HafHの〝定額制住居サービス〟から見えてくる福岡の魅力と可能性は⁉

定額制で全国の宿泊拠点を利用できるサービスが、ここ数年広がりを見せています。長崎市に本社を置く株式会社KabuK Styleの「HafH(ハフ)」もその一つ。国内はもとより世界各国に拠点を持つ同社は今年2月、直営の宿泊施設を福岡市にオープンさせるなど、福岡を拠点にアジアとの交流拡大を目指しています。

福岡を拠点に、アジアとの交流拡大を構想する

現在、HafHが展開する福岡県の拠点は直営を含めて8カ所で、うち4カ所が福岡市内だ。中でも、2020年2月に博多駅前にオープンした101床を有する大規模直営拠点「HafH Fukuoka THE LIFE」は、大きな存在感を放っている。



HafHを運営する株式会社KabuK Style共同代表の大瀬良亮さんは、こう話す。

大瀬良さん

本社のある長崎の次に出す直営拠点の場所に福岡を選んだのは、都市としてのポテンシャルの高さはもちろんですが、アジアとの交流拡大を目指す上で重要なハブになるという地政学的な理由と、アジアの多様性を受け入れられる文化的な土壌があると思ったからです。

直営拠点にはこの夏から台湾人スタッフを支配人に据え、アジアとの交流拡大に向けた準備を進めている。

例えば、いま台湾ではスタートアップの動きが盛んで、日本市場に興味を持っている経営者も多いという。そこで福岡市のスタートアップ施設「FGN」と提携した〝スタートアップ交流〟が実現できないか探っている。

また、台湾と福岡・九州のアートやプロダクトを相互に紹介しあうような文化交流も、関係者と議論を進めてきた。宿泊先や会議室、ギャラリーとしてHafHの施設を使ってもらうことができるため、新型コロナの感染拡大が落ち着いたら改めて計画を進めていく予定だ。

すでに25カ国・地域の235都市で、自由に宿泊可能

数年前から「定額制住居サービス」は全国で広がっているが、各社が展開する宿泊施設は相部屋タイプのドミトリーが中心で、その多くがWi-Fi完備のコワーキングスペース(共有型ワークスペース)を備える。様々な土地を訪れ、現地の人との交流を楽しみながら仕事をする暮らし方がSNSなどを通して認知されるようになり、サービスを利用する人も年々増えている。

料金体系や拠点数は事業者によって様々だが、HafHでは4つの定額プランを提供する(表)。高額プランに付与される「HafH Coin」を使えば、個室や広い部屋などへのアップグレードも可能だという。

HafHは拠点数で、他を圧倒している。同社は平日を中心に空室を抱える宿泊施設などに、「旅して働く」という新しい客層とのマッチングを提案してきた。会員が宿泊した際の紹介手数料を取らない料金設定も提携先の増加に拍車をかけた。

メディアで取り上げられた記事を見た施設側からの問い合わせや会員からの推薦などもあり、サービス開始時に国内外53カ所だったその数は2020年9月30日現在、371カ所(25カ国・地域の235都市)にまで増えている。

とは言え、やみくもに数を増やしているわけではない。契約前には同社スタッフが施設を訪れ、Wi-Fi環境やワーキングスペースの有無など約100項目についてチェックを行い、施設の特徴や雰囲気などを加味した上で提携するかどうかを判断している。


La Casa Tropicana(タイ・バンカン島)


Color  Coral Hostel(台湾・澎湖)

自身の働き方、海外経験が事業のヒントとなる

大瀬良さんは大学卒業後、大手広告会社・電通に入社。2015年に首相官邸のソーシャルメディアスタッフとして内閣広報室へ出向し、世界中を移動しながらパソコン一つで仕事をする生活を続けるうちに、多拠点生活の魅力を知った。特に現地の人たちとの交流は刺激に溢れ、日本にもそうした場をつくりたいという思いが起業に向かわせた。

2018年2月に会社を設立すると国内外の宿泊施設との提携を進め、2019年4月に全国でサービスを開始する。HafHは、「Home away from Home(第2のふるさと)」の略称で、住まい・オフィス・地方をそれぞれシェアするという、新しい形のコミュニティづくりを目指した。



HafH Nagasaki SAI(長崎市)


HafH Nagasaki Garden(長崎市)

利用者は順調に伸び続け、サービス開始1年後には月間予約処理件数が約1,000件に達した。利用者のうち20代・30代で7割近くを占めるなど、若い世代を中心に利用を伸ばしてきた。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月と5月は会員登録者が大きく落ち込んだが、緊急事態宣言解除後はテレワークの場として利用する会社員の増加もあり、V字回復を遂げている。

政府の「観光戦略実行推進会議」で余暇を楽しみながらテレワークで仕事をする「ワーケーション」が提唱されたことや、「GoToトラベルキャンペーン」で各定額プランの35%が支援対象となったことなども追い風となり、8月の月間予約処理件数は、2,000泊とコロナ前を上回る数字となっている。

SNSによって、共感の輪が着実に広がっている

HafHのマーケティング活動は、SNSが中心だ。自分たちで情報を発信するというよりも、サービスを利用した会員が発信した情報を広げていくことを重視している。実際、多くのフォロワーを持つ会員がSNSでHafHについての情報を発信した後は、サービス登録者数が増加する傾向にある。そして、こうした「共感マーケティング」「インフルエンサー・マーケティング」の効果は、福岡・九州において絶大だという。

大瀬良さん

HafHの会員には情報発信に積極的な人が多いのですが、中でも『福岡』『九州』というキーワードで情報発信する人は多く、その拡散力も他地域に比べて大きなものがあります。拡散するということは、『福岡や九州を盛り上げたい』という人が多いということですから、その点でも市場性を感じます。
また、福岡は学生が元気ですよね。大人との接点が多いせいか、いろんなプロジェクトに参画できるチャンスも多く、それもまた福岡の魅力だと思います。そんなアクティブな若者がHafHのことを知り、SNSなどで情報を拡散してくれています。

今年8月からは、福岡の大学に通う学生たちに長崎の魅力を考えてもらう長崎県のプロジェクトが始まった。その活動拠点として、HafH Fukuoka THE LIFEが利用されている。そこで福岡と長崎の学生たちが集い、議論し、企画を練る。

大瀬良さん

全国各地にあるHafHにいろんな人たちが集い、コミュニティが生まれ、何かを生み出す場所になってくれたら、本当に嬉しいことだと思います。

住まいをシェアし、オフィスをシェアし、地方をシェアする。多様性に富み行動力に溢れた人たちが集う福岡の地で、HafHの理念は静かに、しかし確実に広がり始めている。

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編集者・ライター
光本 宜史
1972年、北九州市生まれ。西南大卒。地域経済誌『ふくおか経済』で経営者への取材、特集記事を担当。「宣伝会議」ではマーケティング・コミュニケーションに関する取材、教育講座の企画に携わる。2014年にフリーの編集者・ライターとして独立。著書に『幸せを届けに~五輪ランナー小鴨由水 もう一つのゴール』(海鳥社・2019年)

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