史跡や名勝など件数で奈良、京都に次いで第3位の福岡県

出所:文化庁『史跡名勝天然記念物』(2025年9月1日現在)
古代から中国大陸や朝鮮半島との交流窓口だった福岡県は、歴史豊かな土地だ。
福岡県の史跡・名勝・天然記念物の総数129件は、奈良県149件、京都府142件に次いで全国で3番目となる。
文化庁『史跡名勝天然記念物』(2025年9月1日現在)によると、日本国内における国指定の史跡・名勝・天然記念物は、史跡1,911件(うち特別史跡64件)、名勝432件(うち特別名勝36件)、天然記念物1,040件(うち特別天然記念物75件)の特別指定を含む集計で合計3,383件だ。
このうち、福岡県には、史跡97件(うち特別史跡4件)、名勝8件(うち特別名勝0件)、天然記念物24件(うち特別天然記念物2件)の合計129件がある。
なお、福岡県には国宝12件があり、47都道府県のランキングでは第12位だった。
また、国宝を含む重要文化財は220件であり、同第11位となっている。

出所:文化庁『国宝・重要文化財都道府県別指定件数一覧(2025年10月1日現在)』

出所:文化庁『国宝・重要文化財都道府県別指定件数一覧(2025年10月1日現在)』
史跡・名勝・天然記念物、重要文化財・国宝とは何か
史跡とは、文化財保護法によると、「貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅、その他の遺跡で、我が国にとって歴史上または学術上価値の高いもの」のうち、重要なものを指す。
名勝については、同じく「庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他名勝地で我が国にとって芸術上又は観賞価値の高いもの」のうち、重要なものと規定されている。
天然記念物に関しても同じく「動物、植物及び地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いもの」のうち、重要なものと定められている。
一方、重要文化財とは、有形文化財(建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡・典籍、古文書、考古資料などのうち価値の高いもの)のうち、重要なものとして指定した文化財のことだ。
そして、国宝とは、重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものが指定される。
全国に5館しかない国立博物館とは一体何か

出典:九州国立博物館パンフレット『海の道、アジアの路』(画像提供:九州国立博物館)
かつて東京国立博物館、奈良国立博物館、京都国立博物館、九州国立博物館を運営していた独立行政法人国立博物館は、2007年4月、独立行政法人文化財研究所と統合し、独立行政法人国立文化財機構となっている。
現在、同機構は、5つの国立博物館(東京国立博物館、奈良国立博物館、京都国立博物館、九州国立博物館、皇居三の丸尚蔵館)に加えて、東京文化財研究所、奈良文化財研究所、アジア太平洋無形文化遺産研究センターの計8施設を運営する。
つまり、国立博物館とは、かつて独立行政法人国立博物館が所管し、現在は独立行政法人国立文化財機構が運営する博物館である。
なお、「国立」を冠する博物館としては、国立科学博物館(運営:独立行政法人国立科学博物館)、国立民族学博物館・国立歴史民俗博物館(同:大学共同利用機関法人人間文化研究機構)、東京国立近代美術館・京都国立近代美術館・国立国際美術館(同:独立行政法人国立美術館)、国立近現代建築資料館(文化庁所管)などがある。
東京・奈良・京都の国立博物館と皇居三の丸尚蔵館

左上:東京国立博物館、右上:奈良国立博物館、左下:京都国立博物館、右下:皇居三の丸尚蔵館(画像は各館Webサイトから引用)
東京国立博物館
1872年に創設された東京国立博物館は、日本最古かつ最大の博物館だ。本館や表慶館、東洋館、平成館、法隆寺宝物館の5つの展示館と資料館がある。
収蔵品は国宝89件、重要文化財653件を含む総数12万1,156件(2025年3月末現在)となっている。
2024年度の博物館年間来館者は256万3,820人(うち平常展120万6,375人、うち特別展135万7,445人)だ。
奈良国立博物館
1895年に開館した奈良国立博物館は、仏教美術を中心とした文化財の収集・保管・研究・展示を行い、本館や本館付属棟、東新館、西新館、地下回廊という5つの展示施設がある。
収蔵品は国宝13件、重要文化財114件を含む総数1,952件(同)となっている。
2024年度の博物館年間来館者は55万2,359人(うち平常展23万2,841人、うち特別展31万9,518人)だ。
京都国立博物館
1897年に開館した京都国立博物館は、主に平安期~江戸期の京都の文化財を収集・保管・展示する。
収蔵品は国宝約30件、重要文化財約200件を含む総数9,078件(同)となっている。
2024年度の博物館年間来館者は33万8,444人(うち平常展20万6,375人、うち特別展18万6,400人)だ。
皇居三の丸尚蔵館
昭和天皇崩御後に寄贈された美術品を保存・研究・公開する目的で1993年、宮内庁所管の博物館『三の丸尚蔵館』として開館した。
2023年に宮内庁から国立文化財機構に移管されて同年、建て替えられた第1期棟が開館し、『皇居三の丸尚蔵館』に改称した。収蔵品は国宝10件、重要文化財13件を含む総数66件(同)となっている。
2024年度の博物館年間来館者は28万6,180人(平常展のみ、特別展ナシ)だ。
九州国立博物館は国宝4件・重文53件を含め1.8万件収蔵

画像提供:九州国立博物館
東京国立博物館、奈良国立博物館、京都国立博物館に次いで、『国立博物館』と称する施設として、国内4カ所目となる九州国立博物館は2005年10月16日に開館した。
今年(2025年)、開館20周年を迎えた九州国立博物館は、日本初の歴史物語とされる『栄花物語』の現存最古の写本をはじめ、狩野派の祖・狩野正信の水墨画『周茂叔愛蓮図』など国宝4件(2025年10月末現在)、重要文化財53件(同)を含む総数1万8,292件(2025年3月末現在)を収蔵する。
2024年度の博物館年間来館者は37万4,180人(うち平常展23万2,841人、うち特別展8万8,481人)だった。
1世紀余りの歴史をもつ東京・京都・奈良の3つの国立博物館は美術系博物館だ。
これに対して、「日本文化の形成をアジア史的観点から捉える博物館」を基本理念に掲げる九州国立博物館は、歴史系博物館としての顔を持つ。
九州国立博物館は、国立文化財機構が運営する国立博物館の中で最大の敷地面積を持ち、単一建物としては3万平方メートル超という最大の延床面積を誇る。
建物は、160メートル×80メートルの長方形であり、国際競技の可能なサッカー場が一面丸ごと入るサイズだ。
また、屋根は蒲鉾型となっており、一番高いところは高さ36メートルにも及ぶ。
開館20周年の九州国立博物館は累計来館者2,000万人へ

出典:九州国立博物館パンフレット『海の道、アジアの路』(画像提供:九州国立博物館)
九州国立博物館が開館すると、一大ブームが巻き起こった。人々が押し寄せた結果、開館1周年の来館者数は220万人を記録した。
2007年10月31日には、天皇・皇后両陛下が常設展を視察され、翌2008年8月14日には来館者数が500万人超えを記録した。
さらに同年12月13日、九州国立博物館において日中韓首脳会議(麻生太郎首相、温家宝国務院総理、李明博大統領)が開催された。
2012年10月9日に来館者数が1,000万人を突破し、2017年8月19日には1,500万人も超えた。
2025年3月末現在で九州国立博物館の累計来館者数は1,940万人余りであり、同年11月20日現在において2,000万人突破までカウントダウン状態にある。

出典:九州国立博物館パンフレット『海の道、アジアの路』(画像提供:九州国立博物館)
九州国立博物館の開館20周年を迎えての感想をはじめ、これまでの歩みや今後の方向性などについて、富田淳館長は、次のようにコメントする。
富田淳館長
九州国立博物館は、開館20周年を迎えることができました。
これまでご支援いただいたすべての皆様に、心より感謝申し上げます。
また、「九州百年の夢」の実現に尽力された方々の熱い思いを、今あらためて感じております。
当館のコンセプトは「日本文化の形成をアジア史的観点から捉える」ことです。
開館以来、「時間を旅する博物館」として、新しい世界の見方に出会える「時間の旅」を提供してまいりました。
九博での体験を通じて、皆様の人生がより豊かになれば、これほど嬉しいことはありません。
多彩な文化は、出会い、融合することで、新たな文化を生み出していきます。
九博は「知のプラットフォーム」として、文化財との出会いを広げ、皆様に寄り添い、未来へはばたくための新たな力となることを目指し、これからも皆様とともに次の一歩を歩んでまいります。

九州国立博物館の富田淳館長
明治初期に太宰府博覧会。九博の祖「鎮西博物館」構想

左:『太宰府博覧会出品目録』(部分)明治6年(1873)福岡·太宰府天満宮、右:鎮西博物陳列館平面明治26年(1893)福岡市総合図書館
出典:九州国立博物館開館20周年記念特集展示『太宰府博覧会と鎮西博物館─明治時代の博物館構想─』
明治初期、福岡・太宰府において、博物館誘致運動の先駆けともいえる博覧会が開かれた。
太宰府市発行『太宰府市史通史編別編』によると、1873年~1875年の3回にわたって、西高辻信厳氏、小野隆助氏、高原謙次郎氏らによって太宰府博覧会が開催された。
その後、太宰府博覧会で育まれた構想は、江藤正澄氏や西高辻信厳氏、吉嗣拝山氏らの手によって、菅公千年祭を記念した『鎮西博物館』建設計画へと発展した。
そして1893年10月2日、井上馨内務大臣から設置許可が下りた。
もっとも、翌年に勃発した日清戦争によって計画は、凍結されてしまう。
1899年2月7日、福岡市を訪れた岡倉天心氏は福岡日日新聞(現西日本新聞)の取材に応じた。
古来外交の要衝だった九州の歴史的特色を指摘した上で、古器物を単なる美術品としてではなく、歴史研究上の貴重な資料として大切に保存するためにも岡倉氏は、『九州博物館』設置の必要性を説いた。
1927年2月の第52回帝国議会において、山内伴造氏ら福岡県選出の代議士は、『九州博物館ニ関スル建議案』を提出し、衆議院本会議において可決し、政府に提出された。

岡倉天心氏による『九州博物館』設置の必要性を説いた談話を掲載した1899年2月8日付の福岡日日新聞の紙面
108年ぶりの国立博物館は産学官の連携で誕生

画像提供:九州国立博物館
1949年、福岡県が国立博物館九州分館誘致を決定し、文部省に陳情を行った。
1967年11月、福岡県が国立歴史博物館の誘致を開始。翌1968年には、福岡県と民間による官民一体の『国立九州博物館設置期成会』が発足した。
1971年、太宰府天満宮からの寄贈分14万平方メートルを含め、約17万平方メートルの博物館建設用地を福岡県太宰府町(現太宰府市)に確保する。
1988年3月、福岡県議会が『九州国立博物館誘致対策調査特別委員会』を設置した。
翌4月には、つくし青年会議所が『九州アジア国立博物館を誘致する会』
を発足。
さらに1989年5月、太宰府市が『太宰府市国立博物館誘致推進会議』を立ち上げている。
同年8月、九州選出の自民党国会議員による『九州国立博物館設置促進国会議員連盟』も発足した。
1993年11月、福岡県が『九州国立博物館設置促進会議』を設置し、翌1994年6月に文化庁が『新構想博物館の整備に関する調査研究委員会』を発足させた。
そして1996年3月、文化庁が新構想博物館の設置候補地を福岡県太宰府市とすることを決定する。
1999年6月、国と福岡県は、『九州国立博物館(仮称)設立準備専門家会議』を設置し、2001年4月に国が『九州国立博物館(仮称)設立準備室』を設置した。
2002年4月、福岡県と財団法人九州国立博物館設置促進財団が共同で建設工事に着工し、2005年10月16日に九州国立博物館の開館に至っている。
いま注目される文化観光拠点施設としての博物館の可能性

出典:文化庁『博物館総合サイト』博物館について
1908年に完成した五大監獄の一つであり、赤レンガ造の重要文化財である『旧奈良監獄』がラグジュアリーホテルに生まれ変わる──。
2018年1月、当時の安倍晋三首相による施政方針演説において、『文化財保護法』改正を踏まえて、「日本が誇る全国各地の文化財の活用促進」について言及した。
文化財保護法の改正に先立ち、2017年に従来の『文化芸術振興基本法』は『文化芸術基本法』となり、観光やまちづくり、国際交流、福祉、教育、産業などの関連分野も同法の範囲に取り込まれた。
翌2018年、博物館行政が文部科学省から文化庁に移管されている。
さらに2020年に成立した『文化観光の推進に関する法律(以下、文化観光推進法)』では、「文化観光拠点施設への国内外からの観光客の来訪を推進し、豊かな国民生活の実現と国民経済の発展に寄与する」ことが謳われている。
文化観光推進法では、全国に5,766ある博物館(2024年度文部科学省社会教育調査中間報告)についても文化観光拠点施設として注目している。
いま、国を挙げて各地の文化財を有力な観光資源として、観光に伴う各種の活動や交流を通じて地域振興や地域活性化を図る方向へ大きく舵を切っている。
「時間を旅する博物館」を打ち出す九州国立博物館は、21世紀に登場した『国立博物館』であり、長年にわたる産学官の連携で誕生したという経緯をもつ博物館だ。
今回、開館20周年を迎えた九州国立博物館では、周年記念の特別展や特集展示に加え、所蔵文化財をモチーフにした20周年記念グッズも開発・販売し、すでに売り切れとなった商品も出ている。
今後は、地域に「開かれた博物館」として、地元企業との連携もさらに深めていく。九博ブランドを活用した商品開発や企画提案を広く募ることで、新しいコラボレーションの可能性を探っていく考えだ。
累計来館者2,000万人という大台を迎える九州国立博物館が、これからどのような創造的チャレンジに取り組んでいくのか。その動きから目が離せない。
施設概要
■所在地:福岡県太宰府市石坂4‐7‐2
■用途:博物館
■事業主体:文化庁、福岡県、九州国立博物館設置促進財団
■階数:地上5階・地下2階
■敷地面積:15万9,844平方メートル
■建築面積:1万4,623平方メートル
■延床面積:3万675平方メートル
■着工:2002年4月
■開館:2005年10月16日
■備考:最高高36.1メートル
参照サイト
九州国立博物館Webサイト
https://www.kyuhaku.jp/
独立行政法人国立文化財機構Webサイト
https://www.nich.go.jp/
『九州国立博物館誘致運動に関する資料─運動の経過と解題─』
https://www.city.dazaifu.lg.jp/uploaded/attachment/10945.pdf
文化庁『国宝・重要文化財都道府県別指定件数一覧(2025年10月1日現在)』
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/94277401_01.pdf
九州国立博物館パンフレット『海の道、アジアの路』
https://www.kyuhaku.jp/pdf/pamphlet_jp.pdf
文部科学大臣『独立行政法人国立文化財機構の令和6年度における業務の実績に関する評価』
https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/pdf/94263401_03.pdf
皇居三の丸尚蔵館『国宝・重要文化財への指定が答申されました』
https://share.google/taZyjYPBh5g4Pacge
文化庁『博物館総合サイト』博物館について
https://share.google/sap3eqUa58n26uNfg









