西鉄『天神大牟田線』開業100周年

【謎解き!フクリパ】

西鉄『天神大牟田線』は4月12日に開業100周年~天神大牟田線を巡る3つの謎解き~

2024年4月12日、西日本鉄道株式会社(西鉄)が運行する天神大牟田線は、開業100周年を迎えます。福岡の〝大動脈〟である天神大牟田線の〝現在〟、〝過去〟を振り返りつつ、3つの〝謎解き〟に挑みます。そして、天神大牟田線の〝未来〟である次なる100年についても考えていきます。

鉄道は鉱山での運搬から出発。世界の鉄道事始め

敷いたレールの上を車両が走る仕組みは、16世紀頃に鉱山で使われ始めたとされる。
当初のレールは木製であり、17世紀のイギリスの鉱山では、幅約5センチ、厚さ約4センチのカシの角材をレールとして使用していた。
しかし、木材は折れやすいため、次第に鉄製のレールに変わっていく。
1760~1770年代にイギリスの鉱山において、鉄製レールが使われるようになったという。
文字通り鉄道の誕生である。

 

 

18世紀半ばにジェームズ・ワットが、産業革命の原動力の一つである蒸気機関を発明した。
その後1770年、フランスの技師ニコラス・ジョセフ・キュニョーが、蒸気機関を取り付けた三輪車を発明した。
1802年までにイギリスのリチャード・トレビシックが高圧蒸気機関を使ってレールの上を走る機関車を製作している。
そして、1814年、ジョージ・スティーブンソンが、自作の機関車による試運転に成功した。

 

 

スティーブンソンの機関車を採用したストックトン~デーリントン鉄道が1825年、世界初の蒸気機関鉄道として開業した。
その後、1830年に開業したリバプール~マンチェスター鉄道でもスティーブンソンの機関車が採用されて、公共鉄道として世界で初めて事業的に成功を収めた。

 

 

2024年4月12日に開業100周年を迎える天神大牟田線の現況

【画像】フクリパ特集

画像提供:西日本鉄道

 

天神大牟田線は2024年4月12日、開業100周年を迎える。
西鉄グループの鉄道事業は、西鉄電車(天神大牟田線・貝塚線)と筑豊電気鉄道で構成されている。

 

 

天神大牟田線は、福岡(天神)を起点に二日市、久留米、柳川を経由して、大牟田に至る74.8キロ64(特急:2024316日改正時)で結ぶ路線だ。
本線のほかに、西鉄二日市駅から太宰府駅までを結ぶ太宰府線(2.4キロ)、宮の陣駅から西鉄甘木駅までを結ぶ甘木線(17.9キロ)がある。

 

天神大牟田線について西鉄グループ『鉄道事業』データによると、2022年度末現在で営業キロ95.1キロ、車両数281両、車両走行距離3,706万キロ、輸送人員8,483万人(1日平均23.2万人)、営業収入(運賃収入+運輸雑収)176億8,500万円だ。
なお、日本の大手民鉄の駅として、天神大牟田線の西鉄福岡(天神)駅は最西端にあり、大牟田駅は日本の最南端に位置する。

西鉄では2024321日、天神大牟田線と貝塚線の開業100周年を記念して、西鉄電車の公式キャラクター『ガタンコ』と『ゴトンコ』の誕生を発表した。

 

 

西鉄の前身である九州鉄道は100年前、福岡~久留米を開業

【画像】フクリパ特集

九州鉄道の福岡~久留米の線路を記載した『最新福岡市街及郊外地図(『帝国都会地図』9)』(福岡県立図書館所蔵)

1924年(大正13)412日、西鉄の前身5社の一つである九州鉄道(2代目)は、福岡~久留米39.1キロの路線を開業した。
開業時の福岡~久留米の所要時間は55分。
運賃は、福岡~二日市で片道31銭であり、福岡~久留米が同65銭だった。

 

 

開業時に新聞広告や街頭ポスターの掲示に加え、飛行機によるビラ撒き宣伝も行なった。
「九鉄急行電車開通」「電車ハ汽車ヨリモ早ウ御座イマス」と、国鉄への対抗心もみられた。
なお、工期18カ月の建設工事自体も猛スピードだった。

 

 

開業に合わせて投入した『1形電車』は、当時の標準である600ボルトの2倍以上となる架線電圧1,500ボルトを採用し、340馬力という高出力の電車を投入した。
連結運転での総括制御方式に加えて自動加速機構(ALF)も備え、全線で自動信号を採用して当時、最先端の鉄道だったといえる。

 

 

もっとも、当初計画していた路線は、福岡市大字春吉字西中洲から三井郡国分村(東久留米)までの区間だった。
福博電気軌道の流れをくむ九州電灯鉄道は1913(大正2)10月、3度目の申請を行い、翌1914(大正3)4月に福岡~二日市(後日、福岡~太宰府に変更を命令される)の特許を取得した。
そして、運営会社として設立したのが、筑紫電気軌道だった。
1917(大正6)8月、親会社の九州電灯鉄道が福岡市・天神町へ本社を移転したのに合わせて、同居していた同社も移転し、起点を天神町に変更した。

 

 

当初の出願は福岡から太宰府を経て久留米に至る路線だった。
しかし、監督官庁の鉄道院から下付された特許は福岡~二日市の17.7キロのみだった。
その後1919(大正8)、二日市~久留米の特許を得た。
そして、1922(大正11)6月、筑紫電気軌道は社名を九州鉄道に変更し、同年9月、建設工事に着工した。

 

 

【謎】なぜ天神大牟田線において、特急料金は不要なのか?

西鉄は2024316日、新駅『桜並木駅』の開業に伴い天神大牟田線のダイヤ改正を実施し、1日あたり61本の特急が福岡(天神)~大牟田を駆け抜けていく。
西鉄では、特急料金は不要だ
なぜ、特急料金なしで乗車できるのだろうか?

 

 

この【謎】について、『西日本鉄道百年史』や『西日本鉄道創立110周年記念誌』を西鉄アーカイブ担当課長時代に手掛けて、福岡の交通事情に詳しいNPO福岡鉄道史料保存会の吉富実理事長は、次にように解説する。

 

 吉富実理事長

大牟田延長線が完成した1939年、福岡~大牟田を78分(その後75分)で結ぶ急行が走り始めました。
当時、名古屋以西で特急や急行などの高速電車列車を運行する私鉄では、国鉄との対抗上、特別料金ナシを売り物にしていました。
この思想を西鉄も踏襲しており、天神大牟田線本線に急行を投入して以降、その後の特急も含めて、特別料金を設けておりません。

 

【画像】フクリパ特集

NPO福岡鉄道史料保存会の吉富実理事長

 

JRの特急では、特急料金を必要とする。
その一方、民鉄の特急では、特急料金を必要とする場合と、不要なケースがある
つまり、民鉄各社によって異なるのだ。

 

 

Webサイト『鉄道ラボ』によると、「特急と名乗るのは各社の自由です。『特急』には全国統一の基準はない」とのことである。
その上で「特急と名乗った電車がやってきたときに、普通の通勤電車と明らかに異なる場合は、特急料金が必要と考えれば問題ありません」と説明する。

 

 

西鉄の場合、やや別格感のある3000形車両を日中、特急として投入していることが多い。
その一方、朝夕に走る特急の場合、通勤電車タイプの列車を多く走らせている
前説を踏まえ、この点からも西鉄では、特急料金を設けていないといえる。

 

 

Webサイト『鉄道ラボ』では、民鉄各社における特急料金の必要な特急・不要な特急について、下記のようにまとめている。

【画像】フクリパ特集

画像提供:鉄道ラボ

 

 

【こぼれ話】意外!天神大牟田線に熊本まで延伸する計画があった!?

1924年に福岡~久留米が開業する前から、炭都大牟田、さらに熊本市への延伸も想定していた。
そして、西鉄久留米~津福、大善寺~大牟田は、西鉄の前身である九州鉄道が、当初から電化路線として建設して開業した路線だ。

 

 

一方、津福~大善寺は1912(大正元)、大川鉄道によって開業した区間だった。
1937(昭和12)に九州鉄道が、蒸気・内燃動力の大川鉄道を吸収合併した後、改軌や電化して、本線に組み込んだ路線となっている。そして、1939年(昭和14)に大牟田まで全通した。

 

 

1941年(昭和16)大牟田~熊本市・花畑町を結ぶ別会社『大熊鉄道』として、地方鉄道免許を出願した。
しかし、土地確保に難航した上に熊本県側で九州鉄道の熊本延伸への反対が起きた。
1942(昭和17)、九州鉄道が西日本鉄道へ合併されると、熊本延伸計画は一旦見直しとなる。
1944(昭和19)、大熊鉄道の申請が却下されて、幻に終わった。

 

 

【謎】なぜ100年前、天神大牟田線は新幹線と同じ線路幅を採用したのか?

【画像】フクリパ特集

100年前の開業以来、標準軌を採用する天神大牟田線(西鉄福岡天神駅)

 

線路幅について、日本の鉄道会社の多くは、狭軌と呼ばれる軌間1,067ミリを採用している。
一方、国際的に標準軌とされる軌間1,435ミリを用いている鉄道は、新幹線や西鉄をはじめとする一部の民鉄だけだ。

 

なぜ、100年前の天神大牟田線の開業時、新幹線と同じ標準軌を採用していたのだろうかこの謎について、吉富理事長は、次にように解説する。

 

 

 吉富実理事長

日本の三大都市を起点とする大手民鉄の多くは、大都市近郊の電気軌道として出発し、創業時の需要拡大策として各市電への乗り入れを計画していました。

一方、市電側においては、当初民営だった東京市電(後の都電)は馬車鉄道の軌間1,372ミリ(4フィート6インチ)、当初から市営だった大阪市電は欧米の標準軌1,435ミリ(4フィート8インチ半)、当初民営だった名古屋市電は官営鉄道と同じ狭軌1067ミリ(3フィート6インチ)を採用していました。
この結果、東京の京成(後年1,435ミリに変更)、京王、京急は馬車鉄道の1,372ミリ、大阪の阪神、京阪、阪急、近鉄は標準軌の1,435ミリ、名古屋の名鉄は狭軌の1,067ミリです。

天神大牟田線本線を開業した九州鉄道のルーツである福博電気軌道は、車両調達の関係もあって、当初1,067ミリで計画していた軌間を1,435ミリに変更して開業に間に合わせたという経緯もあります。
当初の天神大牟田線本線では、福博電気軌道の太宰府延長線として計画していたこともあり、標準軌の1435ミリを採用しました。

 

 

日本において、地方鉄道の敷設・運営を規定していた『地方鉄道法』では、国鉄貨車の直通などの理由で原則的に1,067ミリと決めていた。
一方、路面電車の法律である『軌道法』では、線路幅は規定されていない。
1890年代に日本で電鉄ブームが巻き起こると、アメリカの都市間電車輸送を模範とした鉄道会社は、軌道法を根拠にして、強力なモーターを搭載して高速運転が可能な1,435ミリの標準軌を採用する傾向がみられた。
なお、西日本鉄道株式会社の英語表記は、Nishi-Nippon Railroad Co., Ltd.であり、RailwayでなくRailroadという表記を採用している。

 

 

【こぼれ話】天神大牟田線が採用する標準軌が1,435ミリと中途半端な数値である理由

鉄道発祥の地・イギリスでは線路の幅を決める際、当時使用していたフィートやインチ法で定めた
その結果、メートル法に換算すると、端数が生じるのだ。

 

 

狭軌の1,067ミリは、フィート・インチ法だと、3フィート&6インチ。1フィートは12インチなので、3フィート&1/2フィートとなる。
一方、標準軌の1,435ミリをフィート・インチ法で換算すると、4フィート&8インチ半だ。
一説によると、もともと4フィート&2/3フィートだった数値を列車がカーブをスムーズに走れるようにするため、0.5インチ広げたという。

 

 

【謎】なぜ単線区間も走る西鉄特急が民鉄有数の速さを誇るのか?

【画像】フクリパ特集

画像提供:沿線ちゃっと

 

天神大牟田線本線のうち、福岡(天神)~聖マリア病院前(40.1キロ)、大善寺~蒲池(10.4キロ)、開~大牟田(8.2キロ)の計58.7キロは複線区間だ。
その一方で聖マリア病院前~大善寺(5.0キロ)、蒲池~開(11.1キロ)の計16.1キロは単線区間となる。
つまり、本線全線のうち2割強が未だに単線区間なのだ。 

 

 

福岡(天神)~大牟田で路線距離(営業キロ)74.8キロの天神大牟田線本線を64分で結ぶ西鉄の特急の表定速度は、時速70.13キロ(2024年ダイヤ改定時)であり、日本の民鉄で有数のスピードを誇る
相当な距離の単線区間を走りながら、西鉄の特急が有数のスピートを出せるのは、なぜなのか? この謎について、吉富理事長は、次にように解説する。

 

 吉富実理事長

大牟田延長線の開業時に投入した急行は1939年当時、神戸以西で最速の列車でした。
天神大牟田線本線自体が、高速運転に適した直線的な線形です。
また、開業時から競合する国鉄との対抗上、スピードも売り物にしてきました。
昭和恐慌期に始めた久留米~大牟田の延伸では、人口集積の低さや運転本数の少なさ、財務的な見地から単線で建設しました。
福岡(天神)~大牟田において急行による高速運転を開始以降、単線区間の行き違い駅では、直線形状である東側線路を急行や特急が一旦停車することなく、高速で通過する『1線スルー』方式を採用しています。
さらに単線ながら、当初から全線で自動信号を用いた保安設備を導入しており、大牟田延長時に鉄道省から特認されて運行しています。

【こぼれ話】天神大牟田線創業時に変電所だった建物が春日原に現存する

天神大牟田線の開業時、第一変電所と呼ばれていた春日原変電所の社屋が、春日原駅近くの高架沿いに佇む。
特徴的な大型切妻屋根を持つ鉄筋コンクリートの造りは、かつて第二変電所と呼ばれていた旧味坂変電所の社屋(解体済で現存せず)と同様だという。
創業期の変電所社屋は、いまなお現存しながら、天神大牟田線の次なる100年への動きを見守り続けている。

 

【画像】フクリパ特集

かつて第一変電所と呼ばれていた春日原変電所の社屋

 

 

福岡の〝大動脈〟である西鉄『天神大牟田線』の今後を考える

開業100周年を迎える天神大牟田線の輸送密度(平均通過人員)は、国土交通省『鉄道統計年報』2021年度版によると、1日あたり4997人だった。
大手私鉄の平均値が87,375人であり、天神大牟田線は大きく水を開けられている状況といえる。
天神大牟田線の中でも福岡都市圏を走る福岡(天神)~二日市は、〝ドル箱〟路線だ。
一方、天神大牟田線の朝倉街道駅よりも南側、甘木線の主な駅以外は、主にサポートセンターや駅係員の巡回で対応する集中管理方式による経営合理化に努める。

 

 

今日の日本においては、地方鉄道の存続問題が取り沙汰されている。
今年523日に同じく開業100周年を迎える貝塚線は、かつて宮地岳線と呼ばれて貝塚~津屋崎を結んでいた
しかし、20074月に西鉄新宮~津屋崎を廃止して、現行の貝塚~西鉄新宮となった経緯もある。

 

 

公共交通機関としての鉄道の維持・存続に向けては一民間企業の事業でなく、沿線の住民をはじめ、自治体や企業・団体などが、自らの地域を支える社会インフラとして考え、支えていくことが求められる。
天神大牟田線では今後、乗降客数や輸送密度の低い本線の柳川以南や甘木線の沿線における動きに注目していきたいと考える。

 

【画像】フクリパ特集

撮影・提供:吉富実NPO福岡鉄道史料保存会理事長

 

 

参照サイト

にしてつ グループ『鉄道事業』
 https://www.nishitetsu.co.jp/ja/group/business/mobility/railroad.html

 

西日本鉄道『今年は西鉄電車開業 100 周年イヤー 西鉄電車公式キャラクター爆誕!』
https://www.nishitetsu.co.jp/ja/news/news20240321/main/0/link/23_106.pdf

 

にしてつ Webミュージアム『九州鉄道の開業と急行電車』
https://www.nnr.co.jp/museum/kikaku/k02/01.html

 

川重車両協同組合『鉄道の歴史 鉄道の起源と発展の過程』
https://www.hp.ksweb-jp.com/contents/?page_id=52

 

鉄道ラボ『特急料金の必要な特急、不要な特急のまとめ』
https://tetsudoulab.com/mintetsu-tokkyuu/

 

沿線ちゃっと『【大手私鉄別】最速種別の表定速度TOP10』
https://ensenchat.com/%E3%80%90%E5%A4%A7%E6%89%8B%E7%A7%81%E9%89%84%E5%88%A5%E3%80%91%E6%9C%80%E9%80%9F%E7%A8%AE%E5%88%A5%E3%81%AE%E8%A1%A8%E5%AE%9A%E9%80%9F%E5%BA%A6top10/

 

近代化遺産探訪ふくおか建物ばなし『西鉄天神大牟田線 創業期の変電所建築を見る』 
http://blog.livedoor.jp/ijirin0917/archives/cat_50040696.html

 

にしてつ グループ『集中管理方式で運営する駅のご利用に関する案内』
https://www.nishitetsu.jp/station_centralized_management/

 

国土交通省『鉄道統計年報』
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000032.html

 

 

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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