ワンビル7階に世界的なスタートアップ支援企業「CIC」が入居
2025年4月21日の業務締結式に参加した林田浩一西日本鉄道社長、高島宗一郎福岡市長、ティム・ロウCIC創業者兼CEO、服部誠太郎福岡県知事、梅澤高明CIC Japan会長(左から)(画像:CIC Japan)
2025年4月24日、福岡市の都心部機能更新誘導方策である『天神ビッグバン』の基点である天神交差点の一角において、新たな〝天神のランドマーク〟となる『ワン・フクオカ・ビルディング』(ワンビル)が誕生した。
そして、ワンビルの7階に開設したのが、米国のスタートアップ(新興企業)支援企業『CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)』(米国・ボストン)だ。
世界9カ国でイノベーションセンターを展開するCICにとって10拠点目、日本国内では東京に次いで2拠点目となる『CIC Fukuoka』のオープンに先立ち、4月21日に福岡県、福岡市との間で、それぞれ業務連携に関する締結式を開催した。
業務連携に際して、CIC創業者であるティム・ロウCEOは、次のようなコメントを発表した。
「(福岡市は)日本でも有数のエコシステムを有する都市として成長しています。福岡市のスタートアップには、私たちの持っている世界の拠点やネットワークを活用し、世界に羽ばたいていってほしいと考えております」
世界的なスタートアップ支援企業による福岡進出の背景としては、スタートアップ都市としての実績に加えて、更新期を迎えたビルを耐震性の高い先進的なビルへの建て替える天神ビッグバンが進んだことも大きい。
CIC Fukuokaの九州初上陸にあたっては、西日本最大級のオフィスビルでもあるワンビルが、〝立役者〟として果たした役割も少なくなかったと考えられる。
福岡市の2024年度企業立地数は55社、外国・外資系は10社
出所:福岡市経済観光文化局投資交流推進部企業誘致課『令和6年度本社機能・成長分野の企業立地実績』
福岡市には一体、年間に何社の企業が進出し、うち外国企業や外資系企業はどれくらいの割合になっているのだろうか。
福岡市経済観光文化局投資交流推進部企業誘致課が2025年7月23日に発表した『令和6年度本社機能・成長分野の企業立地実績』によると、2024年(令和6年)度の立地企業数は55社、雇用者数は455人だった。
立地企業数は、12年連続で50社以上を記録している。
分野別の立地企業数では、知識創造型産業33社、コールセンター4社、健康・医療・福祉1社、環境・エネルギー1社、物流関連6社、その他10社だった。
このうち、国際金融は8社であり、外国・外資系は全体の2割弱となる10社を数える。
設立5周年を迎える「TEAM FUKUOKA」の国際金融機能誘致数は35社
国際金融機能の誘致を目指して、産学官により結成されたオール福岡の推進組織が、『TEAM FUKUOKA』だ。
国際金融機能の誘致に取り組むTEAM FUKUOKAは、2020年9月に産学官連携で設立された。
これは、香港の政情不安をきっかけに、政府の骨太の方針で「国際金融センター」の整備が掲げられ、東京以外では大阪や福岡が候補として報道されたことを受け、「福岡でも国際金融機能の誘致にチャレンジしよう」との機運が高まったためである。
「福岡らしい国際金融機能の集積により継続的にイノベーションを創出する国際金融都市」という方向性をTEAM FUKUOKAは掲げている。
そして、新たな金融技術であるフィンテックやグローバル人材の集積を図ると共に資産運用業を重点的に誘致していく考えだ。
さらに、太平洋側に位置する東京都区部、瀬戸内側にある大阪市に対して、日本海側に面した大都市である福岡市は地理的に優位性を持つ。この特性を活かし、日本やアジアのバックアップ機能を担うBCP(事業継続計画)対応業務も積極的に誘致していくとする。BCP対応業務とは、自然災害やテロ、システム障害など危機的な状況に遭遇した際に、損害を最小限に抑え、重要な業務を継続し早期復旧を図るための取り組みを指す。
また、TEAM FUKUOKAは今年2025年9月、設立5周年を迎える。
5年間でTEAM FUKUOKAが誘致してきた国際金融機能は2025年6月現在、35社に上る。
出所:福岡地域戦略推進協議会『WHAT’S TEAM FUKUOKA?』
産学官連携組織であるTEAM FUKUOKAにおける福岡市の取り組みについて、福岡市経済観光文化局投資交流推進部の岡﨑敏治課長は次のように語る。
岡﨑敏治課長
国際金融機能の集積としての誘致企業35社のうち、19社がアジア企業であり、アジアとの地理的要因は大きいものと考えています。
海外の資産運用会社の誘致において、人的なつながりが大きく左右するため、福岡市では業界に精通した方々をアンバサダーとして委嘱しおり、アンバサダーらの人脈や協力も得ながら日々、誘致活動に取り組んでいます。
福岡市が『金融・資産運用特区』であることのPR効果は大きく、認知度も上がっています。
特区制度を活用した規制緩和の結果、福岡市へ本社を移転した事例もあります。
誘致活動においては、ビジネスの場として企業の選択肢に入ることが、まず大事だと考えております。
誘致企業の経済活動を通じて、新たな金融機能が生み出されていくことも願っています。
そして、福岡市がハブになり、九州全体への波及効果をもたらしながら、日本の新たな活力を生み出していければ、嬉しく思います。
福岡市経済観光文化局投資交流推進部の岡﨑敏治課長
東京、大阪、福岡、札幌の4地域は『金融・資産運用特区』
「魅力的なビジネス・生活環境を整備し、金融・資産運用業を特定地域へ集積」
「国内外の投資資金を呼び込みながら地域の産業・企業が発展しやすい環境を整備」――。
政府の国家戦略特別区域諮問会議が2024年6月4日、東京、大阪、福岡、札幌の4都市を指定した『金融・資産運用特区』の目的は、この2点となっている。
『金融・資産運用特区』は当時の岸田政権が掲げていた資産運用立国構想の一環として、海外の資産運用会社の誘致をはじめ、国家戦略特区制度を活用して英語による行政手続きなどを可能にして、ビジネス・生活環境の向上を目指すとしていた。
福岡県と福岡市が共同提案して、金融庁の『金融・資産運用特区実現パッケージ』の対象地域に選ばれた。
福岡県・福岡市においては、「アジアのゲートウェイとして金融機能を強化し、福岡・九州のスタートアップ等を育成」するとしている。
出典:金融庁『金融・資産運用特区実現パッケージ(概要)』
福岡市は世界都市総合力ランキングの金融センター評価で45位
出典:一般財団法人森記念財団都市戦略研究所『世界の都市総合力ランキング–金融センター』(GPCI 2024-Financial Centers)をもとに作成
福岡市は金融センターとして、どのような世界的な評価を得ているのだろうか。
大手ディベロッパーである森ビル系のシンクタンク、一般財団法人森記念財団都市戦略研究所(竹中平蔵所長)は2024年12月10日、『世界の都市総合力ランキング–金融センター』(GPCI 2024-Financial Centers)を発表した。
同ランキングによると、第1位:ニューヨーク、第2位:ロンドン、第3位:東京だった。日本の都市としては、第44位の大阪に続いて、福岡が第45位にランクインしている。
前年の2023年から始めて2回目となる同ランキングは、金融業界の急速な拡大と国際化を背景に世界の各都市における、グローバルな金融システムを持つ〝国際金融センター〟としての特徴や強み・弱みを明らかにしていくことを目的とする。
国際金融センターとしての評価においては、金融商品市場、金融仲介機能、外国為替・金利市場、高度専門人材という4つの指標グループを設けて、14指標による分析・評価をおこなった。
福岡の国際金融センターとしての総合スコアは、前年と同じく21.5だったものの、順位自体は前年から順位を1つランクアップしている。
指標グループ別に見てみると、金融商品市場は第39位・スコア0.0(前年第38位・前年スコア0.0)、金融仲介機能は第40位・同1.3(同第40位・同1.2)となっている。外国為替・金利市場は第32位・同0.1(同第32位・同0.1)、高度専門人材は第42位・同20.1(同第40位・同20.2)という結果だった。
出典:一般財団法人森記念財団都市戦略研究所『世界の都市総合力ランキング–金融センター』(GPCI 2024-Financial Centers)をもとに作成
天神エリアの空室率が10%突破!海外・外資系に活を求める
出典:『三幸エステートオフィスマーケット2025年7月号』福岡(画像提供:三幸エステート)
三幸エステート株式会社(東京都中央区、福島正二郎社長)は2025年7月9日、『三幸エステートオフィスマーケット2025年7月号福岡』を発表した。
同レポートによると、2025年6月末時点での天神エリアの空室率は、前月比2.3%増という大幅な上昇となり、2013年4月以来の10%台となる10.7%だった。
このような天神エリアの空室率が大幅に上昇した要因は、天神エリアにおけるオフィスの需給状況がもたらした結果だ。
相次ぐオフィスビルの完成に伴っての旺盛なオフィスの供給に対して、オフィスの需要が追い付いていないことによる。
天神エリアのオフィス空室率に関しては、天神ビッグバンに伴う供給過多による一時的な需給関係の悪化という見方もできるものの、決して楽観視できない。
従来の国内企業の誘致に加えて、海外企業や外資系企業の誘致も含めて今後、一層強化していく必要があるのではないだろうか。
今後の動向について、注目していきたいと考える。
参照サイト
CIC Fukuoka、福岡県・福岡市と業務連携に関する締結式を実施 ~4月24日の正式開設に向け、地域との共創体制を強化~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000097.000063842.html
金融庁『「金融・資産運用特区実現パッケージ」の公表について』
https://www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/20240604.html
金融庁『金融・資産運用特区実現パッケージ(概要)』
https://www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/package_overview.pdf
福岡市経済観光文化局企業誘致課『令和6年度 本社機能・成長分野の企業立地実績:55社(雇用455人) 』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/k-yuchi/business/documents/R6nendokigyoricchijisseki.pdf
福岡地域戦略推進協議会『WHAT’S TEAM FUKUOKA?』
https://www.financialcity.fukuoka.jp/about.html
福岡地域戦略推進協議会『国際金融機能誘致「TEAM FUKUOKA」』
https://www.fukuoka-dc.jpn.com/project_detail/team-fukuoka/
福岡地域戦略推進協議会『TEAM FUKUOKA総会を11月29日に開催。外資系企業4社含め新たに10社が進出。誘致企業数はチーム発足以来33社に』
https://www.fukuoka-dc.jpn.com/fdc_news/24208/
一般財団法人森記念財団都市戦略研究所『世界の都市総合力ランキング–金融センター』(GPCI 2024-Financial Centers)
https://mori-m-foundation.or.jp/ius/gpci-fc/index.shtml
三幸エステートオフィスマーケット2025年7月号福岡
https://www.sanko-e.co.jp/pdf/data/market202507-Fukuoka.pdf