この記事の目次
福岡市の領事館数は大阪市、名古屋市に次いで全国で第3位
都市別領事館数は大阪市15館、名古屋市8館、福岡市6館、札幌市4館、東京都港区3館、新潟市3館―――。
外務省『駐日外国公館リスト』(2025年7月現在)によると、日本で一番領事館の多い都市は大阪市であり、アメリカやイギリスなど15館がある。
続く第2位は、名古屋市の8館だ。
アメリカやインド、タイなど6館の領事館を擁する福岡市は、第3位だった。
外国公館と呼ばれる施設には、大使館と領事館がある。
大使館とは、相手国の首都に置かれる外国の外交機関であり、国と国との連絡窓口を担いながら、自国民の保護や支援活動も手掛ける。
なお、大使館のトップには、特命全権大使が任命され、外交上の最高責任者として活動している。
一方、領事館とは、相手国の首都を除く主要都市に設置される外交機関であり、入国ビザの発給やパスポートの更新、各種証明書の発行など自国民に対する行政的支援を提供している。
領事館に「大使」はいないものの、相手国から派遣された「領事」が駐在する。
なお、領事の中には総領事という身分の者もおり、総領事が派遣された場合、総領事館と称される。
外務省『駐日外国公館リスト』によると2025年7月現在、首都である東京都内には、153の大使館がある。
また、都内には、大使館以外にも駐日欧州委員会代表部や台湾代表事務所、パレスチナ常駐総代表部などの代表事務所が置かれている。
一方、領事館は同リストによると2025年7月現在、日本全国に55館が開設されていることを確認できる。
出所:外務省『駐日外国公館リスト』(2025年7月現在)をもとに作成
福岡市には6領事館、18名誉領事館、13の外国政府機関がある
福岡市には、在福岡アメリカ合衆国領事館(1952年4月28日設置)、在福岡大韓民国 総領事館(1966年1月27日設置)、在福岡中華人民共和国総領事館(1985年4月17日設置)、在福岡ベトナム社会主義共和国総領事館(2009年4月22日設置)、在福岡タイ王国総領事館(2018年10月1日設置)、在福岡インド共和国総領事館(2025年4月1日設置)がある。
アメリカの首席領事は、他国の総領事に相当するため、福岡市には実質、6つの総領事館が設置されていることになる。
これらの総領事館では、自国民に対する保護やパスポート発行・更新、自国への入国ビザの発給を手掛け、自国のビジネス促進も手掛けており、大使館の領事部業務を担っている。
出所:外務省『駐日外国公館リスト』
一方、福岡市には、外国公館である領事館に加えて、18の名誉領事館が存在している。
名誉領事とは、主に領事館のない国や、領事館を設置していない地方都市において、その国の国民を任命し、領事業務を委託するための官職、または贈呈される称号のことだ。
名誉領事には、大企業の経営者や地元の名士らが任命されることが多い。
多くの場合、名誉領事とは文字通り肩書きだけの、無報酬の名誉職となっている。
また、名誉領事館において、旅券や査証の発給や各種証明業務を行っているのは、極稀なケースだ。
大半の名誉領事館は、文化交流や経済交流が主目的となっている。
出所:外務省『駐日外国公館リスト』
外国公館である大使館、領事館に加えて、観光分野や通商分野を中心に外国政府は、関係機関の事務所を構えていることが多い。
福岡県がまとめた『福岡県の国際化の現状(2024年版)』在県外国公館等一覧(2024年9月現在)によると、福岡市内には、13の外国政府関係機関の事務所がある。
中でも台北駐福岡経済文化弁事処は、実質的に領事館に相当する事務所だ。
1972年9月、日本と中華民国(台湾)との国交断交後、日本と台湾との間に正式な外交関係が無くなり、民間機関という名目で実質的な外交代表機構が設置されている。
出所:福岡県『福岡県の国際化の現状(2024年版)在県外国公館等一覧(2024年9月現在)』から福岡市内分を抽出
福岡市に2025年4月、国内2カ所目のインド総領事館が開館
在福岡インド総領事館が入居する福岡Kスクエア(福岡市博多区中洲中島町)
インド共和国は2025年4月1日、福岡市博多区に在福岡インド総領事館を開館した。
インド総領事館としては、大阪市に次いで日本国内で2カ所目となる。
国連の世界人口ダッシュボード推計によると2023年4月、インドの人口14億2860万人は、中国を抜いて人口世界一になった。
全世界の2割近くを占めるインドの人口は、今後も増加傾向にあり、2050年までに16億6,800万人に達するという。
一方、インドの名目GDPは約3.7兆ドル(2024年推計)であり、アメリカ、中国、日本、ドイツに次いで世界第5位だ。
そのGDPの成長率は、2022年7.0%増、2023年9.2%増、2024年6.5%増という高い水準を維持している。
インドは、高い教育水準と英語力を土台にして、政府の政策支援や経済の国際化を背景にソフトウェア開発やITサービスのグローバル拠点づくりを進めており、IT大国と呼ばれることも多い。
日本とインドの両国は、日印平和条約を締結して国交を樹立した1952年、駐日インド大使館を開設した。
一方、神戸市に設置されていた総領事館は1993年、大阪市へ移転して在大阪・神戸インド総領事館となった。
今回、在福岡インド総領事館が開館し、九州7県を管轄してビザ発給やパスポートの更新や発行などの各種業務を担当する。
領事館開設を機にインド人材のイベント開催や採用支援を開始
『INDIAN TECH TALENT』には、在福岡インド総領事館のラムクマール総領事も登壇した(画像提供:福岡市)
「エンジニアが集まる、活躍する、成長する街、福岡」を目指して、『エンジニアフレンドリーシティ福岡』を掲げる福岡市は2025年7月9日、ワン・フクオカ・ビルディング内の会議場でイベント『INDIAN TECH TALENT』を開催した。
在福岡インド総領事館の開設を記念した同イベントでは、「日本とグローバルスタンダードの違い なぜインド人材が必要か」「事例から学ぶ~インド人材の獲得と定着~」というテーマのトークセッションでインドのIT業界や人材事情を紹介した。
同イベントには、IT企業の経営者や採用担当者ら約100人が参加し、在福岡インド総領事館のラムクマール総領事も登壇して総領事館開設の意義について語った。
福岡市は同日、外国人ITエンジニアの採用を希望する地元IT企業に対して、インド人のIT人材採用を支援する事業を開始したことを発表した。
福岡市では、イベント開催にあたって、「インドと福岡の人的交流が拡大し、世界的に優秀なエンジニアを多数輩出するインドから、より多くのエンジニアの方が来福し、福岡で活躍されることを期待しています」とする。
福岡市になぜ、外国公館である領事館が多いのか
なぜ、福岡市に領事館が、多いのだろうか。
この謎について、地理的要因や経済的要因からアプローチしてみたい。
福岡市は、東京都から西へ約1000キロ、大阪市からも約500キロの位置にある。
首都である東京都には、各国の大使館が置かれている。
一方、大阪市は実質的なナンバー2の都市として、領事館を構える国が多い。
大阪市に続く都市としては、名古屋市や福岡市などの地方主要都市が挙げられる。
名古屋市の場合、東海地方の製造業に南米出身の日系人らが多く従事していることを踏まえ、ブラジルやペルーが領事館を設置している。
一方、長年アジア重視の路線を歩んできた福岡市の場合、インドやタイ、韓国、中国、ベトナムなどのアジア諸国の領事館が置かれている。
このような地理的要因に加えて、福岡市が後背地としている九州の持つ経済的要因も大きい。
九州の域内総生産は、経済産業省九州経済産業局『九州経済の現状』(2024年版)によると、4,201.6億米ドルだった。
この数字は、ナイジェリア(国内総生産4,309.2億米ドル)、エジプト(同4,259.1億米ドル)、シンガポール(同4,238.0億米ドル)、南アフリカ(同4,201.2億米ドル)に匹敵する経済規模だ。
これらの中規模国に相当する九州経済において、中枢都市としての役割を果たしているのは福岡市だ。
福岡市には、地元大手企業の本社・本部をはじめ、九州進出企業の出先オフィスや九州管内を管轄する監督官庁の出先機関などが集積している。
また、経済的集積に加えて、福岡市を県庁所在地とする福岡県は、留学生の多い県だ。
独立行政法人日本学生支援機構『2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況調査結果』によると、東京都(12万2,208人)、大阪府(3万2,451人)、京都府(2万167人)に次いで、4番目となる福岡県に1万9,377人の留学生が在籍している。
福岡市に外国公館である領事館が多い理由として、福岡市の地理的要因に加えて、経済的要因として九州の中枢都市として存在感も大きいと考える。
出典:経済産業省九州経済産業局『九州経済の現状』(2024年版)
福岡市は国家・民間・市民レベルでの国際交流を織りなす
福岡市に領事館、名誉領事館を開設する相手国は、福岡・九州との友好親善を促進し、相互理解を深める目的で民間による友好協会を発足させているケースも多い。
福岡県がまとめた『福岡県の国際化の現状(2024年版)県内の民間交流団体』に掲載されている福岡日米協会、福岡日豪協会、九州ベトナム友好協会、福岡トルコ友好協会が該当する。
このほかにも福岡県のリストに掲載されていないものの、福岡日英協会、西日本日独協会、福岡日仏協会、福岡スペイン友好協会、福岡ブルガリア共和国友好協会、九州・インドネシア友好協会、九州沖縄・モンゴル友好協会などが、領事館や名誉領事館と連携しながら、友好親善や相互理解に向けて活動している。
一方、市民らによる国際交流活動の例としては、『アジア太平洋こども会議・イン福岡』が挙げられる。毎夏、アジア太平洋地域の約40カ国・地域から11歳の〝こども大使〟を福岡に招いている。
そして、こども大使は、ホストファミリー宅でのホームステイや学校生活など約2週間の体験を通じ、友情や多文化理解を育んでいく。
古来、中国大陸や朝鮮半島との交流窓口だった福岡市では今日、多層的な国際交流の動きがあり、都市としての多彩な魅力の一つになっている。
出所:福岡県『福岡県の国際化の現状(2024年版)県内の民間交流団体(令和6年度調査)』から福岡市内分を抽出
今後の国際交流分野における福岡市の都市戦略を考える
今日、福岡市をはじめとする各都市は、経済的なグローバリズムの流れと共に国際的な都市間競争の渦中にある。
国内に限らず、海外からもいかにヒト、カネ、ビジネスを呼び込んでいくかが、国際的な都市間競争でカギを握る。
福岡市にある6つの領事館や18の名誉領事館をはじめ、外国政府関係機関オフィス、各友好協会、国際交流NPO、市民団体などの存在は、都市としての魅力を高めると共に海外からの選択肢への布石としても注目すべきだ。
古来、国内外との交流を通じて、発展・成長してきた福岡・博多の〝DNA〟を鑑みても、これらを地域資源として、今後の都市経営に生かしていくべきだと考える。
参照サイト
外務省『駐日外国公館リスト』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/link/emblist/index.html
外務省『インド共和国(Republic of India)基礎データ』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/india/data.html#section1
大使館と領事館の違いとは?役割・できる業務・外国人雇用の関係性を解説
https://jfbfe.or.jp/column/employment/difference-between-embassy-and-consulate/
法務・翻訳事務所オーロラ『大使館・領事館・名誉領事館の違い 』
https://www.aurora-contract.biz/blog/382
福岡県『福岡県の国際化の現状(2024年版)』
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/genjo2024.html
福岡県『福岡県の国際化の現状(2024年版)在県外国公館等一覧』(2024年9月現在)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/748159_62324991_misc.pdf
福岡県『福岡県の国際化の現状(2024年版)県内の民間交流団体』(令和6年度調査)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/748159_62325512_misc.pdf
ブルームバーグ『インドが人口世界一、中国抜くと国連-全世界の2割近くに』
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-04-19/RTCP6PT0AFB401
経済産業省九州経済産業局『九州経済の現状』(2024年版)
https://www.kyushu.meti.go.jp/keiki/chosa/genjyo/kyushu-genjo_2024.pdf
Engineer Friendly City Fukuoka『INDIAN TECH TALENT|在福岡インド総領事館開設記念イベント』
https://efc.fukuoka.jp/India_event/
福岡市『インドITエンジニア採用支援事業 「INDIAN TECH TALENT」 参加企業募集開始について』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/kouhou-hodo/hodo-happyo/2025/documents/indian_tech_talent.pdf