福岡の街の成長とともに歩んできた「えんホールディングスグループ」
―「えんホールディングスグループ」のこれまでの歩みについて教えてください。
原田:1999年に創業した当社は、2000年から福岡市で単身者向けマンションの自社ブランド「エンクレスト」シリーズを販売してきました。福岡市は若者の多いまちですが、創業当時、大手や行政が手がけるのはファミリー向けが中心でした。そこで、「人口が増えて成長していく福岡において、若者に安全で質の高い住宅を提供する」という使命感のもと、現在は120棟以上・約1万2000戸を展開しています。
―2020年には博多区住吉に「ホテルトラッド博多」を開業されました。宿泊事業を始めた背景をお聞かせください。
原田:当社は、ハード・ソフトの両方にこだわったエンクレストを供給することで、ここまで成長してきました。福岡は人口が増えているまちですが、少子高齢化の波によって、やがてピークアウトする時期がくるでしょう。また、地価の高騰により、都市部では土地の取得が難しくなっています。企業としてさらなる成長を見据えるためには、エンクレストをコア事業としながらも、別の事業へと間口を広げていく必要があると考えていました。
当社には、いろいろな土地の情報が入ってきます。長らくエンクレストに合う土地だけを取得していましたが、会社の将来に向けて新たなビジネスの柱を作るべく、土地に合わせた開発に乗り出しました。その一つが宿泊事業で、ホテルトラッドはすでに2棟目も着工しています。また、2025年には福岡市南区の大橋駅前に、複合商業施設「OHASHI HILL」をオープンしました。

福岡に育ててもらった企業として、この街の魅力をもっと広げ、届けていきたい
―えんホールディングスグループがホテルや複合商業施設を開発することは、福岡にどんな影響があるとお考えですか。
原田:福岡の街が発展したおかげで当社も成長させていただいたので、いつも「福岡に恩返しをしたい」と考えています。当社の宿泊事業は特に福岡で増えている観光やビジネスで訪れるお客様の受け皿になっています。私自身、ホテルを訪れるお客様が楽しまれている姿を見ると、とてもやりがいを感じます。
OHASHI HILLは福岡市の副都心・大橋にあり、世界的庭園デザイナーの石原和幸さんが手がけた緑あふれる空間が広がっています。屋上広場や休憩スペースがあり、あらゆる世代の人がくつろげる居場所を目指しています。
また、当社のエンクレストは全棟に緑を取り入れており、福岡の風景を彩る一部になっているという自負があります。住む人や訪れる人に「福岡は素敵な街」と思っていただき、福岡に私たちなりの恩返しをすることで、福岡が少しでも良くなり、それが当社に返ってくる。そんな好循環を生み出していきたいと考えています。

―2019年に設立された「えんメディアネット」は、ウェブメディア「フクリパ」と宿泊事業を手がけています。設立の背景を教えてください。
坪倉:えんメディアネットは、不動産業界はデジタル化が遅れているという問題意識から、グループ内に設立した会社です。私はそもそも「不動産はメディア」であると捉えています。不動産はまちにメッセージを発信する存在で、まちを編集する役割を担っていると思うからです。
フクリパは、「県外の人は意外と福岡のことを知らない」という気づきをきっかけに2020年に立ち上げました。福岡の魅力を全国の人に届けるべく、さまざまな情報を発信しています。関東圏を中心に県外の人から「見ているよ」と声をいただくこともあります。最近は翻訳機能を使って日本国外からも読まれているようで、とてもうれしく思っています。
メディアネットはホールディングスグループの中で「不動産の価値を編集する会社」として、不動産×DX×メディアを軸に、新たな試みを仕掛けていくつもりです。

既存建物の再生とスマートホスピタリティへの挑戦
―2026年秋には福岡市・薬院で、新たにホテル「YADO/Re(ヤドリ)」が開業されるとのこと。新たなホテルを手掛けることになった経緯をお聞かせください。
坪倉:まず前段として、えんメディアネットは2025年10月に、無人・省人の宿泊サービス「ヤドリパ」を始めました。というのも、えんホールディングスでは、今後建て替えを予定しているマンションを保有しています。その中で、使われていない空き部屋を有効活用して価値を創出するために、宿泊事業をスタートしました。
マンションでフロントにスタッフを置くような運営はできなくて、自ずと無人・省人の宿泊サービスになりました。始めてみると予想以上に好評で、手応えを感じています。このヤドリパの経験を踏まえて、今回新たに手がけるのがYADO/Reです。
原田:福岡都市部は近年地価が上がり、建設費の高騰もあって、新築マンションの供給が難しくなっています。一方で、すでにあるものを生かす再生事業には大きな可能性があり、国連が示すSDGsの「サステナブル・ディベロップメント」というキーワードにもつながります。
当社も再生ビジネスに力を入れたいと考えていたところ、薬院にある元予備校の寮が入札を実施していました。寮はホテルに転用しやすいという発想で提案し、無事に取得することができました。その建物を再生し、省人・無人ホテルYADO/Reとしてオープンします。

―なぜ薬院というまちを選んだのでしょうか。
原田:薬院は天神と博多に隣接し、「住みたいまち」ランキングの上位に入る大人気のまちです。都心にありながら天神や博多と比べても生活感がありますよね。素敵なレストランやお店が多く点在していて、ラフに楽しめるエリアだと思います。
このまちで、ホテルという業態を通して、地域との関係性を育むような新たな取り組みを模索していきたいと考えています。例えば、ホテルの1階では地元の会社と一緒にカフェ&バーを運営し、一部の部屋には薬院のライフスタイルショップB・B・B POTTERS(スリービーポッターズ)の上質なアイテムを取り入れる予定です。地元のパートナーと一緒にまちの魅力を伝え、薬院を盛り上げていきたいです。
坪倉:薬院は、福岡の人が日常的にいろいろな体験をしているまちの代表だと思います。近年、旅行のあり方が変化してきています。昔は観光地で名所を回り名物を食べるのが一般的でしたが、最近はアーバントリップという都市の日常を体験することに価値を見出すようになってきました。薬院はそんな旅行にピッタリのまちです。ゲストにも地域にも愛されるホテルを作っていきたいと思っています。
薬院の歴史と“えんイズム”から生まれた「スマート&グリーン」というコンセプト
―YADO/Reのコンセプトである「スマート&グリーン」について教えてください。
坪倉:薬院の歴史を紐解くと、奈良時代に大宰府に赴任した吉備真備が、この地に薬草を使って治療する「施薬院」を作ったことで薬院という地名になったと伝えられています。古くから薬草にゆかりのある薬院で、かつ、えんホールディングスが大切にしてきた緑を感じられる空間にするという思いを込めて「グリーン」を入れました。「スマート」は無人・省人ホテルを象徴するキーワードで、デジタル技術を駆使したホスピタリティを追求していく計画です。
原田:無人・省人ホテルだからこそ、レストランや清掃などで接する人の対応がとても重要だと思っています。エンクレストは全棟に管理員さんがいて、朝から清掃をしながら「行ってらっしゃい」などと声をかけるような対応が非常に好評です。この視点はまさに、エンクレストで培った「えんイズム」のようなものかもしれませんね。この考え方を、YADO/Reでも継承し発展させていきたいです。

―最後に、えんホールディングスグループとして、どんな進化を遂げていきたいとお考えですか。
原田:人生100年時代において、福岡で中古物件の流動性を高めたいと思っています。かつては住宅を買ったら一生住み続けるのがスタンダードでした。しかし、今は人の寿命が伸び住宅性能も上がって、ライフスタイルに応じて住宅も買い替える時代になりました。不動産価格が高騰する中、中古物件の流動性が高まれば、地元の人にも移住を望む人にとっても暮らしやすくなり、福岡の魅力の一つになるに違いありません。
福岡市では現在「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」や、九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくりなど、大規模な開発が進行しています。全国的に少子高齢化が進む中でも、福岡市はしばらく人口が増え続け成長していくと予想されています。
当社は総合デベロッパーとして、これからもエンクレストの開発販売をコアに、付随する賃貸物件管理やストックビジネスを大きくしながら、宿泊事業や複合商業施設開発、中古の開発再生事業など、幅広く展開していくつもりです。新しいことにも果敢にチャレンジして、福岡にもっと貢献してまいります。







