基準地価2023

【 福岡の経済・ビジネス事情 】

福岡県は商業地の上昇率で全国トップ。工業地の同トップ10のうち7カ所に福岡都市圏がランクイン【2023年基準地価】

土地取引の目安となる『基準地価』(都道府県地価)が9月19日、国土交通省から発表されました。福岡県における商業地の平均伸び率は全国で第1位、住宅地と工業地でも第2位でした。福岡県の地価をけん引したのは、福岡市および福岡都市圏の地価です。今回、地価の動向について注目していきます。

【プロローグ】〝一物四価〟と呼ばれる不動産価値とは何か

 

 

同一の土地であっても、目的や評価方法によって不動産価値は異なってくる
不動産価値のベースになっているのは、〝時価〟である。
つまり、実社会において、いくらで取引されているかが、一つの判断基準になるのだ。

 

 

時価に基づいて、公示地価、基準地価、相続税評価額、固定資産税評価額が決められており、時として一物四価ともいわれることがある。
4つの不動産価格を整理すると、次のようになる。

 

【公示地価】毎年11日時点での土地の標準価格を国土交通省が毎年3月下旬に公表する。公示地価は土地の基本的な価格であり、土地取引の目安とされる。

 

【基準地価】毎年71日時点での地価を各都道府県が9月下旬に公表する。基準地価の公表は公示地価の半年後であり、地価変動を補完する役割も担う。

 

 公示地価、基準地価に加えて、課税のための評価基準が相続税路線価と固定資産税評価額だ。

【相続税路線価】国税庁が実施して公示価格の8割。

 

【固定資産税評価額】固定資産税を徴収する市町村(東京23区は東京都)が実施し、公示価格の7割をめどとする。

 

相続税路線価、固定資産税路線価は公示地価を基準にしており、地価の最上位基準は、公示地価である。

 

 

福岡県の基準地価の上昇率は商業地で全国第1位、住宅地・工業地で同第2位

変動率

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

国土交通省は2023919日、同年7月1日時点における基準地価(都道府県地価)を発表した。
国土交通省によると、福岡県における地価の平均変動率のうち商業地は対前年比5.3%増の伸びを示し、全国47都道府県の中で第1位だった。
一方、住宅地は同3.3%増で同第2位であり、工業地についても同9.6%増で同第2位となっている。

 

 

今回の『令和5年都道府県地価調査』における調査対象は、全国47都道府県の2万1,381地点(うち福島第一原子力発電所の事故で12地点は調査休止)だった。
福岡県では、県内60市町村の922地点における基準地価を調査した。

 

 

国土交通省では、同調査の概要報告で地価全体の情勢について、「全国平均では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大した」とする。
さらに「新型コロナの影響で弱含んでいた地価は、景気が緩やかに回復する中、地域や用途により差があるものの、三大都市圏を中心に上昇が拡大するとともに、地方圏においても住宅地、商業地ともに平均で上昇に転じるなど、地価の回復傾向が全国的に進んだ」との見方を示している。

 

【画像】基準地価特集

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

【画像】基準地価特集

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

 

福岡市の商業地は東名阪に次ぐ4番手、住宅地は第2グループ形成

【画像】基準地価特集

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

 

【画像】基準地価特集

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

 

福岡県の地価をけん引しているのは、福岡市および福岡都市圏の地価だ。
福岡県における商業地、住宅地の最高額地点は、共に福岡市内だった。
福岡県内の商業地における最高額は、福岡市中央区天神1丁目で1平方メートルあたり880万円となっている。
2位は同天神2丁目で同693万円、第3位は福岡市博多区博多駅東1丁目の同545万円だった。
福岡県内における商業地の地価トップ3は、いずれも天神ビックバンや博多コネクティッドという福岡市の都心再開発が進むエリア内となっている。

なお、福岡県内における商業地の上昇率でのトップは、粕屋郡久山町久原であり、去年の77位から一気に順位を上げた。
同地は、商業と物流との混在地域にあり、県道筑紫野古賀線の4車線化工事が終了して車両利便性が向上したことに加えて、周辺地域での物流倉庫の建設が活発化している。
今回、物流施設用地としても注目された結果、商業地としての地価も大きく上昇したものと考えられる。

 

 

一方、福岡県の住宅地における最高値は、大型商業施設・マークイズ福岡ももちに程近い福岡市中央区地行3丁目の同529,000円だった。
なお、福岡県内の住宅地における上昇率での第1位は、福岡市博多区西春町3丁目で前年比154%増だった。
同地は、マンションや戸建てが並ぶ閑静な住宅街であり、西鉄天神大牟田線の高架化に加えて、2024年春に新駅『桜並木駅』の開業を予定している。
JR駅も徒歩圏内にある同地は、賃貸マンション用地向けなどとしての割安感があり、幅な上昇率につながったとみられる。

 

 

国土交通省・令和5年都道府県地価調査の『主な都市における商業地の「最高」価格の推移』は東京都・大阪市・名古屋市の3大都市に加え、「札仙広福」と呼ばれる札幌市、仙台市、広島市、福岡市を含む日本7大都市の推移をまとめている。
商業地である福岡市中央区天神1丁目の地価は、東京都中央区銀座2丁目、大阪市北区梅田1丁目、名古屋市中村区名鉄に続き、札仙広福から頭一つ飛び抜けた状況だ。
同じく『主な都市における住宅地の「平均」価格の推移』をみてみると、着実に伸び続けてきた福岡市の平均住宅価格は、大阪市、名古屋市と共に東京都に次ぐ第2グループを形成している。

 

 

福岡市における基準地価の動向について、地価調査で代表幹事を務める不動産鑑定士の高田卓巳日本不動産研究所九州支社次長は、次のようにコメントする。

 

高田卓巳次長

世界的な〝金余り〟で、不動産に資金が流入する状態が続いています。

福岡市内では、賃貸マンション、オフィスビル、物流施設などの投資用物件と、開発用地の奪い合いが続いています。

今後、無理をして物件購入した買い手が、損切りをしなくてはならないケースが増えてくれば、地価上昇にブレーキがかかる可能性もあります。

 

過去2年、商業地の上昇率において2年連続して第1位だった福岡市は今回、対前年比11.2%増となり、11.9%の札幌市に次ぐ第2位だった。
このような順位変動について、高田次長は、次のように解説する。

 

高田卓巳次長

福岡市も引き続き好調ですが、札幌市は福岡市に遅れて再開発の機運が高まり、数年前の福岡市の状況を今迎えている格好です。

現在、札幌市のオフィス空室率は2%台であり、北海道新幹線の延伸などの投資判断上の好材料もあります。

 

【画像】基準地価特集

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より


【画像】基準地価特集

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

 

 

全国の工業地価の上昇率トップ10のうち7カ所は福岡都市圏

工業地上昇率

引用:国土交通省『令和5年都道府県地価調査』資料より

 

今回の基準地価調査において、福岡県は工業地でも平均上昇率も9.6%と47都道府県の中でも第2位となる高い伸び率を示している。
全国の工業地における上昇率をまとめたトップ10においては、福岡都市圏の7地点がランクインしていた。

 

 

工業地に関して、国土交通省『令和5年都道府県地価調査結果の概要』では、「e コマース市場の拡大を背景に、高速道路ICや幹線道路等へのアクセスが良好な物流施設適地等では、地価上昇が継続している」。
その上で、「大手半導体メーカーの進出が決定した地域では、関連企業も含めた従業員向けの住宅用地等の需要のほか、関連企業の事務所用地等の需要も旺盛となっており、住宅地、商業地、工業地ともに高い上昇となっている」と、指摘する。

 

 

工業地の地価上昇ランキングのうち、第1位の熊本県大津町と第3位の同県菊池市は、台湾のTSMCの熊本進出によるものだ。
一方、第2位の北海道千歳市は、次世代半導体の量産を目指すラピダスの進出に伴うものだった。

 

 

福岡都市圏における工業地の動向について、高田次長は次のように解説する。

 

高田卓巳次長

物流分野の市場成長は続いており、さらに老朽化した物流施設の建替需要もあります。

また、熊本に工場建設中のTSMC関連の床需要が福岡にも波及している中、従来からのドライバー不足に加えてトラック運送業界の2024年問題もあります。

そうした状況下、配送効率化と雇用確保などのため、高速インターチェンジから5キロ圏内を中心に物流施設の新設が続いており、物流分野に対する投資について、デベロッパーや投資家は依然として非常に積極的です。

 

今後、福岡の地価はどのように推移していくのか

一連の情勢を踏まえた上で今後の地価や不動産業界の動向について、高田次長は、次のような見解を示す。

 

高田卓巳次長

大手ハウスメーカーの受注件数は、今年に入ってから前年割れが続いており、戸建て住宅の販売には陰りが見られます。

一方、投資用も含めた分譲マンションは、利便性の高さで戸建て住宅よりも選ばれている面はあると思いますが、金余りによる投資需要にも支えられ販売好調です。

しかし、今後もこのまま価格高騰が続いていけば、いずれ売れ残りが発生する可能性もあり、マイナス金利の動向も含めて注目すべきだと考えます。

ただし、売れ残りが発生したとしても、持ち堪える体力を持っている不動産デベロッパーの市場参加が多いため、そう大きな影響を与えることはないのではないでしょうか。

◇     ◇     ◇     ◇  

 

Hot heart, cool head (熱い心と冷たい頭)━━━。
リーマンショック後、福岡市の商業地や住宅地などの地価は着実に伸ばしてきた。
世界的な〝金余り〟状況が続く一方、今日の不動産市況については過熱しているという見方も出てきている。

 

今後に向けた地価の推移については、福岡市の都市としての総合力や潜在力などを考慮しながら、経済情勢や金利動向も見据えつつ、不動産評の収益データも踏まえて、冷静に判断して行動していくことが肝要だと考える。

参照サイト

国土交通省『令和5年都道府県地価調査』
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_fr4_000001_00192.html

 

国土交通省『令和5年都道府県地価調査の概要』(土地政策審議官)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001630804.pdf

 

 

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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