チリの軍事クーデター、天安門事件、ソ連崩壊、米国同時多発テロ事件、アジアの津波災害等々、大きな惨事と並行して起こった出来事を一つの視角から徹底的に検証し、「強欲資本主義」とも呼ばれる経済システムが世界を席巻した原因を明らかにした著作があります。
「ショック・ドクトリン」。カナダ人ジャーナリストのナオミ・クラインの代表作です。(100分de名著HPより)
本作自体を読むのにはかなり大変です。私も上下巻に渡るこの本を完読出来る自信はありません。そんな時に「100分de名著」はすごく助かります。番組をご覧になっている方も多いはず。今回はこの「ショック・ドクトリン」をジャーナリストの堤未果さんが詳しく解説しています。僕もこの番組を見て、初めて知る事実に驚愕し、怒りを覚えました。
ショック・ドクトリンとはナオミ・クラインが名づけました。市場原理主義を唱える経済学者フリードマンが「真の変革は、危機的状況によってのみ可能となる」と発言。これは先進諸国が途上国から富を収奪することを正当化する最も危険な思想、これがショック・ドクトリンなのです。
戦争や災害、テロが起きると、国内は混乱し、国民は正常な判断力を失ってしまう。そんな状況の中、密かに政府や多国籍企業が民衆の抵抗力を奪うために綿密に計画し、混乱の隙に市場主義改革を遂行していくのです。政府にとって都合の良い政策や法案がいとも簡単に議会を通り、莫大な政治献金が協力している企業から流れ、その見返りに企業の一部の上層部は、もたらされた利益により莫大な報酬を得る。
その裏で復興事業に従事する一般の人々は非正規雇用の低賃金で働かされ続ける。災害によって失った土地の復興は遅れ、住民は住む場所を失い、漁場を奪われてリゾート開発の企業の食い物にされていく島もある。97年のアジア通貨危機の場合はそれがIMF(国際通貨基金)の圧力や指示によるものだったというのは驚きです。
人の弱みにつけこんで私腹を肥やし、権力を増大させる。表向きにはそんなことが見えてこない。しかしその裏では知らず知らずのうちに抵抗出来ない状況を作り、支配していく。そんな現実がこれからも大きな災害や金融危機、紛争が起きれば水面下で負のカンフル剤が打たれてしまう可能性が高いという怖さです。日本にも3.11以降、ショック・ドクトリンが仕掛けられているのです。その内容についても紹介されています。
何が言いたいかというと、政治や経済、世界情勢、金融業界、企業動静に無関心でいてはいけないということです。彼らの思うツボなのは現在の「早すぎる情報社会」であり、人々が正しい情報収集不全に陥っていることなのです。人々が正しい判断を出来ないまま新しい情報がどんどん流れていくこの状況で、私たちは個々の知性を磨き、情報を正しく整理、解釈し、的確に判断し、権力を常に監視し、流されず惑わされないことが大切だと思うのです。
自分たちの生活を守るために、もっと意識を高く持ち、共に考える。事勿れ主義でただ流されていくのではなく、目の前にある不公平なものに意見していく。面倒な事に対して無関心な生き方を変えないといけません。
一人では難しくても多くの人でこれからのこの難しい時代を乗り越えていかないといけない。ミニマムな世界で近視眼的な生き方を望むのではなく、もっと視野の広い行動力のある人格を養って欲しいと思います。今から「若き老人」にならないでください。
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100分de名著 ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』2023年6月
堤 未果(著/文)
発行:NHK出版
A5判 116ページ
定価 545円+税
書店発売日:2023年5月26日
https://honto.jp/netstore/pd-book_32416665.html?partnerid=02vc01
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