福岡の擬人化アーティスト?
パンや食べ物がしゃべるアニメに、未来から来た動物型ロボットが人間の友だちになるアニメは、日本人なら知らない人はいないくらい有名だ。他にも、妖怪と人間が仲良くしたり、最近では細胞がキャラクター化したりしている。
日本では当たり前な感覚のこの“擬人化”。特徴的なのは、擬人化したキャラクターが、まるで人間かのような個性とふるまいをする設定がほとんどで、この設定もまた、日本人にとって当たり前の感覚なのだ。
そんな“擬人化”を、福岡のまちにちなんだ様々なモノに宿し、“モノ語り”にしてしまうアーティストがいる。ギンギラ太陽’sを主宰する大塚ムネトさんだ。
福岡テンジン大学に登壇している大塚さん
ユニットから始まったギンギラ太陽’sは、1997年に劇団化して以来、福岡の百貨店や乗り物を擬人化、徹底した事前取材をもとにした史実を軸に、涙あり・笑いありの“モノ語り”を、演劇という形で表現し続けている。その取材から脚本、演出、かぶりモノ製作だけでなく、出演者として自らかぶりモノをかぶって舞台にも立つ、大塚ムネトさんに話を聞いた。
ある日、西鉄本社に呼び出された!?
前回、“西鉄の新駅『桜並木駅』が開業!ギンギラ太陽’sが潜入取材!”でフクリパ初登場を遂げたギンギラ太陽’s。福岡に来たばかりの人はもちろん、地元の人でも演劇を見たことがない人は、ぜひ一度目撃してほしい。
>>西鉄の新駅『桜並木駅』が開業!ギンギラ太陽’sが潜入取材!
大塚さん:
『なんの許可も取らずに、西鉄は「ソラリア」をリーダーに、その手下に「西鉄バス軍団」がいるという設定でした。そしたらすぐに西鉄からお呼びがかかりまして。』
西鉄バス軍団とソラリア(中央)
これまで大塚さんが手掛けた、かぶりモノの製作は約500体!
そのほとんどが、福岡地元の建物・駅・乗り物・お菓子などがキャラクターとなり、多くの観客を楽しませてきた。
大塚さん:
『実はこれまで、ギンギラ太陽’sに対するクレームは・・・ありません。本社に呼ばれた西鉄さんからも、開口一番「あれ、おもしろいね」だったんです。』
なぜ、福岡のまちを擬人化したのか?
ギンギラ太陽’sに人間は登場しない。全てのキャラクターが人格を帯びたビルや乗り物で、いわゆる擬人化。そもそも、なぜ擬人化だったのだろうか。
大塚さん:
『もともと、造形の仕事をして得意だったんです。演劇もやりたくて、ギンギラ太陽’sを始めたとき、躍動する福岡のまち、天神のまちの中で、一際輝く黄金のビルを観たとき、「このビルがしゃべったらおもしろいんじゃないか?」と思いついたのがキッカケです。』
擬人化第1号は、今はなき天神イムズだった
大塚さん:
『ただ、当時は取材もせず、ネタもワンパターンで、正直なところ止めようかと思ったこともありました。でも、しっかり取材してみよう!と話を聞きに行ってみると、ちゃんと人間ドラマがあるんですね、これを劇にしようと。ところが、西鉄バス軍団の登場で、西鉄本社に呼ばれまして。これはもう、ギンギラ終わったと思いましたよ。』
ところが、呼ばれた西鉄から提案を受けたという。
大塚さん:
『今度、西鉄福岡天神駅の真上に、西鉄ホールが完成するから、そこで劇をやらないかって言ってもらえたんです。これをキッカケに、ギンギラ太陽’sは正式にかぶりモノの劇団として、まちに認められた!って思いましたね。』
西鉄天神大牟田線100周年の記念公演
今年4月12日、西鉄天神大牟田線が開業100周年を迎えた。それを記念して企画された「100周年だよ!乗りモノ全員集合」は、まさに時事ネタに合わせて“まちの今”を知ることができる内容になっている。
ギンギラ太陽’sの、“擬人化”の次に取り上げたい特徴が“リアルタイム性”。徹底した事前取材を重ね、史実を軸に脚本がつくられていくそうだが、演劇を観ていると、そのときの流行や社会情勢に合わせたネタも登場する。
春日原変電所を取材する大塚さん
大塚さん:
『福岡のまちを見たり、ニュースを見たりしていると、これは企画に使えそうだ、とか、これはセリフに使えそうだ、とか浮かんでしまうんです。もちろん、西鉄天神大牟田線の開業100周年は、昔から温めていた企画です。そこに、取材してキャラクター像が明確になったり、セリフが決まったりします。』
そう、ギンギラ太陽’sの公演は同じ企画が二度とない、常にそのときの時事に合わせたセリフが登場し笑いを誘う、「常に新作」なのが特徴だ。
地元愛と演劇の融合が福岡のシビックプライドを刺激する!
大塚さんが天神イムズから着想して誕生したギンギラ太陽’s。まさに福岡のまちをまるごと“擬人化”し、そのキャラクターたちの個性には愛着が芽生えやすい。そしてひとたび演劇を観たあとにまちへ出ると・・・。
大塚さん:
『さっきしゃべっていたビルやバス、電車の実物がそこにはいるんです。舞台を楽しんだあと、まちに出ると実物がキャラに見えてくる、これを“ギンギラ目線”と呼んでいます。』
ギンギラ太陽’sは、演劇の中で「観劇者と福岡のまちの距離を近づけてしまう」力がある。そして劇が終わっても、本物のビルや駅や乗り物たちがいるため、“観劇者と福岡のまちの関係”は続き、さらにその距離感をグッと近づけてしまう。
一度観てしまったらわかる、「福岡のまちが好き」という感情をダイレクトに刺激し、その解像度を上げ、心の中に根付かせてしまう。
大塚さんが地元愛から昇華させたこのアートのような作品は、それを観た人の「まちへの愛着」を何倍にも強くしてしまう。これはもう、福岡という都市における唯一無二の無形文化資産と言えるだろう。
ギンギラ太陽’sの公演の最後に、大塚さんが締める恒例の挨拶がある。
『ギンギラ太陽’sは、これからも地元の人にしかわからない“モノ語り”をつくっていきます』
4月公演の最後に恒例の挨拶をする大塚さん
ぜひ、5月の公演、さらには今年秋に予定している西鉄ホールでの公演に足を運んでみて欲しい!
ギンギラ太陽’s WEBサイト:https://gingira.com/
ここまで2回に渡ってギンギラ太陽’sを取り上げてきましたが、大塚ムネトさんの、この春の公演に込めた想い、脚本のための取材の様子が、西鉄のN×(エヌカケル)にて紹介されています!
▼西鉄天神大牟田線開業100周年、ギンギラ太陽’sの記念公演はどんな物語に?大塚ムネト氏に聞く
https://nnr-nx.jp/article/detail/132