福岡を語るうえで欠かすことのできない街「大名」。九州最大の繁華街・天神の西隣に位置し、福岡のトレンド発信地として多くの若者が訪れている。といっても、かつては住宅が中心で、個性的なセレクトショップや古着店、飲食店や美容室などが集まり始めたのは30年ほど前のことだ。その殆どの年月を「大名」で過ごしている人物がいる。「大名」を拠点にアパレル事業や音楽事業を展開するビンゴボンゴグループの代表・宮野秀二郎さんだ。自身にとって初めてオープンさせた古着店「BINGOBONGO」は、今春20周年を迎えた。誰よりも「大名」を愛し、「大名」を盛り上げてきた宮野さんに、「大名」という街への想い、これからのことを聞いた。
大名を拠点に古着・音楽・食などの文化を発信!
10代前半から大名に通い、20代半ばで大名に自身の店「BINGOBONGO」を冓えた宮野さん。
宮野さんが大名に遊びに来はじめたのは14歳の頃。ファッションに興味を持ち、大名や今泉のセレクトショップを訪れていたという。高校、大学と進学したものの、その頃から将来はファッションの世界で働くことを決めていた。
宮野
その面接で社長に気に入られ、運良く社員として採用された宮野さん。入社1年目からアメリカへの買い付けに同行するなど、さまざまな経験を重ね、2001年3月、大名に「BINGOBONGO」を開業する。
2021年春、20周年を迎えた「BINGOBONGO」
宮野
2001年に僕たちが『BINGOBONGO』を始めて、古着ブームもあって。WEGOやSPINNSが出店してきたこともあって一気に低年齢化が進み、若者の街と言われるようになりました。あの頃は自分たちが街をつくっている感覚でしたね
2006年には飲食事業をスタート。順調に店舗を増やしていったものの、2016年に全てを閉店させた。
宮野
以来、飲食事業は順調でずっと利益を出していて、社内でも重要な事業へと成長していきました。ただ、ある店舗の料理長がよくない辞め方をしてしまって。そのことで悩むことが増えてストレスを抱えるようになってしまったんです。僕たちは音楽イベントなどもたくさんやってきましたが、そのような悩みがある頃はそういったイベントもできなくなってしまって。そのような状況になるくらいなら、飲食事業を辞めようと決めたのです
その後、ケータリング事業を立ち上げ、現在はイベントなどに出店し、ホットドックやケバブサンドを販売している。
念願だった音楽レーベルを立ち上げ、福岡からアジアへ発信する
福岡発の音楽レーベル「GIMMICK MAGIC」のロゴ。現在はAttractionsと村里杏が所属している
2018年4月、宮野さんは福岡を拠点としてアジアへ発信する音楽レーベル「GIMMICK MAGIC」を立ち上げた。
洋服と同じように音楽も大好きだった宮野さんは、創業当時からDJイベントやLIVEイベントを精力的に開催してきた人物。2000年代から2010年代にかけて「BINGO BONGO SOUNDS」に足を運んだ記憶がある方も多いのではないだろうか。
宮野
次々に新しいことを発信し続ける宮野さんの原動力は何なのか。実は今から約6年前、ある媒体で宮野さんをインタビューしたことがあった。その頃の彼は、「大名を日本でいちばんイケてる街にしたい」と熱く語り、自身を大名の広報部長と称していた。
コロナ禍の現在も、年に数回アメリカへ買付に行っているという宮野さん。このインタビューの1週間後もアメリカへ旅立っていった
宮野
ただ、ある時期から“町おこし”的な動きが加熱し始めたんですよね。福岡が注目を集め始めて、いろんな人が入ってきて。そこにはお金もついてくる。お金儲けを考えず純粋にやってきた僕たちのような人間からすると、同じようには見られたくなくて、福岡をこうしたい、大名をこうしたいと言わなくなっていきました。
もちろん、今でも大名は大好きですし、大名をいちばんにしたいという想いはあります。ただ、いろんな人から話を聞きたいと言われても積極的になれなくなっていました。イベントも然りで、同じようなイベントが増えてきて、だったら自分がしなくてもいいかなって。それよりも、人がしないことをやって、世の中をよくしていきたいという気持ちが強くなっていったのです
30年ほど前、住宅が中心だった大名に個性的なショップが増えてきたのは、天神からのアクセスの良さや家賃の安さなど、開業しやすい環境があったことも大きかった。そこに大手が介入し家賃が上がったりしたものの、天神や博多駅の商業施設に移っていくなど、大名の街は盛衰を繰り返してきた。
宮野
こうすればもっと良くなるのに!を一つひとつカタチにしてきた
2021年4月にオープンした「CAPERS」。ビンテージ(古着)とアンティーク(雑貨)の両方を扱う
ふと、宮野さんが言った。
智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。
宮野
僕はこの大名という街に育ててもらいましたし、この街がなければ今の自分はありません。だからこそ、ここ最近は大名の街や、大名に集まる若い子たちに何かを残していきたいと考えるようになってきましたね
大名で20年。何百人というスタッフと出会い、自分の会社のみならず、たくさんの若者と出会ってきた宮野さん。ここ数年はZ世代の可能性とポテンシャルに出会えたことがすごく嬉しいのだそう。
キッズ向けのアイテムも充実する「BINGOBONGO」。古着を楽しむ世代は着実に広がっている
宮野
一方、新型コロナウイルスの感染拡大の最中、この1年ほどでファッションや音楽の世界はとんでもない世代交代が行なわれていると感じているという。
宮野
これからはミレニアル世代が大名を面白くしていく
宮野さんは、2021年4月、大名に新店舗「CAPERS」をオープンさせたが、20歳の男性を店長に抜擢し、スタッフもその世代で固めたのだ。
宮野
「CAPERS」のコンセプトは“ビンティーク”。ビンテージとアンティークをかけ合わせた造語だ。
「CAPERS」で取り扱うColemanのランタンは入荷するとすぐに売り切れる人気商品
宮野
かつて、古着といえば一部の洋服好きが好んで着ていたものだったが、現在はメルカリなどが台頭し、20年前に古着ブームを経験した世代の子どもたちが興味を持つようになったこともあり、古着への抵抗感はかなり薄らいでいるという。ブームが再燃している今だからこそ、古着を通して若者が成長できると、宮野さんはいう。
宮野
プロスポーツの世界を見ても、活躍できている若者はごくわずか。スポーツもファッションも美容も料理も、どんな世界もその業界が盛り上がっていないと、若くしていいチャンスを得ることはできません。古着ブームの今、古着を通して若い子たちが成長できる機会も多いはず。その波に乗って欲しいし、そのことが大名をさらにいい街にしていく1つの原動力になっていくのではないでしょうか
大名らしさを残しつつ、次世代へ継承していく
2004年にオープンした「Ace in the Hole」はレディース専門の古着店。ユニークな内装も話題で、全国にファンを持つ
長年、大名を拠点に活動してきた宮野さん。これからの大名、さらには福岡についても思いを馳せる。
宮野
新型コロナウイルスが収束すれば、再びインバウンドの動きは盛んになるでしょう。インバウンドの観光客が増えたことで、さまざまな問題も起きましたし、“インバウンドお断り”のようなお店も出てきてしまいました。街の文化を守りつつも、オープンマインドでミックスしていく“ウェルカム精神”を守り続けてほしいと願いますし、どこにでもあるような街にはなって欲しくないですね。
天神ビッグバンによって、天神には新しい商業施設がたくさん建設されていきます。それらの施設も、どこにでもあるような施設で目先の利益を追うのではなく、この街にしかない地域性を感じさせてくれるものになってほしいと思っています。大名の子たちが天神の商業施設に入るのもいいかもしれません。そのことがきっかけで、天神から大名に行ってみようかなという流れができたらいいですね
大名が街として注目され現在に至るまで30年以上に渡り大名で遊び、仕事をし、大名の広報部長として盛り上げてきた宮野さん。この街に育ててもらったからこそ、守り受け継いでいかなければいけないという想いを強く持ち続ける。都市部の再開発が進むなか、何を守り受け継いでいくべきか、各々が考え行動していかなければならない時期がきている。
<データ>
BINGOBONGO GROUP
http://bingobongogroup.com