歴史から生まれる「福岡」の魅力

プロの技とクリエイティブの喜びを秘めた福岡生まれの「ボトルドカクテル」を世界へ

「ボトルドカクテル」をご存知でしょうか?ボトルに入れて持ち運べるカクテルのことで、海外では数年前からブームが続いているそうです。新型コロナの影響でバーに通えない日々にはまさに朗報!お酒好きならぜひ一度味わってみたいものですが、日本で製造・販売をするには取得が難しいお酒の免許が必要となるため、商品化はかなり困難だとか。それでも、「おいしいカクテルをもっと自由に楽しんでほしい」と本格的な製造に乗りだした企業があります。それが今回の主役、朝倉市で江戸時代から酒蔵を営む「株式会社 篠崎」です。伝統を守りながらも新しい分野への挑戦を続けている会社がクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で立ち上げたのは、3名のバーテンダーと一緒に作り上げた「日本産ボトルドカクテル」。発表後になんと目標の倍近くもの支持を獲得、その後も業界内で注目を集めているんですって。 そこまで多くの人々に受け入れられた背景には、一体どんな思いがあったのでしょうか?開発チームの中心となった「株式会社 篠崎」8代目の篠﨑さん、営業部の梅野さんと阪本さんに、今回のプロジェクトに対する思いやこだわりについてお聞きしました。

ボトルドカクテルとは?

ボトルドカクテルとは、その名の通り、通常はバーでグラスでいただくカクテルをボトリングしたもののこと。現在、ロンドンやニューヨークのバーでは、ボトルドカクテルがブームになっているそうですが、日本での認知度はまだまだ。ですが、コロナ禍でなかなか自由に外出することが叶わない今、どこにいてもプロがつくったおいしいカクテルをいただけるということで、じわじわと広がり始めています。

長期樫樽熟成「リキュール朝倉」と、歴戦のバーテンダーによる化学反応に期待

今回のボトルドカクテルのベースとなったのは、7年前に販売した「リキュール朝倉」というお酒。実はこちらも、長年に渡って長期樫樽熟成麦焼酎を研究してきた株式会社篠崎の金字塔とも言える商品なのです。


昨年7月にCAMPFIREで発表した「リキュール朝倉」のプロジェクトも200%を超える支持が集まった。開発秘話として掲載されている日本式ウイスキーのエピソードは篠崎の商品開発の原点になっている

そもそも、焼酎は樽を数年寝かせることで、香り高く味わいもまろやかになり、ウイスキーを思わせる深い琥珀色に染まります。けれども、焼酎として販売する場合、そのままの色味は規定上NGとなり、販売できないのです。

どうしても原酒のおいしさを表現したかった篠崎さん達は、焼酎ではなく色味の規制の無いリキュール類として商品化。7年前には一般販売を始め、2020年の7月には、決定版とも言える「リキュール朝倉 追熟シリーズ アーキビスト」をクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で発表しました
今では焼酎愛好家のみならず、飲食業界のプロにも広く支持されているブランドに成長しています。

ー今回のボトルドカクテル開発のきっかけは、「リキュール朝倉」にあったそうですね。

篠崎さん

そうですね。私たちは日頃から感性と技術で独自の味を創造するバーテンダーの皆さんに敬意を抱いているのですが、その方々が「リキュール朝倉」でどんな味を表現してくださるのか、その世界を味わってみたいと思ったんです。

ーなるほど。今回は、西中洲の「バー・カぺル」新谷彰教さん、中洲の「BAR Lapin」上野真暉さん、大名の「CITADEL」小原義満さんとそれぞれ開発されたそうですね。どのような経緯で選出されたのですか?

梅野さん

いずれも、福岡を中心に全国的にも有名な方にお願いしました。上野さんと小原さんは以前からお付き合いがあり、新谷さんは上野さんからご紹介いただいたんです。

ーバーテンダーとの共同開発は初めての取り組みなんですよね。篠崎さん側からはどんなリクエストをされていたのですか?

篠崎さん

レシピに関してはバーテンダーの皆さんにおまかせして、こちらは一切口出しをしないと決めていました。それぞれ基本グラス1杯分のレシピを考案いただいて、そこからボトルの容量に合わせて私たちで調整したんです。ボトル1本でグラス5〜8杯分になるのですが、単純に増やせばいいというわけにはいかなくて。少しの誤差で元の味から大きく変わってしまうんですよ


福岡市中央区西中洲「バー・カぺル」店主の新谷彰教さん。全国のカクテルコンペティションの受賞歴も多数

カクテルのおいしさは、配合するレシピの緻密なバランスがあってこそですよね。バーテンダーの皆さんとはどんな風に進められたんですか?

阪本さん

コロナ禍ということもあり、バーテンダーさんがつきっきりで対応いただくというのはやはり難しくて。こちらで作ったサンプルを届けて、意見をもらって調整するというやりとりを続けました。香りと味のニュアンスを汲み取りながら味に落としていくのは本当に大変でしたね。


中洲のオーセンティックバー「BAR Lapin(ラパン)」のオーナーバーテンダー、上野真暉さん。フレッシュフルーツカクテルのほか、テキーラなども得意分野

ーボトルに詰めて時間を置くことで味わいも変わってくると、バーテンダーの皆さんもおっしゃっていましたね。

阪本さん

目の前で作ってもらった時のフレッシュ感を再現しつつ、ボトルに入れた後の熟成感をうまく調和させるのが難しかったですね。今回のプロジェクトでは新しい発見ばかりでした。


大名でカクテルバー「CITADEL(シタデル)」のオーナー小原義満さん。株式会社FUNKtion代表取締役として、自社でもボトルドカクテルの商品化に力を入れている


(左)BAR Lapinのオーナーバーテンダーをしている上野氏による「Beau Parfum(ビュー パルファン)~美しい香り~」。福岡県の県花・梅と桜の香りをプラスし、リキュール朝倉の樽の香りとのマッチングと余韻が楽しめる味わい。(中)「バー・カぺル」店主の新谷氏による「VIVA ASAKURA」。朝倉市の特産物である巨峰や桃などのリキュールやシロップを配合。甘酸っぱく爽やかな味わい。(右)「CITADEL」の小原氏による「ASAKURA BLACK OLD FASHIONED」。ウイスキーを使ったカクテル「オールドファッションド」を大胆にアレンジ。リキュール朝倉にコーヒー豆を漬け込み、香ばしいコーヒーフレーバーを表現

ボトルドカクテル第二弾も進行中。前回とは異なる世界観に乞うご期待!

クラウドファンディングサイトにアップしてからも、YouTuberとコラボしたり、テレビで取材を受けたりと、さまざまな告知を展開。結果的に支援は200%にまで上り、追加販売の問い合わせも殺到したそうです。

ー今回のボトルドカクテルについて、再販の予定はあるのですか?

梅野さん

今は考えていないですね。ボトルの中で味わいが変化していくので、一般店舗に並べて販売すると品質を保つのは難しいのかなと。売るにしても予約受注にするとか、やり方を考えなくては。

なんともショックなお話しですが、ガッカリするのはまだ早いですよ!
なんと、ボトルドカクテル企画の第二弾が夏頃にスタートするそうです。次回は、東京や京都の新進気鋭のバーテンダー4名が登場予定。ボトルドカクテルのブームがジワジワと広がっているのではないでしょうか。
ちなみに、レシピなどの詳細は調整中とのことですが、かなりエッジの効いた内容になりそうとのこと。これは見逃せないニュースです。続報はウェブサイトなどでチェックしてくださいね。

お客様と一緒にワクワクしたい!困難な状況も楽しみながら前へ

ークラウドファンディングでのチャレンジを通して、モノづくりへの変化を感じましたか?

篠崎さん

新型コロナの影響で家で過ごす時間が増え、ネット環境もグッと身近になりましたよね。だからこそ、商品開発への想いや歴史をしっかりと表現できれば、それなりの結果を出すことができるようになったのではないでしょうか。逆に言えば、コンセプトやアイデアからこだわらないと厳しい時代になってきています。特にクラウドファンディングは、私たちの思いを届けることができるチャンネルとしてはすごく魅力的ですよね。

ークラウドファンディングページでは、株式会社篠崎だけではなく、バーテンダーの皆さんのご紹介や感想もかなり詳しく紹介されていますね。商品だけではなくて、コロナ禍で困難に向き合っているバー業界に注目してほしいという意図もあるのでは?

梅野さん

バーテンダーの皆様へスポットがあたるといいなとは思いますが、それが目的ではないんです。コロナ禍の時間を有効に活用して、一緒に楽しい挑戦をしましょう。そんな意識の方が強いですね

ークラウドファンディングのページにも掲げていらっしゃるように、バーテンダーの皆さんは“同志”。援助するのではなく、モノづくりを通して一緒に前に進みたいという想いなんですね。

篠崎さん

そうですね。その思いはお客様に対しても同じです。お客様と交流したいし、ワクワクしていただきたいという気持ちもすごくあるし。「この人達は次にどんなことをやるんだろう?」って期待していただけるとすごく嬉しいですね。

ー今後はどんなプロジェクトを考えていらっしゃいますか?

篠崎さん

ボトルドカクテルの他にウイスキー事業も進めていて、一樽ごとのオーナー制度や小口の支援などを考えています。それにワインを作る予定もあるんですよ。有名なワイン醸造家の方とコラボして。飲食店の経営者の方と商品開発の話もありますし、いっぱいありすぎて何から話せばいいのやら(笑)。

誰しもが少なからず新型コロナの影響を受け、表情が沈んでしまいがちな現状ですが、篠崎さん達は、まるで遊びの計画を立てている時のような明るい口調で次のプランについて話してくださいました。クラウドファンディングのページで紹介されているバーテンダーの皆さんもまた、達成感に満ちた表情で微笑んでいます。プロが見せる本気とクリエイティブの喜びにこそ、ボトルドカクテルの魅力が詰まっているのではないでしょうか。

株式会社 篠崎
江戸時代後期に福岡県朝倉市で清酒製造業を創業。「麹を使った商品で社会貢献をする」という方針のもと、伝統的な日本酒や焼酎、甘酒に止まらず、さまざまな挑戦を続けている。特に、近年では樽で長期熟成させた焼酎やリキュール類に力を入れており、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で発表した「リキュール朝倉」は、業界内にも大きな反響を呼んだ。現在は、ボトルドカクテル企画の第二弾を準備中。詳細はサイトで確認を。
http://www.shinozaki-shochu.co.jp

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ライター
大内 理加
壱岐出身。福岡市内の編集制作会社を経てライターとして独立。現在は、福岡のweb、紙媒体を中心に食、カルチャー、地域活性など、ジャンルを問わずに執筆しています。趣味は、街ぶらと1人旅。妖怪と忍者、サメ・ワニ映画などのワードに飛びつく癖がありますが、話し出すと大体苦笑いに終わります。

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