〝一物四価〟とも呼ばれる不動産価値とは何か
同一の土地であっても、その目的や評価方法によって、不動産価値は異なってくる。
不動産価値のベースになっているのは、〝時価〟である。つまり、実社会において、いくらで取引されているかが、一つの判断基準となるのだ。
時価に基づいて、「公示地価」「基準地価」「相続税評価額」「固定資産税評価額」が決められており、時として一物四価ともいわれることがある。
4つの不動産価格を整理すると、次のようになる。
【公示地価】
毎年1月1日時点での土地の標準価格を国土交通省が毎年3月に公表する。公示地価は土地の基本的な価格であり、土地取引の目安とされる。
【基準地価】
毎年7月1日時点での地価を各都道府県が9月下旬に公表する。基準地価の発表は公示地価の半年後であり、地価変動を補完する役割も担う。
公示地価、基準地価に加えて課税のための評価基準が相続税路線価と固定資産税路線価だ。
【相続税路線価】
国税庁が実施して公示価格の8割
【固定資産税路線価】
固定資産税を徴収する市町村(東京23区は東京都)が実施し、公示価格の7割をめどとする。
相続税路線価、固定資産税路線価は公示地価を基準にしており、地価の最上位基準は、公示地価である。
公示地価の商業地上昇率の上位10のうち7地点を福岡市が占める
国土交通省が3月22日に発表した今年2022年1月1日現在の公示地価では、商業地の変動率での全国上位10地点は、福岡市と北広島市、恵庭市の3市が占めた。
ランクインした3市のうち、札幌市に隣接する北広島市(人口5万7千人)、同恵庭市(同7万人)は比較的人口の少ないベットタウンであり、公示価格も万円単位でヒトケタという状況だった。
一方、県庁所在地であり、国内主要都市である福岡市は、上位10地点のうち7地点を占めて〝一人舞台〟といえる状態だった。
なぜ、福岡市の商業地における公示地位は好調なのか
商業地の公示地価における変動率で全国上位となった福岡市の地点は、ポストコロナ時代に向けたオフィス需要の高まりを見据えての物件取得であり、幹線道路から一本入った比較的割安なエリアだった物件も多く、大幅な上昇率になっていた。
今回の公示地価調査をとりまとめた不動産鑑定士であり、日本不動産研究所九州支社次長の高田卓巳さんは福岡市における好調な商業地価の要因について解説する。
高田さん
福岡市の場合、一等地となる商業エリアが限定的なため、東京や大阪ほど価格の波が大きくなりません。
また、福岡市は商業地でもマンションの適地となる用地が多く、堅調なマンション用地需要の下支えもあり、商業地における公示地価の好調な伸びにつながっていると考えます。
東京とケタ違い、福岡市の商業地における公示地価の平均上昇率
商業地の公示地価そのものの全国トップ3は、東京・銀座が独占した。
第1位は東京都中央区銀座4-5-6(山野楽器銀座本店)の1平方メートルあたり5,300万円、第2位は同銀座5-4-3(対鶴館ビル)の同4,550万円、第3位は同銀座2-6-7(明治屋銀座ビル)の同3,910万円だった。
もっとも、商業地の公示地価で全国トップ3だった各地点の変動率は、▲1.1%、▲1.3%、▲2.0%といずれも下落していた。
東京都内の商業地における公示地価で最も高い上昇率の地点は、JR中野駅南口側に位置する中野区中野3-36付近だった。同地のシンボルである宿泊・音楽関連の複合商業施設『中野サンプラザ』の建替工事をはじめ周辺の再開発計画が公示地価を押し上げた。
もっとも、都内の商業地でトップの上昇率だったものの、その伸び率は対前年比で4.5%だった。
東京23区の商業地における平均公示地価は、前年2021年にコロナ禍で2.1%減と落ち込んだ後、2022年は0.7%増とプラスに転じた。これに対して全国的に公示地価がマイナスを記録した2021年においても〝地価の落ちない都市〟だった福岡市は10年連続で地価を伸ばし続け、2022年における平均上昇率9.4%増だった。
公示地価における福岡市の商業地での平均上昇率9.4%増は、東京都の0.7%増に比べてケタ違いの伸びであり、近年〝超成長都市〟と呼ばれることも多い福岡市にとっては、商業地における公示地価の伸びでも面目躍如といえそうだ。
福岡市は2010年度以降、新成長戦略と国家戦略特区で躍進する
福岡市は10年間で市内総生産を1兆円上積み――。
『福岡市経済の概況』(福岡市経済観光文化局2022年3月版)によると、2009年度に名目で6兆7,500億円(実質6兆6,600億円)だった福岡市の市内総生産は、2018年度には同7兆8,500億円(同7兆6,300億円)まで伸ばしている。
2010年、福岡市は「短期的な交流人口増」「中期的な知識創造型産業の育成」「長期的な支店経済からの脱却」という新たな成長戦略を打ち出した。
その後、基本構想を四半世紀ぶりに改訂し、新しい総合計画をスタートさせた福岡市は2014年5月、国家戦略特区『グローバル創業・雇用創出特区』に選ばれた。
福岡市は、国家戦略特区の制度を活用してスタートアップの取り組みを加速させていく一方、2015年から天神地区の都心開発事業である『天神ビッグバン』をスタートさせた。
天神ビッグバンでは当初、エリア内での30棟の建て替えで建設投資効果は2,900億円、毎年8,500億円の経済波及効果を推計していたものの、2021年2月までの建築確認申請件数は推計を超えた52棟に上る。
一方、天神ビッグバンと共に福岡市都心部での開発事業を担う『博多コネクティッド』では20棟の建て替えで建設投資効果2,600億円、毎年5,000億円の経済活動波及効果が発生すると推計する。
2019年からスタートした博多コネクティッドでは、2021年2月までの同エリア内での建築確認申請件数は15棟となっている。
長年、ハイスペックな大型オフィスビルや最高級ブランドのホテル不足が指摘されてきた福岡市では現在、天神ビッグバンと博多コネクティッドという都心開発事業が成長エンジンとなっており、各商業地の公示地価も押し上げているといえる。
福岡に生まれる、〝投資が投資を呼ぶ〟好循環サイクルの未来
いま日本で最も成長力ある都市として注目される福岡市の地価は今後、どのような動向をみせるのだろうか。
この点について高田さんは、次のような見方を示す。
高田さん
ただ、金余りを反映してか、投資採算的に説明できない高値取引の事例も見受けられるため、不動産鑑定士として注視していきたいと思います。
従来、暮らしやすさで定評だった福岡市は、《生活の質の向上》に加えて、都心開発事業に代表される《都市の成長》との好循環を通じて今後、新たなステージへと飛躍させていくことが想定される。
一連の都心開発によって大手外資系企業や国際的なラグジュアリーホテルが進出して来ることで、福岡という都市のステータスやブランドが、国内外において高まっていくものとみられる。
そして、福岡が都市としての魅力をさらに高めていけば、世界的な金余りが続く状況下、国内外の優良企業や富裕層からも注目を集めて、〝投資が投資を呼ぶ〟好循環が生まれて、新たなステージへ駆け上がっていく可能性も秘めていると考える。
【参照サイト】
『福岡市経済の概況』(2022年3月版:福岡市経済観光文化局)
国家戦略特区『福岡市 グローバル創業・雇用創出特区』
規制緩和によって民間投資を呼び込む『天神ビッグバン』着実に進行中!!
博多駅の活力と賑わいをさらに周辺につなげていく『博多コネクティッド』本格始動!!
国土交通省『土地総合情報システム』