プロローグ01:世界有数の森林大国である日本
画像提供:『森林・林業学習館』
日本の国土面積は国土地理院面積調によると、2019年10月1日時点で3,780万ヘクタールだった。この数字は世界197カ国中61 位だ。ほぼ同面積の国としては同60位のジンバブエ、同62位のドイツが挙げられる。
日本の国土のうち、66%の2,505万ヘクタールが森林であり、先進国で有数の森林大国だ。日本の森林のうち5割強の1,348万ヘクタールが天然林。そして、4割の1,020万ヘクタールが人工林であり、残りが無立木地や竹林となっている。
国土面積に占める森林面積を森林率と呼ぶ。国連食料農業機関(FAO)の公表データによると、日本の森林率は68.5%となり、国土の7割近くを森林が占めている。そして、日本の森林率68.5%は、OECDに加盟する先進国のうち、フィンランド73.5%に次いで第2位だ。
「日本は資源の乏しい国」とよく言われるものの、こと森林資源に関しては乏しいことはない。むしろ、十分に活用されていないというのが実情といえる。
プロローグ02:日本の森林の貨幣価値は70兆円強
森林は、木材をはじめとしたバイオマス資源の生産現場だ。そして、キノコや木の実などの食糧生産の場でもあり、狩猟の場にもなる。
また、森林は多くの生物が棲息(せいそく)して生物の多様性を支えている。一方、生命に不可欠な水を蓄えて時間をかけて水質を浄化させていく。絶えることなく、水源を支えてきたのも森林だ。
さらに森林では、木々が土壌に根を張ることで土砂崩壊も防いでいる。つまり、国土を災害から守り、安全で快適な生活を送る上での役割も担っているのだ。
最近、注目される地球温暖化問題においても森林の木々が、大気中の二酸化炭素を吸収し、木々の幹内や根などに貯蔵する役割を果たす。つまり、森林は温室効果ガスの吸収源にもなっているのだ。
このような多彩な森林機能のうち、日本学術会議が貨幣換算可能な森林の機能のみを試算した。その結果として70兆2,638億円という金額を弾き出している。
画像提供:『森林・林業学習館』
『Fukuoka Green NEXT~みんなで守り・楽しみ・活かす都市・ふくおかの森づくり~』がスタート
森林と都市がコンパクトに調和した福岡市━━━。市域の3分の1を森林が占める福岡市では、森林の存在と価値を市民が身近に感じられる〝ふくおかの森づくり〟のプロジェクトとして、『Fukuoka Green NEXT』を立ち上げた。
Fukuoka Green NEXTについて、福岡市の藤本広一農林水産局長は、次のように解説する。
「森林は、木材や食料などの生産をはじめ、リフレッシュやレクリエーションの場でもあります。また、生物の多様性を維持しながら、災害防止の役割を果たし、二酸化炭素を吸収しています。そして、山~川~海という水の循環を生み出す森林は、山のミネラル分で豊かな博多湾の海産物も育んでいます」
「福岡市における森づくりの将来像として、≪みんなで守り・楽しみ・活かす都市・ふくおかの森づくり≫を掲げています」
近年、気候変動や大規模災害などが相次ぎ、社会問題化している。そうした中、SDGsへの対応や脱炭素社会の実現において森林の果たす役割は、さらに高まっている。
通常、森林は植林~伐採まで40~50年という長い時間を要する。このため、長期的な視点が欠かせない。Fukuoka Green NEXTにおいては、100年後の福岡市における森の将来像を描き、実現に向けた方向性を整理したプロジェクトとなっている。
福岡市の藤本広一農林水産局長
Fukuoka Green NEXTで油山市民の森と油山牧場を一新
画像提供:福岡市
福岡市都心部から約9キロ、標高597メートルの油山の東側中腹に広がる『油山市民の森』と『油山牧場』。現在、Fukuoka Green NEXTのリーディングプロジェクトである『油山市民の森等リニューアル事業』が進行中だ。
2022年11月から本格的に始まった油山市民の森と油山牧場のリニューアル工事。両施設では、運営を継続しながら、順次工事を進めて2023年度中のリニューアルオープンを目指す。
「人と都市と自然の共生」を事業ビジョンに掲げるリニューアルプロジェクトは、九州旅客鉄道株式会社を代表とする企業体が担当する。同企業体が策定したリニューアル計画によると、市街地を一望できるキャンプ場を開設する。
さらにグランピング施設、自然の中でリモートワークできるシェアオフィス『森のオフィス』などを整備していく。そして、ミシュランの一つ星レストランが運営する飲食施設なども新設する予定だ。
九州の自治体で始まったCO2削減を目指す、早生桐をはじめとする〝緑〟のまちづくり
株式会社SUMIDAの橋田紘一代表取締役
東京オリンピック・パラリンピック2020のメイン会場として全国47都道府県の木材を使用した『国立競技場』。ビルの外観に九州産木材を用いた大型パネルを採用して建設する複合ビル『(仮称)天神 1-7 計画』。これらの施設に象徴されるように近年、大規模建築物への木質系建材の採用が活発化している。
このような状況下で最近、注目を集め始めたのが、植樹して5~6年で高さ10メートル超・幹回り1メートル超の成木になる『早生桐』だ。中国から渡来して、日本で自生していた桐が、アメリカに渡って誕生したのが早生桐である。早生桐は成長の速い分だけ二酸化炭素(CO2)の吸収量も多く、杉の3倍やユーカリの4.5倍にも達する。
大分県国東市は2022年1月、日本の自治体として初めて温暖化ガスの排出量を上回る削減効果を実現する『カーボンネガティブ』を宣言した。そして、国東市が中心になって約7000本の早生桐を植樹する予定だ。
国東市に続いて同月、福岡県中間市もカーボンネガティブ宣言を行った。さらに同年3月、福岡県久山町は『カーボンネガティブ&ネーチャーポジティブ宣言』を発表した。久山町では、120本の早生桐を植えて二酸化炭素の吸収量を測定する実証実験が進行中だ。
早生桐の普及に取り組む株式会社SUMIDAの橋田紘一代表取締役は、次のように語る。
〝緑〟を生かした新たなまちづくりとグリーンエコノミーの台頭
画像提供:福岡市
森林や海による二酸化炭素の吸収は、新たなビジネス機会としても注目を集める。
温室効果ガスの主成分である二酸化炭素をやむを得ず排出した場合、その分を他所での二酸化炭素(カーボン)の排出削減や吸収促進の活動に資金援助をすることで埋め合わせ(オフセット)ていく行為が、カーボンオフセットだ。
そして、カーボンオフセットした二酸化炭素の削減・吸収量を数値化して、取引可能なクレジットとしての販売も可能となる。事実、博多湾の藻場による二酸化炭素の吸収量をクレジット化したのが、『博多湾ブルーカーボン・クレジット』であり、販売額は1トンあたり8800円(税込)だ。
SDGs、地球温暖化対策、生物多様性、ウェルビーイング……。これらの言葉は、ヒトをはじめカネやビジネスの獲得を巡る都市間競争においてキーワードになりつつある。今後、〝緑〟を生かしたまちづくりの本格化と共にカーボン・クレジットを切り口とした新たなグリーンエコノミーの台頭が十分に考えられる。
【参照サイト】
Webサイト『森林・林業学習館』
https://www.shinrin-ringyou.com
みんなで守り・楽しみ・活かす都市・ふくおかの森づくり「Fukuoka Green NEXT」がスタートします
https://www.city.fukuoka.lg.jp/nosui/shinrin-rinsei/life/fukuokagreennext.html
油山市民の森等リニューアル事業の優先交渉権者が決定しました︕
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/89871/1/release.pdf?20220428112151
<福岡グリーンネクストリーディングプロジェクト>油山市民の森と油山牧場のリニューアルがスタートします!
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/77680/1/renewal-start.pdf?20220428115217
福岡市油山を、都市と山をつなぐ「循環型都市」の象徴へ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000011352.html
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【経済・ビジネス短信@フクリパ】博多湾で吸収した二酸化炭素の削減量を〝経済価値〟として販売!? ~〝海の脱炭素〟『ブルーカーボン』をご存じですか?~
https://fukuoka-leapup.jp/biz/202211.929
【特集:福岡の”そと”の魅力】住みやすいと定評の福岡市。隠れた理由は〝緑を生かしたまちづくり〟にあった
https://fukuoka-leapup.jp/city/202107.278