全国屈指のスタートアップ都市に福岡がなった理由

福岡市はなぜスタートアップ都市に?チャレンジャーが挑戦しやすい街の魅力

2012年に「スタートアップ都市ふくおか宣言」を行って以来、創業支援に力を入れている福岡市。国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、創業を促す規制・税制緩和も進めています。官民一体となった取り組みで、全国屈指のスタートアップ都市として注目を集める背景をレポートします。

「よそ者を排除せず、多様な文化や価値観を受け入れる都市」

「スタートアップ」とは単なる起業ではなく、新たなビジネスモデルによってイノベーションを起こし、短期間で急成長を目指すものである。

そのため、従来の常識を覆すような価値観や斬新なアイデアを、ビジネス化することが求められる。
開業率が全国的にも高く、ベンチャー気質に富む福岡市では、早くからこうした素養を育んできた。

最初のムーブメントは2000年代初頭。IT関連企業が集積する福岡市中央区の大名エリア周辺から世界を目指すベンチャー企業を輩出しようと、WEBコンサル会社・ペンシルの覚田義明社長らが交流団体「D2K(デジタル大名2000)」を立ち上げた。

地元だけでなく、ヤフー、楽天など全国の企業からもゲストを招いて定期的にイベントを開催。起業志望者やデジタル業界に関心を持つ学生なども加わって活発な交流が行われ、そこから多くのコミュニティーも生まれた。

2008年には福岡県・福岡市・IT関連企業でつくる「天神・大名WiFi化協議会」が、天神・大名エリアに無線ルーターを設置する社会実証実験を実施。

このインフラを活用して翌年には大名地区の飲食店など139店舗が参加し、Twitterを使った地域情報発信プロジェクト「大名なう」が行われた。

協議会の事務局長を務めた杉山隆志氏は当時、東京のシステムコンサル企業に所属しており、杉山氏ら県外出身者と地元のIT関連企業が連携した事業としても注目された。

もともと福岡市は、情報通信産業の誘致・振興に力を入れてきた。特に急速な進歩を見せるIT・デジタルコンテンツ産業では常に新たな技術や知見が求められ、その過程で多くの人材を受け入れてきた。


福岡市赤煉瓦文化館は2019年8月、IT技術者を育成する文化拠点「エンジニアカフェ」としてリニューアル開館した。

アメリカの社会学者であるリチャード・フロリダは、その著書『クリエイティブ資本論』の中で、「新しいアイデア・技術・コンテンツを創造できるクリエイティブクラス(創造階級)は、よそ者を排除せず多様な文化や価値観を受け入れる寛容性に富んだ都市に集まる」と述べているが、福岡はその点においても条件を満たす街であった。

「スタートアップ支援」を市の成長戦略の中核に据えた高島市長

こうした歴史と環境の下で、福岡市の成長戦略としてスタートアップ支援を組み込んだのが高島宗一郎市長である。

市長就任の翌年、2011年にシアトルを視察した高島市長は、Microsoft、スターバックス、Amazonなどを輩出してきたこの都市が持つ高い交通利便性や豊かな自然などの環境が、福岡市と類似していることに着目。

福岡にもグローバル企業を輩出できる土壌があるとして、スタートアップ支援を福岡市の成長戦略の中核に据えた。

支店経済都市であるがゆえ不況時には支店機能撤退による影響を受けてきた福岡市にとって、地元で生まれた企業の支援・育成は、安定した経済成長を維持するためも必要なものだった。

2012年9月に「スタートアップ都市ふくおか宣言」を行った福岡市は2014年10月、創業相談からその後の人材確保までワンストップで支援する拠点として「スタートアップカフェ」を開設。

さらに国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の指定(2014年5月)を受けて革新的な事業にのぞむ企業を対象にした「スタートアップ法人減税」、新規創業促進補助金を活用して創業したスタートアップ企業に趣旨賛同した各社のサービスをリーズナブルに利用できる「福岡市新規創業ブースターズ」外部人材によるIPO(新規上場)成長支援プログラムなども始まっています。

また、外国人起業家の在留資格申請時の要件を緩和する「スタートアップビザ」についてもは外国人の福岡での起業を解説した下記をご覧いただきたい。「外国人が起業しやすいまち・福岡の先駆者ニック・サーズ氏のさらなる挑戦」


その結果、2019年12月末までにスタートアップカフェを利用して創業した企業は220社以上、スタートアップビザの申請は80件以上にのぼった。

都心部にスタートアップ支援施設が誕生、創業支援から成長支援へ

こうした支援体制の下で創業の動きが加速してくると、福岡市の取り組みは創業支援から成長支援へと軸足を移す。

2017年4月、市内3カ所のインキュベート施設やスタートアップカフェを集約し、大名エリアの小学校跡地にスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」を開設した。

民間のアイデアやノウハウを生かすため、市と共に運営を行う事業者は公募によって選ばれた。

開設に当たっては旧校舎を改装して個室タイプのチームルーム、間仕切りで仕切られたシェアオフィス、フリーアドレス形式のコワーキングスペースを整備し、安価で提供。

リニューアルのため一時閉館した2019年1月までに入居・登録企業は259社(個人含む)に達した。

これらの企業への投資額は約82億円(31社)、ビジネスマッチング件数は3万3,580回、雇用者数は147人にのぼり、613回行われた各種イベントには延べ4万7,668人が参加している。

FGNによるプロジェクトは当初、小学校跡地一体の再開発が始まる2018年9月末までの予定だったが、こうした成果が出たこともあり10年間を目安に事業継続を決定。

2019年5月末にリニューアルを行うと同時に新たな入居企業を募集し、約140社が入居(2019年12月末現在)している。


フリーアドレス形式のコワーキングスペース


「スタートアップカフェ」は、創業相談からその後の人材確保までワンストップで支援する拠点

FUKUOKA GROWTH NEXT

https://growth-next.com/
■住所/福岡県福岡市中央区大名2-6-11


スタートアップカフェ

https://startupcafe.jp/
■住所/福岡市中央区大名2-6-11 Fukuoka Growth Next 1F
■電話/080-3940-9455
■メール/fukuoka@startupcafe.jp
■受付時間/10:00~22:00(年末年始 休館) ※起業相談最終受付 21:00

「ユニコーン企業」輩出に向けたスタートアップ支援強化、全国進出への兆しも

一連の施策によって成果を上げてきたスタートアップ支援。今後の課題は、こうした企業の商品やサービスが社会に広く認められ、企業価値を上げていくことだ。

その兆しも表れ始めている。IoT技術を使った地域見守りサービスを手掛けるotta(山本文和社長)もその一社。利用者が身に付けた専用端末からの信号を、街中に設置した受信端末(基地局)やアプリの入ったスマートフォンが検知し、位置情報を把握する仕組みである。

企業や自治体などの協力を得てビルやバスなどに受信端末を街中に設置するだけでネットワークの構築ができ、GPSなどによるサービスと比べて低料金で利用できるのが特長と言える。


見守り端末を手に笑顔を見せる山本社長。「福岡はオープンマインドな土地柄だと感じます」

広島で起業したが、「実績のなかった本サービスに最初に関心を持ってくれたのが福岡市」だったことから、2016年に本社を移転。

2017年12月に市の実証実験フルサポート事業に採択され、市内の小学校に試験導入された。

その後も九州電力にシステムを提供して、同社の見守りサービスとして福岡市全域でのサービス展開を開始。2019年には全国のタクシー約7万台を網羅したアプリを展開するJapanTaxi(東京都)と資本提携を結ぶなど、全国展開も視野に入れる。

FGNも、第2期のスタートに合わせて支援を強化している。

グローバルアクセラレーター(事業成長に向けた支援を国際的に行っている組織・人)と連携し、商品・サービスの認知拡大・販路拡大に向けたプログラムや、エンジニアやデザイナーなどの育成プログラムを新設。

2019年10月には地場デベロッパーの福岡地所と、投資ファンドのABBALab(東京都)が、FGNに拠点を置くベンチャーキャピタルを立ち上げた。

こうした支援によって全国、世界に飛び出すユニコーン企業(企業評価額10億ドル以上の未上場企業)の輩出を目指しており、将来的には、スタートアップ環境が持続・循環する「スタートアップ・エコシステム」の確立を見据えている。

スタートアップに合う良好なビジネス環境、豊かな生活環境も創業を後押し

福岡市がスタートアップ都市として注目されているのは、こうした制度面だけではない。

スピード感が欠かせないスタートアップ企業にとって、比較的安価で都心部にオフィスを持てる不動産事情や、空港から都心部まで地下鉄で約15分という良好な交通アクセスが、大きなメリットなのだ。

安くておいしい食べ物が多く、海や山が都心近くにある環境は仕事のストレスを軽減し、イノベーションを起こすアイデアにもつながりやすい。

「前例のないことでも、何とか市の支援制度に乗せられないか一緒に考えてくれる」(山本社長)。市職員たちには、民間企業と共に新たな試みに取り組んできた豊富な経験がある。

福岡市経済観光文化局創業・立地推進部創業支援課の田中顕治課長は、力を込めて言う。

田中課長

ビジネスの規模では東京や大阪に対抗できない。しかしアイデア一つで世界に羽ばたいていける可能性と環境が福岡にはある。

大きな可能性にチャレンジできる場所。街を包む高揚感に引き付けられるように、イノベーターたちは福岡に足を運ぶ。

■「FUKUOKA GROWTH NEXT」に本社を置く主なスタートアップ企業


※ Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM教育」にArt(芸術)を加えて提唱された教育手法

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編集者・ライター
光本 宜史
1972年、北九州市生まれ。西南大卒。地域経済誌『ふくおか経済』で経営者への取材、特集記事を担当。「宣伝会議」ではマーケティング・コミュニケーションに関する取材、教育講座の企画に携わる。2014年にフリーの編集者・ライターとして独立。著書に『幸せを届けに~五輪ランナー小鴨由水 もう一つのゴール』(海鳥社・2019年)

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