アコーディオン奏者、新井武人がライブ配信で得た気付きとこれからの音楽家の未来

アコーディオン奏者の新井武人さんは、ソロやバンド「Rue de Valse」でのライブ活動を軸に、JR九州のクルーズトレイン『ななつ星in九州』での車内演奏や九州唯一の音楽大学・熊本平成音楽大学でのアコーディオン講師を務める福岡在住のミュージシャン。新型ウイルスの自粛要請により演奏の場が失われた後に始めたFacebookのライブ配信が好評だったことから、その後毎週末に演奏やレコーディングの様子をライブ配信。この新型ウイルスの影響を受けての現状と気持ち、そして新たに生まれたもの、これからの音楽家の未来など話を伺いました。

初めてのライブ配信は自分自身の気持ちを整理するため

2月末から徐々にキャンセルが増え、3月からゼロになった演奏活動。そんな中、新井さんは3月29日に自身のFacebook内で初めてのライブ配信を行います。1時間のライブ配信は、再生回数は3,000回を超え、300件のコメントが寄せられました。

新井さん

ライブ配信を始めた理由は、正直な気持ち、自分自身の為が大きかったんです。演奏活動ができなくなり、何もすることがなくなっていた中で、まず自分の気持ちを整理して、けじめをつけたかったことがライブ配信をしてみようと思った動機です。

皆が苦しんでいる状況の中で、自分だけがじっと静かに耐えているということが自分の中で消化しきれなくなってきて、僕も現状に対して訴えかけたいという思いと、一度ライブ配信でみんなのリアクションも知りたいと、今までやったことがなかったライブ配信をやってみました。

皆さんのコメントをライブ終了後に読み返したりして、本当に温かいコメントが嬉しかったです。僕の音楽が皆さんの励みになっていることも感じられ、2回目のライブ配信以降も視聴者の反応に助けられました。

ライブ配信をする前は、僕のライブ配信を誰か喜んでくれるのかなと半信半疑だったので、これも初めての経験だった“ひとりで画面に向かって、テンションを上げていく”ことをとても助けてもらいました。

音楽だけじゃない!お客さんに楽しんでもらう為のライブ配信

これまでのFacebookライブ配信は3回。回を重ねるごとにどうやったら観てくれている人たちが喜んでくれるか考え、3回目のライブ配信は、ドライブ&ライブ配信をしたりと工夫を重ねています。

カメラが設置された助手席からの眺めは新井さんと一緒にドライブをしているようだったし、車の中での演奏はドライブ中に車を停めて歌ってくれているようで、音楽だけではない皆を楽しませたいという新井さんの気持ちが伝わるライブ配信だったと思っています。

新井さん

僕、お客さんと一緒にツアーに行けたら楽しいだろうなっていう夢があって、それをイメージしてました(笑)皆さんがわざわざその時間に合わせて観たい、楽しみにしてくれるようなものでありたいと思っています。

生演奏ができない代わりにライブ配信を始めたんですが、全国各地の方が観てくれたりと思っていた以上の嬉しいこともありました。また、この苦しい状況だからこそ、僕もいいものを1つでも2つでも生み出していきたいと思っています。

活動自粛中に生まれたコロナくんの為の「コロナ~ひかりのわ~」という曲

演奏活動を制限されている中、共通の知人を通して、新型ウイルスの報道や言動で傷ついている子どもの存在を知ったことで、新井さんにひとつの曲が生まれます。

新井さん

コロナくんという名前の子どもが青森に住んでいて、世界中がコロナやっつけろ、コロナばかやろうと口にすることで、その子がとても傷ついていることを聞きました。コロナって本当は太陽や王冠など、すごくいい意味があるんです。コロナくんもご家族も“コロナ”という名前をもっと好きになるような歌を捧げたいと思ってできた曲です。

その子も僕のことを知らないし、僕ができることなんて微々たるものかもしれないけれど、僕も子どもがいるので他人事とは思えず、共通の知人にも相談して曲を作り送ったのですが、コロナくん家族みんなで喜んでくれました。

そして、その子だけではなく同じ名前で傷付いている人たちはもっといるはずだから、この曲を発信したいと思って公開したところ、それを観た様々な人達が、エピソードに共感してくれ、自分の思いを語って演奏してくれているんです。

手話をつけてくれている人、英語の字幕つけてくれている人などがいて、その輪が広がってきています。今の状況の中で意義深い、意味がある歌になったと思っています。

ライブ自粛で失われたものと得たもの、そしてこれからの音楽家の未来

新型ウイルス拡散防止の為、まず始めにたくさんのライブや演劇、展覧会などの文化イベントが中止になり、生演奏ができなくなりました。この現状に新井さんは音楽の力を改めて感じると同時に、今後の音楽業界についても、新型ウイルスが発生する前から考えていたことが現実になるのではと思っているそうです。

新井さん

今回、何が一番失われたかというと、目の前で聞いてくれる人や拍手してくれる人、顔をみて一緒に演奏してくれる人など、リアルに人と分かち合う喜びが失われてしまっていると思います。苦しい時こそ直接会って支え合いたいのに、今は距離をとりなさいと言われています。

楽観視はできないと思っていますが、でも僕が密かに楽しみにしていることがあるんです。新型ウイルスの影響で自粛生活を送る中、ライブをやる側もうずうず溜まりまくっているし、ライブに行きたいと思っている皆さんも同じだと思います。

お互いライブを演りたい!行きたい!と渇望したウイルス騒動の収束後は、今までにない盛り上がりで一体感はすごいだろうなとそれを楽しみにしているんです。それまでは、踏ん張りぬく、耐え抜く。僕は今“頑張る”という言葉より“踏ん張る”という言葉がしっくりきているんです。それは叶える夢じゃなく、たどり着くまで踏ん張るしかないものになると思います。

ウイルスのことは抜きにして、ちょっと前から思っていたのですが、伝統工芸と言われている分野の職人さんって、以前ははたくさんいた職種でも時代とともに減ってきた現実があると思うんです。今の音楽業界はデジタルツールも充実しているし、いずれ生楽器の生演奏が天然記念物並みに減るんじゃないかと思っています。

僕みたいに生のアコーディオンを持って生演奏なんて、激減するんじゃないかと思っていたので、今回の新型ウイルスの影響で、生で味わえることの大切さやその喜びを、一旦ストップされたからこそ増幅される期待感もあり、その一方で、ライブ配信やオンラインフェスなど、音楽テクノロジーが一気に加速するだろうと思っています。

生ライブの中止が1ヶ月でおさまっていたら元に戻れていたかもしれませんが、今後ライブ配信やオンラインに慣れていって、そちらに移行する人もいるかもしれないですね。音楽に限らず、デジタルの向こうには生身の人間同士のつながりがあるはずなので、リアルもデジタルもお互いを感じられるものであってほしいですね。

――
新井さんのライブ配信のように、無観客ライブやオンラインフェスを企画する人たちなど、本来“生きていく為に最優先ではない”と言われてしまったかのような扱いを受けた音楽、演劇、展覧会など文化・芸術に関わる人たちが“今自分たちにできること”を始めています。

ですが、自粛生活の中で、音楽や演劇が、私達が人として生きていく為にどれだけ必要なものなのかを、実感している人も多いのではないでしょうか。

リアルな人と人の触れ合いを制限されている今、音楽の持つ力の素晴らしさと優しさを改めて感じ、この困難の中で、少しでも私たちに音楽を届けようとしてくれる音楽家の皆さんに感謝をしたいと思いました。

新井さんのライブ配信はFacebookで配信されていますので、チェックしてみてくださいね!

今回、新井さんから、フクリパ読者だけにスペシャルプレゼント「フクリパLIVE 」

新井さんがフクリパ読者のみなさま限定で、一曲披露してくれました。#ステイホーム、癒しのひとときにどうぞ。

アコーディオン奏者 アライタケヒト
~ななつ星のアコーディオン弾き~
やわらかくあたたかな存在感で魅了するソロのほか、さまざまな楽器とのデュオ・トリオ・バンド参加、サーカスパフォーマーや大道芸人との共演などあらゆる演奏形態でアコーディオンの可能性を広げ、キャラクターとしてのセンスを発揮する。
陽気で切なく、きれいで悲しい、どこか遠い物語の世界を想像させるようなアコーディオン特有の雰囲気を作品に反映させ、観客とともに音楽を楽しむというスタンスで行うパフォーマンスは楽しさとやさしさとぬくもりに満ちている。
ソロやバンド「Rue de Valse」でのライブ活動を軸に、JR九州のクルーズトレイン『ななつ星in九州』での車内演奏や九州唯一の音楽大学・熊本平成音楽大学でのアコーディオン講師を務め、演劇やサーカス、映像作品への楽曲提供および出演、小泉今日子への楽曲提供、半﨑美子サポートなど著名アーティストとの共演、荒井良二、ツペラツペラ、ザ・キャビンカンパニーなど絵本作たちとのコラボレーションなども積極的に取り組み、名実ともに九州を代表する音楽家・アコーディオン奏者。
https://www.facebook.com/takehito.arai.9
http://araitakehito.com/

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ライター
山内 亜紀子
福岡女子短期大学音楽科卒。卒業後ラジオ局の番組制作に関わる。その後転職し、福岡の数々の情報誌とWEBメディアの編集・ライターを勤める。編集では映画紹介やコラム、インタビューを経験。2015 年よりフリーの広報、ライターとして主に映画、グルメ、旅行コラムを執筆中。

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