資金調達だけじゃない、クラウドファンディング

クラウドファンディングで得たのは「お金」ではなく「仲間」。世界初!? プロジェクションマッピングと組み合わせた「森のドライブインシアター」

福岡県糸島市の森の中で、車に乗ったまま映画とプロジェクションマッピングが楽しめる―そんな新感覚のエンターテイメント「糸島フォレストナイトドライブ」がコロナ禍の2020年9月に始まり、大きな話題を集めています。斬新なアイデアを形にした仕掛け人は、福岡市のCG制作会社「ランハンシャ」代表の下田栄一さん。クラウドファンディングも利用して、「身を削りながら、見えてきたことがたくさんあります(笑)」と打ち明けます。その内幕を包み隠さず語ってくれました。

コロナで行き場を失った映画をドライブインシアターで上映


株式会社ランハンシャ代表の下田栄一さん

下田さんが率いるランハンシャは2013年に創業し、名だたる大手クライアントのCMや有名アーティストのMVなどを制作。西日本では早い段階からプロジェクションマッピングも手がけ、東京ビッグサイトや九州国立博物館といった大舞台でも活躍している。

株式会社ランハンシャ

「森のドライブインシアターは、そんな下田さんが長年抱いてきた“夢”がベースになっている。

下田さん

2014年に福岡市から糸島市に移住したんですが、そのころから密かに糸島に映画館を作りたいと考えていて情報収集をしていました。

でも、とてつもない大金が必要だということを知り、断念。そんな中、糸島市での公園で映画を上映するイベント『いとシネマ』が立ち上がり、僕もメンバーの一人として活動することになったんです。


志摩中央公園で開催されていた「いとシネマ」の様子。集まった人々がレジャーシートやミニチェアを持参して座り、映画を鑑賞する

そして 2020 年の初夏、新型コロナウイルスが流行する中、糸島に本社を置く「ユナイテッドピープル」と「いとシネマ」で“何かできることはないか”と考えたその結果、ユナイテッドピープルが制作した『もったいないキッチン』をドライブインシアターにて上映することに。

体験型観光農園「白糸の森」のオーナーに相談したところ、場所を貸してもらえることになり、7 月に一夜限りのドライブインシアターを開催した。

下田さん

どこででも映画が観られる時代だからこそ、“誰とどこで観るか”が大切だと考えています。実際にドライブインシアターをやってみて、車同士は距離があり車体に囲まれているけど、みんなで観ている一体感は確かにありました

それに車の中という半プライベート空間でリラックスしている姿を見て、幸福感が満ちてきたんですよね。

映画とデジタルアートを組み合わせた新しいエンターテイメント


『いとシネマ』は初回から大盛況だった

「よし、続けよう」、下田さんはすぐに決断した。ただし、単なるドライブインシアターでは面白くない。

『いとシネマ』、そして『もったいないキッチン』をドライブインシアターで上映した下田さん個人の経験をもとに、新たにランハンシャが得意とするプロジェクションマッピングと組み合わせて空間全体を演出したらどうだろうと考えた

下田さん

おそらく世界初の企画だったと思います。「次世代のエンターテイメントに挑戦しよう!という気持ちでした

募集12日間で120万円達成!気になるリターンの行方は…

ドライブインシアターを行う場所は、脊振山系中腹の「白糸の森」の駐車場。たくさんの木々に囲まれた場所だったので、名前を「糸島フォレストナイト ドライブ」と名付けた。

オープンは9月19日。当初からCAMPFIREでクラウドファンディングをすると決めていたが、行政の手続きなどに意外と時間がかかり、募集は9月2日から13日までの短期決戦となった。それでも目標額の120万円を上回り、103人の支援により128万5,500円が集まった


スクリーンが運び込まれてくる時の様子

下田さん

クラウドファンディングで目標金額を達成することができなくても自己資金でやる覚悟で動き、すでに数百万は手出ししていました。

クラウドファンディングを利用したのは、もちろん資金面で助かるというのもあるけど、仲間を増やすことと告知が大きな目的。結果、支援者の半分くらいは名前を知らない方でした。本当にありがたかったです。

クラウドファンディングのリターンは、招待チケットやオリジナルグッズ、CM制作、糸島の食など、バラエティ豊かなラインナップだった。

中でも気になったのは「ランハンシャ代表 下田栄一と前原ぶらりツアー(飯付き)」1万8,000円。説明にはご飯でもドライブでも撮影でも、要は「半日くらいで下田使用を自由に相談してもらえたら出来る限りやります」とあり、支援者が6人いる。

下田さん

北九州でゲストハウス「PORTO」や飲食店などを経営している、合同会社ポルト代表の菊池勇太さんがクラウドファンディングをした時、『菊池貸出チケット』がめちゃくちゃ売れていたんですよ。

菊池さんはイケメンですしね…こんな僕でも買ってくれる人がいるかな…との思いでやってみたんですが、まさかまさかの6人の方が支援してくださり、ちょっとうれしかったです(笑)。

蓋を開けてみたら仕事関連の方が多かったのですが、ひとりだけ女性の方が支援くださっていて、ご飯を食べました。支援してもらったうえに飲みに行けるなんて…本当はこちらが払わなくちゃいけないんじゃないかと、なんだか申し訳ないような複雑な心境でした(笑)。

クラウドファンディングによって思いを整理、必要なことは冷静と情熱

2020年9月19日にスタートした「糸島フォレストナイトドライブ」は、上映作品を変えながら主に週末に開催している。森にある会場は、森や地面をレーザーライトで照らしており、星々の中を車が旅するイメージだ

最初に流れるプロジェクションマッピングは約4分間で、森に不思議な動物や妖精があらわれ、星々を抜けてワープした先に映画館があり、上映が始まるという設定。

幻想的な雰囲気に包まれながら、映画の世界へと誘われる。映画の選定は福岡映画部の石渡麻美さんが担当し、幅広いラインナップになっている。

下田さん

来場者のアンケートでは、ほぼ全ての項目に高評価をいただいていて、とてもうれしいです。

下田さん自身がクラウドファンディングに挑戦するのは今回が初めてだった。しかし、経験者から話を聞いていたこともあり、心構えはできていたという。

下田さん

大変だったのは準備ですね。まだカタチになっていないものを文章で伝えるのは想像以上に大変なことでした。ただ、そうやってアウトプットすることで、自分の思いを整理できたのはすごく良かったと思います。

それにやっぱり仲間が増えたことが何よりうれしかったですね。クラウドファンディングを利用したことで責任感も増しました

自らの経験をもとに、クラウドファンディングをやってみたい人にこうアドバイスする。

下田さん

共感してもらうためには、やはり文章が重要です。熱い思いを持ちつつも、一方で、共感してもらえる内容になっているか、応援してくれる人がメリットを感じられるか、誰か何かの役に立てるかなど、冷静に客観的にチェックする視点が欠かせません

僕はこれぞという5人に見てもらい意見をもらうことで、自分の考えを深め、伝えることにこだわりました

みんなも自分もワクワクできる夢のある世界を追求したい

当初、森のドライブインシアターは昨年末までの予定だったが、延長することが決まった。しかし、実は下田さんにとって苦渋の決断だったという。
 

下田さん

正直に言うと、やればやるほど赤字なんですよ。映画1回の上映権は最低数万円から10万円を超えるものもあり、さらに人件費もかかる。

車1台4,000円の設定で最大24台なので、単純計算で収入は9万円ほど。初期の設備投資は全く返ってきません。だけど、1月からどうにかコストを削減して、もうしばらく頑張ってみようと思っています。

学生アルバイトが試験などで忙しい時期は、ランハンシャのスタッフが現場に出てくれることもあり、「迷惑かけているし“何やってるんだよ”と思われてるかも…」と苦笑いする下田さん。それでも続けることで意義が明確になり、会社が次のステップへと進む原動力になると信じている。

下田さん

コロナによって社会全体がどんよりしがちな今だからこそ、夢のある世界を演出したいという気持ちが強くなりました。これからもみんなも自分もワクワクするようなことをしていきたいです。

クラウドファンディングといえば、一般的にはお金を調達するための手段と思われがちだ。しかし下田さんの場合、仲間集めや告知をメインに据えており、実際には数倍もの自己資金を投入していたことに驚いた。今も資金繰りは厳しいものの、「まだ誰も見たことがない世界を作りたい」と20年以上変わらぬ思いで仕事に向かう下田さんにとって、クラウドファンディングで共感してくれた多くの仲間たちの存在は、確実に大きな力になっている。これからも少年のように果てしない夢を追い続けてほしい。

「糸島フォレストナイトドライブのスケジュールや活動内容はこちらから
フクリパ内のこちらの記事でも「「糸島フォレストナイトドライブ」について紹介されています。「彼らの活動が、この都市の成長力を決める? 福岡の映画好きたちによる「愛すべき映画活動」紹介 #01」

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編集者・ライター
佐々木 恵美
福岡市出身。九州大学教育学部(人間環境心理学専攻)を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌をメインに雑誌や新聞、Web、国連や行政の報告書などを制作。特にインタビューが好きで、著名人をはじめ数千人を取材。

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