ランキングで知る福岡の実力④

【スイーツ激戦区福岡市】ケーキ店・ケーキ屋の人口比ランキング1位の理由

人口の増加が続く成長都市である福岡市は、若者が多く、住みやすいだけでなく、ケーキ店をはじめとする洋菓子店も多い、全国有数の〝スイーツ激戦区〟でもあります。なぜ、福岡市にケーキ店などの洋菓子店が多いのでしょうか?  福岡・博多の食文化の歴史も振り返りながら、謎解きに挑みます。

ケーキ店の人口比1位、洋菓子店で同2位。全国有数の〝スイーツ激戦区〟福岡市

ケーキ店の人口比で第1位、洋菓子店舗で同第2位――。福岡市が全国20政令指定市に東京都区部を加えた21大都市を対象にNTT『iタウンページ』『2015年国勢調査』を基に調べた結果、福岡市は全国有数の〝スイーツ激戦区〟であることがわかった。

市内に108店舗のケーキ店が店舗を構える福岡市は、人口10万人あたり7.0店で第1位。また、洋菓子店全体でも248店舗の福岡市は、首位だった神戸市の16.4店に僅差で迫る16.1店で第2位に付けた。

■スイーツの店舗数(人口10万人あたり)とスイーツの価格

(出典:Fukuoka Facts)

ケーキ店、洋菓子店ともに〝西高東低〟の傾向が見られる中、なぜ福岡市は全国有数の〝スイーツ激戦区〟になったのだろうか?

この点について、一般社団法人福岡県洋菓子協会の会長である三嶋隆夫・フランス菓子16区オーナーシェフは、「シュガーロードにみられるようにスイーツに対する〝素地〟がある土地柄だと思う」との見方を示す。


三嶋隆夫・フランス菓子16区オーナーシェフ

うどん、そば、饅頭などの粉物食文化の発祥地・博多。『シュガーロード』長崎街道が育んだ菓子文化

まずは、福岡・博多とお菓子の歴史的な関係をひもときながら、考えてみたい。

日頃の食生活でなじみ深いうどんやそば、まんじゅうなどの粉物食の日本における発祥地は博多といわれる。

鎌倉時代中期、臨済宗の高僧だった聖一国師が中国での修行から帰国する際に画期的な製粉技術を持ち帰ったことで新たな粉物食文化をもたらしたとされる。

博多祇園山笠の生みの親としても知られる聖一国師は、托鉢時に親切にもてなした茶店の店主に『甘酒饅頭』の蒸し製法を教え、まんじゅうのルーツになったという。

聖一国師が開山した承天寺には、『山笠発祥之地』の石碑と共に『饂飩・蕎麦発祥之地』の石碑と『饅頭発祥之地』の石碑が建つ。


承天寺境内には、『饂飩・蕎麦発祥之地』と『饅頭発祥之地』の石碑が並ぶ

大航海時代を迎えて、ポルトガル人やスペイン人との南蛮貿易が盛んになると、カステラや丸ボーロなどの南蛮菓子も西日本一帯へ伝来した。

江戸時代を通じて海外との窓口だった長崎・出島に荷揚げされた品々は、佐賀を経由して小倉へ続く長崎街道を経て、京・大坂、江戸へと運ばれた。

海外の文物や技術、文化も運んだ長崎街道沿いでは、当時大変に貴重だった砂糖や菓子の製法なども手に入りやすかったところから、〝シュガーロードとも呼ばれた。そして、この街道沿いには全国的な銘菓が生まれて、今日に受け継がれている。

黒いダイヤと白い砂糖で、筑豊地方には〝お菓子王国〟が誕生した

ひよこ、千鳥屋、さかえ屋、チロルチョコ……。これらの菓子メーカーは、長崎街道沿いの筑豊地域を発祥、もしくは筑豊進出で成長した企業だ。

室町時代中期に石炭が発見された筑豊地域は、江戸時代中期から福岡藩と小倉藩は炭鉱開発を各藩で進めた。明治期に国内最大の炭鉱地帯となった筑豊炭田は国内炭の半分以上を掘り出した実績もあり、戦前・戦中、戦後復興期に日本一の石炭産出量を誇った。

『黒いダイヤ』と称された石炭の採炭現場で過酷な肉体労働に従事した炭坑労働者にとって、シュガーロードで培われたお菓子はエネルギー源であり、疲労回復面でも好まれた。お菓子づくりは活況を呈して、〝お菓子王国〟の体をなした。

その後、石炭産業の衰退による〝地盤沈下〟もあって、ひよこや千鳥屋、さかえ屋などの〝筑豊組〟は成長著しい福岡都市圏へと進出した。

そして、博多を発祥とする石村萬盛堂、如水庵、明月堂などの〝地元組〟との間で市場競争が展開されることとなった。


駅やバスターミナルの土産売場には、福岡発の菓子類が並ぶ

店舗数の多さに加え、福岡市の洋菓子が安いのには、理由がある

ケーキ、シュークリーム、プリンの最安値は福岡市だった。福岡市が道府県庁を所在とする政令指定市と東京都区部の16大都市を対象に『小売物価統計調査』(動向編)(2018年平均:総務省統計局調べ)を基に調べた結果、福岡市は人口比でケーキ店や洋菓子店が多いだけでなく、価格面でも安いことが明らかになった。


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なぜ、福岡市は、ケーキをはじめとする洋菓子が安いのか?

この背景の一つとして、大手洋菓子メーカーのシャトレーゼ(山梨県甲府市)の九州進出が挙げられる。2009年秋に福岡・佐賀両県で一気に10店舗をオープンさせたシャトレーゼは、ショートケーキをはじめ洋菓子を100円台から品ぞろえして新規参入を図った。

地元の菓子業界にとって〝黒船来航〟ともいえるシャトレーゼの登場は大きなインパクトを与えた。〝お菓子戦争〟勃発と騒がれた出店攻勢や価格競争の末、地元菓子メーカーのさかえ屋がシャトレーゼの傘下に入るという業界再編と共にスイーツの〝価格破壊〟も起きた。

福岡市の洋菓子業界は今日、大量生産と店頭販売を強みとするチェーン店型の洋菓子メーカー同士の競争に加え、オーナーシェフが腕を振るう個店間でも競い合っている。

ケーキをはじめとする洋菓子の消費者にとって福岡市は、リーズナブルに味わうことができる〝おいしい〟都市だといえる。

福岡市内の〝食・美〟マーケットを支えるのは、お金・時間・人数の三拍子そろった〝福岡女子〟!?

エステサロンの女性人口比で第1位、ヨガ教室で同第1位、レストランで同第1位、婦人服店で同第1位、ネイルサロンで同第2位(いずれも21大都市中:出所『Fukuoka Facts』)……。

ケーキ店をはじめとする洋菓子店も含めた〝食〟〝美〟のマーケットが元気なのも、福岡市の特徴といえる。

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ビジネスマンらの人気も集める、福岡市の〝住みやすさ〟の要因は何?の回でレポートしたように、食料物価や総合物価が21大都市で最安は、福岡市だった。

福岡アジア都市研究所『フクオカグロース2020』によると、福岡市のエンゲル係数23.7は主要12大都市比較(2014~2018年平均値)で最も低く、可処分所得は多い。

一方、職住近接のコンパクトシティである福岡市における通勤・通学の片道平均時間は7大都市圏で一番短く、その分〝可処分時間〟も多い。

福岡市は、若い独身女性の多い都市でもある。福岡市がまとめた『子どもに関するデータ集』によると、2015年の国勢調査時点で25~39歳の実数は、女性が男性よりも1万8728人も多い。

また、女性の未婚率も25~29歳で61.6%(全国平均58.8%)、30~34歳で39.2%(同33.6%)、35~39歳で28.3%(同23.3%)と、いずれも全国平均を上回っている。

福岡市において、洋菓子をはじめとする食文化や美容マーケットを支える消費者として、お金と時間があり、さらに人数も多い25~39歳の独身女性である〝福岡女子〟の存在は大きい。


人気のスイーツが、雑誌や書籍で紹介されることも多い(『福岡甘党図鑑』(聞平堂発行)より)

菓子メーカー・個店の研鑽があって、洋菓子文化の花が開く

粉物食文化の福岡・博多への伝来をはじめ、シュガーロードが独自の菓子文化を育み、さらに筑豊炭田の隆盛でお菓子王国を生み出して、今日に至っている。

福岡市内のお菓子市場を高級店、機械生産のリーズナブル店、個性派店の三区分でとらえる中村哲・中村調理製菓専門学校校長は、「若い独身女性の多い福岡市は、洋菓子のお客さんも多く、洋菓子店が多いので洋菓子職人の養成校も多い都市である」と分析する。

中村哲・中村調理製菓専門学校校長


中村調理製菓専門学校では、洋菓子職人を目指す数多くの若者が学ぶ

消費者としての福岡女子の存在だけでなく、洋菓子の作り手となる人材の供給面でも充実している。

大手チェーン店型の菓子メーカー同士やオーナーシェフ経営の個店間で切磋琢磨する福岡市の洋菓子業界は今後、さらにレベルを高めて合っていくことで洋菓子という食文化においても全国的に注目を集める存在になるものと期待される。

<参照サイト>
『Fukuoka Facts~データでわかるイイトコ福岡~』
福岡アジア都市研究所『フクオカグロース2020 福岡市2000年代の進運』
総務省統計局『小売物価統計調査』(動向編)
福岡市『子どもに関するデータ集』
シュガーロード連絡協議会

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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