飛田コラム最終回

飛田コラム 最終回

書きながら考え,考えながら書いてきたこと ― 福岡という街との関わりを見据えて

考えながら書き、書きながら考える──。書評から始まり、インタビューや短信へと形を変えながら続いてきた飛田コラムは、今号で一区切りを迎えます。「正解」を示すのではなく、立ち止まり、違和感を抱え、問いを持ち続けること。その営み自体にどんな意味があったのか。福岡という街との関わりを軸に、4年間の思考と試行を振り返ります。

 突然ですが,今回の記事が私の連載最終回です。これまで書評で2年間,インタビューと飛田短信でおよそ2年間。合計4年間にもわたり,フクリパ編集部の皆さまから月に1回記事を執筆する機会を頂きました。厚く御礼申し上げます。

 

 さて,この連載をどう締めくくればいいのか,正直まだよく分かりません。これまでの書評もあればインタビューもある。街の話もあれば,ビジネスの話も,教育の話もある。振り返ってみても筋が通っているようでどこか散らばっている感じもある。

 

 でも,改めて読み直してみると,私がその時々に感じていた問題意識を書評やインタビュー,あるいはさまざまな記事に書いてきたのだなと。私自身が何か1つの答えに向かって書いてきたわけではなく,考えながら書き,書きながら考え,途中で何度も立ち止まってきたことが約4年間の連載につながったように思います。本当にとりとめもなく書いてきました。

 

 最終回は改めてこの連載でお伝えしたかったことを書いてみます。最後までお付き合い頂けると幸甚です。

 

 

 

書評を書いた前半2年間

 今から4年前。書評を書き始めた頃,そこには伝えたいメッセージがあったわけではありません。SNSでたまに書いていた書評(素晴らしい本は批評とともに書影を写していました)を見てくださったことを契機に,この機会を頂くことになりました。

 

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 ただ,書く時に心がけたのは,選んだ書籍の筆者が伝えたいことに寄り添いつつも,どこで自分のオリジナリティを発揮するか。広く読まれるフクリパでの記事ですから,もしかしたら「それっぽい」ことを書こうとしてきたかもしれません。こうした時に「正解思考」のようなものに囚われてしまいそうになりました。そうした思考が透けて見えるのはどうかなと。

 

 私が働く学校に限らず,とかくこの社会は正解を求められる場面が多い。目標を聞かれる。成果を示すことを期待される。それ自体が悪いとは思わないけれども,これまでその前提に少し息苦しさを感じながら生きてきました。だからこそ,この書評で心がけたのは,私の目線で,本を通じて社会の「余白」に目を向けるということでした。「こうしなければならない」という断定よりも,「こう考えられる」あるいは「そう考えなくてもいいかもしれない」という余白。答えはどこかにあるかもしれないけれども,それを今すぐ追い求めるのではなく,じっくり向き合いながら,自分で定めた問いと答えに少しずつ近づいていく感覚

 

 今振り返れば,最初の2年間はその「余白」を自分なりに確認する作業だったのだと思います。誰かを説得するためというより,「自分がどこで引っかかっているのか」を確かめるために本を読み,記事を書いていた。本を読むという行為は他者の記述を読み,理解することで,自分の価値観や違和感に気づく。それを文章にすることを通じて,自分の中に腑に落としていく。そんな時間を過ごさせてもらったように感じています。

 

 

 

インタビューを中心に記した後半2年間

 それに対して,前回まで2年近く続けてきた「福岡新風景」では福岡で暮らす,福岡で働くヒトに焦点を当て,さまざまな話を伺ってきました。そして,そこで出会ってきた人たちはもっともらしい「正解」を特別に意識して生きてきたわけではなかったように感じます。計画を立てて,その通りに進んできた人はほとんどいなかった。

 

「やりたかった」というより,「そうなっていた」。

「選んだ」というよりも「引き受けた」。

 

 その語りを聞きながら,働いたり,暮らしたりすることが,整然とした理屈があるというよりも,社会や他者との関わりといった環境を通じてしなやかに変化しながら行われていることを感じました。失敗を乗り越えた話でも,成功談でもなく,途中で迷い,止まり,遠回りをしながら,それでもなぜか続いてしまっている人生。私はそこに,妙な説得力を感じていました。

 

乗富鉄工所

インタビュー連載初回:福岡新風景:経営者と語る福岡の魅力 中小企業からアトツギベンチャーへの進化:メタルクリエイターが創る地域企業の未来│乗富鉄工所

https://fukuoka-leapup.jp/biz/202401.22675

 

 そうした中で,福岡という街について考えるようになったのも,この場を通じて出会った方々との対話の中での発見でした。また,日頃各地を巡っている中で,九州という島の中で福岡が中心に見えるけれども,他の都市や地域とつながりを得ることによって生きていることを再確認するようになりました。この連載では「福岡で暮らす」ことを糸口に,都市と地方,それは時に東京と福岡であり,福岡と各地のまちとの関わりを考えることを意図的に行ってきました。私の書く力が足りないがため,そうした意図がどこまでお伝えできたかはわかりませんが。

 

 福岡は不思議な街です。外から来た人を受け入れる空気がある一方で,初めて来た人でも,完全なよそ者のままでいなくて済む。一方で,長い時間をかけて築かれてきた関係性や,簡単には見えない内側の構造も確かに存在しています。開かれているようでいて,すべてが流動的なわけではない。固定的なようでいて,完全に閉じているわけでもない。アジアの玄関口,大陸への出口として,長い間栄えてきた歴史や伝統がそうさせているのかもしれない。

 

 ただ,最近そのバランスが少しずつ変わってきているようにも感じます。4年間で街の景色も大きく変わりました。街は便利になり,洗練され,人も増えている。その一方で,余白やうまく言葉にできない違和感を抱えたままでいられる空間が見えにくくなってきているのではないかと感じることがあります。

 

 

 

ここで得たことを私に引き寄せてみると

 私が生業としている研究や教育について考えるときも,同じ感覚があります。

 

 目標を提示すること。

 正解を示すこと。

 評価すること。

 

 どれも必要な場面はあります。けれども,それだけが学びではありません。

 

 人は考えてから動くのではなく,動いたあとでようやく考え始めている。形にしようとして,うまくいかなくて,振り返って,言葉にしてみて,少しだけ次が見える。その繰り返しの中でしか,理解は生まれない。最初から正解が用意されていると人は安心するかもしれないけれど,考える余地は残らない

 

 私は,この連載を通して何か大きな主張をしたかったわけではありません。書評とインタビューを行き来しながら,「こういう考え方や生き方も,どうやら成立しているらしい」という事実をただ書き留めてきただけです。そして,記事から透けて見える筆者や登場人物,そしてインタビューに応えてくださった方々の考えを通じて,どんな視点からモノゴトを見つめても良いということを伝えたかった。そこに自分らしさがあるのだと。

 

 不確実な社会のなかで必要なのは,完璧な答えではなく,問いを持ち続けられることであり,試し続けられる場なのかもしれません。これまでもそうであったように,これからも福岡という街がそうであることを期待したいし,それができることがこの街の魅力だったのかもしれない。

 

 今は果たしてどうでしょう。正直,息苦しさを感じることがあります。何かを発言し,行動し,自由でいられることから遠くなりつつある。かつてそうしていた人たちも,社会の中心に据えられることで,「答えらしきもの」に囚われているのではないか。

 

 

 

4年間の歩みを振り返る

 この連載を続ける中で「考えがまとまったから書く」のではなく,「書いているうちに、少しだけ考えが動く」という時間を何度も経験してきました。これも,その時々に出会った人や言葉に引き留められていたのかもしれません。それでも,引き留められた場所で歩みを緩め,自分なりに考え直し,文章にするというプロセスには確かな意味があったように思います。多くの学びがあった。

 

 不確実性が高いとされる社会の中で,すぐに答えを出すことやうまく説明することが求められる場面は少なくありません。けれども,答えを保留したまま考え続けることや,違和感を抱えたまま関わり続けることも本当は同じくらい大切なのではないでしょうか。

 

 この4年間の記録はしばらくこのWeb上に残ることでしょう。過去の記事を読んだとき,誰かにとって「今すぐ答えを出さなくてもいい」,「もう少しこの場所にとどまってもいい」,「いろんな生き方がや考え方がある」,そう思えるキッカケのひとつになっていたとしたら幸いです。

 

 うーん。どうもしっくり来ない。

 

 ここで一区切りとなりますが、まだ書き足りないことや書ききれなかったことも多く残っています。それも含めてこの4年間の記録なのだと思っています。

 

 ここまでお付き合いいただき,ありがとうございました。

 

 

 

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福岡大学商学部 准教授
飛田 努
福岡大学商学部で研究,教育に勤しむ。研究分野は中小企業における経営管理システムをどうデザインするか。経営者,ベンチャーキャピタリストと出会う中でアントレプレナーシップ教育の重要性に気づく。「ビジネスは社会課題の解決」をテーマとして学生による模擬店を活用した擬似会社の経営,スタートアップ企業との協同,地域課題の解決に向けた実践的な学びの場を創り出している。 著書に『経営管理システムをデザインする』中央経済社がある。

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