福岡市は2度の「大渇水」を教訓に、〝水も漏らさぬ〟水道技術で暮らし潤す

福岡市民が1日あたり使用する水道水は、20ℓ入りポリタンクで約10個分となる197ℓ。これは日本の主要21都市の中でも最少です。過去に2度の大渇水を経験した福岡市は節水都市づくりの取り組みを通じて、世界でもトップクラスの「漏水率」の低さを誇っています。今回は、福岡の節水事情に注目してみます。

〝大渇水〟転じて、〝節水都市〟となす

福岡市は政令指定都市の中で唯一、市域内を流れる一級河川を持たない水資源に恵まれていない都市である。このため、水資源確保のために19回もの拡張工事を重ねて水需要の増加に対応してきたが、過去に2回の大渇水に見舞われた。

1回目の大渇水となった1978年は福岡管区気象台の観測史上で当時4番目(現5番目)の小雨だった。年間降水量が平年の7割以下だったこともあり、干上がるダムもあった。5月から始まった給水制限は翌年3月まで287日間に及び、給水車に市民が列をなす事態も発生した。

福岡市は翌1979年、『福岡市節水型水利用等に関する措置要綱』を制定して〝節水型都市づくり〟を打ち出す。そして、1981年から福岡市内における配水管の流量や水圧を24時間体制で集中コントロールする配水調整システムの運用を始めた。

さらに1983年からは、九州を代表する大河・筑後川の水を福岡地区水道企業団の牛頸浄水場を経由して、水道用水として受水している。


「筑後大堰」(久留米市と佐賀県みやき町)は、1985年に完成している

2回目の大渇水となった1994年は観測史上で最少の年間降水量で、1978年を上回る厳しい気象状況だった。給水制限日数も前回を上回る295日間となったものの、給水制限の延べ時間は2,452時間で、前回の4,054時間よりも大幅に短く、給水時間のじゃ口給水を確保することで給水車の出動は無かった。

その後、福岡市は節水や水の有効利用に取り組みながら、新たな水資源の確保にも努めた。福岡地区水道企業団が事業主となって、2005年には海水淡水化施設を福岡市東区奈多に完成・稼働させた。同年は観測史上で3番目に少ない降水量だったにも関わらず、給水制限に至らなかった。

1日あたり大型タンクローリー2万台分を供給する、福岡市の水道事業

日本の水道事業は1887年、横浜で布設した近代水道に始まっている。当時、外国航路を持つ港湾都市では、コレラをはじめとする海外からの伝染病が井戸水を介して感染していくのを防ぐ必要があったことによる。九州では、1891年に開業した長崎市が最初だった。

福岡市の水道事業は、7年の工期を要した曲渕ダムのほか、平尾浄水場などの水道施設が完成した1923年3月からスタートした。


曲渕ダムの1931年のダム堤体の嵩上(かさあげ)工事の際の記念碑には、「天は豊なる源なり」という水に感謝する気持ちを表して「天源豊」の文字が刻まれている(写真提供:福岡市水道局)

福岡市内でも閑静な山の手の住宅街として人気の高い「浄水通り」「平尾浄水町」の地名は、かつて平尾浄水場が現在の福岡市植物園にあった名残なのである。


福岡市植物園内にある「平尾浄水場跡の碑」

その後、福岡市は100年足らずで都市として著しい発展を遂げた。福岡市における1日あたりの平均給水量は40万t前後にも上り、これは積載量2万ℓの大型タンクローリーで実に2万台に相当する量だ。

福岡市の1日あたり平均給水量40万tは、1996年からの20年間でほぼ横ばいとなっている。この間に福岡市の人口は約3割も増えたにも関わらず、平均給水量はほぼ横ばいという〝不思議な現象〟が起きている。
 

(出典:Fukuoka Facts)

福岡市の「漏水率」は、日本の主要大都市で最少、世界的にもトップクラス

第1位:福岡市1.8%、第2位:さいたま市2.2%、第3位:名古屋市2.4%、第4位:札幌市2.5%、第5位:広島市2.6%————。

節水都市づくりに取り組んできた福岡市は、漏水率の低さで日本の主要大都市の中でトップを走る。漏水率とは、浄水場から家庭などへ配水される水量のうち、水道管から漏れて届かない水量の割合を指す。


(出典:Fukuoka Facts)

福岡市が市内に張り巡らした水道の配水管は、実に4,024㌔にも及ぶ。福岡―東京間の新幹線の営業距離は1,175㌔だから、その距離の長さが想像できるであろう。膨大な配水管を保有しながら、福岡市の漏水率の低さは世界的にもトップクラスの水準にある。

節水都市づくりに向けた一連の取り組みについて、福岡市水道局総務部の武藤裕嗣総務課長は次のように紹介する。

武藤総務課長

3年後に水道事業100周年を迎える福岡市では、水の有効活用として配水調整システムを用いた適切な水圧による漏水抑制をはじめ、市内全域の配水管・給水管を対象とした計画的で、綿密な漏水防止調査に加え、24時間体制で漏水に対応しています。
また、老朽化した配水管については毎年約45㎞分を、地震の揺れに強い耐震管を使用し更新するなど、水の安定供給と節水型都市づくりを推進しています。


福岡市水道局総務部の武藤裕嗣総務課長

福岡市は、再生水のパイオニアでありトップランナー

1978年の大渇水を経験した福岡市は1980年6月、全国で初めて再生水の供給を開始した。

2003年には節水推進条例を制定し、一定規模以上の商業施設や事業所では、トイレ洗浄に「再生水」や雨水などの「雑用水」を使うことを義務付けた。再生水とは下水処理水をさらに浄化して、トイレや散水用などの飲料水並みの水質を必要としない用途に用いる水のことだ。

福岡市内には、417カ所の再生水を供給する箇所があり、全国でも最多。二番手の長崎県時津町189カ所、三番手である東京都区部187カ所を大きく引き離している。

また、再生水の供給面積でもトップは福岡市の1421haとなっており、第2位東京都区部1160ha、第3位神戸市476haの順番だった。

福岡市における再生水の取り組みについては、福岡市道路下水道局下水道施設部施設管理課の佐藤浩課長が、次のように解説する。

佐藤施設管理課長

福岡市では、節水型都市づくりの推進のため、下水処理水を循環利用した再生水の普及に努めています。再生水の利用を通じて市民の皆さまが水資源の大切さや、水循環について改めて考えるきっかけになればと、事業のPRにも力を注いでいます。


福岡市道路下水道局下水道施設部の佐藤浩施設管理課長

福岡市は水源開発に加えて、節水都市づくりへの環境整備に努めながら、市民向けに節水意識の醸成にも取り組んできた。福岡市の2019年度市政アンケート調査で91.1%の市民が「節水に心がけている」と回答し、全国値80.5%(内閣府2014年『水循環に関する世論調査』)を1割余り上回る。

福岡市では、地道な節水の取り組みを重ねてきた結果、人口は大幅に増えながらも、平均給水量自体は横ばいで推移するという現象にも如実に表れている。


JR博多駅から博多湾に向かってまっすぐ伸びる「大博(たいはく)通り」の祇園町と呉服町の間にある「おポンプ様」。二連式手押しポンプで、1940年代~1950年代にかけて、全国で愛用されていた

福岡市の水道技術は、国際的な都市間競争での〝強み〟になる

日本の水道事業は、普及率をはじめ、水質の良さや漏水率の低さなどで主要先進国の中もトップクラスと評価されている。日本のように全国各地で水道水を飲むことができる国は、世界中でもカナダやオーストラリア、ドイツ、スウェーデンなど10カ国余りしかないという事実からも裏付けられる。

日本の水道事業でトップを走る福岡市では、先ごろ人口が160万人を突破したが、今後も人口増加は続くと推計されている。2035年ごろの人口ピーク時の水需要予測である1日最大給水量約52万tに対応した取り組みとしての拡張事業を進めている。

2018年には福岡県内最大の五ケ山ダム(総貯水容量4,020万㎥)が竣工し、現在、試験湛水が行われている。異常渇水時でも市民生活への影響を大幅に緩和されることが期待される。


2018年には、福岡県内最大の五ケ山ダム(那珂川市)が竣工している

今日、世界的に水資源への関心は高まっており、国連では2015年サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択。その17目標の一つとして、「安全な水とトイレを世界中に」と提唱した。福岡市が大渇水で味わった苦難を〝水に流す〟ことなく、長年培ってきた〝水も漏らさぬ〟水道技術は、今後、世界で注目される可能性が高い。

世界的にもトップクラスの水準にある漏水率の低さに加え、下水処理水を循環利用した再生水の普及に努める福岡市。今後、アジアをはじめとする海外向けに独自のすぐれた水道技術に関する情報を発信すると共に、さらなる技術の普及に努めていくことであろう。福岡市の水道に関する”すごさ”を世界に発信することは、国際的な都市間競争においても自らのプレゼンスを高めることにつながるものと、筆者は考える。


福岡市内のマンホール蓋は、鳥やヨット、街並みなどを連想させるデザインとなっている

<参照サイト>
文字どおり「水も漏らさぬ」技術が誇り- 水道の漏水率 – | Fukuoka Facts
水のリサイクルの先駆けです! - 再生水の供給箇所数・供給面積 – | Fukuoka Facts
『福岡市水道長期ビジョン 2028』
福岡市水道局『上手な節水方法』
福岡市水道局『節水機器の紹介』
ジャパンウォーター『日本国内の水道事業の歴史と現状の課題』

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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