今日紹介する本は『ネット右翼になった父』です。
インパクトのあるタイトルの通り、この本では、晩年の父がなぜ「ネット右翼」になってしまったのかを、息子でありルポライターの鈴木さんが突き詰めていきます。
『「実家に帰ったら親がネット右翼みたいになっていた」「気づかぬうちに陰謀論者みたいになっていた」というエピソードは、我々世代の共通体験として定着してきた感がある。
一方で、この「父親とフラットに軽口を交わせない」という緊張感を伴う硬い関係性も、父たち世代とその子世代に、ある程度共通するモヤモヤなのではないか。』(本書より)
「そもそもネット右翼とは?」というところも著者によって丁寧に定義づけがされていますが、本書をおすすめしたい理由はそこではありません。
何らかの思想について言及したり、否定や批判をしたいわけでもありません。
この本は、「人と人との思想による分断をどうときほぐせるのか」という命題を、父と息子の関係性において、苦しみながらも丁寧に著者が解いていった軌跡の本だと思うのです。
自分と異なる考えを持つ人を頭ごなしに否定せず、「この人はなぜそんなふうに言っているのか」「なにがこの人にこの意見を持たせているのか」という背景を考えるのは、とても大切なこと。
けれどものすごく手間がかかるし、つい自分の感情が先走ってしまうし、とても簡単なこととは言えません。
この本を読むと、その大変さをしみじみと感じながらも、私たちはきっとできるし、それができるようになるのに遅すぎることなんてないのだと、勇気さえもらえます。
「なんだかこの人とは合わないな」と思う人は必ずいて、それが家族の場合も少なくありません。
私も、「私と母は相性が悪いし理解してくれない。愛されていないんだ」と思い込んでいた時期があります。けれど幸い、そうではないことがわかりました。
意見が合わない人と距離を取ることは、こころの安全のためにも必要なときがあると思います。
でもそれだけではさみしいような気がするな…そう感じるときにきっと、背中を押してくれる本です。
* * *
ネット右翼になった父
鈴木大介(著/文)
発行:講談社
新書判 248ページ
定価 900円+税
書店発売日 2023年1月19日
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