前回に続いて、難読バス停を語らせていただきます。
今回は独断と偏見による、「美しい難読問題」を三つほど。
1:神湊西口
神湊、難読として取り上げられるくらいですから、当然「かみみなと」「しんそう」ではありません。
「かみ」は前回の上八と同じように、「こう」と訛ります。それに「みなと」を加えるのですが、間に「の」を挟む必要があります。「神湊(こうのみなと)」、言われれば納得はできるはずです。
そこで、なるほどなあと満足し、「こうのみなとにしぐち」と回答すると出題者の思う壺です。西口は周辺の字名らしく、読み方は「さいぐち」なのです。
正解:こうのみなとさいぐち
難読は神湊側だと思わせておいて、西口のほうにも罠があるという、難読問題の白眉と呼べるでしょう。
2:目尾遊園
こちら、神湊西口とは違って、遊園のほうには引っかけが隠れていません。ポイントがブレるといけないので先に言っておきます。しかし何も知らずに提示されると、前問の経緯があるため、全てが疑わしく見えてきますが。遊園は「ゆうえん」です。
目尾の読み方を類推するには、四等官の知識があるとよいでしょう。
高校の日本史授業で、「かみ・すけ・じょう・さかん」という呪文を聞いたことがありませんか?律令制度のもとで官吏の職掌を定めたときに、上記四階級の呼び方となったのです。官司ごとに使われる漢字は違うのに、どの官庁でも読み方は「かみすけじょうさかん」です。
そして国司の四等官に、「守・介・掾・目」の文字が使われます。「目(さかん)」なのです。
よって「さかん」の「お」が「さかんのお」→「しゃかのお」に訛ったと推測しています。「さ」が「しゃ」になるのは、きっと北部九州の放言ではなく方言です(笑) 今も年配の方が「先生(しぇんしぇい)」としか発音できないのと同質かと。
正解:しゃかのおゆうえん
蘊蓄をあれこれするのは功罪あるでしょうが、たまには知識人の気分に浸らせてください。
3:上津町
隣の上津荒木が難読のため、わざわざ隣接バス停にふりがなが振られているという仕様が唯一無二です。
もともと上津「かみつ」と荒木「あらき」を、前例に倣って「かみ」は「こう」に訛り、Koudu + araki の u を除くと「こうだらき」になります。美しい省力化です。言葉とは生き物であり、発音しやすいように変化していくのだ、という見本のような難読です。
そんな文脈があるのに隣のバス停は独立不羈を貫くのか、
正解:かみつまち
です。ひねりがないのが、一周回って正答を妨げます。
3つ(上津荒木まで含めると4つ)とも、答えを知った後とはいえ、「なるほど、こういう経緯でこの読み方なのだな」と自身の知識内で納得できるのが、個人的には「美しい難読」です。
4:元末
こちら、「もとすえ」でも「げんまつ」でもなく「もとうら」でして、なぜ末が「うら」なのか、答えを知ったあとでも私には経緯が推測できません。
そういう意味で本当に難読なのでしょうが、どう考えても正解には辿りつけないものは、難読「問題」として価値が少し下がると思います。
ということで次回は、最も無情な難読バス停に触れる予定です。
基本情報
神湊西口(こうのみなとさいぐち)
・住所:〒811-3501 福岡県宗像市神湊[map]
・天神からの行き方一例:
【STEP1】「天神中央郵便局前(18:東向き) (18Aのりば)」から、都市高26-A 都市高速 福間 東郷経由 赤間営業所ゆき に乗車し、「東郷駅東口 (赤間方向) 」で下車。約1時間14分、800円
【STEP2】「東郷駅東口 (赤間方向) 」から、普通1番 神湊波止場宗像大社ゆきに乗車。約14分、340円
→合計:約1時間28分、1,140円
目尾遊園(しゃかのおゆうえん)
・住所:〒820-0062 福岡県飯塚市目尾[map]
上津町(かみつまち)
・住所:〒830-0052 福岡県久留米市上津町[map]
元末(もとうら)
・住所:〒811-3513 福岡県宗像市上八[map]