だ。
●「天神ビッグバン」の当初試算は、建設投資効果2,900億円、延床1.7倍、雇用2.4倍
「天神ビッグバン」は、天神交差点を基点に半径500メートル圏内の天神地区における都心開発事業で、アジアの拠点都市としての役割や機能を高めていくことを通じて、新たな空間や雇用を創出していく一大プロジェクトだ。
「天神ビッグバン」では、国家戦略特区による航空法の高さ制限緩和や福岡市独自の容積率緩和制度などを組み合わせていくことで民間活力を引き出して、耐震性が高く、ウィズコロナ、ポストコロナにも対応した先進的なビルへの建て替えを促進していく。
「天神ビッグバン」に先立ち、福岡アジア都市研究所(URC)が調べたところ、エリア内に1975年以前に完成した6階建以上の延床面積3,000平方メートル超のビルが30棟あった。これらのビルが2024年までの10年間にすべて建て替わった場合、延床面積で現行の44万4,000㎡から1.7倍の75万7,000㎡、雇用者数も同3万9,900人から2.4倍の9万7,100人に増えると試算した。
そして、「天神ビッグバン」による建設投資効果は2,900億円で、毎年8,500億円の経済波及効果が発生すると推計する。
ちなみに、「天神ビックバン」関連の各プロジェクトごとの総事業費は、9月30日に認定第1号として竣工した「天神ビジネスセンター」が500億円で、「旧大名小学校跡地活用事業」も500億円が見込まれている。
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●「博多コネクティッド」の当初試算は、同2,600億円、延床1.5倍、雇用1.6倍
JR博多駅から半径500メートルのエリアにおいて、容積率緩和などによって「天神ビッグバン」と同様に、先進的なビルへの建て替えや交通基盤の拡充、歩行者ネットワークの拡大による都市機能の向上を図り、博多駅の活力と賑わいをさらに周辺につなげていくプロジェクトが、「博多コネクティッド」だ。
「博多コネクティッド」でもURC調べでは、対象ビルは20棟あった。これらのビルがすべて建て替わった場合、延床面積で同34万1,000㎡から1.5倍の49万8,000㎡となり、雇用者数も同3万2,300人から1.6倍の5万1,600人に増えると試算した。そして、「博多コネクティッド」による建設投資効果は2,600億円で、毎年5,000億円の経済活動波及効果が発生すると推計する。
「博多コネクィッド」関連プロジェクトでは、「西日本シティ銀行本店ビル」の開発費が400億円超と発表されている。
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●ビル建て替えへの補助金は0円、〝ボーナス〟で民間活力を引き出す
「天神ビッグバン」と「博多コネクティッド」における民間ビル建て替えの特徴の一つとして、行政からの補助金は〝0円〟という点が挙げられる。福岡市では、航空法高さ制限の緩和のほか、期間を限定した容積率緩和などの〝ボーナス〟を与えることで民間活力を引き出して都心開発を進めている。
「天神ビッグバン」において、容積率緩和などのボーナスが認定される〝魅力あるデザイン性に優れたビル〟とは、次に掲げる事項に適合する建物だ。
①建物低層部・公開空地も含めたデザイン性の高いビル
②周辺ビルとの連続性を意識した建物デザイン
③まちに潤いを与える木陰や花、目に映える緑化の推進
④ユニバーサルデザインへの配慮など
一方、「博多コネクティッド」では、〝賑わいの拡大に寄与するビル〟として下記に掲げる事項に適合するビルにボーナスを与えられる。
①周辺とのつながり・広がりが生まれる回遊空間の創出
②イベント利用など賑わいが生まれる魅力的な広場空間の創出
③まちに潤いを与える木陰や花,目に映える緑化の推進
④ユニバーサルデザインへの配慮
「天神ビッグバン」開始後の2015年2月~2021年2月の建築確認申請数は52棟(建替完了42棟)を数え、最終的に約70棟の建て替えを見込む。一方、「博多コネクティッド」開始後の2019年1月~2021年2月の建築確認申請数は15棟(建替完了7棟)となっており、順調に推移している。
都心部におけるまちづくりを支援する福岡市住宅都市局都心創生部都心創生課長の髙橋栄司さんは、次のように話す。
髙橋さん
航空法高さ制限や容積率の緩和を通じて先進的なビルへの建て替えを促進するとともに、建物低層部とあわせ、賑わいや憩い、回遊を生み出す公開空地、デザイン性にも優れた連続性のある建物とすること等により、福岡へ来た人や都心で働く人たち、まちに暮らす人々にとって、豊かで魅力的な空間を提供していきたいと思っています。
●仙台市調べでは、「東京圏企業の三大経済圏以外の移転・増設先の首位は福岡市」
昨今のコロナ禍によって従来の弊害やリスクが一気に顕在化したこともあって、東京に一極集中していたヒトやカネ、ビジネスが、地方都市へ流出し始めている。
宮城県仙台市が2020年11月~12月に東京圏企業を対象に実施した意識調査によると、「感染症の流行後に地方へのオフィス移転・増設に関心がある」としたのは、回答した全企業の27.7%にあたる311社だった。そして、検討候補地として、三大経済圏を除く7政令市でのトップは、支持率57・2%の福岡市だった。
2021年2月20日付の「河北新報」によると、仙台市議会2月定例会の一般質問において、郡和子仙台市長は福岡市を「いわばライバル都市として、この動きを注視し、国内の諸都市の中でも、競争に打ち勝っていくという強い覚悟を持つ」との決意を表明した。
なお同23日付の紙面において「(福岡市の)高島市長は20日の投稿で、ライバル宣言を報じた河北新報のオンライン記事のリンクを添付し『仙台の街も大好きです。私は東京一極集中の次は地方拠点都市の時代だと思います。ぜひ東西から日本を盛り上げましょう!』と反応した」との続報を掲載している。
●域外から新たなヒト、カネ、ビジネスの〝投資〟が福岡市の魅力を磨く
まちづくりに対する〝通信簿〟であり、都市の実力を表すモノサシともいえる存在が、土地の値段である「公示地価」「基準地価」だ。福岡市の商業地の地価は、全国的にも高い上昇率を誇っている。今後、福岡市においては次のステップへ向けて、どのような展開が求められているのだろうか。
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国内外のまちづくりに詳しい九州大学大学院人間環境学研究院の黒瀨武史教授は、次のような見解を示す。
黒瀨教授
世界的な潮流としても良好な住環境に加えて、質の高い教育・医療と公共空間を提供できる都市が選ばれます。福岡市もセントラルパーク構想や警固公園に代表される公園の再整備を通して公共空間の価値を高めてきました。今後は、街中の公園や水辺、道路などの公共空間を、隣接する都市開発と組み合わせて活用することが重要ではないでしょうか。
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〝住みやすさ〟で定評ある福岡市は、おいしい食や豊かな自然、コンパクトで交通アクセスにも優れた利便性、高度な教育や医療環境、質の高い文化・芸能やスポーツを備えた都市だ。
生活面における質の高さに加えて、都心開発をテコとした経済成長や公共空間の充実で好循環が起きると、都市の魅力はさらに高まっていく。今後、東京圏をはじめ域外からヒト、カネ、ビジネスなどの新たな〝投資〟を呼び込むことになれば、福岡市の都市としての魅力は加速度的に高まる。筆者はそう考える。
【参照サイト】
まちへの投資が加速中!-着工建築物工事費予定額-
仙台市経済成長戦略2023