福岡都市圏の人口増に伴い、上り調子が続いている福岡の不動産市況
まずは、福岡の不動産事情について伺います。
現在の福岡の不動産事情はどういう状況なのでしょうか?
2022年の地価公示から、商業地の地価変動率をランキングにしてみると、全国のベスト10のうち7か所までを福岡市の商業地が占めています。
3位が祇園、5位が博多駅南、6位が渡辺通、7位が清川など、博多駅地区や天神地区の周辺部、賃貸マンションや分譲マンションがある地域が特に伸びているのがわかります。
その福岡県の上昇率を牽引しているのが福岡市ということなんですね。
このように福岡の地価の伸び率が高い理由は何でしょうか?
しかも、子どもが生まれることによる「自然増」だけでなく、転入してくる人による「社会増」が多いのも福岡のポイントです。
新型コロナウイルスの影響で全国的に人の移動が少なくなり、社会増は減っています。
大阪市は人口減少に転じましたが、そんな状況でも人口が増え続けているのは福岡の大きな強みです。
また、2015年から2020年までの各政令指定都市の人口増加数を累計していくと、これも福岡がトップ(+7万3711人)。
川崎市(6万3049人)やさいたま市(6万46人)、横浜市(5万2647人)などを押さえての第一位なんです。
人口増の要因は背後圏域の人口集積と東京・大阪とのほどよい距離感
それでは、この人口増についてもお伺いできますか?
一つは、福岡は地方の拠点都市のなかでは背後圏域の人口集積が最も高いこと。
そして二つ目は、東京や大阪クラスの他の拠点都市との距離が離れている、ということです。
福岡市の持つ九州の中心性、地方の拠点都市の中での最も多い背後圏域人口
九州全県からさまざまな理由で福岡に出てくる人は多いですね。
熊本や鹿児島など、それなりの規模の都市も近くにある。
九州各地からの若者が都心部に出ていく場合、東京に出るだけでなく、福岡に出ることは多いです。
この九州の中心都市であることは福岡の特徴と言えるのでしょうか。
札幌市の人口は福岡よりも多いですが、背後圏域にあたる北海道の人口は九州よりも少ない。
これは、熊本、鹿児島のような一定規模の地方都市が背後にある福岡の特徴です。
仙台市と東北地方、広島市と中四国地方と比較しても、福岡の優位性はあきらかです。
東京や大阪クラスの他の拠点都市とのほどよい距離感
これは東京など大都市圏に本社を置く企業から見れば、支社や支店などの拠点を置く都市として適していることを示します。
たとえば大阪から福岡は2時間30分程度かかりますが、仙台市ですと、東京から新幹線なら1時間30分で着いてしまいます。
これではわざわざ支社を置く必要性は薄れます。
東京に対する横浜や川崎、大阪に対する京都や神戸も同様です。
その点、福岡はどちらからもほどほどに離れていることで、そこに支社や支店を置く必要が発生しやすいのです。
さらには、福岡が陸・海・空の交通ネットワークの拠点であることも、ビジネス的にはプラスの要因ですね。
福岡のオフィス市場は天神ビッグバンの影響で変化していく
オフィス市場は需給のバランスが取れていて好況だが、この先は未知数
空室率は5%を切っており、賃料も高止まりしていますので、現時点のオフィス市場は比較的好調と言えます。
リーマンショック後、福岡のオフィスはかなり供給過剰の状態にありました。空室率が15%を超え、ビルオーナー側としては悪夢のような状況だったんです。
その後、景気回復に伴い需要が供給を上回り、賃料が上昇しました。
このころの福岡市の中心部ではホテル建設ラッシュとなっていたため、オフィスの供給が減っていました。
次々にホテルが作られていったのを思い出します。
引き続き、天神ビッグバンが続いているので、ここからさらに出来上がってくるのが市民としては楽しみです。
”このころの”という言葉が気になったのですが、これからはまた変わってくるのでしょうか?
現在、天神ビッグバンのために福岡ビル、日本生命福岡ビル、イムズ、住友生命福岡ビルなどが建て替えられています。
これまでこれらのオフィスビルに入居していた企業が、避難先として別のオフィスビルに移るという移転需要が大量発生したことが背景にあります。
2021年には天神ビジネスセンターが竣工し、2023年春には大名小学校跡地の福岡大名ガーデンシティの工事が完了するなど大規模なオフィス供給がなされていきますが、はたしてどれだけフロアが埋まっていくかは未知数です。
天神ビッグバンでのハイスペックなオフィスビル誕生が今後の可能性へとつながる
ちょっと今後が心配になると思うのですが、、、
天神ビッグバンで誕生するオフィスビルの多くは、いわゆるAクラスビルやハイスペックビルだからです。
東京の再開発などでも、Aクラスのオフィスビルでなければ優良企業の入居は見込めない、と言われています。
ということは、Aクラスビルなどの器があれば、高額の賃料を払う企業が福岡に移転したり、支社を開設することが見込まれるのです。
海外の機関投資家からみると、東京の物件は高額な割に利回りが低すぎて投資の旨味が少ない。
そこで東京以外の地方への投資を考えるときに、最新鋭の大規模ビルが集積し、かつ人口増加率が高い福岡という都市には大きな魅力があると考えられます。
今後も続いていく賃貸、分譲マンション新規開発
利回りは下がっているが、人口増により開発が続く賃貸マンション
まず賃貸マンションですが、さまざまなマンションデベロッパーが用地取得競争を繰り広げ、地価を押し上げています。
デベロッパーの立場からすると、土地代と建築工事費は上がっているにも関わらず、賃料の上昇はそれほどでもないため、利回りが低下しています。
それでも新規開発が進んでいるのは、先述した人口増という要素があるからです。
分譲マンションの注目エリアは”博多駅南周辺”
分譲マンションについてはいかがでしょうか?
最近は、福岡市の新築マンションの平均価格が5,000万円を超えたと言われています。
もともと博多駅への交通アクセスが良い地域でしたが、ららぽーと福岡の開業で、買い物の利便性も向上しました。
付近では、マンション開発が活発で、賃貸マンションの賃料も上昇しています。
2023年3月には地下鉄七隈線が博多駅まで乗り入れるので、一層便利になりますね。
今後の福岡の不動産市況、そのマイナス要因とプラス要因とは?
オフィス市場の不透明感が今後の不動産市況のマイナス要因
今までホテル需要に代わってオフィス需要が地価上昇をけん引していました。
今後のオフィス市場は天神ビッグバン・博多コネクティッドの状況をにらみながら推移することになりそうです。
さらに、天神など市内中心部の店舗賃料は下落傾向にあり、賃貸マンションの採算性も下がってきています。
プラス要因となる引き続き旺盛な分譲マンション需要
先ほど挙げたように分譲価格は上昇していますが、これに対して投資家や入居者からの需要が追いついている状態です。
投資目的としても、東京のマンションと比較してまだまだ割安な福岡のマンションは優秀です。
マンション価格の上昇を見越して各戸の床面積を小さくし、購入しやすくする流れもでてきています。
インバウンドが戻れば伸びるホテル需要
今のところ、ホテルを建設するための用地取得はほとんどありません。
しかしながら、諸外国の状況を見る限り、新型コロナが終息すればインバウンド需要はしっかり戻ってくる、とみていいのではないでしょうか。
実際に秋からの観光客の戻りはなかなかの勢いがあるように思えます。
時期を予測することは難しいですが、インバウンドが戻れば、ホテルの建設ブームが戻ってくることも考えられます。
ハイスペックな大規模ビルに入居できる企業の誘致が今後の福岡の不動産市場の伸びを支える
オフィス賃料という面ももちろんありますが、優良な企業に勤めて高額のサラリーをもらうオフィスワーカーは、高級マンションを購入したり、借りることができるということも事実です。
金融系、IT系など、これからのビジネスシーンを担う企業と、そこで働く人々を招くことが、福岡の不動産市況を考える上でも重要だといえるでしょう。
どのようにして誘致していくのか、福岡市の行政とも絡みのある問題だと思います。
今後の取り組みに期待ですね!
そのハードにどのような企業を招くことができるのか、また、そのハードを利用してくれるインバウンド観光客の方にどうやって来ていただくのか、これからの取組みにも引き続き注目していきたいですね。
ありがとうございました。
佐々木哲氏プロフィール
佐々木不動産鑑定事務所
不動産鑑定士 佐々木哲
大分県中津市出身、早稲田大学卒業。
民間大手の株式会社谷澤総合鑑定所に15年間在籍し、平成28年に佐々木不動産鑑定事務所を設立。
専門分野は以下。
・事務所ビル、ホテル、商業施設等の事業用不動産
・継続賃料等の係争案件
・不動産証券化物件の評価
リスク法務実務研究会HPにて、コラム「不動産鑑定の余白」を毎月執筆中
>http://www.riskhoumu.com
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