福岡の映画好きたちによる「愛すべき映画活動」紹介 #01 福岡映画 番外編

近年の都市論などの分野では、「都市の成長力」にはその都市の「文化的な消費やコミュニティの充実度」が関係していると言われています。これまで福岡を舞台に撮られた映画を紹介してきた本連載ですが、今回は番外編として、あたかもこの街の成長力としての文化充実度をマジメに探るポーズで、その実ただ福岡の映画好きたちによる、思いの詰まった自主映画活動の数々を紹介する特集をお届けしたいと思います。

「文化的刺激の多い都市」=「成長力が高い都市」とされる理由とは。

2000年代初頭に「クリエイティブ資本論」を発表し世界で最も注目される都市経済学者となったリチャード・フロリダは、自著のなかで都市の成長力を左右するのは「創造階級(クリエイティブ・クラス)」と呼ばれる人々の存在であると提唱しました。

「創造階級(クリエイティブ・クラス)」とは、企業や社会において新しいアイデアや技術・コンテンツを生み出すことができる創造的な人々のことを差し、新たな産業を生み出せる競争力のある都市には、彼らのような人々が不可欠である、といいます。
そして彼らは、多様な文化や価値観を受け入れる都市の「寛容度」や、そこで得られる文化的刺激といった「生活の質」を優先して居住地を選ぶ、というのです。

これを(少し大雑把ですが)整理すると、
文化的な取組や刺激が多い都市には → 創造階級の人々がたくさん集まり → 「都市の成長力」が高まり地価や不動産価値も高まっていく、というわけ。
どうです? 都市における文化の必要性、皆さんにもちょっと伝わりましたでしょう?

さて本記事は映画にまつわる連載なので、この視点から福岡の映画分野にまつわる文化活動の状況を探ってみるわけですが…これが実は結構な数、あるのです。自主的に実施されている上映企画やトークイベント、仲間内で集い合って映画を見たり語らうサークル的活動まで、ジャンルも様々です。

これらをすべて紹介し始めると一記事ではおさまりません。ので、今回記事で取り上げるのは以下の条件に絞って、まず4つ。

▶︎ 読者の方がこの記事を読んだ後、すぐに参加できるもの
▶︎ おそらく読者の方が未チェックの「始まったばかりの取組み」や「ちょっとコアな自主活動」

いずれも福岡に生きる、いろんな温度感の映画愛好者たちが届けてくれる、ユニークな活動たちです。
気になるものが見つかれば、ぜひごチェックを。

福岡に新たな「クリエイティブクラス」を呼び込めるか?4つの映画活動をご紹介

① FAMシネマテーク 

https://www.facebook.com/famcinema/

実施日: 毎月開催(詳しい開催日は公式にてご確認ください)

会場: 福岡市美術館 ミュージアムホール(福岡県福岡市中央区大濠公園1−6)

活動内容: 昨年3月のリニューアル以来、幅広い層の来客で賑わう福岡市美術館。こちらのミュージアムホールを舞台に、美術館公式イベントとして今年8月に始まったのがこの「FAM(ファム)シネマテーク」。仕掛人はこれまで「爆音映画祭 in FUKUOKA」などの開催にも尽力してきた福岡の映画愛好者である利助オフィスの木下竜さん。

1979年に開館して以来、一時は映画上映も行われていたという同館に再び映画の灯をともしたこの企画は、「福岡未公開作品」を中心とした月替りのプログラムが特徴。「劇場で見たかった映画が福岡まで来てくれないならもう自分で上映するしかないか、と腹をくくりまして(笑)」と語る木下さんの気概が頼もしいです。特定のテーマや監督で編成された「特集上映」スタイルも福岡では珍しく、開催月によっては、知る人ぞ知る福岡の音響プロ集団=倉重音響工房のチームが登場して極上の作品体験を届けてくれます。いつか「行けば何かの映画をやってる」と市民に定着することを目指して、今後も続々楽しみなプログラムが控えているようです。

参加方法: 公式FacebookやTwitterなどをチェックして、会場へ

② サントラナイト「魅惑のスクリーンミュージック」 

https://twitter.com/soundtracknigh1

実施日:隔月第3金曜日(詳しい開催日はTwitterアカウントにてご確認ください)
『SOUNDTRACK NIGHT 〜魅惑のスクリーン・ミュージック』vol.15は4月22日(金) 20:00 〜 24 :00で開催予定。
ノーチャージ、要1ドリンクオーダー
詳しくはこちら

会場:     JUKE JOINT (福岡市舞鶴1-9-23)

活動内容: 「懐かしのメロディ、蘇る感動…… 映画音楽ファンの為のイベント!」と掲げ、2018年に始まった隔月開催の当イベント。これまで「ティーンムービー」「タランティーノと仲間たち」「歌う女優映画」「NIGHT映画」などその月ごとにテーマを設定し、四人のレギュラーDJ陣の選曲とともに楽しい映画の語らいの場を提供しています。月によってはゲストDJやトークゲストを招いて豪華に展開することもあるこのイベントですが、その特徴はどんな人でも歓迎してくれるゆるくあたたかなムード。映画に詳しい人から初心者の方まで本当に誰もがそこにいることを許されるおおらかな雰囲気はとても居心地が良いです。11月20日には2周年記念のイベントも開催予定とのこと。ぜひ一度足を運ばれてみては。

参加方法: お申し込みは不要、次回以降の開催日など詳しくは上記Twitterアカウントでチェックして会場へ!

③ FOREST NIGHT DRIVE ドライブインシアター糸島 (会期終了)

https://www.forest-night-drive.com/

実施期間: 2021年7月31日で会期終了

会場: 白糸の森(福岡県糸島市白糸561)

活動内容: 今や日本中から観光客や移住者が絶えない福岡・糸島エリア。常設映画館の無いこの街で2017年より野外映画祭「糸島映画祭 いとシネマ」を開催してきたメンバーの一人、映像制作会社ランハンシャ代表の下田栄一さんはその企画を発展させ、この秋より常設型のドライブインシアター「FOREST NIGHT DRIVEドライブインシアター糸島」を開館。

森のなかに600インチもの巨大スクリーンを構え、毎週末&祝日に映画を上映しています。作品上映前にはランハンシャが手掛ける迫力のプロジェクションマッピングで、映画開幕の高揚感を高めてくれる素敵な演出も。映画作品の選定は、同じく福岡を拠点に映画活動を行う「福岡映画部」がプロデュース。時期ごとのイベントに応えながらエンタメからミニシアター系まで幅広いラインナップのセレクションで日毎に観客を楽しませています。

上映作品:
10月31日(土)ゴースト・バスターズ
11月1日(日)ソング・オブ・ザ・シー海のうた
11月3日(火・祝)太陽の塔
11月7日(土)美女と野獣(2014年フランス・ドイツ制作ver)
11月8日(日)ラフィキ:ふたりの夢
11月14日(土)ビッグ・フィッシュ
11月15日(日)ミツバチのささやき
11月21日(土)劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション
11月22日(日)怪物はささやく

参加方法: 次回以降の開催日など詳しくは公式ホームページ、SNSからチェックして会場へ

④ Stock Bros. the World 

https://radiopublic.com/stock-bros-the-world-8Q4dYa

更新日: 不定期・ほぼ毎週

活動拠点: Podcastにて音声番組を配信中

活動内容: 福岡を拠点に映画にまつわる上映やトークイベントなど様々に仕掛け、現在ではライフワークとして那珂川町のとある倉庫を、映画・音楽・絵画に木工まで詰め込んだ“アートの殿堂”にすべく日夜工作を続けている生粋の映画バカ・森重裕喬さん。そして相棒は、福岡のミニシアターKBCシネマで働く親愛なる映画青年・吉井陸人さん。

大学の同級生でもある二人は、このStock Bros.(ストック・ブラザーズ)と名乗る以前、前身となる映画企画チーム「MIKADO」として2014年より上映企画などを重ねていました。一時は映画館をつくることまで真剣に考えた彼らですが、その後福岡でも様々な団体による自主上映イベントが増えていくなかで、自分たちの役割を見直すことに。そこには、どの団体の活動もちょっと肩に力が入り過ぎているように見えた森重さんの違和感がありました。「どうしたらもっと人々に平熱の、“日常の楽しみ”として映画を提示できるか?」と考えた結果、自分たちが無理なく続けられる“脱力のメディア”として音声配信チャンネルを立ち上げます。「人は、たとえ話題に追いつけなくても誰かが楽しそうに話していればやがてその道へ惹かれていく」という自身の実感から、番組では映画をはじめ、ゲームや時事などのトピックをあえてのゆるゆる駄話モードで力みなく続けています。最近では関東圏からの視聴が半数以上を占め始めているようで、この脱力発信にヤラれてしまう仲間が増加中なようすです

参加方法: 上記のPodcastアカウントから、いつでもご自由に。

自分の街で「仲間」を見つけ、語り合う先に生まれるものは。

今ではSNS経由でどんな分野の愛好者とも気軽に繋がれるようになりました。
映画もその例外ではありません。しかし自分が生きて暮らす街に、顔をあわせて語り合える映画仲間がいるということはやっぱりとても特別なことだと思うのです。

僕はこの街で多くの映画好きと繋がる縁を頂いたおかげで、劇場に行けば「あ、やっぱりこれ見に来ますよね」とか言いながら挨拶を交わし合える仲間や、鑑賞後に「あーこれはあの人きっと好きだなぁ」とお勧めしたくなる仲間も、街中ですれ違いざまに「あれ見た?」と切り出してくれる仲間も見つかりました。

「都市」とは、行政によって区分される土地や地域だけを指すのでもなければ、そこに敷かれた道路や建物といったものにも限りません。
「都市」の最小単位とはどこまでもそこに生きる一人一人の「人間」であり、その関係性から生まれる無数の営みの総体こそが「都市」なのではないかと、僕は思います。
だとすれば、この街の誰かが映画を見て、仲間の誰かと語らえば、その瞬間にもこの「都市」の新たな創造が始まっている、とも言えるのではないかと。

読者の皆さんも、ぜひこの記事でご紹介したものからご興味あるものが見つかれば、ぜひご参加されてみてください。

あなたがそこで出会う仲間と交わす会話の先に、未来の「福岡」が生まれ出すかもしれません。

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映画ライター
三好剛平
1983年福岡生まれの文化ホリック社会人。三声舎 代表。企業や自治体の事業・広報にまつわる企画ディレクションをはじめ、映画や美術など文化系プロジェクトの企画運営を多数手がける。LOVEFMラジオ「明治産業presents: Our Culture, Our View」製作企画・出演。その他メディア出演や司会、コラム執筆も。

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