クラフトビールは、人と街をつなぐツール。薬院・高砂「BEERSONIC」

薬院駅からほど近い、高砂の路地裏。「BEERSONIC(ビアソニック)」の扉を開けると、心地よい音楽と、ずらりと並んだカラフルな缶ビールが迎えてくれます。オーナーの深堀さんは、23年間の公務員生活を経て、クラフトビールの世界に飛び込んだ異色の経歴の持ち主。「ビールは飲み物じゃなくて、人をつなぐツール」と語る深堀さんに、BEERSONICの10年と、街への想いを聞きました。

店主プロフィール

深堀 成吾さん / 「BEERSONIC」代表兼キュレーター。23年間公務員として勤務した後、アメリカ・ポートランドで出会ったクラフトビール文化に魅了され独立。2018年に高砂エリアで「BEERSONIC」をオープンした。国内外のクラフトビールを取り扱うほか、イベント出店や音楽活動などを通じて、人と人、人と街をつなぐ場づくりにも取り組んでいる。

 

 

 

ポートランドで出会った「もう一つの人生」

 

—BEERSONICを始められたきっかけから教えてください。

深堀:お店をするまでは、公務員として23年働いていました。40代に入った頃に心と身体のバランスを崩してしまって、自分の人生を見つめ直す時間ができたんです。その時に改めて考えたのが、「これからは自分の人生を自分でコントロールしないとダメだ」ということでした。

 

 

—そこからクラフトビールとの出会いがあったんですね。

深堀:アメリカにいる友人に誘われて、ポートランドへ行きました。当時はスモールビジネスということがもてはやされ始めていて、その最先端がポートランド。そこでカフェなどのスモールビジネスを営んでいる人や、場所を見て回るつもりでした。

 

ある日、駐車場で楽しそうに飲んでいる人たちに近づいてみたところ、そこはクラフトビールを醸造しているブルワリーだったんです。ポートランドは、街中にブルワリーがあって、人が自然に集まっている。ビールを飲むことそのものよりも、その周りにあるコミュニティの豊かさに惹かれました。

 

知らない人同士が会話をしたり、新しい文化や音楽に出会ったり。クラフトビールが人と人をつなぐ役割を果たしているように見えたんです。

 

 

—そこから独立を考え始めたのでしょうか?

深堀:帰国後すぐに「カフェをやりたい」と思って、商工会議所主催の起業セミナーに参加したんですが、「経験もないし厳しい」って言われてしまって。心地よかった体験にヒントがあるかもしれない」とアドバイスをもらって考えたら、ポートランドでのビールの記憶が浮かんできたんですよね。

 

当時の自分は、お酒を飲むこと自体が目的でした。現実を忘れるために飲んで、泥酔することもあった。でも、ポートランドでは、お酒は人と人をつなぐためのものとして楽しまれていたんです。訪れたパブでは、ビールを飲みながら仕事をする人や、友人と会話を楽しむ人など、それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。

 

ビールってコミュニティツールとしてすごく優れていて、もしかしたらここに自分の居場所があるかも、と思ってクラフトビールを事業にするためのリサーチを始めました。

 

 

 

マンションの一室から始まったBEERSONIC

 

—そこからどうやってお店をスタートされたんですか?

深堀:まずは、休日を使って、福岡のビールイベントにボランティアとして参加するところから始めました。そうしてクラフトビールに関わるようになると、業界の方々が素人だった自分を温かく受け入れてくれました。特に親しくなった醸造家の方から「まずは酒屋という形で始めてみたら?」とアドバイスをいただいたことが、大きな後押しになりました。

 

そこで税務署に相談したら、「自宅でも取れますよ」と言われて。自宅のマンションの6畳の和室で酒類販売業免許を取ることができました

 

 

—6畳の和室からBEERSONICがスタートしたんですね!

深堀:そうなんです(笑)。当時はまだクラフトビール専門店も今ほど多くありませんでしたし、まずは小さく始めてみようと思っていました。

 

冷蔵庫もないから、リサイクルセンターで家庭用の大きな冷蔵庫を買ってきたんですけど、冷蔵スペースが足りないので工夫しながら。それを1年間、冷蔵庫に囲まれた畳の部屋でやっていたんです。それまでは自宅から配達するスタイルでしたが、1日数本しか売れないので、並行して倉庫や配送のアルバイトもしていましたね。

 

それで、あるとき、ショップの軒先を借りて、15種類くらいのビールを初めて並べて販売したら、お客さんが喜んでくれて。クラフトビールのイベントに足を運んだり、造り手の方々と交流を重ねたりしながら、少しずつ自分の行動範囲を広げていきました

 

ありがたいことに、酒販免許を取得したその日の午後、不動産会社から現在の物件を紹介していただいたんです。まだ建設途中で図面しかない状態でしたが、その場で入居を決めました。そして約1年後、高砂にBEERSONICをオープンしました。

 

 

 

ビールは「飲み物」じゃなく、人をつなぐアイテム

 

—BEERSONICでは、ビールの説明書きがほとんどありませんよね。あれにはどんな意図があるんですか?

深堀:「今日はどんな気分ですか」と声をかけながら、そこから会話が始まって、その人に合う一本を一緒に探していく実はその時間こそがBEERSONICらしさなのかなと思っていて、クラフトビールに詳しい人だけが楽しめる場所にはしたくないなと思っています。


音楽が好き、本が好き、人と話すのが好き。そんな入り口から来てもらえる場所でありたいですね。

 

 

—クラフトビールのラインナップへのこだわりも教えてください。

深堀:今は約40種類、国産8に対して海外2くらいのバランスで揃えています。昔は「専門店として100種類常時あります」という売り方をしていたんですが、途中でそれは違うなと思って。

 

鮮度が命のビールって、正直ずっと置いていてもいいことがない。だったら30〜40種に絞って、自分が自信を持って勧められるビールをちゃんと回転させた方がいい来るたびに違うクラフトビールに出会えるのも、BEERSONICならではの楽しみだと思っています。

 

 

 

30種に絞り、クラフトビールを持って街へ出る

 

—10年近く店を続けてきた中で、最近は積極的にPOP UPや外への出店もされていますね。

深堀:開店当初から比べると、クラフトビールの店もイベントもずいぶん充実してきました。でも、飲んでいる人の数はそんなに増えていない感じがしていて。クラフトビールが好きな人たちの中で盛り上がっているだけで、外に広がっていないんじゃないかなと思うことが多くなったんです。

 

まだクラフトビールを知らない人に、なぜ1本1,000円するのか、なぜこのビールが美味しいのかを、ちゃんと説明できる人間が街に出て行かないといけないそれがBEERSONICの役割で、ここで待っているだけじゃ、ダメだなって思ったんです。

 

 

—外で出店されるときもタップではなく、缶ビールを持って行くスタイルですよね。

深堀:パッケージのアートワークも含めて、クラフトビールの世界観を伝えることが僕の役目なので。クラフトビールの缶が1本あればどこにでも行けるって気づいてから、外に出ることが楽しくなってきました。

 

 

 

10年続けて気づいた、ビールの先にあるもの

―10年近くお店を続けてきて、どのような変化がありましたか?

深堀:当初店舗は、クラフトビールを販売する場所という感覚が強かったんですが、続けていくうちに少しずつ変わってきました。お客様同士が仲良くなったり、お店で知り合った人同士が一緒にイベントを始めたり。気がつけば、人と人がつながる場所になっていたんです。それは自分が最初にポートランドで感じた魅力とも重なりますね。

 

 

—このエリアで、深堀さんがよく行くお気に入りの場所はありますか?

深堀:コーヒーなら高砂の「Cotty(コティー)」。純喫茶なんですけど、ごはんも美味しくて、ほっとできる空間で好きですね。薬院六つ角にある「THE BASKET」も、ふらっと行けてお気に入りです。ハンバーガーが絶品なんですよ! あとは、シューズメーカー、ムーンスターのお店「ALSO MOONSTAR」。

 

どのお店もスタッフが気持ちいい人たちばかりで、いつ行っても楽しい空間でおすすめです。

 

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ビールと音楽のショーケースを、この街で

 

—最後に、今後やっていきたいことを聞かせてください。

深堀:例えば音楽やランニングなどの他のカルチャーとビールを交差させること。

 

音楽はここ2年くらいまた真剣にやり始めていて、今は「SEIGO and HARUKA」というアコースティックなロックユニットを中心に、自分たちも出演するビールと音楽のイベントを開催したり、それ以外のイベントにもビールと共に参加したりしています。そのように地元のアーティストが演奏して、ビールを飲みながら楽しめる場をつくりたい大きなイベントやパーティーじゃなくても、街に根付いていくような形で続けていきたいですね。

 

10年間、ここで待っていた。でも、来てもらうためには、まず自分が外に出ていかないといけないそれに気づいた10年目でした。もちろんクラフトビールは大好きなんですが、それ以上に「人が集まる場所をつくりたい」という原点に戻っている感覚があります。そのため、現在は高砂店舗の営業を不定期にしましたその分、積極的にイベントに出店したり、店舗で待っていた時間を、より外に目を向けて、いろいろな方と時間と場所と空気を共有するこれからはそんな10年にしたいと思っています。

 

もちろん高砂の場所や関係性を活かした取り組みもしています。すでに「SKAK STAND(シカクスタンド)」さんが毎週水曜日の朝にきてくれてパンとコーヒーの販売をしたり、コラボレーションをして一緒にイベントに出店したりもしています。若い人たちのチャレンジの場所としても、この場所が育っていければと思っています。

 

 

—最後にこの記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

深堀:僕は街を繋ぐアイテムとしてのクラフトビールに惹かれて、お店をスタートしました。だからそうしたクラフトビールの持つ魅力を活かすために、これからは、もっと街の中に出ていきたいと思っています。イベントでもいいし、音楽でもいいし、何か新しい企画でもいい。クラフトビールをきっかけに、人と人が出会ったり、新しいお店を知ったり、「この街って面白いな」と感じてもらえる機会を増やしていきたいですね。

 

幸いなことに、缶1本あればどこにでも行けるビジネスをやっているので。これからも、ここをベースにしながら、街に出ていきます。お店にもイベントにもぜひ、ふらっと遊びに来てもらえると嬉しいです。

 

 

 

店舗情報

BEERSONIC

住所:〒810-0011 福岡県福岡市中央区高砂1丁目18−2 高砂小路103

アクセス:薬院駅から徒歩8分

営業時間:現在は不定期営業のため、Instagramにて告知

定休日:不定休

Instagram:@beersonic_fuk

 

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