全国一の人口増加率が、不動産価格に大きく影響
福岡はその暮らしやすさから、地方を牽引する成長都市として話題に挙がることが多くあります。
ポストコロナの今、福岡の不動産市況の動向にどのような変化が見られるのでしょうか。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
また、コロナ禍では大都市の吸引力が低下するといったトレンドも見られましたね。
しかし、福岡市は、年間1万人以上の人口増加を続けています
総務省が2023年7月26日発表した住民基本台帳に基づく人口動態調査(2023年1月1日時点)によると、全国の市区における外国人を含む総人口の増加数でトップは、福岡市。
出生数から死亡数を引いた人数は2,077人の「自然減」だった一方、転入が転出を上回る「社会増」が1万5,210人に上ったため、1万3,133人増という結果でした。
出典)総務省『住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数』(令和5年1月1日現在)
「人口の増加は、不動産価格にも大きな影響を与えます」という佐々木さんの言葉通り、令和5年地価公示の福岡市の商業地の平均上昇率は全国1位。
1平方メートルあたりの平均価格も120万円台と、東京、大阪に続く高い数字となります。
分譲マンション価格は、4年で1.3倍。ハイグレードマンションが好調
福岡市の不動産価格上昇を引っ張っている要因の一つが「分譲マンション」です。
特に福岡市中央区の新築分譲マンション価格は、2022年には平均坪単価が300万円を超え、239万円だった4年前から1.3倍も上昇しました。
同様に2022年の平均販売価格も6,600万円となっています。
さらに、円安や世界情勢の影響を受け、資材費や労務費も上昇。建築工事費は、今後しばらく下がる見込みがありません。
そのため、ファミリーマンションでは専有面積をこれまでより減らすことで、販売価格の調整を行うケースが多く見られるようになりました。
価格が高騰する中で好調なのが、ハイグレードマンションです。
特に大濠公園を中心とした大濠・唐人町・大手門や徒歩圏内のハイグレードマンションは、経営者や医者などの高所得者や県外の投資家から人気が高く、億ションでもすぐに完売。
地価を引き上げる要因となっています。
また、近年は空港線や西鉄沿線で、50平米ほどの単身者向けマンションの開発に力を入れる事業者も増えています。
空室率が高まるオフィスビル。ハイスペックビルで都市の価値を高める
福岡市のオフィス空室率はリーマンショックのあった2009年には15%を超えていましたが、その後2018年には2%程度に縮小。
コロナ禍を経て、2023年は5〜6%にて推移しています。
一方、オフィスの平均賃料を2018年と2023年で比較すると、下がることなく緩やかに上昇。
空室率は上がったものの、賃料は高止まりとなっているのが現在のオフィス市場です。
近年の空室率上昇の要因のひとつが、天神ビッグバンです。
2024年のオフィスビルの新規供給量は約2万4,000坪と予測されますが、年間のオフィス需要を完全に上回る供給になっています。
今後も、天神ビッグバンによって大型ビルが続々建設予定で、福岡市のオフィスビル空室率は上がる見込みです。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
ハイスペックビルの器ができることは重要です。
これまで、他の都市でもオフィスビルの需要と供給が合っていないことが問題視されていたことはありましたが、いつの間にかテナントで埋まるということが、繰り返されてきました。
したがって、福岡市のオフィス市場も悲観的になりすぎる必要なないと思います。
空室リスクが上がることはネガティブに捉えがちですが、ハイスペックビルができることで、経済都市としての価値を高め、結果として国内外から多くの企業誘致につなげられるといえそうです。
熊本の半導体工場は、福岡にもプラス
「不動産投資の観点から、注目が高まっているのは熊本です」と佐々木さんは話します。
台湾にある世界最大の半導体受託製造企業TSMCの進出により、熊本県のGDPは3%増加の予測。
さらに雇用人数は1,700人、台湾からの移住は600人ほどが見込まれています。
このことから不動産投資マネーが、熊本に流入し始めているのです。
TSMCをはじめとする半導体関連産業の経済効果は熊本県内にとどまりません。
半導体関連企業は、博多駅周辺のオフィスビルに入居するなど、 福岡市にも波及効果が出ています。
インバウンド回復で、土地入札はホテル業界が一人勝ちの可能性も
「不動産投資の主役が交代するかもしれません」と佐々木さん。
パンデミックの影響を多大に受けたのがホテル業界。
2020年の緊急事態宣言発令以降、福岡市のホテル・旅館の客室稼働率は低迷していました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の収束に伴い、国内旅行は活発になり、インバウンドも戻ってきました。
ホテルの稼働率・客単価は回復。
中国人観光客の団体旅行が解禁となった今、「コロナ前を超える勢い」という声もあるほどです。
稼働率が高いホテルの賃料はオフィスや店舗などの賃料より高値。
今後、土地の入札はコロナ前と同様、ホテル業界の一人勝ちになる可能性があります。
今注目したいエリアは、「竹下駅周辺」と「箱崎」
では、今、福岡市で注目すべきエリアはどこでしょうか。
佐々木さん注目の2つの地区について教えてもらいました。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
市内でも特に地価上昇率が高いエリアです。
周辺は、マンション供給が活発で、売れ行きは順調。
ファミリー向けは、販売されるとすぐに売れるという状況です。
アサヒビール博多工場の閉鎖も予定されており、12ヘクタールある敷地は、大規模開発に発展する可能性も。今後も伸びが期待できるエリアといえるでしょう。
さらに竹下駅周辺の地価上昇に引っ張られる形で、地価・家賃が上昇しているのが博多駅南エリアです。
もともと便利な場所ということもあって、そのポテンシャルを発揮。こちらもマンション建設が活発に進んでいます。
さらにもう一つの注目エリアもご紹介いただきました。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
もう一つ、新たに注目したいのが「箱崎」です。
そのカギとなるのが「九大箱崎キャンパス跡地」です。
新型コロナウイルス感染症の影響でストップしていた土地利用事業者の公募が、ようやく2023年春にはじまりました。
事業者は現時点できまっていないものの、マンションの他にも業務系、医療系、福祉系などの複合用途の開発が想定されます。
さらに、JR九州は2027年を目標に「貝塚新駅」の開業を発表。博多・天神へのダブルアクセスが可能になります。
また箱崎駅に連動する形で地価の上昇が期待できるのが、より都心に近い吉塚駅周辺。
駅周辺は、飲食店が多く、暮らすには快適なエリア。
都心に近い割に、現在、地価が割安ですが、今後、伸びる可能性は大いにあります。
暮らすだけでなく、投資先としても魅力ある福岡市
アジアの玄関口として成長を続ける福岡市。人口の増加が見込まれる人気エリアということもあり、今後も不動産物件の値上がりが予想されます。
暮らす場所としてだけでなく、投資先としても、福岡市は大きな魅力があるエリアといえるでしょう。