「病気になってよかった」福岡・ミドリストアの絶品“兄弟カレー”誕生物語

福岡をこよなく愛するライター大塚たくまが、福岡で起きていることを徹底深掘りしていきます。今回は、福岡市南区大橋のカレー屋さんのお話です。美味しいと評判のカレー屋さんには、深い誕生物語がありました。じっくりご覧ください。

ライターの大塚たくまです。

福岡市南区・西鉄大橋駅から徒歩3分の場所に、福岡のカレーマニアを唸らせるお店があります。その名も「Midori Store(以下、ミドリストア)」。

看板メニューである「兄弟カレー」は、兄と弟がそれぞれでこだわり抜いてつくったカレーがワンプレートで楽しめる珠玉の一皿です。

弟はベテランの料理人ですが、兄がプロの料理人になると決意したのは、わずか1年前。なぜこのようなお店をやるに至ったのか。今回は兄弟カレーと、ミドリストアの物語を皆さんにご紹介させてください。

■ミドリストアの兄弟カレーとは?

ミドリストアはもともと「ヴェルディストア」として、2011年に弟の大樹さんがスタートさせたお店です。その後「ミドリストア」と名前を変え、ケータリングなどを手掛けていましたが、現在はカレー専門店になっています。
 
人気なのは、兄の隆志さんと弟の大樹さんが一緒につくる「兄弟カレー」。


兄弟カレー 1400円

左が兄・隆志さんの「サオジカレー」(写真はエビの入った「サオジジンガカレー」)、右が弟・大樹さんの「フェニックスチキンカレー」です。

「サオジカレー」は、インドの中西部にあるナーグプル(Nagpur)という地方で食べられているカレーです。兄・隆志さんは、日本語の情報が一切ない中、翻訳ツールを使いながら、独自で資料をかき集めて完成させました。コクが深く、心地よいスパイスの香りとともに、後からしっかりとした辛さがあります。

弟・大樹さんの「フェニックスチキンカレー」は、兄・隆志さんの「サオジカレー」と比較すると、爽やかな酸味があり、さっぱりとした仕上がり。スパイスカレーと欧風カレーを組み合わせた、ハイブリッドな薬膳カレーです。
 
2つのカレーが対照的でよく合うんですよねぇ……。美味い……。
 
コクがあってしっかり辛い兄カレーと、爽やかであっさりした辛さの中に旨味のある弟カレー。これらを交互に食べたり、混ぜて食べたりしながら、楽しめるのが「兄弟カレー」の魅力です。
 
お二人のカレーは、福岡のカレーマニアの間で「こんなスパイスの使い方は見たことがない」と話題になるほど。インスタグラムで「ミドリストア」と検索すると、たくさんの食レポ投稿が出てきます。
 
とはいえ、「カレーマニアしか喜ばないクセのあるカレーなのか」と言われるとそんなことはありません。普段「バーモントカレーこそ最高」と思っているぼくでも、一口一口に感動しながら食べられました。「スパイスカレー沼」に、ハマってしまうかも。

ミドリストアのカレーは、お店で食べるのはもちろんですが、店外の無人販売所でも購入できます。無人販売所での購入方法はYouTubeに詳しく説明されていますので、動画をご参照ください。

>>無人販売所での購入方法

また、在庫があればインターネットでも購入可能です。ミドリストアの公式オンラインストアで、在庫をチェックしてみてください。
>>ミドリストア公式オンラインストア

【Midori Store(ミドリストア)】
■住所: 福岡県福岡市南区大橋2-11-12-1F [MAP]
■TEL: 092-776-8180
■営業時間: 12:00~14:00, 18:00~20:00
■定休日: 原則火曜・木曜・日曜(イベント出店や体調を見ながら変動の可能性あり)
https://www.instagram.com/midoristore_fuk/

■料理人の弟が片麻痺に。兄は料理人に転向する道へ

長年、料理人として活躍していた弟・大樹さんは、2020年10月に脳出血で入院しました。今もなおリハビリ中で、右半身を思うように動かせません。そのため、現在もメインの調理は兄・隆志さんが行っています。
 
現在、ミドリストアは、隆志さんと大樹さんの兄弟で経営されています。しかし、隆志さんはもともと料理人だったわけではなく、もともと別の仕事をされていました。しかし、大樹さんの状況を見て、共同経営を行うようになったのです。
 
隆志さんに、ミドリストア参画について、詳しくお話をうかがいました。
 


大塚

当時の大樹さんの状況を見て、隆志さんはどのように感じたのでしょうか。

隆志さん

一生懸命お店の心配をしているように見えました。彼自身がもう命を落としてしまうんじゃないかというときだったんですけど。彼が一生懸命、自力で靴を履こうとしている姿を見て「まだ目の奥に意志の光がある」と思ったんです。


大塚

「意志の光」ですか。

隆志さん

その姿を見た時に「ぼくがいろいろカバーできることはある」と直感したんです。


▲当時のFacebookの投稿


大塚

でも当時、隆志さんは料理人でもないですし、ご自身のお仕事もあったわけですよね。なかなかその決断はできることじゃないと思います。それほど近い距離感だったんですか?

隆志さん

いえ、普通だと思います。年に2~3回会う程度だったので。


大塚

もともと、ものすごく仲が良かったとか?

隆志さん

いや、むしろ学生時代は喧嘩ばかりしていて。それも、なかなかハードな。顔を殴ってしまって、救急車で運ばれるような大ケガを負わせてしまったこともあります。


▲大樹さんの眼元にはまだ傷跡が残る


大塚

今は笑ってその話ができるというのは、濃い関係性ですね。隆志さんは大樹さんにどんな感情を持っていたんですか。

隆志さん

少し大樹が羨ましいという気持ちがありました。ぼくは人付き合いが苦手で、引っ込み思案だったんですけど、大樹は人当たりがよくて、周囲に人が集まるタイプなので。自分にないものを持っているな、とは思っていました。

■「福祉事業の経験」と「スパイス愛」がつながる


▲Facebookより


大塚

大樹さんを「カバーできることがある」と思ったとしても、なかなか踏み切れないと思うんですよね。どのようにカバーしようと思っていたんでしょうか。


隆志さん

ぼくはもともと福祉車両の仕事に就いており、障がいをもつ方の社会参加など、さまざまなケースを見てきていました。そこで感じたのは「本人が意志を持って立ち上がることの重要性」だったんです。


大塚

でも、そういった状況で本人が自分の意志で立ち上がるって、なかなか難しいですよね。

隆志さん

そうです。本人や家族は落ち込んでしまい、本人の尊厳の回復にまで目がいかなくなってしまうことも多いのです。だからこそ、まずは本人のやりたいことが何なのかをじっくり話し、本人が「やれる」と思うことが重要になります。それが本当のリハビリテーションです。


大塚

リハビリって、身体が回復するという意味だけではないんですね。

隆志さん

大樹はまだお店をやりたいという意志がありました。互いの意志を尊重し合いながら仕事ができるというのは、障がい関係なく、理想的なことです。だからこそ、大樹のお店に取り組みたいと思いました。


大塚

隆志さんがリハビリテーションへの理解が深かったので、心構えがしやすかったんですね。それにしても、未経験の料理という壁もありますが、迷いはなかったんでしょうか。

隆志さん

ぼくはもともとスパイスマニアで、薬膳カレーに関心があったんです。大樹が倒れる前に「ランチでカレー専門店をやりたい」と話していたのを思い出して「カレー店ならできるかも」と思いました。


大塚

なるほど。そこでカレーが出てくるんですね。

隆志さん

もともと大樹はイタリアンや和食の料理人です。味はもちろん、目でも楽しませられるような美しくて繊細な料理をつくっていました。あれはぼくには難しい。でも、スパイスなら好きなことですからね。楽しいです。

■「病気になってよかった」兄弟が目指す先


▲Facebookより

隆志さんのサポートもあり、大樹さんは2021年11月、約1年ぶりに料理人として現場復帰を果たしました。2人でキッチンカーを出店したところ、カレーは売り切れの大盛況だったのです。
 
その間に移動販売車を福祉車両に改造する目的のクラウドファンディングにも挑戦。目標金額の160万円を大幅に超える、220万円もの支援を集め、こちらも成功を収めました。
>>クラウドファンディング

大樹さんは、隆志さんと二人でお店をやるようになり「兄貴とこうやって一緒にやれることになったけん、病気になってよかった」と話したことがあるのだそうです。

 隆志さんと大樹さんは、暇さえあればカレー談義に花が咲きます。大樹さんは「まさか本当に、こうして兄ちゃんとお店がやれると思わんかった。単純にそれが嬉しい。」と語ってくれました。


大塚

これからミドリストアをどんなお店にしていきたいと考えていますか。


隆志さん

本当の意味で「障がいがあったって関係なく、頑張って仕事ができる」と伝えたいと思っています。


大塚

そのためには何が必要だと思いますか。


隆志さん

めちゃくちゃ美味しいカレーをつくることですね。障がいなんて関係なく「おいしい」と思ってもらえるようなカレーをつくり続けたいです。


大塚

たしかに。このカレーの美味しさありきですよね。シンプルだ。


隆志さん

仕事って「これは俺がやったんだ」って、胸を張れることが喜びだと思うんです。作業的なことができたというのも喜びの一つかもしれないけど、自分が誇りを持てるような仕事をしたいです。


大塚

そういった「仕事の喜び」って、誰にとっても大切なことですよね。別に障がいがなくても、なかなか見つけることは難しい。


隆志さん

働くことの面白さを共有し、伝えていきたいと思っています。


大塚

これからのご活躍にも期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

■大橋のミドリストアに兄弟カレーを食べに行こう!

ひとまず、これほど美味しいカレーが大橋駅のすぐそばで食べられるので、食べに行ってみてほしいです。
 
カレーが大好きでカレーを食べ歩いている人も、本格的なスパイスカレーに馴染みがあまりない人も。兄弟カレー」の美味しさを体感してみてください。
 
>>ミドリストアYouTubeチャンネル
>>ミドリストア公式サイト

【Midori Store(ミドリストア)】
■住所: 福岡県福岡市南区大橋2-11-12-1F [MAP]
■TEL: 092-776-8180
■営業時間: 12:00~14:00, 18:00~20:00
■定休日: 原則火曜・木曜・日曜(イベント出店や体調を見ながら変動の可能性あり)
https://www.instagram.com/midoristore_fuk/

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ライター・編集者
大塚たくま
福岡をこよなく愛する編集者。みんなが知っているようで深くは知らないことを徹底深堀して「実はここが面白い!」を見つけることを得意とする。グルメ・旅行の他、自身でスポンサーになるほどのアビスパ福岡サポーター。

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