父親の食堂が倒産し、家族のため21歳で焼き鳥屋を開店
今でこそ様々な業態の飲食店を展開し、海外に出店したり農業を手がけたりと多彩なタケノだが、始まりは小さな小さな焼き鳥屋だった。今から45年前の1976年、「家族がバラバラになるのをつなぎとめたい」という一心で、21歳の青年は必死に店を開いた。
待鳥さん
ド素人が作る焼き鳥が、すぐプロの味になるわけもない。見かねた近所の飲食店のおじさんが指導に来てくれたおかげで少しずつ腕を上げ、いつしか評判の店に。苦労しながらも店舗数は右肩上がりで増えて、会社は順調に成長してきた。
ドーム店のために開発していた焼き鳥を通販用にアレンジ
創業44年目の2020年に突然、世界を襲った新型コロナウイルス感染症。緊急事態宣言で飲食店は休業を余儀なくされ、タケノはほぼ全店を休業。このままでは会社の経営が傾いてしまう…しかし従業員を解雇するなんて、とんでもない。なぜなら、タケノは企業理念に「共に働く仲間の幸福の追求」と掲げるほど、従業員を大切に思っているからだ。
何か新しいことができないだろうかと考えて浮かんだのが、竹乃屋の名物である焼き鳥を家庭で味わえるように通信販売で提供することだった。ただし、家庭用としてゼロから開発したわけではない。
待鳥さん
湯煎やフライパンで竹乃屋の味を再現!ご家庭での調理の仕方
現在、ネット販売している焼き鳥は、竹乃屋名物の「ぐるぐるとりかわ」と、通常の豚バラや鶏もも、ぼんじり、砂肝などの串の冷凍パック。
家で簡単に「竹乃屋」の焼鳥が再現できるので、オンライン飲み会にもぴったり。お中元やお歳暮などにもおすすめなのだそう
串は店で仕上げ焼きまでしているので、湯煎するだけで食べられるのが、何よりもうれしいポイント。「どうしても竹乃屋の味を維持したい」との思いから、完全調理済みにしたのだとか。
一方のとりかわは、独特の食感と味わいを再現するため、フライパンで5分ほど焼いて食べるスタイルに。
竹乃屋のとりかわは、こだわりの逸品だ。鶏1羽から串1.5本分しか取れない希少な首皮を使用。福岡の老舗ジョーキュウ醤油と対馬の藻塩、朝倉の三奈木砂糖を使ったタレに漬け込み、寝かせて焼いてを繰り返し、なんと72時間かけて作り上げる。じっくり焼くことで余分な脂を落とし、外はカリカリ、中はもちもちという食感がウリのとりかわが完成するのだ。他店では揚げて短時間で作るところもあるが、それでは中がもちもちにならないのだという。
もともとドームで出すための開発に3か月を要し、ネット販売にあたっても試行錯誤した。
待鳥さん
通販サイトをオープンし、初のクラウドファンディングにも挑戦
2020年4月12日には通販サイト「竹乃屋オンラインショップ」をオープン。ホームページやSNSなどで告知したところ、一気に注文が入り、生産が追い付かないほど忙しくなった。
待鳥さん
そしてもう一つ、新たな試みとしてクラウドファンディングに挑戦した。きっかけは、社長が友人から「お酒の販売にMakuakeを利用したら、すごく良かった」と聞いたことだった。2020年5月29日にスタートすると、開始から3時間6分で目標金額の50万円を達成。最終的には433人から268万736円の応援を獲得し、6月27日に商品を発送した。
待鳥さん
コロナ禍でもできることを探し実行して、お客さんも従業員も笑顔に
ネット通販をスタートして、1年3か月が経った。先月はTBSの人気番組「王様のブランチ」でも紹介されて、ますます注目が集まっている。通販を始める前は月10数万本だったとりかわの販売数が、今では月50万本を超えている。
待鳥さん
これまでは対面でお客さんの声を聞いていましたが、通販はネットや電話で感想をいただくので、皆さん正直にストレートにいいことも厳しいことも伝えてくださって、大変勉強になります。最近はうちと同じように焼き上げた焼き鳥を冷凍で販売する店が出てきましたが、これからも竹乃屋らしく妥協せず味と食感にこだわっていきたいです。
コロナで世の中が暗いムードに覆われても、店が営業自粛になっても、タケノは決して歩みを止めない。
社長自ら「コロナやけんって動かんやったら、つぶれてしまう」とげきを飛ばし、従業員の雇用を守るため、お客さんの笑顔のため、前向きにチャレンジを続けている。
待鳥さん
逆境にあっても知恵を絞り、明るく力強く歩み続けるタケノの存在は、私たちに元気を与えてくれます。取材の後に名物のとりかわを買い、フライパンで焼いてみると、確かに外はカリカリ、中はもっちもち。待鳥さんの言われていた「スナック菓子みたい」という表現に納得しました。