博多漁港・長崎漁港・松浦漁港の水揚げ金額の合計は1,001億円
出所:青森県八戸市『はちのへの水産-統計資料編(令和4年)-』
博多漁港484億円、長崎漁港336億円、松浦漁港180億円。
青森県八戸市がまとめた『はちのへの水産-統計資料編(令和4年)-』によると、北部九州に位置する博多漁港、長崎漁港、松浦漁港の水揚げ金額の合計額は1,001億円だった。
一方、農林水産省が2024年3月19日に発表した『令和4年漁業産出額』によると、2022年の日本における海面漁業の産出額は9,161億円だ。
つまり、北部九州の海を臨む博多漁港、長崎漁港、松浦漁港の3港は、日本全国の1割強を占めている。
日本国内の漁港の水揚げ金額において、第1位の焼津漁港に次ぐ博多漁港は7年連続で第2位だった。
もっとも博多漁港は2015年、焼津漁港を抜いて第1位を獲得したこともある。
また、博多漁港、長崎漁港、松浦漁港の水揚げ数量は、それぞれ6万2,320トン、11万71トン、9万2,441トンであり、3港の合計は26万4,832トンだった。
3港に加えて、唐津漁港の水揚げ数量が2万7,753トンとなっており、唐津漁港も含めた4港の合計は29万2,585トンである。
『令和4年漁業産出額』では、2022年における海面漁業の漁獲量は295万トンであり、3港で1割弱、4港だと1割強を占めている。
出所:青森県八戸市『はちのへの水産-統計資料編(令和4年)-』
玄界灘の魚種は300種類。魚食普及推進施設が魚市場に誕生
福岡市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場)の航空画像(画像提供:福岡市)
国指定の特定第三種漁港である博多漁港に隣接する福岡市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場)は、産地市場である一方、福岡都市圏向けの供給に加えて関東や関西などにも魚介類を供給する西日本有数の消費地市場だ。
博多漁港に水揚げされた魚介類は、長浜鮮魚市場で競りに掛けられており、周辺の産地市場よりも高値で取引される傾向がみられる。
玄界灘をはじめ北部九州の海で獲れた魚介類のうち、博多漁港に水揚げされて長浜鮮魚市場で取り引きされる魚種は、年間で300種類にものぼる。
長浜鮮魚市場の東側において2024年11月9日、魚食普及推進施設『うおざ』がオープンした。
魚の魅力に親しみながら、飲食店や小売店に向けた情報発信を図る『うおざ』では、120席のフードコートを設け、プロ向け調理器具の物販コーナーも併設する。
長浜鮮魚市場で取り扱う旬の魚を学べる鮮魚展示コーナーに加えて、刺身造り講座を開く『SASHIMI DOJO』や大屋根広場がある。
11月下旬には、会席場『海の国』もオープンする。
なぜ福岡の海・玄界灘は世界有数の好漁場なのか
福岡市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場での競り風景(画像提供:福岡市)
福岡市の目の前に広がる玄界灘では、タイやイカ、アジ、サバ、ブリなどの回遊魚が集まり、スズキやカレイ、フグ、エビ、タコなどの多種多様な魚種も泳ぎ、定着性のあるアワビやサザエ、ウニなども豊富な海となっている。
なぜ、玄界灘は、魚種に恵まれた豊かな海になったのだろうか。
海洋や沿岸の生態工学の専門家であり、玄界灘をはじめとする〝福岡の海〟に詳しい九州大学大学院工学研究院環境社会部門生態工学研究室の清野聡子准教授は、その秘密について、次のように解き明かす。
清野聡子准教授
九州大学大学院の清野聡子准教授
清野准教授によると、長江や黄河を介して大陸からの豊富な栄養分も含む黒潮は、東シナ海から北上して、屋久島南で太平洋側と日本海側へ分岐する。
そして、日本海側へ進む黒潮は対馬暖流となり、九州西方の五島灘を通過して、玄界灘へ流れ込む。
一方、間宮海峡から南下する寒流のリマン海流は、玄界灘を含む北部九州の海域において対馬暖流とぶつかる。
大陸棚の発達した浅海である玄界灘の大部分は水深50メートル~60メートル以内であり、島や岩礁も多い。
中でも対馬の存在は大きく、対馬付近で発生する対馬渦は海水をかき混ぜていく。
さらに冬場に特に勢いを増す強風は、大量の酸素を海中へ溶け込ませているのだ。
このような複雑な地形や海域を特徴とする玄界灘において、大量に降り注ぐ日光で海中のプランクトンは爆発的に発生する。
そして、豊富なプランクトンを追い求めて暖流と寒流の魚が集まって来て、玄界灘は世界でも有数の好漁場になっている。
〝福岡の海〟を守り・学ぶ・親しむ市民や学生らの取り組み
九州大学うみつなぎの『海辺の教室』における一コマ(画像提供:清野聡子九州大学大学院准教授)
玄界灘をはじめとする〝福岡の海〟を舞台にして、子どもや学生、市民らが、自然と親しみ、学び、そして守っていこうとする動きも活発だ。
糸島や宗像、五島などの海岸において、フィールドワーク『海辺の教室』を実施している海洋教育プラットフォーム『九州大学うみつなぎ』では、持続可能な循環型社会づくりや海ごみ問題の解決に向けて活動する。
日本財団『海と日本プロジェクト』の一環として立ち上がった九州大学うみつなぎは、子どもや学生、市民らを対象にしたフィールドワークをはじめ、中・高校生による探求学習の支援、海洋生物や生態系などに関する講演会やシンポジウムなども開催しており、その活動範囲は広い。
九州大学うみつなぎの総合プロデューサーを務める清野准教授は、次のようにコメントする。
清野聡子准教授
九州大学うみつなぎでは、漁師らも参加して住民や研究者らと語り合う機会も設けており、実践的な知と専門的な知との〝つなぎ〟となる場づくりにも取り組んでいます。
一方、九州大学大学院生態工学研究室では、九州工業大学や北九州工業高等専門学校、さらにボランティア団体とも協働しながら、「ロボットと市民が協力して海をきれいにする社会」づくりを目指して2017年4月、『社団法人BC-ROBOP海岸工学会』を立ち上げた。
BC-ROBOP海岸工学会では、砂浜において自走移動しながら、海洋ゴミを運搬するロボットを開発している。
3つの異なる個性的な〝福岡の海〟に囲まれている福岡県
提供:福岡県水産海洋技術センター
九州北部に位置する福岡県は、日本海側の『筑前海』(玄界灘)に加えて、瀬戸内海側の『豊前海』(周防灘)、『有明海』という特徴の異なる3つの〝福岡の海〟に囲まれた珍しい県だ。
周防灘とも称される豊前海は、有明海、八代海と共に『日本三大干潟』の一つに数えられる。
広大な干潟が発達しており、植物プランクトンの発生量も多い。
その結果、豊前海はクルマエビやガザミ、シャコ、コチなどの好漁場となっている。
さらに豊前海の存在によって、瀬戸内海にも豊かな水産資源をもたらしている。
有明海は、広義的な面積で約1,700平方キロもあり、福岡県をはじめ佐賀県や長崎県、熊本県にまたがる九州最大の内海だ。
有明海は、潮の干満の差が激しく、流入河川も多く、さらに塩分濃度の変化も大きい。
そして、有明海には、日本最大の干潟があり、ムツゴロウやワラスボなどの独自の魚介類が生息している。
おいしいお魚を育む〝福岡の海〟は大いなる地域資源だ
画像提供:福岡市
「福岡でおいしい魚を食べたい」。
東京や大阪などから出張や観光で福岡市を訪れる人たちの間において福岡の魚は人気を集める。
玄界灘で獲れた魚は、荒波に揉まれて身が引き締まっており、鮮度の良さとも相まって、「福岡ではおいしい魚を堪能できる」と評判だ。
地元・福岡の人たちにとって古来、玄界灘をはじめとする〝福岡の海〟は、当然の存在だ。
その一方、来訪者や移住者の目に、〝福岡の海〟は魅力的な存在に映る。
外部の目や専門家の力も生かしていきながら、かけがえのない地元の〝宝物〟である〝福岡の海〟に親しみ、学び、守っていくことは重要な取り組みだ。
そして、貴重な地域資源である〝福岡の海〟を社会的・経済的な面においても、豊かなものにしていく活動は、持続可能性を担保されていくことになるのではないだろうか。
まずは、〝福岡の海〟に足を運び、海からのインスピレーションも感じながら、自らの〝航路〟へ思い馳せることが、その第一歩になると考える。
参照サイト
青森県八戸市『はちのへの水産-統計資料編(令和4年)-』
https://www.city.hachinohe.aomori.jp/material/files/group/31/hachinohenosuisanntoukeisiryouhennreiwa4nenn.pdf
農林水産省『令和5年度 水産白書』
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R5/240611.html
福岡市『福岡市水産業総合計画(令和4年度~令和8年度)』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/nosui/suisanshinko/life/suisangyoukeikaku_4-8.html
農林水産局中央卸売市場『長浜鮮魚市場の新たな魚食スポット11/9に誕生』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/126654/1/1023_uozakaigyoshikiten.pdf
福岡県魚食促進サイト『じざかななび福岡』(事務局:福岡県水産海洋技術センター)地魚ライブラリー
https://jizakanavi-fukuoka.jp/library/
あわせて読みたい
漁港取扱高No1! 福岡で“おいしい魚”が食べられるのには、理由がある。
https://fukuoka-leapup.jp/city/202006.69