高まる企業の〝持続的な生き残り〟への関心
昨今、SDGsに代表されるように持続可能性を重視した社会づくりや地域づくり、組織づくりが注目される中、企業としての〝持続的な生き残り〟への関心も高まっている。
帝国データバンクが2019年1月に発表した『特別企画「老舗企業」の実態調査(2019年)』によると、2019年中に業歴100年となる企業1685社を含めた「老舗企業」は、全国で3万3,259社に上った。
2018年11月時点で、同社の企業概要データベースには147万社が収録されているというが、老舗企業の全体に占める割合「老舗企業出現率」は2.27%で、44社に1社に相当する。福岡県内における老舗企業数は、847社を数える。その老舗企業出現率は、1.47%で都道府県別43位となっている。つまり、老舗企業出現率でトップの京都府は21社に1社が老舗企業だったのに対して、福岡県では70社に1社しか存在していないことになる。
出典)帝国データバンク『特別企画「老舗企業」の実態調査(2019年)
なぜ福岡県に老舗企業の割合が少ないのか。この点に関して、老舗企業出現率と開業率、廃業率との関係について注目したい。
開業率の高い都道府県は、廃業率も高い傾向にある。開業率で5位だった福岡県は、廃業率で全国1位だった。開業率でベスト7の7都県は、廃業率においてもワースト7に名を連ねている。一般的に老舗企業出現率の低い県は、総じて開業率が高く、廃業率も高い傾向がみられる。
出典)2020年版『中小企業白書』第1部2016年度の中小企業の動向
この点について、帝国データバンク福岡支店情報部の晨(はやし)智海さんは、次のように解説する。
晨さん
これまで、企業が生き残っていくうえでは、適応力の高さが求められていました。しかし、今後は事業承継問題も重要な要素になってきます。当社調べの『事業承継に関する九州企業の意識調査』によると、事業承継を経営課題と認識する経営者の割合で、福岡県は全国平均を上回り、後継者問題を抱えている割合も全国平均より高い数字でした。
高い技術力やブランド力をもつ老舗企業でも、後継者問題によって事業承継ができない可能性を秘めているのです。このため、早期に事業承継の対策を打っておくことは、今後企業が事業を継続的に発展させていくうえでますます重要になってきます。
企業が生き残るための重要なポイントとしては、従来からの「適応力の高さ」に加え、今日的な問題として「事業承継問題」にも注目すべきなのである。
企業持続性へのヒント。それは経営上でのブレが少なく、結束力も高い家族的経営の同族企業にある!
企業が存続するために、学ぶべきことはないのか。あるとしたら、どこにあるのだろうか。この点について、日本経済大学経営学部で、長寿企業をはじめファミリービジネス(同族企業)やアントレプレナーシップ(起業家精神)などを調査・研究している山口勝士教授は、次のように指摘する。
山口教授
このような良い面を生かすことができた企業が、長寿企業として今日に至っているといえます。たしかに同族企業には、能力に関係なく創業者一族が重用されたり、独断的といった負の側面が現われることもあるでしょう。ただし、代々受け継いできた創業家の価値観や理念は、経営能力そのものよりも重要な存在だと認識する長寿企業経営者もいます。
スタートアップ企業においても、創業者の思いやビジョンを組織全体に浸透させていくことが、企業としての成長や存続にも大きく寄与していることは、日本企業の先行研究でも実際に明らかになっています。
古来、中国大陸や朝鮮半島との〝窓口〟として、2000年余の歴史を持つ福岡・博多では、業歴100年以上の老舗企業を数多く見掛ける。それらの長寿企業を見ても、家族的経営の同族企業は多い。創業者の思いやビジョンが明確でれば、それは次世代に受け継がれ、事業経営にも生かされていくのであろう。
一般財団法人・西日本文化協会発行の季刊誌『西日本文化』の誌上で聞書「九州の老舗」シリーズ~百年超企業・長寿の知恵~を長年担当し、地元の老舗企業の動向に詳しい田中滋幸さんは、福岡・博多における老舗企業の事情について、こう話す。
田中さん
一代は平均すると30年。業歴100年を超える老舗企業であれば、4代以上受け継がれていることになります。事業をそのまま継続しているだけなら、それは衰退。時代に応じて改良、改革をくりかえすことで、老舗企業は存続してきています。何代目かに一人、商売の“天才”も生まれ、事業を拡大した例は多い。まさに企業は、生きモノだと思いますね。
出所)帝国データバンク福岡支店調べ
老舗企業に学ぶ。そこにこそ、企業の持続的発展のカギがある!
今日までの100年間には、満州事変や日中戦争、太平洋戦争などの〝戦禍〟、バブル崩壊やリーマン・ショックなどの〝金融・経済危機〟に加えて、関東大震災や阪神淡路大震災、東日本大震災などの〝災害〟も相次いで起きてきた。
これらの困難を数多く乗り越えてきた老舗企業には、独自の〝生命力〟をはじめ、企業理念や経営方針、危機管理対策面でも学ぶべき点は多い。
経営理念の浸透に取り組む株式会社ピグマリオンの柏惠子代表取締役社長は、ブログ記事『経営理念とパーパスの違いとは?~HBRより』の中で(注)、任務や使命を意味するミッションという用語を使って、「《我々は~を欲す⦆と社会変革を志すミッション、伝統産業の様に《我々は~であり続けるべし》と社会の中で文化の創造や保全を目指すミッション」の2類に分類した。
(注)引用・参照文献は、『ハーバード・ビジネスレビュー』(ダイヤモンド社刊・2019年3月号)の特集記事「PURPOSE パーパス ~会社は何のために存在するのか、あなたはなぜそこで働くのか?」
そして、前者は組織の行動に主眼を置いた「DO」のミッション、後者は組織の状態に主眼が置いた「BE」のミッションとする考え方を紹介する。
〝熱し易きは冷め易し〟と称される福岡人は、フットワークに優れた「DO」気質である一方、粘り強さや哲学的思考を苦手とする傾向がみられると、筆者は考える。
「DO」気質である福岡の企業は今後、《我々は~であり続けるべし》とする「BE」ミッションも取り入れていくべきであろう。福岡のスタートアップ企業やベンチャー企業にとっては、老舗企業の《社会の中で文化の創造や保全を目指すミッション》を学ぶ〝温故知新〟こそが、持続的発展のカギを握るといえそうだ。
<参考資料>
帝国データバンク『特別企画:「老舗企業」の実態調査(2019年)』
帝国データバンク『『特別企画:事業承継に関する九州企業の意識調査(2020 年)』
2020年版『中小企業白書』第1部 平成28年度(2016年度)の中小企業の動向
聞書「九州の老舗」シリーズ 百年超企業・長寿の知恵
「経営理念とパーパスの違いとは?~HBRより」(株式会社ピグマリオン)