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支え合いでより豊かになる社会をつくろう|西 智弘編(2020)『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』学芸出版社

ビジネス系書籍をアカデミズムの世界から紹介してくださるのは、福岡大学・商学部の飛田努准教授です。アントレプレナーシップを重視したプログラムなどで起業家精神を養う研究、講義を大切にされています。毎年更新されるゼミ生への課題図書リストを参考に、ビジネスマンに今読んで欲しい一冊を紹介していただきます。

社会的処方」という言葉をご存知でしょうか。処方とあるので「何かを快方に向かわせるものだろう」とは想像できますが。
 

『社会的処方: 孤立という病を地域のつながりで治す方法』詳細はこちら

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わたしたちが生きるこの社会にはたくさんの困りごとがあります。難しい言葉で言えば「社会課題」。私(飛田)は,大学で管理会計を専門にしながら,学生には「ビジネスは社会課題の解決だ」として,一歩踏み出す勇気を持って事業機会を捉えていこう,必要としている人々に届くサービスや製品を作れるといいよねと伝えています。第1回の書評でもテーマにした「アントレプレナーシップ」ですね。
 
起業家(アントレプレナー)であるかのように課題解決のために機会を捉えるという考えを実践するのであれば,あらゆる社会課題がビジネスの対象になります。ただし,いくら事業化をしようとも存続可能性,継続性を高めようとすれば,課題を持った人(顧客)に対する課題解決だけでなく,サービスの提供者側(企業や事業主,組織成員)も豊かになれる,事業を通じてともに価値を感じられる「共創の視点」が求められるでしょう。
 
ところが,社会福祉の分野になるとどうでしょうか。あらゆる組織が存続し続けるためには,「お金」が必要です。むしろ,公共性の高いサービスにこそ十分に資金をつけて,困っている人を支援できるようにするべきなのかもしれません。
 
そうした社会福祉的な公共性と事業としての継続性を高めるアイデアの1つとして,近年「社会的処方」という言葉が注目されています。「社会的処方」とは,「患者の非医療的ニーズに目を向け,地域における多様な活動や文化サークルなどとマッチングさせることにより,患者が自立的に生きていけるように支援するとともに,ケアの持続性を高める仕組み」(同書p.25)です。つまり,医療行為に及ばない範囲で民間の力でサポートする機会を創り,困りごとを通じたコミュニケーションを図りながら持続的に運営できる(擬似的な)組織体やシステムを指します。
 
「社会的処方」は人々が健康に過ごすための5つの方法を助けることが目的だそうです。
・Give:人から施されるのではなく,自らが支援する側にも立てる
・Connect:ほかの人たちとつながることができる
・Keep learning:学び続けるものを持っている
・Be active:身体的・精神的に活動的である
・Take notice:周囲で起きていることに注目している
 
例えば,イギリスでは認知症を持つ本人や家族のために「drawing life」というアートでコミュニケーションを取るプログラムを運営されています。アートといっても,人々が集まって何かを題材に絵を描く。同じものを見て,手を動かしながら,他愛のない話をしていく。本物のモデルを使うこと,介護を必要とする場合があるので男性の教師であること,プログラムには認知症を持つ人だけでなく,家族やケアスタッフも入ることを条件に運営されています。それ以外は同じ。
 
認知症患者によれば,医師などの他者とコミュニケーションを取るときにサポートする人(家族やケアラー)が「認知症だからこれはできないだろう」と勝手に決めつけて話を進めてしまうことがあるそうです。また,自分の意思を失っているわけではないのに,あたかも赤子のように扱われることがあるのが辛いと語っています。あるいは,認知症のケアについての説明も重度のそれに対するものばかりで,今の自分が知りたい情報が書かれていないことがあるそうです。このように,その症状や現象について理解をしているわけでもないのに,わたしたちは多くの思い込みで接している可能性があるのです
 

つまり,なにか困りごとを持っている人(例えば患者)を「困っている人」として扱うのではなく,(いわゆる)健常者と同じように扱うことで社会に包摂していく取り組みが「社会的処方」だと言えます。大事なことはホンモノがそこにあること。「○○だから」を理由にレベルや質を下げることはしません。当たり前のコミュニケーションをする。
 
私のゼミでは,学生が3年生の1年間をかけて「社会課題をビジネスで解決する」というプロジェクトを立ち上げています。そこでは企業からの依頼やコラボレーション,あるいは自分自身の課題と思うことを「事業化する」=顧客からお金を頂いて製品やサービスを提供できるようにすることを求めています。その中で,時にはLGBT+Q,ペットの殺処分,子ども食堂の運営といったテーマを取り上げてきました。彼・彼女たちは活動を通じて社会の多様なあり様や困りごとの多さを知るとともに,公共性の高い事業がいかに「人まかせ」になっていることに気づいていきます。と同時に事業性をもって継続的に活動することが簡単ではないことも学びます。つまり,事業性と公共性の両立に悩むのですね。
 
が,そうしたところに「イノベーションの種」があるとも言えます。著名なところでは,東京を中心に保育問題に取り組む駒崎弘樹さんは,活動の中で行政に働きかけて仕組みを変え,新たな機会を創出することで事業を創出する『政策起業家』であり,その題名の著書を発表されています。あるいは,自ら若年性認知症を持ちながら,同様の症状を持つ人々を支援する丹野智文さんは『認知症の私から見える社会』という著書を記されています。丹野さんは若年性認知症と診断されて10年近く経ちますが,ケアの最前線で活動され,YouTubeにも講演があります。
 

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わたしたちの周りにはさまざまな課題がありますが,そうしたことに関心を失わず,それぞれのヒトを尊重し,そのヒトらしく生きていける社会でありたい。その立場にならなければわからないのではなく,興味関心を持ち続ける「社会的処方」という考え方を持って関わることでより豊かな社会が構築できると考えるのは単純でしょうか。
 
わたしたちにできることは何か。そのヒントを得られる本として一読をオススメします。

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福岡大学商学部 准教授
飛田 努
福岡大学商学部で研究,教育に勤しむ。研究分野は中小企業における経営管理システムをどうデザインするか。経営者,ベンチャーキャピタリストと出会う中でアントレプレナーシップ教育の重要性に気づく。「ビジネスは社会課題の解決」をテーマとして学生による模擬店を活用した擬似会社の経営,スタートアップ企業との協同,地域課題の解決に向けた実践的な学びの場を創り出している。 著書に『経営管理システムをデザインする』中央経済社がある。

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