来る9月28日(日),福岡県柳川市に本社を構える乗富鉄工所で「ツクルフェス2025」が開催されます。普段は鉄工所として稼働する現場がこの日だけは地域の人々に開放され,どなたでもモノづくりを体験することができる特別な空間に変わります。
今年で3回目を迎えるこのイベント。昨年は3,000人もの来場者でにぎわいを見せました。今年はさらに多彩なワークショップや飲食ブースが登場し,柳川の食文化を発信する「タベルフェス」も前日に開催することが決定しました。秋の柳川を代表するイベントになりつつある取り組みは,大人も子どもも楽しめる一日になりそうです。
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『ツクルフェス』のキーワードは、その名の通り「ツクル」(作る,造る,創る)。乗富鉄工所の核となる技術である溶接の本格的な体験,日用品やアクセサリーなどの手作り感あふれるモノづくり,そしてアートや料理まで、多彩なジャンルの「ツクル」が一堂に集まります。手を動かし,自分の力でカタチを生み出す喜びを誰もが体感できる一日になるでしょう。
今回は『ツクルフェス』の運営に携わる3名の方にお話を伺いました。同社代表取締役の乘冨賢蔵さん,3年目の竹嶋海音さん,2年目の江﨑翼さんです。竹嶋さんと江﨑さんは実は筆者のゼミを卒業したOBとOGでもあります。御三方に『ツクルフェス』の魅力を伺ったとともに,「ツクル」ことがわたしたちの暮らしとどうつながっているのかをある書籍から考えてみました。
写真左より江﨑さん、乘冨さん、竹嶋さん
※竹嶋さんは「フクリパ」の大学生ライターとしても活躍してくれた存在です。
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経営者と若手社員が語る、ツクルフェスの背景
そもそもこのイベントの始まりは,アトツギ経営者の想いとある2人の従業員の入社が重なり合った2023年の春にさかのぼります。
乘冨賢蔵さんは,家業に戻ってから経営改革を進めながら,モノづくりに携わる人々が誇りを持ち,自信を持って仕事に取り組める環境づくりに邁進されてきました。そのため,「工場を開かれた場所にしたい」という思いを持っていました。地域の人と会社をつなぎ、普段は見えないものづくりの現場を知ってもらいたい。そんな思いを常々持ち続けていました。
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そうした中で,同社に新入社員が入社してきます。大学時代からインターンとして新規事業を紹介するSNSを運用していた彼女たちに対して,乘冨さんはある無茶振りをしました。「この日にイベントを開催するから,準備よろしくね」と。その無茶振りを受けた新入社員の1人であった竹嶋さんは「正直マジかと思った。運営経験もない中で、社員全員を巻き込んで形にするだけで精一杯だった」と当時を振り返ります。記念すべき第1回のイベント「乗富フェスティバル」はこうして始まりました。
一方で,竹嶋さんはこうも振り返ります。「もっといろいろとできたのではないかと。とにかくイベントを創ることが精一杯で不完全燃焼だった。次年度はどうしようと考えていたところにデザインができる人だったり,モノづくりに理解が深い人が入社してきて,もっと工夫できると思ったんです」と。こうして企画が進み, 2回目の昨年は地域の事業者やクリエイターが加わるとともに,直前で朝の情報番組で取り上げられたこともあって, 3,000人が集まる大規模なフェスへと成長しました。
会社が社会に広く開かれたことによってメンバー(従業員)の意識も大きく変わり,「来年はこうしたい」という声が自然と出てくるようになったといいます。ツクルフェスは会社と地域をつなぐだけでなく,メンバー自身の成長や挑戦の場にもなっています。
「ツクル」ことがもたらすもの:山内佑輔『つくるをほぐす』から気づく,働くこと,学ぶことで得られるもの
今回の話を伺うまでに前後して,『つくるをほぐす』という書籍を読みました。この本の筆者である山内さんは,大学職員を経て小学校教員となった経歴をお持ちです。現在は図工を中心に教えていく中で,子どもたちの学ぶプロセスを「折り紙モデル」から「砂場モデル」に移行させることの重要性を述べています。
すなわち,図工や美術では(学習指導要領では自由なモノづくりを促すアプローチもあるのに),折り紙のような正解を与えてしまうようになっているのではないかと危惧されています。「学校」で学ぶ「科目」になってしまっているから,どこかに答えがあるのではないかと考えてしまいます。私自身は絵を書くのは苦手,不器用でモノづくりもできませんから,図工や美術は大嫌いでした。
しかし,授業の中でまるで「砂場遊び」のように作っては壊し,試行錯誤しながら作るプロセスに学びがあると筆者は言います。つまり,友達や仲間と協力をしながら砂場で何かをツクルという過程の中で対話を重ねる。意見を反映させて何かを作り上げたとしても,それがうまくいくこともあれば,うまくいかないこともある。そこで行われる対話を「造形対話」と呼んでいます。
私も大学教育では実践的に商売に取り組んだり,大学生が中高生に起業家教育を行うという活動をする中で,学生同士の対話が互いを成長させていくことを実感していますが,まさにこのことだと膝を打ちました。人によって持てる言葉の数,言語化する力には差があります。一方で,言葉にできなくても形にする,周りが言語化を手伝う,そうした過程から学ぶ意味を知って、自分で学ぶようになる。学生に限らず,社会人でも同じようなことが言えるかもしれません。つまり,モノづくりは単なる生産行為ではなく,自己表現であり,共同体をつなぐ言語だと言えるでしょう。デジタル化が進み,わたしたちの生活から手仕事の機会が減るなかで「ツクル」という行為は改めて見直されています。
『ツクルフェス』のワークショップでは,子どもたちがモノづくりに挑戦し,完成した作品を誇らしげに持ち帰ります。自分の手で何かを作り上げる体験は子どもにとっても貴重です。また,地域の方々や企業が出展者として関わることで,新しいつながりやコラボレーションも生まれています。ツクルことが地域の文化や経済を豊かにし,日々の暮らしに新しい価値を加えていく。『ツクルフェス』はその力を実感できる場所とも言えるでしょう。
土曜日は「タベルフェス」が開催。2つのイベントの連動で広がる楽しみ
昨年の『ツクルフェス』柳川の食文化を発信する『タベルフェス』も開催されます。地元の会合での会話から始まった企画。「食のフェスもやろう」という話が盛り上がり,一気に実現に向けて動き出しました。会場は柳川の象徴的な建築である鶴味噌醸造のレンガ造りの文化財。ここに地元の飲食事業者が集まってイベントを開催します。
今年の見どころ・おすすめポイント
さて,今年のツクルフェスは,昨年からさらにパワーアップ。多彩な体験型ワークショップと飲食ブースが集結します。
その中でも乗富鉄工所が提供するのは溶接ワークショップ。普段はプロの技術者しか触れない道具を使い,火花が散る中で作品を作り上げる体験は迫力満点。今年は事前予約枠を拡大し,より多くの人が体験できるようになっています。竹嶋さんによれば,他のワークショップも含めて予約枠には若干空きがあるのだそう。一方で,当日いきなり申し込みしても参加できない場合もあるそうなので,事前予約をオススメされています。
乘冨さんは,熊本県南関町のヤマチクによるお箸づくり体験がオススメとのこと。自分の手で削り,磨いたお箸は持ち帰って使えるし,愛着を持って使える実用性のあるモノづくり。家族連れに人気が出そうです。
https://www.instagram.com/noridomitekkousyo (申し込みリンク)
竹嶋さんは参加される企業や店舗への取材をしていることもあり,「どれもオススメなんです」と言いながら,アーティストであるKO?SUKEさんの「自由にお絵かきワークショップ」をオススメ。感情のままに描かれる線や色彩は観客を創造のプロセスに巻き込むことになるでしょう。
※竹嶋さんが発信している出展者情報が更新されているnoteはこちら https://note.com/tsukurufes
江﨑さんは飲食ブースから。乗富鉄工所のメンバーでありながら,週1日はキッチンカーで販売する「イカ焼き」がオススメとのこと。また,後輩たちでもある福岡大学商学部・飛田ゼミが地域の食材を使った塩焼きそばやチキン南蛮をアレンジしたトルティーヤを提供します。
“ツクル”に触れて・知って・楽しむイベント『ツクルフェス2025』はさまざまな楽しみ方ができます。ぜひオススメを参考にされてください!
ツクルが持つ可能性を感じるイベントに
『ツクルフェス』いかがでしょうか?乗富鉄工所と「ツクル」をキーワードに集まる事業者のみなさんが作り出すイベント。モノづくりの楽しさ,人やモノとの出会い,地域の魅力が一体となるイベント。子どもたちは初めて触れる道具や素材に夢中になり,大人は職人やアーティストとの対話,そして愛すべきモノから新しい発見を得ることがあるでしょう。体験と味覚の両方から楽しめるイベントとして、ますます進化を遂げています。
ただし,来場するには注意が必要です!昨年,多数の来場者が来られたこともあり,今年は柳川市役所の駐車場を拠点にシャトルバスが運行されます。また,周辺の商業施設には駐車しないよう,くれぐれもご注意ください。
9月28日、柳川で開かれる『ツクルフェス2025』。手を動かし,五感を使い,人と出会い,新しい発見を持ち帰る――そんな一日をぜひ体験してみませんか。