〝一物四価〟とも呼ばれる不動産価格のまとめ
画像提供:福岡市港湾航空局
同一の土地であっても、目的や評価方法によって、不動産価値は異なってくる。
不動産価値のベースになっているのは、〝時価〟である。
つまり、実社会において、いくらで取引されているかが、一つの判断基準になるのだ。
時価に基づいて、公示地価、基準地価、相続税評価額、固定資産税評価額が決められており、時として〝一物四価〟といわれることもある。
4つの不動産価格を整理すると、次のようになる。
【公示地価】毎年1月1日時点での土地の標準価格を国土交通省が毎年3月下旬に公表する。公示地価は、土地の基本的な価格であり、土地取引の目安とされる。
【基準地価】毎年7月1日時点での地価を各都道府県が9月下旬に公表する。基準地価の公表は公示地価の半年後であり、地価変動を補完する役割も担う。
◇ ◇ ◇ ◇
公示地価、基準地価に加えて、課税のための評価基準が、相続税路線価と固定資産税評価額だ。
【相続税路線価】国税庁が実施して公示価格の8割。
【固定資産税評価額】固定資産税を徴収する市町村(東京23区は東京都)が実施し、公示地価の7割をめどとする。
なお、相続税路線価、固定資産税路線価は、公示地価を基準にしており、地価の最上位基準は公示地価である。
【福岡市:住宅地】上昇率で2年連続の日本一、直近10年で地価が倍増
出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和7年地価公示の概要』
国土交通省が2025年3月18日、同年1月1日時点での公示地価を発表した。
国土交通省の発表によると、福岡市の住宅地は前年比で平均9.0%増であり、都道府県庁所在地において2年連続で全国トップの上昇率となった。
福岡市の住宅地の上昇率自体は前年に比べて0.6ポイント低下したものの、全国首位の座を維持している。
住宅地における公示地価の平均上昇率での第2位は、東京23区の同7.9%増だった。
以下、第3位:仙台市の同6.3%増、第4位:那覇市の同5.9%増、第5位:大阪市の同5.8%が続く。
福岡市の住宅地の中でも上昇率でトップだった調査地点は、大規模な再開発が予定されている九州大学箱崎キャンパス跡地に近い福岡市東区箱崎6-11-1だった。
その上昇率は、前年比で4.3ポイント高い19.3%増となっており、全国的にも第9位に躍り出る伸び率だった。
福岡市の住宅地における公示地価は、最近10年でほぼ倍増している。
2015年の12万500円だった福岡市の住宅地における平均公示地価は、2025年は23万9,800円となっており、伸長率で199.00%だった。
福岡市7区の中でも博多区は245.49%、中央区は237.80%と、高い伸びを示している。
なお、福岡市における公示地価の調査地点数は、291地点(住宅地195、商業地86、工業地10)だった。
そして、福岡市では、住宅地の平均価格、商業地の平均価格において共に13年連続での上昇となっている。
出所:福岡市『令和7年地価公示(福岡市分):区別平均価格及び対前年変動率(住宅地)-平成15年~令和7年』
【福岡県:住宅地】東京都、大阪府に次ぐ第3位の地価上昇率
出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和7年地価公示の概要』
第1位:沖縄県7.3%増、第2位:東京都5.7%増、第3位:福岡県4.9%増、第4位:千葉県4.5%増、第5位:宮城県4.2%増……。
2025年の都道府県における住宅地の公示地価の上昇率で福岡県は第3位となっている。
福岡県は2021年の公示地価において、住宅地の平均上昇率で全国トップとなったこともある。
福岡県における住宅地の公示地価上昇率、上位10カ所はすべて福岡市内だった。
また、公示地価の評価額においても上位10カ所は、すべて福岡市内の住宅地で占められている。
福岡県の住宅地における公示地価および上昇率は、福岡市の公示地価とその伸びがけん引しているといえそうだ。
福岡県では、県内の918地点において公示地価を調査しており、住宅地で11年連続、商業地で10年連続での上昇を記録している。
なお、地価公示法の規定により、福岡県60市町村のうち、都市計画区域を有する51市町が調査対象だった。
出所:福岡県『令和7年地価公示の概要』(実施:国土交通省土地鑑定委員会)
出所:福岡県『令和7年地価公示の概要』(実施:国土交通省土地鑑定委員会)
【福岡市:商業地】4年連続の上昇率日本一から一転して第3位
出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和7年地価公示の概要』
福岡市における商業地の平均公示地価の上昇率は、2021年から4年連続で全国の都道府県所在地でトップだった。
今回、福岡市の商業地における平均公示地価の上昇率は第3位となっている。
第1位は東京23区の11.8%増であり、続く第2位は大阪市の11.6%増だ。
今回、第3位だった福岡市に続いての第4位は京都市の10.2%増であり、第5位は佐賀市の9.0%増となっている。
福岡市における商業地の公示地価上昇率でのトップは、福岡市東区箱崎3-13-15の21.1%増だった。
箱崎エリアは、近接する九大箱崎キャンパス跡地における再開発の計画概要が発表されて、住宅地と共に商業地としての評価を高めている。
特に交通利便性を重視したマンション用地としての需要が、一段と高まっていた。
福岡市の商業地における平均公示地価は、最近10年で約2.7倍となっている。
2015年に57万3,000円だった福岡市の商業地の平均公示地価は、2025年には152万6,600円を記録している。
なかでも博多区は314.64%、東区は301.85%と、特に高い伸びを示している。
出所:福岡市『令和7年地価公示(福岡市分):区別平均価格及び対前年変動率(商業地)-平成15年~令和7年』
【福岡県:商業地】4年連続の上昇率日本一から一転して第6位
出所:国土交通省土地政策審議官グループ『令和7年地価公示の概要』
福岡県における商業地の平均公示地価の上昇率は、福岡市と同様に2021年から4年連続で47都道府県のトップを占めていた。
今回、47都道府県での第1位は、東京都の10.4%増だった。
商業地の平均公示地価の上昇率で6.5%増だった福岡県は、47都道府県で第6位となっている。
福岡県の商業地における公示地価位の上昇率のトップ10を見てみると、第6位の糸島市前原中央2-10-30を除いて、残り9地点は福岡市内だった。
一方、福岡県内での最高地価は、福岡市中央区天神1丁目96番1外のワン・フクオカ・ビルディングであり、その評価額は1,210万円だった。
この数字は、九州における最高額でもある。
福岡県の商業地における評価額の第2位は福岡市博多区博多駅前3-2-1の810万円、続く第3位は福岡市中央区天神2-7-6の708万円だった。以下、トップ10は、すべて福岡市内の商業地となっている。
福岡県の商業地の評価額および伸びでも福岡市の商業地がけん引している。
福岡市の不動産動向が、福岡県における公示地価の評価額や伸びを大きく左右しているといえそうだ。
出所:福岡県『令和7年地価公示の概要』(実施:国土交通省土地鑑定委員会)
出所:福岡県『令和7年地価公示の概要』(実施:国土交通省土地鑑定委員会)
いま、大きな岐路を迎えた福岡市、福岡県の地価動向
福岡市の住宅地は、公示地価の上昇率で47都道府県の県庁所在地として2年連続でトップを走る。
その一方、4年連続で首位を占めていた福岡市および福岡県の商業地における公示地価の上昇率は今回、それぞれ第3位と第6位となった。
全国的にみても福岡市、福岡県の住宅地および商業地の公示地価は、依然として大きな伸びを示している。
このような状況を専門家は、どのように見ているのか。
【問】なぜ、福岡市、福岡県の公示地価は伸び続けているのか?
福岡市の住宅地:13年連続で公示地価上昇、
福岡県の住宅地:同11年連続上昇、
福岡市の商業地:同13年連続上昇、
福岡県の商業地:同10年連続上昇━━。
なぜ、福岡市および福岡県の公示地価は、このように伸び続けているのか?
この問いについて、今回の公示地価を取りまとめた不動産鑑定士である、株式会社旭鑑定補償の納富久雄常務取締役は、次のように語る。
納富久雄常務取締役
福岡市は、政令指定都市の中でも人口増加率がもっとも高い一方、高齢化率は低く、生産年齢人口も増加しています。
人口増加が続く福岡市では、住宅地の需要が高く、特にマンション用地の需要が牽引する形で地価の上昇傾向が続いています。
将来的な期待値との比較で福岡市のマンション賃料は、割安感が残っており、今後も賃料の上昇が続くと考えられます。
また、福岡市は、投資市場としても魅力的であり、投資需要も高いので福岡市の地価は上昇し続けています。
福岡県の地価上昇は、基本的に福岡市の地価上昇が波及して広域的に広まっている状況だとみています。
【問】今後、福岡市、福岡県の地価の見通しは?
今後、福岡市、福岡県における地価の動きは、どうなっているのだろうか?
この問いに対して、納富常務は次のような見解を示す。
納富久雄常務取締役
今回、地価公示の作業で日銀の金利引き上げによる影響が焦点になると思っていたものの、金融機関の融資姿勢は依然として積極的でした。
金利引き上げの影響は限定的に留まり、土地取引件数も大きな変動はなく、地価については若干の上昇幅の縮小はみられたものの、想定よりも縮小幅は小さいものでした。
今後も金利の動向と建築費の高騰が、土地価格に及ぼす影響を注視していく必要があります。
また、好調だった分譲マンションの販売も地価の上昇や建築費の高騰で販売価格の割高感や金利上昇に対する不安感から完成在庫がやや増加する傾向にあり、一般向けマンション販売はピークアウトした感もみられます。
今後、売れる物件とそうでない物件に選別されていくと思います。
福岡市の地価上昇幅は今後、縮小傾向になると予想しています。
福岡県全体についても福岡市と同様に地価上昇幅は、縮小して推移していくでしょう。
株式会社旭鑑定補償の納富久雄常務取締役
地価高騰で問われる「都市の成長」と「生活の質の向上」の真価
福岡市の住宅地、商業地は、共に13年連続で伸び続けている。
そして、最近10年間で福岡市の住宅地の公示地価は倍増し、同じく商業地も約2.7倍になっている。
このような結果、マンション価格や戸建て住宅価格の高騰という現象になって現れている。
福岡市は、『第10次福岡市基本計画』における都市経営の基本戦略として、「生活の質の向上と都市の成長の持続的な好循環」を掲げている。
地価高騰そのものは「都市の成長」の一つである一方、「生活の質」において従前の家賃や住宅価格も含めた物価の安さは〝住みやすさ〟となる要因の一つになっていた。
今後、どのような形で「都市の成長」と「生活の質の向上」とのバランスを図りながら、都市としての「持続的な好循環」を果たしていくのだろうか。
これからの福岡市における〝舵取り〟に対しての注目が集まる。
参照サイト
国土交通省土地政策審議官グループ『令和7年地価公示の概要』
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001870356.pdf
福岡県『令和7年地価公示の概要』(実施:国土交通省土地鑑定委員会)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/chikakouji07.html
福岡市『令和7年地価公示(福岡市分):区別平均価格及び対前年変動率(住宅地・商業地)-平成15年~令和7年』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/zaisei/zaisan/machi/chikakouji_r7.html