「誰にどう思われても私はこうありたい」と、自分らしく生きるには想像以上に体力がいる世の中なのかもなと、最近考えています。
奔放に生きているように見える人にも固有の脆さやしんどさがあって、それは他者にはわからない。
あるいは奔放に生きたくても、「きっとこんなことを言ってくる人がいるだろう」という仮想敵を恐れてできない、という人もいると思います。
世間に過敏になってしまい、相手に合わせたキャラクターを持って、少なくとも外面は健常に見せて生きる。
『偽者論』は、表面上はうまくやっているけれど「自分は本物ではなく、偽者である」という虚無感に悩まされる現代人のパーソナリティを解き明かした本です。
著者は、精神科医であり詩人、そして自身も「偽者」の当事者であるという尾久さん。
「健康だけど病んでいる」という状態には私もすごく身に覚えがあります。
面白かったのは、オタク活動や飲酒、筋トレなどある種依存症とも捉えられる行動はしばしば、自分の健常を守り擬態するための代償行動だというところ。
辛いことを忘れる1番の方法はきっと没頭であるし、推し活にいそしんでしまうのは、どこか自分自身へ虚無やしんどさを感じているからなのかもしれません。
「推し」「マッチングアプリ」「パパ活」など現代の文化や現象に対する考察ももちろん面白いのですが、
小説のようなエッセイのようなものを読んでいたらいつの間にか症状の話になっていて、ずっと狐につままれているような読書体験でした。
きっとどんな人も生きづらさやしんどさを抱えているし、それを公表することが自身を救い、また別の人もしんどさを吐き出せるきっかけになればいいな、と思える一冊です。
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偽者論
尾久守侑(著/文)
発行:金原出版
四六判 244ページ
定価 2,200円+税
書店発売日 2022年9月2日
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