そもそも福岡市は、どんな都市なのか!?
画像提供:福岡市(撮影者:Fumio Hashimoto)
森記念財団都市戦略研究所が発表する『日本の都市特性評価(JPC)』において福岡市は毎年、合計スコアでトップ5入りを果たす〝常連〟都市だ。
福岡市の都市特性を明らかにしていく上において、まず福岡市に関するアウトラインとして、【地理&自然】【人口&人口動態】【経済&産業構造】【交通&教育】【歴史&文化】を押さえておこう。
【地理&自然】東京から西へ880キロ、自然が身近なコンパクトシティ
九州北部にある福岡県西部に位置する福岡市は、東京特別区から西方へ約880キロ、大阪市からも約480キロの距離にある。
福岡市は、地球上の座標軸において北緯33度35分・東経130度24分に位置する。
福岡市と同じような緯度にある都市として、アメリカ・ロサンゼルス(北緯34度)、同ダラス(北緯32度)、モロッコ・カサブランカ(北緯33度)、中国・上海(北緯31度)などが挙げられる。
一方、目の前に玄界灘が広がり、背後には背振山系の油山が控える福岡市は、海や山に近い都市だ。
福岡市では、1966年に策定した『第2次総合計画』において、水や用地などの実情を踏まえ、従来の工業化路線から第三次産業を重視した路線へ大転換した。
その結果として、福岡市近郊には豊かな自然が数多く残されている。
【人口&人口動態】日本の大都市で6番目の規模、2040年に170万人
福岡市の推計人口は2024年8月1日現在、165万5,753人だった。日本の都市としては、東京都区部、横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市に次いで6番目となる。
いまから135年前、1889年の市制施行時に約5万人だった福岡市は当時、全国で15番目、九州では鹿児島市、長崎市に次いで3番目の都市だった。
1920年の『第1回国勢調査』で9万5,381人だった福岡市は、長崎市、鹿児島市、八幡市(現北九州市)に次ぐ4番目に位置していた。
その後、人口を伸ばし続けた福岡市は、1979年に北九州市を抜いて九州で最多人口の都市となった。
そして、福岡市独自の将来人口推計によると、2040年に170万2,000人に達すると推計する。
【経済&産業構造】市内総生産は政令市で第4位、第三次産業が9割
福岡市の市内総生産(名目:2020年度)は7兆3,900億円であり、日本の政令指定都市の中で大阪市、横浜市、名古屋市に次いで4番目の規模だった。
一方、2020年度の福岡市民1人あたりの市内総生産(同)は458万円であり、同じく大阪市、名古屋市、仙台市に次いで4番目となっている。
2021年6月1日時点で福岡市に7万4,867事業所があり、その従業者数は92万3,521人だった。事業所、従業員共に約9割を第三次産業が占めている。
【交通&教育】都心2.5キロ圏内に陸海空の玄関口、学生・若者のまち
福岡市都心部の博多駅から福岡空港まで地下鉄で5分、同じく天神駅からも11分で往来できる福岡空港は、世界的にもトップクラスの交通アクセスに優れた空港だ。
福岡空港をはじめJR博多駅や西鉄福岡天神駅、博多港などの〝陸・海・空の玄関口〟が、都心部の〝半径2.5キロ圏内〟にある。このようなコンパクトシティである福岡市は、利便性が高く住みやすさにも定評がある。
2023年12月20日、福岡市が発表した『令和5年度 市政に関する意識調査』の結果によると、「あなたは、福岡市が好きですか」との問いに対して、福岡市が「好き」と答えた福岡市民は実に99.0%にも上った。
一方、市内に15大学と9短期大学が立地する福岡市は、全国でも有数の〝大学のまち〟だ。そして、大学・大学院・短大に専修学校や各種学校を加えた学生数は約11万人にも上り、〝若者が多いまち〟でもある。
【歴史&文化】2000年余りの交流史がもたらした日本発祥の文物
うどん・そば、まんじゅう、ういろう、禅宗、稲作……。
福岡・博多は古来、大陸文化の窓口であり、日本における発祥とされる文物も多い。
古来、中国大陸や朝鮮半島との往来があり、飛鳥期・奈良期・平安期には、外交施設として鴻臚館が置かれていた。
12世紀を迎えて、日宋貿易の拠点が鴻臚館から博多へ移り、宋人百堂や居留地も造られて国際都市としての様相を呈する。
元寇(文永の役)で被災した後、明・朝鮮との交易で博多商人は全盛期を迎え、博多は中世最大の貿易都市となる。
1600年、筑前国主となった黒田長政が城下町を築いた。以降、武士の町・福岡と商人の町・博多という〝双子都市〟として共存する。
1889年の市制施行で福岡市が誕生した。なお1890年の福岡市会で市名の『博多市』変更案が提出されたものの、賛否同数による議長裁定で否決されたというエピソードも残る。
福岡市がトップ5の常連、『日本の都市特性評価』とは何か
森ビル系シンクタンクである一般財団法人森記念財団都市戦略研究所(東京都港区、竹中平蔵所長)は2024年7月24日、『日本の都市特性評価(JPC)2024』を発表した。
「日本の各都道府県における主要都市を対象として、都市の力を定量・定性データをもとに相対的かつ多角的に分析し、都市の強みや魅力といった都市特性を明らかにすることを目的として調査研究を行った」とする『日本の都市特性評価(JPC)2024』の対象は、国内136都市と東京23区だ。
対象となる国内136都市については、政令指定都市、都道府県庁所在地(政令指定都市を除く)、人口17万人以上の都市となっている。
『日本の都市特性評価(JPC)2024』では、国内136都市の力を多角的に評価するため、6分野(経済・ビジネス、研究・開発、文化・交流、生活・居住、環境、交通・アクセス)に分けて評価していく。
そして、6分野は、28グループ・87指標で構成されている。
各指標をスコア化して平均した点数を指標グループのスコアとし、さらにそれらを合算して分野別スコアを算出した。
合計スコアは、分野別スコアを合計して2,800点満点(経済・ビジネス600点、研究・開発200点、文化・交流500点、生活・居住700点、環境500点、交通・アクセス300点)で集計している。
そして、今回の合計スコアについて、「JPCでは、合計スコアにおける環境分野の重みを増すこととし、環境分野の指標グループを3つから5つに増やすとともに、3つの新規指標を追加、さらに『水辺の充実度』にかわまちづくりの政策の評価を定義に追加」したとのことだ。
この結果、環境分野の配点が従来の300点から500点に増え、合計スコアも従来の2,600点満点を2,800点満点に引き上げられている。
森記念財団都市戦略研究所では、2008年から『世界の都市総合力ランキング(GPCI)』を毎年、調査・発表している。
そして、『日本の都市特性評価(JPC)』は、世界ランキングを開始して10年後となる2018年から毎年、調査・発表している。
『日本の都市特性評価(JPC)』においては、2018年のスタート時から大阪市、名古屋市、横浜市、京都市、福岡市の5都市が、トップ5の順位を巡って毎年、デッドヒートを繰り広げている。
福岡市は2024年、激戦の二番手グループで第5位にランクイン
『日本の都市特性評価(JPC)2024』での合計スコア首位は、1,336.9点の大阪市だった。
続いての2番手グループは、第2位:名古屋市1,292.5点、第3位:横浜市1,284.9点、第4位:京都市1,268.1点、第5位:福岡市1,256.5点の4都市となっている。
今回、環境分野での200点加算で合計スコアが2,800点満点に引き上げられた中、第2位~第5位の都市で構成する二番手グループは、1,292.5点~1,256.5点というわずか36.0点の間に4都市がひしめき合うという激戦状態だった。
二番手グループの中でもしんがりとなる第5位の福岡市について、『日本の都市特性評価(JPC)2024』では、「研究・開発で順位を伸ばした九州における大学集積地」と評価する。
その上で次のように分析していた。
『日本の都市特性評価(JPC)2024』
今年は環境と生活・居住で順位を下げたものの、他の4分野では高順位を維持した。
特に2位の経済・ビジネスでは「ビジネス環境」の特区制度認定数が昨年に続き1位、また、対事業所サービス従業者割合も5位と高評価を得た。
文化・交流の「交流実績」における国際会議・展示会開催件数でも大きく順位を伸ばし3位に躍進した。
6位から4位に順位を上げた研究・開発では、「研究開発成果」の論文投稿数で評価を上げており、〈大学のまち福岡〉を掲げる同市がその強みを伸ばしていることがうかがえる。
出典:日本の都市特性評価(JPC)2024』(画像提供:森記念財団都市戦略研究所)
福岡市の都市特性について、『日本の都市特性評価(JPC)2024』での6指標分野におけるスコアは、下記のような結果だった。
◎福岡市の6指標分野における2024年順位・スコア(同2023年)
【経済・ビジネス】第2位75.6→(第2位74.8)
【研究・開発】第4位83.3↑(第6位79.6)
【文化・交流】第4位73.6→(第4位72.4)
【生活・居住】第19位61.7↓(第3位68.2)
【環境】第90位47.2↓(第56位53.0)
【交通・アクセス】第3位86.7→(第3位82.0)
出典:日本の都市特性評価(JPC)2024』(画像提供:森記念財団都市戦略研究所)
今回、福岡市が、【生活・居住】分野において前回の第3位から第19位へ、【環境】分野においても同第56位から第90位へ後退している。
その要因について、森記念財団都市戦略研究所では、次のようにコメントしている。
森記念財団都市戦略研究所
生活・居住分野においては、定義を変更した、「外国人住民の受入体制」で2位→127位へ順位がダウンした。その他、アンケート指標である「居住環境の満足度」で9位→11位へ、新規指標である「育児・教育関連給付金の多さ」で28位と低評価の結果となっている。
環境分野においては、「年間日照時間」が50位→115位と低評価に留まり、アンケート指標である、「街路の清潔さ」が17位→39位、新規指標のアンケート指標である「快適性の満足度」で105位と低評価が要因に挙げられる。
都市特性の『人』視点でも福岡市は各分野でベスト4入り
『日本の都市特性評価(JPC)』では、分野別評価に加えて、『人』の視点による都市の特性についても調査・評価している。
人の視点による調査・評価では、【シングル】【ファミリー】【シニア】【観光客】【経営者】【従業者】という6アクターを設定する。
87指標の中から関連した指標を抽出し、平均値をアクター別スコアとして算出している。
そして、人の視点による調査・評価でも福岡市は、6アクターの全てにおいてベスト4入りを果たしている。
◎福岡市の6アクターにおける2024年順位・スコア(同2023年)
【シングル】第3位53.0↓(第1位565)
【ファミリー】第1位53.4→(第1位55.4)
【シニア】第3位51.6↓(第1位54.3)
【観光客】第4位46.0→(第4位42.8)
【経営者】第3位43.0→(第3位41.0)
【従業員】第3位44.3→(第3位42.5)
2023年版において福岡市は6アクターのうち、【シングル】【ファミリー】【シニア】の3アクターで首位だった。
2024年版では、【ファミリー】のみ首位であり、【ファミリー】【シニア】は第3位に後退し、他は昨年と同位という結果だった。
都市イメージ調査でみる、福岡市の魅力と評価ポイント
森記念財団都市戦略研究所は2023年7月13日、『日本の都市特性評価 –都市のイメージ調査–』を発表している。
同特集研究は、居住者と非居住者(訪問歴アリ・同ナシ)に分けて、都市のイメージを調査したものだ。
居住者向け調査結果
居住者に対する調査では、日本の都市特性評価の対象都市に居住する20歳以上の男女300サンプルに対するアンケート調査で「都市のイメージ」に関するキーワードを単語や文章から引き出し、計量分析や流動化させて調べた。
第1位「住みやすい」、第2位「都会」、第3位「自然」、第4位「美味しい」、第5位「便利」……。
これらが、福岡市の居住者がイメージする上位のキーワードだ。
出典:『日本の都市特性評価 -都市のイメージ調査-』(画像提供:森記念財団都市戦略研究所)
居住者向け調査結果では、これらのイメージキーワードの関係性についての図解も行っている。
出典:『日本の都市特性評価 -都市のイメージ調査-』(画像提供:森記念財団都市戦略研究所)
非居住者向け調査結果(訪問経験アリ:同ナシ)
『日本の都市特性評価 –都市のイメージ調査–』では、対象都市に在住する20歳以上の男女約900サンプルを基にして、居住していない都市のイメージ認知度も調査している。
各都市への訪問経験のある人・訪問経験のない人からのアンケート回答文の単語を解析し、出現頻度の高いキーワードを抽出し、都市のイメージ認知度を調べた。
福岡市に対する、訪問経験アリの非居住者が抱くイメージとしては、「美味しい」「屋台」「食べ物」「都会」「博多」が上位となっている。
出典:『日本の都市特性評価 -都市のイメージ調査-』(画像提供:森記念財団都市戦略研究所)
一方、訪問経験ナシの非居住者の場合、首位の「イメージなし」を除くと、「美味しい」「屋台」「ラーメン」「食べ物」「博多」が上位を占め、訪問経験アリの非居住者と似た傾向がみられる。
出典:『日本の都市特性評価 -都市のイメージ調査-』(画像提供:森記念財団都市戦略研究所)
福岡市の場合、非居住者にとっては、訪問経験の有無を問わず、食の分野において都市イメージの強みを発揮しているといえそうだ。
今後の福岡市の都市戦略のかじ取りを考える
【住みたい街(自治体)ランキング】第1位、
【「移住したい」と思う政令指定都市】第1位、
【2023年:住基台帳人口動態】日本人住民の増加数で第1位、
【全国住みたい街ランキング2024】第2位、
【第1回グローバル・シティーズ・インデックス】ランキングで世界1,000都市中の第152位・国内第3位、
【世界の都市総合力ランキング2023】第42位・国内第3位、
【世界の都市総合力ランキング 金融センター】第46位・国内第3位、
【NY紙『2023年に行くべき52カ所』】に選出、
【海外旅行での都市目的地トップ100】2023年版にランクイン……。
これまで数々のランキングにおいて、福岡市は、上位にランクインしている。
このような実績を踏まえ、「なぜ、福岡市の都市評価は高いのか!?」という問いに対して、公益財団法人福岡アジア都市研究所の理事長に就任した坂井猛九州大学大学院人間環境学府教授は、次のような見解を述べる。
坂井猛理事長
福岡市には古来、民間が先行してまちづくりに取り組み、主体的に都市を形成してきたという来歴があります。
かつて、中世の自治都市・博多において、その担い手だった博多商人らは、オープンマインドで海外にも飛び出して行きながら、その名を馳せてきました。
その実績やDNAは、まち全体に受け継がれています。
明治期の渡辺與八郎氏らの取り組みに象徴されるように、民間がまちづくりにおいて抜きん出た力を発揮してきました。
一方、行政サイドではリーダーシップを発揮しながら、まちづくりの枠組みをうまく構築した結果、民間はさらに活動しやすくなっています。
この点でも行政の役割は大きく、天神ビッグバンや博多コネクティッドは、その好例といえるでしょう。
今後のまちづくりや都市経営について、行政担当者や都市計画関係者らは、現行の人口増加に対応する一方、将来的に訪れる人口減少にも備えることが必要です。
つまり、人口の増減という両面に対して手を打っていくことが今後、求められます。
福岡アジア都市研究所の理事長を務める坂井猛九州大学大学院人間環境学府教授
今回の日本の都市特性2024』において、福岡市は分野別評価である【経済・ビジネス】【研究・開発】【文化・交流】【交通・アクセス】で高位を維持する。
その一方、【生活・居住】と【環境】で順位を下げる結果となった。
また、〝人〟視点によるアクター評価でも【シングル】【ファミリー】【シニア】【観光客】【経営者】【従業員】のいずれからも高い評価を得ている。
さらに都市イメージ調査では、居住者のトップは「住みやすい」である一方、非居住者からは食に対するイメージが強かった。
これらのデータや評価結果も踏まえながら、都市戦略の〝かじ取り〟であり、今後のまちづくりの指針として現在、策定している第10次福岡市基本計画にも生かしていくことを通じて、福岡市は新たなステージを描き出していくべきだと考える。
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参照サイト
森記念財団 都市戦略研究所『日本の都市特性評価(JPC)2024』(2024年7月24日)
https://mori-m-foundation.or.jp/ius/jpc/index.shtml
『福岡市の特性』第4章
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/30670/1/5.2-1_senryakusoan-2.pdf
森記念財団都市戦略研究所『日本の都市特性評価–都市のイメージ調査–』(2023年6月13日)
https://mori-m-foundation.or.jp/ius/cps-jpc/index.shtml
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