あなたの身近にぬいぐるみはいますか?
「毎朝ぬいぐるみに“行ってきます”と言っている」「ぬいぐるみと寝ている」と言うと、恥ずかしい大人だと思う方もいるでしょうか。
私は今年で30歳なのですが、自分も含めて周りには、結構な数のそんな仲間がいることを最近知って、ちょっと驚き、安心もしました。
「現代はぬいぐるみブームの最中だ」、という声もあります。
SNSの拡大によって似た嗜好性の人と繋がりやすくなり、大人でもぬいぐるみと一緒に暮らしていることをオープンにしやすくなったこと、コロナ禍で人との接触がはばかられ、ぬいぐるみが話し相手や癒しをくれる存在となったこと、“推し”のぬいぐるみをお出かけ先などで撮影して楽しむ“ぬい撮り”が一般的になってきていることなど、理由はさまざま考えられそうです。
ぬいぐるみや着せ替え人形は大量生産品で、一点モノのような価値がないように思えるかもしれませんが、世界中でいろいろな人の身近に存在しているからこそ、深い愛の対象となり、時代の映し鏡や自己表現の受け皿となってきました。
ぬいぐるみや藁人形、着ぐるみ、アバターやアンドロイドにいたるまで様々な人形の研究をされている菊地浩平さんは、著書の『こころをよむ 人形と人間のあいだ』で、そのようにおっしゃっています。
時代の映し鏡になる人形
黎明期のテレビ番組で人形の登場がさかんだったのはなぜでしょうか?
番組制作のノウハウがないテレビ黎明期には、照明や音声の調整などに時間がかかってしまっていました。人間には大きな負担がかかる一方で、そうではない人形が代役として重宝されたそう。そこから技術力が上がっていき、制作のなかでの人形の使われ方に変化が起きていくことも興味深く、人形を通してテレビ史をたどることができます。
同じように、誰かが大切にしている人形のことを聞けば、“その人史”ともいえることを教えてもらえることもあります。
鬱になっていたときに人形に支えられた人、会社に行きたくないときにポケットの中にお守りとして居てもらった人、亡くなった大切な方からもらって以来ずっとそばに置いている人など、わたしが知る中にもそんなふうに人形と暮らし、かけがえのない関係を持っている方が多くいます。
「人形を通して人間について深く考えることができる」と感じられるのが、菊地先生の本の大好きなところ。人形を持っていないという人にも、ぜひ読んでみてほしいです。
おまけ 「福岡にいるぬいぐるみ展」
実は、わたしが働いている本屋 文喫にて、10/3より『福岡にいるぬいぐるみ展』という企画展を開催する予定です。
福岡でぬいぐるみと暮らしている人の写真や言葉の展示のほか、福岡・九州ゆかりのぬいぐるみの展示販売、ぬいぐるみのおふとんを作るワークショップ(10/8開催)などもあります。ぜひぜひ遊びにきてください。あなたとぬいぐるみについての思い出もGoogleフォームより募集中です。
同じ地にいる誰かとその大切なぬいぐるみについて思いをめぐらせて、私たちが今より少しでもやさしくなれたら嬉しいです。
企画について:https://www.instagram.com/p/CxfYRzoyLbL/?utm_source=ig_web_copy_link&igshid=MzRlODBiNWFlZA==
ワークショップ詳細:https://nuioffton.peatix.com/
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こころをよむ 人形と人間のあいだ
菊地浩平(著/文)
発行:NHK出版
A5判 192ページ
定価 800円+税
書店発売日 2022年9月24日
本の試し読み・購入はこちら:https://www.nhk-book.co.jp/detail/000069110612022.html
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