福岡市民は日本一のたらこ好き! 名物・辛子めんたいこを巡る7話

戦後、「辛子めんたいこ」を生み出し、名物にまでした福岡市民ですが、今では全国の主要都市で最も多くの「たらこ」を消費しています。今回は、「辛子めんたいこ」にまつわる7つのトリビアをひもときながら、福岡らしいユニークな逸話の数々を味わってみたいと思います。

世帯での「たらこ」の購入金額・量共に日本一の福岡市。一世帯あたりで、年間で6,527円を出費する

たらこの年間購入量で第1位・福岡市1,555g同購入額でも第1位・福岡市6,527円――。47都道府県庁所在市に5つの政令指定都市(川崎市、相模原市、浜松市、堺市、北九州市)を加えた52都市で暮らす二人以上の世帯・5472人を対象に2017年~2019年の家計支出を調べた総務省統計局『家計調査』で福岡市は、たらこの購入量・購入金額で共に全国トップだった。

福岡市におけるたらこの購入量・額で貢献しているのは、博多名物である辛子めんたいこだ。戦後、博多で誕生した辛子めんたいを取り扱う店舗は福岡市内に91店あり、国内21大都市でも首位である。辛子めんたいこの誕生から〝いま〟、そして未来について、隠れた秘話も織り交ぜながら見てみよう。


(「Fukuoka Facts」より)

辛子めんたいこを巡る7話

【その1】なんと、福岡市の近海でめんたいこの親魚は獲れない

めんたいこの語源は、朝鮮半島北部の日本海で獲れたスケトウダラの朝鮮語である「明太」に由来する。明太の子なので、「めんたいこ」(明太子)とした話はよく知られる。漁港取扱高で日本一を誇る長浜鮮魚市場だが、めんたいこの親魚であるスケトウダラは水揚げされていない。

日本海北部や根室海峡、オホーツク海南部、えりも岬以東の太平洋などの〝北の海〟で獲れるスケトウダラは傷みやすく、鮮魚としての流通は少ない。このため、スケトウダラの身はかまぼこやちくわなどの魚肉練り製品の主原料となり、卵は塩たらこや辛子めんたいこなどに加工される。

北の海に面した東日本には塩たらこを食べる文化があり、たらこの購入量・購入金額ランキングでも上位に青森市や秋田市、新潟市が登場している。

【その2】辛子めんたいこ好きの福岡市民は、年間35本前後を購入

スケトウダラを含む成魚の卵巣はビタミンB1・B2・Eを多く含み、栄養豊富だ。魚の卵巣は2本で一対としてつながっており、対単位で一腹、二腹と数える。

スケトウダラの卵巣の重さもさまざまだが、贈答品向けの辛子めんたいこの場合、1本あたり40g~50gを目安にしている。


(写真提供:ふくや)

このため、世帯あたり年間購入量が1,555gの福岡市民は、年に35本前後の辛子めんたいこを購入していると推計される。一方、年間購入額の6,527円は、さしみ盛り合わせの同5,270円よりも2割強も多く、ソ―セージの同6,736円に匹敵する金額だ。

【その3】辛子めんたいこは、夫婦愛で生まれ、オープンイノベーションで拡散

博多名物・辛子めんたいこの誕生は第二次大戦後、博多に引き揚げて来た、ふくや創業者の川原俊夫氏の「朝鮮・釜山で慣れ親しんだタラコのキムチ漬けを参考にオリジナル商品をつくりたい」との思いが端緒となったという逸話はよく知られている。


博多名物・辛子めんたいこを誕生させた「ふくや」創業者の川原俊夫氏(写真提供:ふくや)

自らの製造・販売にこだわった川原氏は商品供給だけでなく、辛子めんたいこを卸してほしいと希望する業者に独自の漬け込み製法を教えた。その結果、福岡市内を中心に辛子めんたいこメーカーが相次いで誕生し、博多名物となっていく。この点について創業者の孫である川原武浩ふくや社長は、次のように語る。

川原社長

なぜ、祖父が当初売れなかった辛子めんたいこをひたすら改良しながら、作り続けたのか。それは、めんたいこ好きだった祖母の存在が大きかったと思います。祖母をはじめ、お客さまの口に合う味を追求した結果、オリジナリティーの高い商品を生み出したと考えます。
祖父は開け広げな性格であり、みんなで一緒になって盛り上げていこうという気質だったこともあって今日、オープンイノベーションと呼ばれるような広がり方をみせたのではないでしょうか?


スタッフと談笑する川原社長(左から2人目)

【その4】草創期の辛子めんたいこ愛好家には、吉田茂や白洲次郎の名前も

辛子めんたいこが〝野武士〟軍団『西鉄ライオンズ』誕生に助太刀――。『すごか! 九州 なぜ地方企業が日本を代表する味と技術を育てたか』(産経新聞出版刊)は、辛子めんたいこを好んだ著名人として、吉田茂氏や白洲次郎氏の名前を挙げる。

戦後の連合国軍総司令部(GHQ)占領下、西日本鉄道はプロ野球への新規参入を巡る日本野球連盟との交渉でGHQとのパイプを持つ白洲次郎氏への接近を図った。西鉄事業部の中島国彦氏は、白洲氏との初対面で辛子めんたいこを手土産として持参した。イギリスに留学して洋食志向だった白洲氏は、手に取った辛子めんたいこをパンに塗って上機嫌で食べ始めたのだという。

その後、白洲氏への手土産の定番は辛子めんたいこに。そして、西鉄のプロ野球参入に力添えした白洲氏を通じて、当時の吉田茂首相も辛子めんたいこを好んで食べたと伝わる。

【その5】ご存知ですか、多彩な〝新顔〟辛子めんたいこ商品の数々

博多名物の土産物や贈答品向けとして全国区となった辛子めんたいこだが、今日では、加工食品や調味料などにも用途が広がっている。

辛子めんたいこを原料に用いた加工食品としては、「数の子明太子」「いか明太子」「イワシ明太子」「ホタテ明太子」などの魚介系の和え物が多い。また、辛子めんたいこの風味や味覚を生かした調味料として「明太マヨネーズ」「明太ドレッシング」「明太パスタソース」も開発されて店頭に並ぶ。


「ふくや」が発売するチューブ入り明太子


「ふくや」の油漬け明太子3種類シリーズ


「福太郎」のめんたいマヨネーズタイプと明太子入りの博多らんくんカレー

一方、常温での土産物として「めんべい」に代表されるせんべい類や「めんツナかんかん」などの缶詰類が登場している。さらにフードメニューとして、「明太パスタ」「明太フランス」「明太ピザ」も人気だ。最近では、昆布巻きめんたいこ1本をまるまるご飯の上に乗せた「めんたい重」で人気を呼ぶ飲食店も登場している。


「福太郎」では、様々な味のめんたいせんべいを発売する


明太子の旨みが詰まっている「ふくや」のめんツナかんかん

【その6】”通販王国・福岡〟の礎は、辛子めんたいこ通販が築いた

加工食品分野でレパートリーを拡大させている辛子めんたいこだが、35年前の1985年6月からは、通信販売も登場しているのだ。

全国向けに卸売りも手掛ける後発メーカーが売り上げを大きく伸ばす中、自社販売にこだわったふくやは、卸売りをせずに全国販売する新たなチャンネルとして通信販売を見出す。業界に先駆けてコンピューターを用いた通信販売システムを構築したふくやが受注センターを立ち上げると、全国から注文の電話が殺到したのだ。


福岡に”通販王国”を築くきっかけを作った「ふくや」の通販事業は、現在も充実した内容で人気を呼んでいる(「ふくや」HP画像より)

ふくやは辛子めんたいこの製法と同様に通販システムのノウハウを公開した。その結果、福岡市内に健康食品などの通信販売会社が相次いで誕生し、〝通販王国・福岡〟と呼ばれる一大産業へと成長することになった。

【その7】パリでの『明太フランス』、ローマでの『明太パスタ』を目指して…

昨今、辛子めんたいこの国内消費が伸び悩む中、めんたいこ業界は新たな市場として、和食ブームに沸く海外市場の開拓に乗り出す。福岡県内の辛子めんたいこメーカーを中心に18社で構成する博多辛子めんたい協同組合ではアメリカ市場に売り込む方針だ。同協同組合理事長である田中洋之山口油屋福太郎社長は次のように語る。

田中理事長

今後、辛子めんたいこを海外向けに『MENTAI』としてプロモーションを仕掛けていきます。いつの日かフランス・パリの街角で『明太フランス』が売られ、イタリア・ローマのレストランのメニューに『明太パスタ』や『明太ソースピザ』が載るようになれば、本当に嬉しいですね。
世界中の人たちに『MENTAI』として、広く愛されるようにがんばっていきたいと思っています。


「博多辛子めんたい協同組合理事長」の田中山口油屋福太郎社長

グローバルなMENTAI戦略で、福岡市を辛子めんたいこの〝国際的な聖地〟に!

辛子めんたいこと共に博多を代表する食文化の一つである豚骨ラーメンは、一足早く世界的な人気を博し、福岡市を〝豚骨ラーメンの聖地〟として海外に知らしめた。

辛子めんたいこも同様に海外市場に浸透すれば、福岡市が〝辛子めんたいこの聖地〟として、国際的に認知される可能性を秘めている。博多名物・辛子めんたいこの『MENTAI』としてのグローバル戦略に、筆者は期待をもって注目している。


「福太郎」が発売するめんたいバターフランスシリーズ


瓶詰めの「THE MENTAI」シリーズ(写真提供:山口油屋福太郎)

★合わせて読みたい

明太子店舗数全国1位の「福岡が誇る明太子料理8選」~食べ放題・パスタ・ランチ~

明太フランス6選。福岡県民ソウルフードの火付け役、「Full Full」に魅力を聞いてみた

前代未聞のプロジェクト!福岡の実力派明太子メーカー3社 島本食品・稚加榮・椒房庵が頂上決戦!?

<参照サイト>
福岡の食卓・おみやげの定番 めんたいこ
-たらこの購入量・支出金額と明太子店の数-【FukuokaFacts】

<参照文献>
産経新聞西部本部九州総局著『すごか! 九州 なぜ地方企業が日本を代表する味と技術を育てたか』(産経新聞出版刊

 

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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