日本三大歓楽街中洲

【 福岡の経済・ビジネス事情 】

日本三大歓楽街『中洲』は約200年の歴史を誇るナイトエコノミーの聖地

7月の博多祇園山笠で中洲流が町内を駆け巡り、9月の中洲ジャズで人々は酔いしれ、10月の中洲まつりでは、威勢の良い女性らによる『國廣みこし』が夜の街を盛り上げていきます。 日本三大歓楽街の一つである『中洲』は、どのような経緯で誕生し、発展してきたのでしょうか。今回の特集テーマは中洲です。

日本の飲食店・飲食サービス業は55万事業所・401万人・32兆円

日本におけるフード・ビジネスの名目事業規模は227兆円━━。

経済産業省経済解析室は2024719日、『飲食関連産業の動向(2023)』を発表した。
同報告によると、フード・ビジネス全体の名目事業規模(試算値)は、226兆5,767億円だった。
このうち飲食店・飲食サービス業は、32兆2,112億円となっている。

 

一方、フード・ビジネス全体の事業所数は、2021年に実施した『令和3年経済センサス-活動調査』によると、91万9,509事業所だった。

このうち飲食店・飲食サービス業は、55万443事業所となっている。
同じくフード・ビジネス全体の従業員数は911万6,000人であり、このうち飲食店・飲食サービス業は401万人だった。

 

 

福岡市における飲食店・飲食サービス業の事業所数・従業員数は、令和3年経済センサスによると、9,341事業所であり、その従業者は7万7,279人となっている。
福岡市の人口における全国に対するシェア率は1.33パーセントだ。
福岡市の飲食店・飲食サービス業の事業所シェア率1.70パーセント、同従業者シェア率1.92パーセントは、高い割合といえる。

 

【画像】フクリパ

【画像】フクリパ

【画像】フクリパ

出典:経済産業省経済解析室『飲食関連産業の動向(FBI2023年)』

 

 

日本三大歓楽街・中洲は飲食店887事業所・従業者4,657人

九州最大の歓楽街である中洲は、東京の『新宿・歌舞伎町』、札幌の『すすきの』と共に日本三大歓楽街の一つに数えられている。

福岡市中央部を流れる那珂川と、その支流である博多川に囲まれた、長さ1キロ・最大幅200メートルの細長い地域が中洲だ。

中洲の飲食店舗数や従業者数について、これまで「約2,000軒」「約3,500軒」「約3万人が働いている」と言われてきた。

 

 

『令和3年経済センサス-活動調査』によると、中洲1丁目~5丁目の飲食店は887事業所であり、従業者数は4,657人だった。

また、経済産業省がまとめた『飲食関連産業の動向(2023)』によると、飲食店・飲食サービス業の名目事業規模は322,112億円であり、同従業者は401万人のため、従業者一人あたりの名目事業規模は803万円となる。

中洲の従業者数である4,657人に、一人あたり名目事業規模803万円との積を計算すると、374億円弱となる。

もっとも、クラブやスナック、バーなどの高単価の飲食店が多い中洲では、単純な計算値を上回る規模になっているものと考えられる。

 

 

 

2024年基準地価で商業地トップの上昇率は中洲4丁目

コロナ禍明け後、企業による接待や2次会需要が回復し、さらにインバウンド(訪日客)効果もあって、中洲はかつてのにぎわいを取り戻しつつある。

福岡県が、2024917日に発表した商業地における基準地価の上昇率トップは、20.7%増の中洲4丁目だった。

コロナ禍の状況下において、中洲の地価は伸び悩みがみられて、同地は前年・2023年における順位は第103位だった。

今回の2024年基準地価の上昇率では、100カ所余りの地点を抜き去り、一気に首位へ躍り出た。

 

 

中洲における不動産取引の状況について、中洲エリアに特化した営業をしている株式会社福一不動産の古川隆代表取締役は、次のようにコメントする。

 

古川隆代表取締役

中洲が基準地価の上昇率でトップになった理由を一言で言うと、「中洲に魅力がある」からです。

中洲へ飲みに来た人が気に入り、中洲の物件を金に糸目を付けずに買い求める傾向がみられて、最近では県外資本や外資系が買い手として目立っています。
中洲をはじめとする歓楽街の物件は、売りやすく・買いやすいという不動産としての流動性が高いこともあり、所有者の回転が速い点も価格上昇に拍車を掛けています。

 

【画像】フクリパ

株式会社福一不動産の古川隆代表取締役

 

一方、最近の20年で中洲の人口も大きく増えている。

21世紀初頭における、中洲に居住する住民数は、福岡市の住民基本台帳登録人口によると200人前後で推移していた。

2000年代後半から中洲の人口は伸び始め、20239月末で691人まで増え、2000年比で3.5倍弱まで拡大している。

中洲における人口増加について、古川代表は、次のように解説する。

 

古川隆代表取締役

中洲1丁目~5丁目のうち、5丁目にはマンションが林立しています。
かつて中洲にあった映画館などの建物跡に単身者らを対象にしたマンションが数多く建ちました。

このような時代変化もあり、中洲5丁目において若い女性らを中心に新しい住民が増えた結果として、中洲での人口増につながっているものと考えます。

 

 

歓楽街・中洲のルーツは江戸期の福岡藩による財政再建策!?

【画像】フクリパ

画像:福岡県立図書館所蔵『博多旧図』(福岡県立図書館デジタルライブラリより)

 

1601年(慶長6)、筑前国への入府を果たした黒田長政は、福岡城築城のために城下町『福岡』と商都『博多』をつなぐために中ノ島(現中洲中島町近辺)の両側に『中嶌橋』を架けた

このことが、中洲の起源とされている。

福岡県立図書館所蔵『博多旧図』の左部に東中嶌橋と西中嶌橋をみることができる。

 

 

博多湾を臨む中ノ島の先端部には、長崎警備を隔年で務めた福岡藩の用船向け係留港が設けられていた。

その後、土砂の堆積もあって1791(寛政3)、博多側の海辺(現博多中学校付近)に新たな係留港を設けた。

古い係留港は1820(文政3)頃に埋められた。

福岡藩は1834年(天保5)、財政再建に向けた藩札流通と景気復興策として旧係留港の埋立地一帯を繁華街として整備した。

繁華街・中州の誕生だ。

繁華街として誕生したエリアは、現在の中洲中島町一帯だった。

現在の中洲の地名になっている一帯は、博多旧図に「畠 中洲」の文字があるように畑だった。

一部は、菜の花畑であり、『中洲(菜花洲)』とも名付けられていたという。

現在の町名である中洲1丁目~5丁目の表示は1966年(昭和41)からだ。

以前の地名は東中洲であり、一部は中島町と呼ばれていた地域だった。

 

 

1847年(弘化4)、福岡藩11代藩主の黒田長溥は、現在の中洲5丁目付近に藩営精錬所を設けた。

そして、小銃や大砲の生産をはじめ、硝子や陶器、薬品、鉱物など多岐にわたって試験・製造していたと伝わる。

明治期を迎え、精錬所跡地に福岡病院(九州大学病院の前身)が移転してきた。

そして、博多電灯本社や福岡電話局なども相次いで開設していく。

一方、常設芝居小屋が設立され、劇場建設も相次いだ。

大正期となり、映画館も次々と登場し、カフェやバーなどの流行もあり、歓楽街としてもにぎわった。

1925(大正14)、エレベーター付の地階~5階建てという福岡初の本格的な百貨店として福岡玉屋が開店した。

福岡市の人口が146,000人だった当時、オープン初日に47,000人もの来店客が押し掛けて大きな話題を呼んだ。

【画像】フクリパ

画像:福岡県立図書館所蔵『福博の名所:中洲(2)』(福岡県立図書館デジタルライブラリより)

 

昭和期に入ると、1934(昭和9)に開店した『ブラジレイロ』に火野葦平や夢野久作、原田種夫らが足を運び、文学サロンの様相を呈した。

1945(昭和20)の福岡大空襲で中洲の大半は罹災した

終戦後、同年末には、早くも映画館が復興し、劇場も復活している。

その後、券番も再開し、さらにクラブやスナック、キャバレーも急増して歓楽街としての性格を強めていく

 

 

このような歴史も踏まえながら、中洲町連合会の南原茂会長は、中洲の魅力について、次のようにコメントする。

 

南原茂会長

中洲は夜遅くまで飲んで遊べる街であり、出張で訪れたビジネスマンらからも「中洲へ連れて行ってほしい」という要望も多く、高い人気を誇っています。

中洲は、細長いエリア内にお店が密集した歓楽街です。徒歩圏内にいろいろなお店がある点も中洲の魅力になっています。

また、中洲では、春の『博多どんたく』や夏の『博多祇園山笠』に加えて、秋には『中洲ジャズ』や『中洲まつり』が開催されて、大変なにぎわいをみせます。

このような取り組みも人気の一つになっているのではないでしょうか。

【画像】フクリパ

中洲町連合会の南原茂会長

 

 

全国の歓楽街で唯一、中洲で働く女性らを応援する「中洲大学」

戦後の奇跡的な経済成長を遂げた昭和から平成へ、そして令和の時代を迎えた今日、中洲はどのように移り変わってきたのだろうか。
18歳でホステスとして中洲にデビューし、25歳で店を構えて長年にわたって中洲の移り変わりを目にしてきたスナック『メンバーズエリカ』のママである草野真由美さんは、次のようにコメントする。

 

草野真由美さん

私が中洲で働き始めた頃、中洲は離婚した女性や子どもを抱えたお母さんらの働く場であり、みんな一生懸命に働いていました。
当時、女性の働く場は少なく、彼女らにとっては有り難い場所でした。

世の中が豊かになった半面、離婚は増え、女性の働く機会も増えました。
夜の仕事においても派遣でパートタイム的に働く女性が増えています。

「お金が欲しい」「より贅沢をしたい」などの理由で昼間の仕事とのダブルワークで働く女性も相当増えており、仕事に対する姿勢自体も自ずと違いがあります。

 

【画像】フクリパ

中洲大学の代表を務めるスナック『メンバーズエリカ』ママの草野真由美さん

 

草野さんは中洲でお店を営む一方、中洲で働くシングルマザーらのために2016年、内閣府所管の夜間保育園『マミーハウス』を川端商店街に開園
さらに20212月、中洲で働く女性のためのスキルアップやキャリアアップの機会であり、起業や転職に向けた〝学び舎〟となる任意団体『中洲大学』を立ち上げた。

 

中洲で始まっている働く女性やシングルマザーらを支援していく取り組みについて、草野さんは次のように解説する。

 

草野真由美さん

本来、〝学び〟は面白いことなのに、そうでないものと見なされてきました。
私自身、ある時、学びの面白さを知る機会を得て、自己成長を通じて喜びを実感しました。

中洲で働く女性らを対象にした中洲大学は、学びによるキャリアの棚卸しであり、強みや長所を見出していく機会です。
彼女らにとってのスキルアップやキャリアアップにつながる〝学びの場〟として活動しています。

 

 

中洲は福岡市のナイトエコノミーにとって大きな地域資源

中洲は今後、高度・複雑化してグローバル色も増し続ける経済社会という大海原において、どのような針路を取るべきなのだろうか。

この点について、中洲町連合会の南原会長は、次のように考える。

 

南原茂会長

私自身、中洲で生まれ、中洲で育ちました。私が幼少期だった頃、中洲は映画館をはじめ食堂やいろいろなお店がある街でした。
その後、高校生の頃、クラブやスナック、バーなどのお店が増えて、歓楽街のイメージが強まりました。

個人的には、昔のように家族でやって来て、食事も含めて一家で楽しめる街になってほしいと思います。
〝和製ラスベガス〟のような街になったら、嬉しいですね。

 

夜間に活動する経済活動である『ナイトエコノミー(Night Economy)』は、多様な経済活動を促進させて、都市を潤わせながら、観光客をはじめ地元住民にとっても魅力的な地域にしていく取り組みとして昨今、大いに注目を集める。

400年余りの歴史を有する中洲は、福岡市のナイトエコノミーにとって〝聖地〟であり、貴重な地域資源といえる。

復調をみせる中洲において、新たな動きや潮流も踏まえながら、どのような立ち位置を打ち出していくのかが今後、求められるものと考える。

 

 

参照サイト

経済産業省経済解析室『飲食関連産業の動向(FBI2023)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/reportscpij/21/4/21_482/_pdf/-char/ja

 

中洲町連合会Webサイト
https://nakasuchorengoukai.com/

博多ガイドの会『中洲(橋)物語とは?
https://hakatanomiryoku.com/column/%E4%B8%AD%E6%B4%B2%EF%BC%88%E6%A9%8B%EF%BC%89%E7%89%A9%E8%AA%9E%E3%81%A8%E3%81%AF

 

 

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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