日本各地へ伸びる新幹線網。九州新幹線は全線開業15周年

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日本では1964年の東海道新幹線開業を皮切りに、新幹線網が全国へ広がってきた。
1964年10月1日、1964東京オリンピックの開催を目前に、“夢の超特急”と呼ばれた東海道新幹線が東京~新大阪で開業した。
その後、山陽新幹線は新大阪~岡山間の開業を経て、1975年3月10日に博多駅まで延伸し、全線開業となった。
一方、東北新幹線は1982年6月23日に大宮~盛岡で先行開業し、その後段階的に延伸して2010年12月4日に新青森まで全線開業している。
1982年11月15日、上越新幹線が大宮~新潟間で開業した。
長野オリンピックの開催を控えた1997年10月1日には、高崎~長野間で北陸新幹線が開業した。
その後、北陸新幹線は2015年3月14日に長野~金沢間が開業し、2024年3月16日には金沢~敦賀へ延伸している。
こうした新幹線網の拡大の流れの中で整備されたのが九州新幹線である。
2004年3月13日に新八代~鹿児島中央で部分開業した九州新幹線は、2011年3月12日に博多~新八代が開業し、2026年に全線開業15周年を迎える。
2016年3月26日には、新青森~新函館北斗で北海道新幹線が開業した。
2022年9月23日、武雄温泉~長崎において西九州新幹線が営業運転を開始している。


JR九州による九州新幹線全線開業15周年の記念プロジェクト

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2026年3月12日に九州新幹線の全線開業15周年を迎えるJR九州では、各種の周年記念プロジェクトを展開している。
主な九州新幹線全線開業15周年記念プロジェクトを取り上げてみよう。
ペットボトルキャップモザイクアートプロジェクト

JR九州では、記念事業としてペットボトルキャップを活用した巨大モザイクアートを制作している。
2025年12月10日~2026年2月28日のペットボトルキャップ収集期間中、博多駅や鹿児島本線の有人駅に回収箱を設けた。
集まった約4.2万個のペットボトルキャップで制作したモザイクアートは、JR博多駅で6月末まで展示する。
作品の展示後、『認定NPO法人世界の子どもへワクチンを日本委員会』を通じて、約860個で1人分のポリオワクチンとなり、途上国のワクチン支援に活用される。
つばめの大冒険

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九州新幹線全線開業15周年を迎えるJR九州は、記念プロジェクト『つばめの大冒険』を始動する。
2016年の熊本地震で被災した九州新幹線800系つばめU005編成の1号車を修繕・再塗装し、10年ぶりに“復活”させる。
熊本から海路で九州各地を巡り、15年の感謝を伝える“感謝の旅”を展開した後、博多駅前広場で約10日間公開する予定だ。
15周年記念で2種類の特別きっぷを発売

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JR九州は、全線開業15周年記念事業として、2種類の特別きっぷを発売する。
第1弾は、3月14・15日限定の『九州ドリームガチャ・フリーきっぷ』であり、購入アプリによる抽選でJR九州全線、または九州新幹線全線の1日乗り放題きっぷを手にすることができる。
第2弾としては、4月10~19日に利用できる『九州大冒険きっぷ』を発売する。
整備計画の決定から30余年、九州新幹線は部分開業

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九州新幹線の始まりは約半世紀前、1973年11月に北海道、東北(盛岡~青森)、北陸とともに九州(鹿児島・長崎)の整備計画が決定したことによる。
しかし、1982年9月、国鉄の財政悪化により、整備新幹線計画の当面見合わせが閣議決定された。
国鉄分割民営化によって1987年4月、JR九州が発足した。
1991年9月、新八代~西鹿児島(現:鹿児島中央)において、スーパー特急方式(将来の新幹線化を前提に、在来線規格で先行整備する方式)で着工に至った。
その後、2001年4月に全線フル規格へ変更した。
2004年3月13日、新八代~鹿児島中央(旧:西鹿児島)において、九州新幹線が部分開業した。
博多~鹿児島中央は、新八代で同一ホーム乗り換えのリレーつばめ方式により、従来の約4時間から最速2時間10分となり、時間短縮効果は特に大きかった。
新幹線開業前の鹿児島本線では、博多~八代は複線で最高時速130キロだった。
八代~西鹿児島は単線区間が多い上、最高時速も95キロに抑えられていた。
そして、八代以南はカーブが多く、最高速度で運転可能な区間も限られていたため、所要時間が長かった。
このため、部分開業でも九州新幹線のインパクトは大きかった。
新八代(八代)~鹿児島中央の所要時間は、従来の2時間以上から35分に短縮された。
全線開業以来、幾多の苦難を乗り越えてきた九州新幹線

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九州新幹線が博多駅に乗り入れて全線開業した2011年3月12日は、東日本大震災発生の翌日だった。
このため、JR博多駅で予定されていた記念式典やテープカット、祝賀イベント、さらに各駅での祝賀行事も自粛された。
また、九州新幹線全線開業のテレビCMもオンエア自粛となり、静かなスタートとなった。
九州新幹線の全線開業5周年となる2016年には、4月14日・16日に熊本地震が発生した。
前震発生時の4月14日21時26分頃、熊本駅の南側1キロ付近において、車両基地へ向かって時速80キロで回送中だった800系新幹線(U005編成・6両編成)の全車が脱線した。
13日後の4月27日には、全線復旧を遂げている。
九州新幹線の全線開業10周年となる2021年3月12日は、新型コロナウイルス感染症による深刻なパンデミック状況下だった。
該当年度である2020年度においては、経済活動が停滞し、九州新幹線の平均通過人員・旅客運輸収入はともに過去最低を記録した。
コロナ禍後、九州新幹線の平均通過人員・旅客運輸収入は、順調な回復を見せている。
2022年9月23日には、武雄温泉~長崎において西九州新幹線が開業し、九州内では新幹線2路線体制となった。
九州新幹線はJR九州の鉄道旅客収入の1/3強を稼ぎ出す
九州新幹線は、JR九州の鉄道事業においても大きな存在感を持っている。
JR九州は毎年、『交通・営業データ:線区別ご利用状況』を公開している。
最新データとなる2024年度の平均通過人員・旅客運輸収入によると、新幹線2路線と在来線21路線を合計した営業距離は2,320.8キロだった。
このうち358.5キロは新幹線(九州新幹線288.9キロ:西九州新幹線69.6キロ)、在来線は1,962.3キロである。
JR九州の新幹線2路線が鉄道全体の営業距離に占める割合は、15.4%だ。
また、鉄道全体の平均通過人員は1日あたり16万4,543人だった。
このうち2万3,793人は新幹線の人員(九州新幹線1万7,335人:西九州新幹線6,458人)であり、在来線の人員は14万750人だ。
同様に新幹線2路線が鉄道全体の平均通過人員に占める割合は、14.5%である。
そして、新幹線2路線・在来線21路線の旅客運輸収入は、1,512億4,800万円だった。
このうち605億4,000万円は新幹線(九州新幹線552億6,700万円:西九州新幹線52億7,300万円)、在来線は907億800万円となっている。
鉄道の旅客運輸収入において、新幹線2路線が占める割合は、40.0%と大きい。
個別の路線を見た場合でも、九州新幹線(博多~鹿児島中央)の営業距離288.9キロは、日豊本線(小倉~鹿児島)の同462.6キロに次いで2番目に長い路線だ。
また、九州新幹線(同)の平均通過人員1万7,335人は、鹿児島本線(門司港~鹿児島)の同3万1,766人、篠栗線(吉塚~桂川)の同2万2,437人に次いで3番目に多い路線となっている。
さらに、九州新幹線(同)の旅客運輸収入552億6,700万円は、JR九州の全鉄道23路線において最多であり、全体に占める割合は36.5%だ。
実にJR九州の鉄道旅客運輸収入の3分の1強を生み出しており、九州新幹線の存在感は大きい。
なお、九州新幹線は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設・保有しており、営業主体のJR九州は毎年120億円の貸付料を支払っている。

出所:JR九州『交通・営業データ:線区別ご利用状況:(1)2024年度 平均通過人員・旅客運輸収入』

出所:JR九州『交通・営業データ:線区別ご利用状況:(1)2024年度 平均通過人員・旅客運輸収入』
九州新幹線が福岡・九州の社会・経済に何をもたらしたのか
博多~鹿児島中央を最速1時間16分、新大阪~鹿児島中央を同3時間41分で結ぶ九州新幹線は、福岡市をはじめ九州の地域社会や地元経済にどのような影響をもたらしてきたのだろうか。
そして今後、どのような未来へ導いていくのか。
九州大学大学院経済学研究院の産業・企業システム部門に所属し、日本経済史を研究する鷲崎俊太郎准教授は、このテーマについて下記のように考える。
鷲崎俊太郎准教授
九州新幹線の全線開業で福岡~熊本~鹿児島という”九州の背骨”となる縦ラインを中心に「九州の新幹線化」ともいえる現象がみられたと考えます。
従来、自己完結していた九州内の各都市における経済活動は、九州新幹線の全線開業で福岡市との結びつきを強め、福岡市における経済活動も増えました。
その半面、各都市の地元での経済活動は減少するという傾向が見られます。
つまり、九州新幹線の全線開業で福岡市の存在感が一層際立った結果、福岡市の九州における管理中枢機能は、さらに高まりました。
このような現象は、特に東京本社や大阪本社などの企業における九州内の支店・営業所網の変化などからも読み取れます。
一方、九州新幹線の使命の一つは、福岡市に集まってくる人の九州全体への還流だと考えます。
例えば、福岡市に集中しがちなインバウンド客を九州各地へ周遊させる上での”命綱”ともいえるのが九州新幹線です。
特に世界遺産ツーリズムが魅力的な海外観光客に対しては、九州内の明治日本の産業革命遺産や潜伏キリシタン関連遺産を大いに活用していくべきではないでしょうか。
全線開業以来、幾多の困難に直面してきた九州新幹線が自らの本領を発揮するのは、今後だと考えて期待しています。

九州大学大学院経済学研究院産業・企業システム部門の鷲崎俊太郎准教授
九州新幹線全線開業後、成長を続ける福岡市
九州新幹線が博多駅に乗り入れて全線開業した2011年以降、福岡市の成長は加速し続けている。
全線開業の翌2012年には、福岡都市高速道路が全線開通し、環状線となった。
2014年に福岡市が国家戦略特区に指定され、翌2015年から天神ビッグバンが始動している。
福岡市科学館が九大六本松キャンパス跡地に誕生したのは2017年のことであり、さらに翌2018年に福岡市総合体育館がアイランドシティに開館した。
博多コネクティッドがスタートした2019年には、G20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議が開催された。
翌2020年は、国から『スタートアップ・エコシステム拠点都市』に指定された。
2023年には、地下鉄七隈線(天神南~博多)が博多駅に乗り入れ、世界水泳選手権2023福岡大会も開催された。
2025年、福岡空港第二滑走路が供用を開始。福岡市・天神地区ではワンビルをはじめ新たなビル群が相次いで誕生した。
九州新幹線が全線開業した2011年3月1日時点における福岡市の推計人口は146万8,069人、世帯数は70万9,698世帯だった。
15年後の2026年2月1日現在、福岡市の推計人口は2011年3月比で13.9%増の167万2,056人、世帯数は同27.6%増の90万5,799世帯となっている。
『福岡市統計書』2024年版によると、2011年度の福岡市内総生産(名目)は、7兆365億9,200万円だった。一方、2022年度の市内総生産(同)は、8兆2,350億7,400万円となっており、この10年余りで17%増という伸びを示している。
2011年度における福岡市の一般会計予算(当初)は7,661億円であり、市税収入は2,662億円だった。
一方、福岡市が2026年2月16日に発表した2026年度一般会計当初予算案は、2011年度比47.7%増の1兆1,318億円で過去最大となる。
市税収入も過去最高を更新する、同60.1%増の4,263億円となる見通しだ。
この15年間における福岡市の都市としての躍進は、注目に値する。
九州新幹線の全線開業も、こうした都市機能の拡大を支える交通基盤の一つとなっている。

出所:福岡市総務企画局企画調整部統計調査課『令和4年度 福岡市民経済計算』
九州新幹線による九州のローカル交通網の維持を考える

JR九州は2026年2月10日、『2026年3月期第3四半期決算説明会』資料を発表した。
資料によると、JR九州グループの2026年3月期通期業績予想における営業収益は前年比7.6%増の4,891億円、営業利益は同23.9%増の731億円、経常利益は同21.4%増の723億円だった。
また、JR九州単体となる2026年3月期単体通期業績予想における営業収益は同12.7%増の2,715億円であり、うち鉄道旅客運輸収入は同13.5%増の1,717億円となっている。
鉄道旅客運輸収入の内訳について、九州新幹線と西九州新幹線は同13.7%増の688億円、在来線は同13.4%増の1,029億円を予想する。
鉄道旅客運輸収入の増加については、29年ぶりの運賃・料金改定が大きかった。
鉄道部門においては、旅客運輸収入の4割を占める新幹線の収益によって、九州各地のローカル線を支える構造となっている。
地域の人々にとっての“足”であるローカル線の維持を図る上でも九州の大動脈である九州新幹線の果たす役割は大きいと考える。
◇ ◇ ◇ ◇
九州新幹線の全線開業は、鉄道や地域経済の面だけでなく、多くの人々の記憶にも残る出来事となった。
九州新幹線の全線開業CMである『祝!九州』キャンペーンは、東日本大震災の発生によるオンエア自粛で“幻のCM”となった。
その後2011年6月23日、世界3大広告賞の1つであるカンヌ国際広告祭において、祝!九州キャンペーンはアウトドア部門で金賞、メディア部門で銀賞に輝いた。
受賞作となったCMを締めくくるナレーションのメッセージは、未だ心に響き続けている。
「1つになった九州から新しい力が生まれています」
「1つになった九州から日本は楽しくなるはずです」
「九州新幹線、みなさんと一緒に全線開業です」
参照サイト
JR九州『交通・営業データ』
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/
JR九州『交通・営業データ:線区別ご利用状況:(1)2024年度 平均通過人員・旅客運輸収入』
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/pdf/2024senku_250912.pdf
JR九州『~九州新幹線開業15周年記念~ペットボトルキャップ モザイクアートプロジェクト』
https://www.jrkyushu.co.jp/byarea/fukuoka_saga/info/__icsFiles/afieldfile/2025/12/10/20251210_Kyushu_Shinkansen_15th_Anniversary_Plastic_Bottle_Cap_Art_Project.pdf
JR九州『九州新幹線全線開業15周年記念プロジェクト「つばめの大冒険」』
https://www.jrkyushu.co.jp/common/inc/news/newtopics/__icsFiles/afieldfile/2026/01/22/20260122_Tsubames_Great_Adventure.pdf
JR九州『九州新幹線全線開業15周年を記念したおトクな割引きっぷの発売について』
https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2026/02/06/20260206_Kyushu_Shinkansen_15th_Anniversary_Discount_Tickets.pdf
大谷友男・富山国際大学現代社会学部准教授『九州新幹線(鹿児島ルート)の部分開業でのインパクト』
https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000070203_00/%E3%80%90%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%A4%A7%E8%B0%B7%E5%85%88%E7%94%9F%E3%80%91%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%B3%87%E6%96%99.pdf
国土交通省『九州新幹線(博多・新八代間)の貸付料の額について』
https://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo03_hh_000026.html
国土交通省『九州新幹線(新八代・鹿児島中央間)の貸付料の額について』
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/08/080312_.html
福岡市総務企画局企画調整部統計調査課『令和4年度 福岡市民経済計算』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/tokeichosa/shisei/toukei/shiminkeizaikeisan/shiminkeizaikeisan.html
福岡市推計人口(毎月公表〔1日現在〕)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/kouhou-hodo/hodo-happyo/2025/documents/20260201suikeijinko.pdf
福岡市『令和8年度当初予算案の概要』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/zaisei/zaisei/shisei/documents/03_R8_gaiyou.pdf
JR九州『2026年3月期第3四半期決算説明会』(2026年2月10日)
https://www.jrkyushu.co.jp/company/ir/news/__icsFiles/afieldfile/2026/02/10/9142.FY2026.3q.material.ja.pdf










