中央区の家賃はこれまでにない値上がり。博多区も安定した推移を見せ、3期ぶりに上昇
公益社団法人 福岡県宅地建物取引業協会(福岡県下の不動産業者、約5,300社が加盟)が作成した「ふれんず市況レポート」(注1)によると、2019年10~12月期の中央区の賃貸マンションの賃料は、前年比で9.3%上昇した。
これまでにない値上がり傾向で、3期連続で前年同期を上回った。1㎡当たりの単価も前年比で3.2%上昇し、3期連続で前年同期を上回った。
1部屋タイプの㎡単価は1,900円から2,000円台。専有面積は前年比で4.2%拡大し、7~9月期に続いて前年同期を上回った。19年は18年に比べ、8万円台以上の物件を中心に取引シェアが拡大した。
■中央区の成約賃貸・マンションの動き
(「ふれんず市況レポート」2019年10~12月期)
同じく博多区の賃料は、2019年に入って安定した推移が見られ、10~12月期は前年比で3.7%上昇し、3期ぶりに前年同期を上回った。
1㎡当たりの単価も前年比で4.2%上昇し、1部屋タイプの㎡単価は1800円から1,900円台。専有面積は前年比で1.3%縮小し、3期連続で前年同期を下回った。19年は18年に比べ4万円台や7万円以上の取引シェアが拡大した。
■博多区の成約賃貸・マンションの動き
(「ふれんず市況レポート」2019年10~12月期)
【注1】(公社)福岡県宅地建物取引業協会の不動産情報ネット「ふれんず」に掲載された物件データを活用して、福岡県内の不動産流通市場(中古住宅を中心とする賃貸・売買市場)に関する分析結果を作成したもの。毎年度末には主に賃貸仲介・管理業を行う県下の宅建業者を対象にヒアリングした「福岡県下各エリアの不動産市況調査」報告書も作成している。
「天神エリア」は、居住希望者が集中、古くて狭い物件も空室がほとんどない
「ふれんず市況レポート」によると、中央区で需要が多いのは、単身者用の1ルーム(R)だが、1Rは空室がない。
主力は25㎡~30㎡で家賃は共益費込みの5~6万円弱、1LDKの35㎡は築後3年以内の築浅物件で7~8万円。天神エリアに近い春吉地区は、空いたら即決するほどで、1LDKは物件がないという。
特に天神エリアは利便性、ステータス性などを前提に、福岡市内はもとより九州各地からの居住希望者が集中している。
老朽化した古い物件は、①1R(25㎡~30㎡)で5万円から7.5万円、②狭い物件(13㎡~14㎡)で3.5万円から4万円、③新しい物件(25㎡)で7万円から7.5万円がそれぞれ相場となっている。
とは言え、新規物件の供給が期待されない中で、中央区全体でみると2万円でも動かない「狭い物件」が、天神エリアに限ると前記②の3.5万円から4万円のような家賃であっても人気は高い。「空室がほとんどない状態」である。
都心部ではワンルームマンションが林立する
「博多駅周辺」は、家賃相場が高騰し、法人契約の単身者入居で占められ、若者離れの様相
JR博多駅周辺は、駅ビルが2011年3月に建て替えられ、大型商業施設併設の「JR博多シティ」に生まれ変わったのを契機に、大型投資が相次いだ。オフィスビルやホテルを中心としたビジネス街から商業地としての“顔”も持つようになった。
2014年ごろから関東地区からの買い付け希望も相次ぎ、不動産価格が高騰、周辺地域へ次第に拡散し物件が少ない状況となっている。博多駅近くは、投資効果からオフィスビル建設、インバウンドホテル熱が高まり、1Rの賃貸マンションの用地確保すら難しくなっている。
賃貸マンションは単身者向けが7割以上を占め、ワンルーム中心。主力間取りは1R・1LDKだが、1kタイプの床面積は20㎡後半で家賃は6~7万円後半。1LDKは基本34㎡。築後3年以内の築浅物件は、家賃8万円以上。平均8万3,000円~8万4,000円で、坪単価7,000円を超えている。家賃を抑えるために、1LDKは20㎡後半の29㎡からと床面積を抑える傾向にある。
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駅近物件は、博多駅筑紫口から徒歩20分圏の博多駅南5丁目あたりまで。地価高騰で新規物件が少なく、需要が供給を上回り、築年数の新しい物件はほぼ空室がない状況である。
築年数の古い物件なら、これまで1~2カ月空いていたが、期間が短縮されており、空室率は1%以下となっている。古い物件でもユニットバス付で3万円台であれば、即決状態。博多駅から1駅、2駅の吉塚、箱崎あたりで3万円を下回ると、そちらへ動いている。
今春の博多区の賃貸においては、新入大学生や新卒者の入居が活発であったが、博多駅周辺などの中心部は一昨年ほど活発ではなかった。というのも、駅周辺の専門学校に約3,000名の学生が通うが、家賃の高騰に伴い、若者離れが進んでいるからだ。
JR博多駅近くには、専門学校も多い
駅利用の単身者向け法人契約や社員確保のための社宅化が進んでおり、福岡県宅建協会の2020年3月調査レポートは、「博多駅周辺は法人契約の単身者入居で占められ、彼らは転居することなく居続けており、全体に年齢が上がっている」と報告している。
バブル経済崩壊後、福岡市郊外から福岡市内へ、そして都心への人口集中が進む
1990年代の前半、バブル経済による地価高騰の影響で、福岡市の人口が福岡都市圏の郊外に流出し社会減少に転じた時期もあった。
高騰した地価が下がってくると、再び社会増加に転じ、人口増加の中心が郊外圏から市内にシフトした。福岡市の人口推移を区別にみると、社会増加に転じた1990年代半ば以降は、都心(中央区、博多区)の人口増加率が大きく上昇しており、都心回帰の様子が見て取れる。
■福岡市の人口増加率
(福岡市「登録人口(行政区別)」より九州経済調査協会まとめ)
当時の都心回帰の様相について、日本政策投資銀行九州支店がまとめた「変貌する福岡都心」(2006年3月)によると、人口増加の主役は主に20代後半の世代であった。
特に、天神エリアをかかえる中央区では、20代後半の女性の増加が大きく、全国の都市と比べても多くの若い女性が住む街となった。「職・住・遊の近接」という都心の構造が女性たちのライフスタイルを充足させるためではないかと分析している。
① サービス業などを中心に女性たちの働き場所を生み、職を求めて集まってくる。
② 投資マネーの流入による賃貸マンションの急増などもあり、若い女性でも手が届く物件が増えた。
③ 百貨店などの商業施設、流行りのショップや料理店、美容院やエステ、文化施設などの集積は女性にとって魅力的であり、都心に住むメリットがデメリットよりも大きいと考える人も多くなった。
ーー都心回帰の主役が主に20代後半の女性たちである傾向は、前記のまとめから14年が経った今日でも、大きな変更はないと推測される。
人口の増加率は博多区が中央区を上回る。都心回帰の動きは変わらないのか?
JR博多駅周辺エリアは、行政機関や企業の支店などが多く、そこに勤める男性の街であったが、中央区に手ごろな物件が少なくなってきたことなどから、天神に近く、しかも博多駅にも近い住吉などの地区を中心に若い女性が流入を始めた。
2011年にJR博多駅が大型商業施設併設の「JR博多シティ」に生まれ変わったのを契機に、女性の働き場所が生まれ、天神エリアと同じ「職・住・遊の近接」構造となり、若い女性が多く住むようになっていった。
「JR博多シティ」の誕生は、女性の働き場所を生み出した
2000年代半ばまでは、中央区の人口増加率が大きかったが、機関投資家やファンドなどのバブルに沸いた2006年から2008年、リーマンショック後の停滞期を経てインバウンドホテル熱が高まった2014年以降は、博多区が中央区を上回っている。
2018年をピークに不動産価格は天井高となった。物件価格が高騰する一方で、博多駅近くの法人契約の単身入居者の移動は少なく、空室が出にくくなっている。
また、今回の新型コロナウイルス禍で、間違いなくテレワークが加速されるだろう。そうなると、若い人たちのライフスタイルも変わる。それは、福岡の都心回帰の動きをどう変えるのか、筆者はその点にも注目している。