薔薇とイワシ

レトロ喫茶好きな店主の理想を体現した、現代版の喫茶店「薔薇とイワシ」【福岡市南区】

いつの時代でも「カフェ」という存在は人々をトリコにします。近年のSNS人気も相まって、おしゃれなカフェ巡りを楽しむ女性も多い中、にわかに脚光を浴びているのが「昭和レトロな喫茶店」。中年以上の方はノスタルジックを感じ、若者にとってはおしゃれなカフェにないレトロ感が斬新だと感じるんだそうです。そこで福岡に今なお現存する「昭和レトロ喫茶店」をピックアップしてご紹介していきたいと思います!

南区大楠の住宅街にひっそりと居を構える「薔薇とイワシ」

 

今回ご紹介する「薔薇とイワシ」の場所は、福岡市南区大楠

 

西鉄平尾駅を出て左に進み、道路を渡って堀川公園横の通りを直進していくと左手にあります。

 

西鉄平尾駅からは徒歩で6分ほど。車で行かれる際には近隣のコインパーキングをご利用ください。

 

 

ピンク色の外壁と深いグリーンが印象的な外観。

 

古めかしいフォントで「薔薇とイワシ」と書かれた縦書き看板がなんともシュールです。

 

 

ドア横にはアンティークなランプが灯され、その下には店名にも冠されている薔薇の蔓が伸びています。

 

「一体どんなお店なんだろう?」と期待を胸にドアを開け、いざ店内へ。

 

ヨーロッパのアンティークと昭和レトロが同居する店内空間

 

レトロ調のクロスが貼られた壁と板張りの床で構成された小ぢんまりとした店内。

 

ヨーロッパのアンティークのテーブルやベルベットのソファーが独特の雰囲気を醸し出しています。

 

 

年季が入った味のあるカウンターは、かつてのお店で使われていたものをそのまま活用しています。

 

最初は随分汚れていたので、タイルの目地に至るまで綺麗に拭き上げたんだとか。

 

形が不揃いなアンティークの椅子とも実にマッチしています。

 

 

壁際の本棚には店主がセレクトした私物の書籍が並びます。

 

お気に入りの一冊を手に取ってカフェタイムを過ごしてみるのも良いかも。

 

 

カウンターの裏にあるグリーンのカップボード上部には、店名の薔薇とイワシのイラストが描かれています。書いたのは店主の友人の日系アルゼンチン人アーティストさん。

 

ちなみにイワシの背中がほんのりピンク色になっているのは、薔薇の花びらの色が水面を通してイワシの背中に映りこんでいるのを表現しているんだそうです。

 

 

テーブルの一角にはお客さんでもあり「ふくおか喫茶店文化史(1)マッチラベルと広告」の著者である近代史研究家・益田啓一郎さんからお借りしている現物のマッチが飾られています。

 

おもに昭和30〜40年代の福博の町で名を馳せた名店たちのマッチが勢ぞろい。年齢が高い方はきっと「懐かしい!」と思わず声を上げてしまうことでしょう。

 

薔薇とイワシが生まれるまで

左が店主の石川奈津子さん、右がコーヒー担当の廣瀬俊典さん。お二人とも素敵な笑顔!

 

店主を務めるのは福岡市西区出身の石川奈津子さん。

 

昔から映画や本、そしてアンティーク家具や古道具などが大好きだったんだそうです。

 

大学卒業後はずっと憧れていた東京・西荻窪に住むべくアルバイトをしながらお金を貯め、27歳で念願の移住。西荻窪という街はアンティークショップや古本屋、喫茶店が多いことが有名で、まさに石川さんの大好きなモノやコトが溢れる街。

 

映画館や古本屋を巡りながら喫茶店にも足繁く通ううちに、「好きなことが似ている人たちが集う」感覚がたまらなく好きになり、その思いは「福岡で喫茶店を開業したい!」という夢を持つように。

 

33歳で帰福した後は、新たに喫茶業を学ぶべく老舗の喫茶店や洋食店でホールやキッチン業務に従事されました。

 

お店を開業するにあたり「映画館に近い場所がいい」ということで物件を探していましたが、映画館のある天神や博多はさすがに家賃が厳しく、どうしようかと思っていたところ、逆転の発想で「ここから映画を見に行きたいと思ってくれるようなお店になれば」という思いから、最寄り駅から天神まで電車一本で行けて、個人店も多い大楠への出店を決めたそう。

 

開業準備が進む中、「ブラジレイロ」でコーヒーを学び、間借りのコーヒー店を営業していた廣瀬俊典さんと知り合い、意気投合。店主とコーヒー担当という関係性で一緒にお店を出そう!という流れになり、コロナ禍の真っ只中の2020年10月にオープンされました。

 

なお、個性的な店名の由来は、石川さんのご実家が魚屋だったことと、詩人・中原中也の「サーカス」という詩の一節「観客様はみなイワシ」というワードからインスピレーションを受けたこと、そして大好きな薔薇の花を組み合わせて名付けたそうです。

 

目指すのはあくまでも「昭和の喫茶店」のような存在

天井から吊り下がる薔薇の形をしたアンティークのライト。店内の様々な場所に薔薇とイワシの姿を見ることができます。

 

「昭和レトロな喫茶店」と言えば、プリンやクリームソーダ、ナポリタンといった昭和メニューを提供するクラシカルな喫茶店というイメージですが、石川さんが目指す喫茶店はスタイルやメニューといった表面的なものではなく「老若男女が集えて、安心できる街の灯りのような存在であること」。

 

そんな思いもあり、「薔薇とイワシ」は「カフェ」ではなく、あくまでも「喫茶店」という立ち位置にこだわっておられます。

 

「オープンしてまだ3年目ですが、いずれは古い喫茶店独特の雰囲気をまとえるように、時間をかけてお店を熟成していきたい」石川さんはそう語ってくれました。

 

手回し焙煎機を駆使した自家焙煎コーヒーと手作りのフード&スイーツ

 

店内で提供するコーヒーは、廣瀬さんが「手回し焙煎機」を使って丁寧に焙煎した豆を使用しています。

 

抽出スタイルはペーパードリップがメインですが、豆の種類や特性によってネルドリップで抽出する場合もあるそうです。

 

 

オーダーしたのは自慢のデザート「コブラーのバニラアイス添え」(710円)とブレンドコーヒー。

 

コブラーとは果物を入れて作るアメリカ伝統の焼き菓子のこと。

 

ちなみにコーヒーカップもしっかり薔薇の柄でした!

 

 

ブレンドコーヒーは軽い口当たりの「薔薇とイワシブレンド(550円)」、苦みと甘みとコクのバランスが取れた深煎りの「大楠ブレンド(600円)」そして今回オーダーした甘みが特徴の中深煎りの「ひつじ飼いブレンド(550円)」の3種類をラインナップ。

 

ちなみにカップが小さい時は、入りきらないコーヒーをピッチャーに別添えで出してくれるという嬉しい心遣いも。

 

 

コブラーはサクッ、もちっとしたバターたっぷりのタルト生地の中にリンゴジャムが入っており、添えられた自家製バニラアイスを絡めて食べると、温かさと冷たさを同時に味わえ、コーヒーとの相性もぴったりでした。

 

この他にも店主・石川さんのご実家の魚屋さんのお魚を使ったオイル煮を使った「お魚プレート(800円)」や野菜がたっぷり入った食事系のケーキ「ケーク・サレ(550円)」といった軽食メニューも揃っています。

 

 

ちょうど取材時に、韓国からインバウンドのお客さんが来店されていて、拙い日本語ながらも石川さんや廣瀬さん、そして年配の常連の方と和気あいあいとコミュニケーションを交わしているシーンを横で眺めながら、温かいお店だなぁと感じました。

 

なお、大楠界隈には今回ご紹介した「薔薇とイワシ」をはじめ、個性的なショップもちらほら点在しており、これからじわじわと人気が出てきそうな街でもあります。

 

「薔薇とイワシ」でコーヒーをテイクアウトして、お散歩がてら大楠エリアを散策してみるのもいいですね!

 

 

薔薇とイワシ

住所:福岡市南区大楠2丁目15-15

営業時間:10:00〜20:00(水曜日のみ10:00〜18:00)

電話番号:092-231-0438

定休日:毎週木曜日

Instagram:https://www.instagram.com/rose_et_sardine/

 

 

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ライター
久原茂保
2001年より福岡発のカフェ情報サイト「CAFE@TRIBE(カフェ・トライブ)」を開設。以来、20年以上に渡り福岡県を中心に数多くのカフェを訪れ、日々取材活動に励んでいる。近年はカフェアドバイザー業やカフェのリブランディング、カフェプロモーションなどカフェ業界の知見とネットワークを活かしたオンリーワンな事業を展開中。グラフィックデザインやWEBデザイン、広告コンサルも。

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