
店主プロフィール
井上佳宏さん/ユナイテッドファーファ店主。酒屋の家に生まれ、関西や関東での修行、海外での日本酒PR経験を経て2014年に独立。福岡・高砂エリアにて開業し、造り手や農家へのリスペクトを軸に日本酒をセレクト。「日本酒のソムリエ」に値する唎酒師の資格をはじめ、ドイツワインケナーやサケディプロマ、ソムリエなど様々な資格を持ち、幅広い視点からお酒の魅力を伝えている。
好きなことを楽しむ日々の中でつながったお酒の世界
―まずはお店を始められたきっかけを教えてください。

井上:もともとは実家が酒屋で、幼い頃から「いずれは家業を継ぐんだろうな」と漠然と考えていました。高校卒業後に地元・福岡を離れて関西の大学に進学し、「卒業したら酒屋で働くことになるんだから、今は好きなことをしよう」と決めたんです。あえてお酒とは距離を置き、大好きなサッカーや旅に明け暮れる日々を送っていました。
友人たちとバックパックで海外を回ることも多く、その資金を貯めるためにアルバイトをしては旅に出る、という生活の中で出会ったのが、大手酒造会社の箱詰めなどの下請けの仕事でした。学生ながら酒蔵の裏側を見ることができた経験は、今でも大きな財産になっています。
―大学ご卒業後はすぐに福岡に戻って家業を継がれたんですか?


井上:いえ、大学卒業後は、学生時代によく通っていた京都の大手の酒屋にご縁があり、そのまま就職しました。ボジョレー・ヌーボーの輸入量で全国トップクラスの会社で、現場のスピード感や商売としてのお酒の扱い方を学びました。
その後、ワインをきちんと学びたいと思い、茨城県のご夫婦で営まれている小さなワイン専門店で約1年間働かせてもらいました。ドイツワインの専門家であるご主人の市民講座にも参加しながら、ワインの知識を深めていきました。印象に残っているのは、その知識を人に伝えていくご主人の姿です。わかりやすく伝えること、それが誰かの役に立つことの大切さを実感しました。
造り手と農家をつなぐ、”ユナイテッド”という名前に込めた想い
―これまでの様々な経験が今のお店にも活きているのですね。
井上:大きな酒屋では流通や商売としてのお酒の扱い方を学び、小規模なワイン専門店では、造り手がどんな思いでお酒を生み出しているのか、その現場を間近で見ることができました。規模の違う現場を経験したことで、お酒を多角的に捉えられるようになったと思います。
その後、福岡に戻り家業で社長まで務めました。しかし次第に「自分で一からやってみたい」という気持ちが強くなって独立を決意。どんなお店にするのか、自分の理想をじっくりと見つめ直し、2014年4月にこの場所に「ユナイテッドファーファ」をオープンしました。
―「ユナイテッドファーファ」という店名にはどのような意味があるのでしょうか?

井上:独立するときに、自分の想いを表現できる名前にしたくて、2日間ノートに書き出しながら考えたんです。サッカーが好きなので、「ユナイテッド(結ばれた)」という言葉には、いろんな人や要素がひとつにつながるイメージを重ねています。
発酵に関わりお酒を造る人、そして原料を育む農家さん。そのすべてがつながっているという意味を込めました。「ファー」は発酵(ファーメンテーション)と、農業(ファーム・ファーマー)から取っています。商売として売るというよりも、まずは作り手へのリスペクトがあって、その先にお客様がいる。そういう関係を大事にしたいと思っています。
銘柄だけでは選ばない、会話しながら見つける”とっておきの一本”
―これまでのご経験の中で特に印象的だった出来事はありますか?


井上:20代の頃、蔵元の方々と一緒にニューヨークやボストンへ日本酒のPRに行ったことです。当時はまだ日本酒が浸透していませんでしたが、現地で実際に飲んでもらうと、みなさんすごくいい表情をされるんですよ。その時に「これは絶対に可能性がある」と感じましたし、日本酒の持っている力を実感しましたね。
―お店に並ぶお酒はどのようにセレクトされているのでしょうか?

井上:自分が「この人のお酒を扱いたい」と思えるか。もちろん美味しいのは大前提なんですけど、それだけじゃなくて、何か一つでも「面白い」と感じるポイントがあるかどうかを大切にしています。造り手の考え方や背景を知ると、お酒の見え方も変わってくるので、なるべく直接会って話を聞くようにしています。
―お店ではどのようにお酒を提案されているのでしょうか?


井上:「この銘柄があります」というよりは、お客様の好みやその日の気分を聞きながら選んでいくことが多いですね。「今日は和食に合わせたい」とか、「みんなで飲みやすいものがいい」といった会話の中から、少しずつ絞り込んでいきます。
そうして選んだ一本を喜んでもらえたり、「またお願いしたい」と思っていただける関係ができていくのも、この仕事の面白さです。うちはいわゆる有名銘柄を揃えているお店ではないので、「ここに来たらおすすめを教えてもらえる」という期待で来てくださる方が多いですね。


不思議なことに、自分がいいと思ったお酒は他のお店とあまり被らないんです。それなら、この感覚を信じてやっていこうと思っています。そのためにも、日々のテイスティングは欠かせません。家で少しずつ味を確かめながら、お酒の状態や変化を見ています。同じ銘柄でも、開けたタイミングや温度によって印象が変わることもあるので、その違いを積み重ねていく。それが、お客様に提案する一本につながっていると思います。
―季節によってラインナップも変わりますか?

井上:かなり変わりますね。ゴールデンウィーク明けくらいからは夏向けのお酒が出てきますし、秋になると「ひやおろし」と呼ばれるお酒が並び始めます。冬は搾りたてのお酒が出てきて、また違った楽しみ方ができます。

京都・木下酒造の「玉川」。コウノトリの自然保護地域で育てられた無農薬米を使用し、天然の蔵付き酵母で醸したイギリス出身杜氏による個性豊かな一本です。奥行きのある風味と力強い飲みごたえが魅力。
今は醸造技術も進んでいるので、スパークリングや低アルコールのものなど、本当に幅広い味わいがあるんです。料理やシーンに合わせて選べるのも日本酒の魅力。飲みやすいものから個性的なものまで、いろいろ揃えるようにしています。
お酒を通して広がる、店と人とのつながり
―薬院・白金エリアにはどのような魅力を感じていますか?


井上:天神や博多にも近いですし、飲食関係の方が多く住んでいるエリアなんですよ。実際にお店を構えてみると、いろんな人が行き交う場所で、すごく面白いなと感じました。お酒に対する情報感度が高い方も多いので、自然とラインナップの幅も広がりました。この場所だったからこそ、今のお店のスタイルが築けたのだと感じています。
―薬院・白金エリアで、井上さんがよく行かれるお店を教えてください。
井上:まずは高砂の「木乃芽」さんですね。ついこの間も一緒に酒の会をやらせてもらいました。店主とは共通の知人を介して「日本酒を教えてあげてほしい」と紹介されたのが縁で、かなり長い付き合いになります。
当時はまだお互いに手探りでしたが、2ヶ月に1回のペースで「酒の会」を始めたんです。いわば啓蒙活動のような形で、お客様もお店側も一緒に学んでいこうというスタンスでした。回を重ねるごとにお客様の理解も深まり、料理とお酒の楽しみ方が少しずつ進化していくのを共に実感してきました。なんというか、運命共同体みたいな関係ですね。

あとは高砂にあるビストロ「高砂モデレート」さんにもよく行きます。料理が出てくるのがとにかく早くて、注文してから3分以内に出てくるくらいのスピード感なんですけど、それでいてリーズナブルでちゃんと美味しい。そういうバランスの良さが魅力ですね。プライベートではワインを飲むことも多いので、気軽に立ち寄れるお店としてよく利用しています。
他にも高砂の和食「無垢」さんや焼き鳥の「なるも」さん、日本酒をこよなく愛する店主が営む「鶏おでんと出汁割り日本酒 ふぁるこ」さん、そして白金の居酒屋「炭焼き ごいち」さんなどこのエリアは本当にいいお店が多いです。平尾エリアにある「お万菜 一よし」さんもおすすめです。日本酒を買いに来てくださるお客様が当店のことを店主にご紹介してくださったみたいで。それがきっかけでご縁がつながりました。
好きなものと向き合う、日本酒のその先にある楽しさ
―最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。


井上:商売には苦労がつきものですが、それなら、「自分が好きなこと」で苦労した方がいいなと思っています。お酒って、ただ飲むだけじゃなくて、その背景にある人やストーリーまで含めて楽しめるものなんですよね。難しく考えすぎずに、「今日はどんな一本にしようかな」という気持ちで、気軽に立ち寄ってもらえたら嬉しいです。
店舗情報
住所:福岡市中央区高砂2-24-29 第2コーポエンペラー 1F
アクセス:薬院駅より徒歩11分
営業時間:12:00〜20:00
定休日:日・月曜日
Instagram:@unitedferfa











