世界で活躍する“緑の魔術師”が福岡を世界一のフラワーシティにする!

コロナ禍の現在、「緑や自然に癒やされる」「自分の庭で菜園を始めた」という声をよくききます。私の東京の友人も 「自分の家に庭があれば、自粛期間中にももっと癒やされたはず」と嘆いていました。私自身も、福岡市内では普通に多いと思っていた緑と花がとても大切で貴重で、愛おしいものだと痛感。そんな折、世界で活躍するランドスケープアーティスト・石原和幸さんが来福されたタイミングで、インタビューさせていただきました。「福岡を世界一のフラワーシティにする!」という挑戦の深い意味をおききしました。

花と緑で家やオフィスが『エデン』になる!

石原さんは、長崎市のご出身。大学卒業後、生け花の「池坊」に入門。以来、花の魅力にとりつかれ、地元長崎で路上販売から花屋をスタート。

35歳で庭づくりを開始し、世界の最高峰といわれる英国の「チェルシーフラワーショー」では、これまでに合計11個のゴールドメダルを獲得。エリザベス女王からも“緑の魔術師”と称えられています。

関東の方だと「羽田空港国内線第一ターミナルの庭」といえば、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。

今回は、「福岡 (九州) 」と「まちの緑」にフォーカスして、インタビューしました。(その激動の人生と仕事術は、著書「世界一の庭師の仕事術〜路上花屋から世界ナンバーワンへ~」などでも語られているのですが、膨大かつエキサイティングすぎる!のです。興味のある方はぜひ一読を)


「この庭をみるなら特等席」と石原さんが太鼓判をおす「ホテルトラッド博多」のレストランで

ーーコロナ禍のなか、緑と花は人間にとってとても大切で必要不可欠なものだと改めて感じている方も多いと思います。庭師の仕事がさらに必要とされているとお感じですか?

石原さん

世の中がバーチャルだったり、リモートだったり、人と会わなくてもできることが多く、とても便利になってきています。でも、実際に人間は、会わないと寂しかったり、あの人はどうしているかなと思いを寄せたりしますよね。

会社に行かなくてもよくなっている現状のなかで、会社は『エデン』=『楽園』であるべきだと思っています。「たまには会社に行きたいな」と思えるような。そのためにはオフィスが緑と花であふれていて、自分のお気に入りの場所があることが大事。

自分の家もそうです。自分の家の庭が自分の『エデン』になり、みんなの『エデン』になるといいなと。家に一輪でもいいから、週に一回季節の花で彩られたらどんなにいいか。

それは、僕が20代のときのオランダでの体験からきています。食事の準備の際に、テーブルをふいて、ナプキンを置いて、一輪の花を飾るというのが一連の作業で行われている。

「緑と花がある風景」は、日本では日常にあったことなんです。日本は江戸時代、世界一庭師が多い国だったんですよ。江戸に100万人の大都市ができて、坪庭があったり、紫陽花や朝顔とか、つりしのぶ風鈴を飾ったりと、人々の生活とともに普通にあった風景なんですよ。それがだんだんなくなってきている。

このコロナの時代こそ、家や会社に花や緑があることがストレス解消にもつながると思うのです。

毎日表情を変える感動の庭で福岡をいっぱいに

ーー石原さんは常に『人にキャーすごい』と言われる庭を造る とおっしゃっています。感動する庭をつくる秘訣はなんですか?

石原さん

庭はできたときが完成ではなくてスタート。今がスターティングメンバーで、いいものをとりいれたり、あわないものを省いてバランスを考えて、どんどんアイデアを形にしていくと、美しさは増していくばかりなのです。

ついには、メジロや蝶もやってくる。みるだけでなく、この庭が生態系のひとつとなっていることも感じてもらえると思うのです。

庭づくりって、人生や仕事の勉強になるなと思うことが多いです。

かっこいいなと思う木をいれてみるとそうでもなかったり、どうしようもないなと感じた木が意外によくなったり。知らず知らずに植えた植物がとてもいい表情をしてくれたり。

よくばっていろいろ入れると全体が死んでしまうことも。会社もスター選手ばかり集めてもうまくいかないことも多いですよね。組合せが大事だと痛感します。


福岡PayPayドームの花文字


エスカレーター脇やガーデンの緑には、花も多く咲いています

福岡でも多くの緑を手がけています。かしいかえんや福岡PayPayドームのソフトバンクホークスの花文字や九州産業大学のビオトープなども手がけています。

九州産業大学のビオトープでは、川の周囲に緑を植えたら、ホタルがとぶようになりました。学生が関心を持ち、写真を撮ったり、スケッチしたりと楽しそうに過ごしています。

これからも「人を幸せにする」「笑顔にする」「キャー」と言われる花と緑を増やし続けていきますよ。


石原さんの会社が福岡で開いている花屋「GIVERNY (ジヴェルニー) 」。フランスのモネが絵をかくために作った庭がモチーフ。「この一軒で福岡に絵を描きたい」と前を通った人がハッピーになるように表現しているとのこと。珍しい花々で彩られています。

■GIVERNY:福岡市中央区大名大名2-6-60 西鉄グランドホテル1F(西通り側)

福岡を「世界一のフラワーシティ」にしたい!新たな代表作として手掛けた「ホテルトラッド博多」の庭園

ーー福岡市内だけでもたくさんのプロジェクトを手がけていらっしゃいます。これから福岡で仕掛けたいことは?


「ホテルトラッド博多」のエントランスに配されたお気に入りの蓮

石原さん

まちのなかで、普通の緑は大事ですが、ヒートアイランドになってきて、さらに『圧倒的な緑量』が必要だと思います。

緑をたくさん見せる、これを『緑視率』といいますが、小さいところでもこれが効いてくるはず。

いい内装の建物は増えたけど、これからは素敵な植物で外装を緑化された建物や、エントランスに花が置いてあるなど、緑化されることでその建物に新たな価値が生まれる


一角に突然緑あふれる庭が出現したように見える「ホテルトラッド博多」

例えば、僕が設計を手がけた「ホテルトラッド博多」は、緑を縦にみせています。縦に見せると遠くからよくみえるんです。遠くからみせて、近くによってみると、滝はあるわ、花は咲くわ。

今、樹齢100年のサルスベリがピンクの花を咲かせ、圧倒的なエネルギーを出しています。サルスベリは「百日紅」と書き、8月下旬まで花が咲き、夏を感じさせます。

大切にしていた蓮やドウダンツツジもあって、中にひきこまれるとたくさんの花がある。僕は、イギリスのチェルシーのフラワーショーで何度も賞をいただいていますが、ここはまさに福岡の『チェルシーガーデン』。イギリスの伝統的な庭を造ることで、このホテルのコンセプト『トラッド』を表現しました。

通る人が思わず写真を撮影されていますよ。この庭には100種以上の植物を植えて、365日花が咲くように工夫しています。そうすると、朝昼晩それぞれ表情も違ってくるので、一年を通すと1,000以上の感じ方ができるからいつみても新鮮で季節感を感じて楽しいように。

隣の人がみても「きれいだなあ」、働く人、ゲストが「いいなあ」とかわいがってもらう、誇りに思ってもらう庭になったらいいな、この通りのグリーンのシンボルになったらいいと願っています。

私はもっと緑化がすすむと、「福岡全体がアジアNo.1のフラワーシティ」になると確信しています。今はシンガポールが緑化でがんばっていますが、アジアNo.1=世界一だと。私は福岡市のアイランドシティ花緑アドバイザー、福岡市の「一人一花運動」(※1) もお手伝いさせていただいています。

このホテルの庭は「フラワーシティ」を目指す私の代表的な作品にもなると思っています。


まさにチェルシーのガーデンのような雰囲気


奥のレストランは庭を愛でることができる特等席


福岡のがめ煮や長崎の豚角煮など、九州のうまかもんを、昔ながらのわっぱ風のお弁当箱に詰め込んだ朝食。洋食プレートもあり


シックで落ち着いた雰囲気のダブルルーム。読書灯のライトの光や角度、ソファのファブリックなど細やかなこだわりが施されています


ホテルトラッド博多は8月1日にオープンしたばかり。石原氏設計のガーデンにみられるように英国の伝統的な雰囲気、北欧のモダンと和のテイストが絶妙に調和した空間とサービスは、心からくつろげる「上質な日常」を提供してくれます。ACTUSがトータルコンセプトを設計、さらに照明の角度や金具のデザインなど美しくかつ機能的にも便利なよう細部にこだわってしつらえられています。

【ホテルトラッド博多】 
https://hotel-trad.jp/
福岡市博多区住吉3-12-1 [MAP]
092-710-7675
■客室数:209室
■Check in/out:15:00~/11:00

石原さんの取材を終えて

石原さんから「都市と緑」の関係をおききして、福岡とシンガポール、規模は違っても、どこか似ているなと思っていた自分の感覚が整理されました。
 
シンガポールは北緯1度で、熱帯のエネルギーあふれる緑や花が生い茂る都市ですが、福岡ではコンパクトな街の中に、様々な表情を見せる緑のコーナーがどんどん増加しています。
 
「世界No.1のフラワーシティ」を目指す行動の輪をひろげていきたいと思います。

■一人一花運動 (※1)
福岡市のありとあらゆる場所での花づくりを通じて、人のつながりや心を豊かにし、まちの魅力や価値を高める、花によるまちづくりを目指す取り組み。フクリパは、一人一花運動のメディアパートナー。
https://hitori-hitohana.city.fukuoka.lg.jp/

■石原和幸デザイン事務所
http://www.kaza-hana.jp/

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編集者
帆足 千恵
福岡のタウン情報誌の編集者として1990年代から海外30カ国、60エリアを取材し、世界の旅行情報を発信。2001年より外国人旅行者向けの編集制作や企画、調査、マーケティング、プロモーションを行い、九州インバウンドのパイオニア的な存在。2020年4月 海外旅行情報サイトを公開予定。

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